2011年7月20日水曜日

米グーグル会長、モバイルの将来、アジア頼み、アンドロイドで市場開拓

 米グーグルのエリック・シュミット会長は19日、都内で開いたアジアのモバイル戦略説明会で、「(携帯電話など)モバイル市場の将来は、成長するアジアにかかっている」と指摘した。スマートフォン(高機能携帯電話)向け基本ソフト(OS)アンドロイドで使える新サービスを相次ぎ投入することなどで、アジア事業を拡大したい考えも示した。
 シュミット会長はアジアのモバイル市場に関して「これまで普及が遅れていたフィリピンやインドネシアも含め、ほとんどの市場で動き出している」と述べた。
 モバイル市場のけん引役になるスマートフォンの普及で課題といわれる端末価格について「すぐに200ドル程度になり、将来は大量生産により50ドル程度にまで下がる」と予測した。音声を認識して画面上の文字に変換する機能などの新サービスを投入し、アンドロイドの市場をアジアで拡大していきたい考えだ。
 このほど始めた交流サイト(SNS)「グーグル+(プラス)」は米フェイスブックと競合するが、同会長は「(SNSは)一人勝ちできるような市場ではない。ユーザーの選択肢をなくすことはできない」と指摘。情報を交換し合う友人をグループ分けする新機能など「優れたアプローチでユーザーが急増している」と述べた。

2011年7月19日火曜日

「大手と違う店づくりを」、丸栄・京極社長、就任後初の会見―具体像は明言避ける。

 丸栄の京極修二社長が5月の就任後初めての記者会見をした。親会社の興和が百貨店から業態転換するよう求めていることに対し、「旧態依然とした百貨店業態では生き残れないと叱咤(しった)激励されたと受け止めている」と述べ、「ビジネスモデルを進化させ、大手百貨店とは違った店づくりをしたい」と話した。具体像は「大まかな構想しか持っていない」と明言を避けた。
 京極氏は2008年に興和から丸栄の常務に転じ、5月に社長に就いた。業態転換について、「親会社の要望であり、我々もベクトルは同じ」と発言。「新しい商品の発信や先を見た提案ができる事業モデルを目指す」と強調した。
 建て替え方針を示している1953年築の本館ビルについては「年数からして(老朽化が進んでおり)将来再開発する」とした。
 足元の営業状況は、3・3平方メートルあたりの売上高が6月以降、前年並みに回復しているとし、今後は「攻めに転じる」と強調。「節約を続けてきたが、営業面では必要な経費を使い、顧客に足を運んでもらう」と来店者を増やす戦略を進めていく方針も示した。
 丸栄は08年に興和と資本・業務提携を強化し、不動産開発を一体で進めることで合意。10年に興和の子会社となり、経営に興和の意向が反映されやすい体制になった。

協同組合の国際団体、「風力発電も組合方式で」、会長、日本政府に法整備訴え。

 世界の生協や農協などの協同組合で作る国際協同組合同盟(ICA、本部・ジュネーブ)のポーリン・グリーン会長=写真=が日本記者クラブで会見し、「風力発電など新分野でも協同組合の手法を取り入れるべきだ」と述べ、日本政府に新たな法整備や規制緩和を求めた。東日本大震災の被災地の協同組合に対しては「復興を機に地産地消など持続性を志向する経済を目指す新たな動きがある」とエールを送った。
 グリーン会長は「協同組合の手法は世界の諸問題に答えを出すことができる」と強調。風力発電など再生可能エネルギー分野では法整備次第で消費者から出資を募るビジネスモデルが可能との考えを表明し、生協法や農業協同組合法など分野ごとに分かれている現行法の見直しを訴えた。
 1895年設立のICAは世界85カ国の生協や農協、漁協、保険などの金融機関の協同組合が参加する非政府組織(NGO)。組合員は約10億人とされる。グリーン会長は「協同組合の課題は国際的な知名度アップ」と指摘。2012年が国連の協同組合年になることから、傘下の組合による国際会議の開催や共通ロゴを使った店頭PRなどを展開するという。

洗濯用など家庭向け製品、配合成分すべて公表、石鹸洗剤工業会が自主基準。

 日本石鹸洗剤工業会(東京・中央、大池弘一会長)は洗濯用洗剤や台所用洗剤など家庭用製品の成分に関する情報公開の基準をまとめた。製造時に添加・配合した成分については少量でもすべてを公表する。会員企業に周知徹底し、11月から実施する。製品の原材料についても詳しい情報を求める消費者が増えていることに対応する。米国やカナダなど海外でも同様の動きがあるため、日本でも独自の基準を設けることにした。
 成分表示の対象としたのは洗濯用や台所用、住居用の洗剤のほか、漂白剤や柔軟仕上げ剤、クレンザーなど家庭用製品。業務用製品は今回の自主基準の適用からは除外する。情報の公開方法については容器への記載、インターネットの専用サイトでの掲示、電話での回答、その他の媒体の活用のいずれか1つ以上を企業が柔軟に選ぶことができるようにする。
 表示する成分は「意図して添加、配合したすべて」とし、配合した成分に付随する成分は除く。表示方法については「酵素=脂汚れやタンパク質汚れを分解」「シリコーン=泡調整剤(泡を調整するための成分)」などとし、成分の名称と機能や配合の目的を併記する形にする。企業秘密にかかわる内容については法律による表示義務がある成分を除いて、成分の機能・目的のみの表示を認める。
 家庭用洗剤の場合、従来は家庭用品品質基準法などで指定された特定成分についてのみ公表してきた。配合割合が法律の表示基準に満たない場合も成分の名称は表示されていなかった。業界としての情報開示基準がまとまったことを受け、「自社のサイトで11月から、成分に関する情報を開示する予定」という花王など企業側も対応を急ぐ。
 安全・安心志向が高まるなか、洗剤などの原材料にも関心を示す消費者が増えているため、業界としての情報開示の基準をまとめることにした。日本石鹸洗剤工業会によると、米国やカナダのほか、オーストラリアでも業界が自主的に成分を表示する動きが広がっているという。

岩崎模型製造社長佐藤一作さん―食品サンプルの製造体験

 岐阜県のほぼ中央に位置し、清流や郡上おどり、郡上八幡城などの観光資源を誇る郡上市。ここで近年脚光を浴びつつあるのが産業観光「食品サンプル」の製造体験・見学だ。地域を代表するメーカー、岩崎模型製造の佐藤一作社長(63)は産業と観光の両立に向けた旗振り役として汗を流す。
 郡上市は知られざる食品サンプルの城下町。昭和初期に大阪で食品サンプル会社を創業した岩崎瀧三氏が故郷の郡上市に工場を作ったのが発展のきっかけという。
 1990年代の初めに「城やおどり以外に見るものはないか」と動き出したが、本格化したのは2007年度に岐阜県から観光資源「じまんの原石」に選ばれてからだ。白川郷(同県白川村)などに近い地の利もあって、いまでは年4万人超が訪れるようになった。
 外国人観光客の誘致にも取り組んでいたが、東日本大震災で急減。逆風に負けまいと、地元メーカーを中心に食品サンプルの業界団体を4月に立ち上げて代表に就いた。「個々の企業努力では限界があり、業界がもっと結束しなければ」との思いが後押し。団体発足で「行政との連携強化など振興策が進めやすくなる」と期待する。
 観光でブランド力が高まれば、サンプル製造セットなど個人向け商品の販売増も見込める。だが「業界活性化だけでなく、町おこしで地域に恩返ししたい」との気持ちも強い。(名古屋)
 さとう・いっさく 1948年岐阜県郡上市生まれ。63年に地元の中学を卒業して岩崎模型製造に入社。創業者の岩崎瀧三氏の薫陶を受けた最後の世代で、現在もしばしば製造現場で腕を振るう。2004年社長就任。

米トイザラス会長兼CEOジェラルド・L・ストーチさん

 ライバルの低価格攻勢で苦境に立たされた米トイザラスが再生を果たし、再び成長路線へと踏み出している。赤ちゃんから子どもまで継ぎ目のない関係を築き、ネットでも新たな仕掛けを組み込みつつある。キーワードは融合だ。このほど来日したジェラルド・L・ストーチ会長兼最高経営責任者(CEO)に日本戦略、店舗とネットの新しい関係について聞いた。(聞き手は編集委員 田中陽)
 ――米トイザラスは経営不振から立ち直りました。再生のポイントは何だったのでしょうか。
 「ルーツに戻ったことです。我々の存在意義はおもちゃと赤ちゃんのためにあるということを改めて認識しました。スペシャリティー(専門性の高い)なお店をもう一度取り戻そうと基本にもどりました。かつてのトイザラスは大量に商品を仕入れて、大量に売ることで品ぞろえの幅がなくなり客離れが起きました」
 「トイザラスという社名は全米で知らない人はいません。両親からおもちゃを買ってくれた楽しい思い出を誰でも持っています。ホットな商品、すばらしい(接客)サービスを提供し、安全性も担保します」
 ――具体的には。
 「安全性の確保には積極的に投資してきました。品質安全の部署では取引先とも協力して徹底的に調べます。問題が表面化する前にちゃんと迅速に対応できる組織になっています。私自身も個人的に規制当局とも話し合いを持ち、社外の専門の第三者とも関わりをもってきました」
 「こうした取り組みはトイザラスのサイトでもきちんと紹介されています。お客さんからの信頼を勝ち得ることで業績も好転してきたのです。子供を持つ親にとって安全は何よりも大事なことです」
 ――日本に1号店を開いて20年ですね。
 「米国に次ぎ世界第2の規模になりました。少子高齢社会ではありますが、まだまだたくさんの赤ちゃんや子どもがいます。非常に重要な国です。日本市場で特徴的なのはお子さんの成長、発達、教育に関連するおもちゃに関心が高いことですね。英語を学ぶためのコーナーを作ったところ、その場所には必ずお客さんが立ち止まり、商品を手にとっています」
 ――日本には出店余地はまだあると。
 「米国で約850店があり、日本は170近くですからまだあります。進出当初は郊外のロードサイドでの出店ですが、今では商業施設内の出店もあります。店舗面積の規模も様々なものに対応していきます」
 「日本の玩具は独創的なので、それを世界中のトイザラスに紹介するのも仕事です。タカラトミーのミニカー『トミカ』やエポック社の『シルバニアファミリー』などがその例です」
  子供市場に
こだわり続ける
 ――赤ちゃん用品を扱うベビーザらスと玩具のトイザらスの融合が進んでますね。
 「2つの業態を合わせた業態をサイド・バイ・サイドストアと呼んでいます。赤ちゃんから子どもまで続く関係を築くための大切な取り組みだと考えています。これは世界戦略です。初めて赤ちゃんを産むお母さんには相談にのり、不安を解消する接客も心がけています」
 「サイド・バイ・サイドストアのパフォーマンスが一番いいのが日本です。日本トイザらスのモニカ・メルツ社長兼CEOがカナダ時代に作ったもので、それを米国、日本でも進めてきました」
 「現在、日本には45店のサイド・バイ・サイドストアがありますが、既存店の改装などで年末までに57店までしていきます。新店もいい条件の話があればやりますが、今はすべての店舗のサービスレベルを引き上げて標準化していくことに注力し、既存店舗の改装を重点的にしています」
 「サイド・バイ・サイドストアの特徴は、玩具だけだと需要のピークがクリスマスシーズンに偏ってしまうところを、赤ちゃん関連商品を扱うことで通年型の店舗運営が可能になります」
 ――ネット通販の取り組みはどうですか。
 「日本での構成比はまだわずかですが、米国では10%に迫り成長著しい分野です」
 「強調したいのは店舗とネット通販の違いはなくなり融合していくものと見ています。例えば、ネットで注文した商品を店舗で受け取ったり、店舗で見つからなかった商品をその場でネットで注文したり。いろいろなオプションが考えられます」
 「フェイスブックやツイッターなどの交流サイト(SNS)とも連携し、商品のレーティング(格付け)を能動的にやっていきたいです。お客さんにとってベストなソリューション(解決策)を提供します。楽しみにしていてください」
 ――顧客の年齢層を上に上げていくことはありますか。
 「ないです。米トイザラスにはこんな諺(ことわざ)があります。『トイザラスは永遠に子どもなのです』。WE LOVE KIDS(私たちは子どもたちが大好きです)。これがトイザラスのモットーです」
 米トイザラスの業績が堅調だ。2011年2~4月期の連結売上高は1%増。知育玩具や定番玩具が伸びた。ストーチ会長兼CEOは「玩具は安定市場」と強調する。リーマン・ショックの08年も百貨店などほかの小売企業のように売り上げが落ちなかったという。「親にとって子供にかける費用を削るのは最後の手段」(ストーチ会長)と分析する。
 同社は05年、大手買収ファンドであるコールバーグ・クラビス・ロバーツなどの3社連合によって買収された。
 その後、改装や不採算店閉鎖など経営の立て直しを進め、09年には同業のFAOシュワルツを買収するなど事業拡大への投資を本格的に再開している。昨年には新規株式公開(IPO)を米証券取引委員会(SEC)に申請したもようだ。

 日本トイザらスは春に池袋店をサイド・バイ・サイドストアに改装した
 Gerald L.Storch マッキンゼー&カンパニーでパートナーとして小売・金融業界を担当した後、1993年米ターゲット・コーポレーション入社。食料品ビジネスを成長させ、同社副会長に。2006年米トイザラスの会長兼最高経営責任者(CEO)就任。09年にネット通販会社を買収するなど成長戦略を指揮。

MEMS海外撤退、住友精密社長に聞く、市況リスク、変動大きい―国内は合弁検討。

 住友精密工業が英子会社のMBO(経営陣が参加する買収)に応じ、MEMS(微小電子機械システム)製造装置の海外事業から撤退する。MEMSはスマートフォン(高機能携帯電話)に搭載される小型マイクロホンなどの微細加工部品で、その製造装置の受注は好調だった。同社はこの分野で世界首位で、連結売上高の3割を占める。そんな柱の事業をなぜ手放すのか。神永晋社長に聞いた。
 ――英子会社のSPPプロセス・テクノロジー・システムズ(SPTS)社を売却した経緯は。
 「足元ではスマートフォンに搭載するMEMSを加工する装置の受注は好調だ。ただ、MEMSはゲーム機に搭載する加速度センサーやインクジェットプリンター用部品など幅広い分野で使われており、市況の変化が激しく、リスクの見極めが難しい。こうした市況変化の大きい分野では顧客に装置が行き渡った途端、需要が大きく落ち込む特性もあり、先行きに慎重にならざるを得なかった」
 ――2009年に米社から成膜装置などを扱うMEMS装置部門を買収して事業を強化していたはずだった。
 「買収効果で海外の顧客が増え、連結に占めるMEMS製造装置の海外事業の割合が大きくなりすぎていた。このため海外事業は外国人経営者に任せた方がよいと考え、長年の信頼関係があるSPTS社の幹部のMBOの申し出に応じることにした」
 ――MEMS製造装置の国内事業はどうする。
 「(SPTS社の経営陣やファンドなどで構成する)新会社と9月までに国内で合弁会社を設立する方向で話を進めている。合弁会社がMEMS製造装置を国内メーカーに販売する。(住友精密としては)海外に向けていた力を国内に移すので、顧客に合った装置を開発するソリューション事業を今まで以上に強化する。合弁会社の売上高は30億円以上を目指す」
 ――売却で手にする125億円は何に使うのか。
 「財務バランスの改善と既存事業の強化に使う。航空機用部品では三菱航空機の『MRJ』や防衛省の新哨戒機『Pー1』など足回りシステム(航空機の脚など)の納入が見込まれており、設備の増強が必要になっていた。東日本大震災以降は液化天然ガス(LNG)気化装置も引き合いが増えている。既存事業の強化に資金が必要なことも今回の決断に至った理由の一つだ」
 ――5月に13年度の売上高を10年度比42%増の800億円とする中期計画を公表していた。
 「(今回の発表を受け)一時的には売上高や利益が減少する。だが、最終年度の売上高目標は変えない。航空機部品やLNGを含めた熱交換器、中国での環境関連事業などで補っていく。今秋までには新たな中計を発表できるだろう」
【図・写真】神永晋社長
 ▼MEMS 半導体の微細製造技術を応用し、シリコンや水晶などの基板にナノ(ナノは10億分の1)メートル単位の微細な加工を施した電子部品。微細化で電子機器の小型化に寄与する。任天堂のゲーム機「Wii」に内蔵される加速度センサーや、プリンターのヘッド部分のノズルなどだ。米IHSアイサプライによると、2014年の市場規模は09年比約8割増の108億1000万ドルに達する見込み。
 住友精密はMEMS製造装置の世界市場で7割を持つトップメーカー。同事業からの撤退を発表した翌日(6月28日)の株価は前日比19%安の610円まで下落。業界では「成長分野をなぜ売るのか」との声も多い。
 決断の最大の理由は「選択と集中」だ。同社にとって、航空機部品事業は1916年に始まり、熱交換器事業も50年以上の歴史がある基幹事業で、今後多額の投資が必要になる以上、MEMSの売却もやむをえなかった。MEMSは、市況変化に一喜一憂するビジネスで、他の事業とは異なった経営手法が求められることもあった。
 「かわいい子を手放す価値があると判断した」と話す神永社長の決断は一時的に投資家の失望を招いた。今後の焦点は、本人が「変えない」という売上高800億円の中期目標を達成する具体的な道筋だ。秋までに発表される新中計の中身が問われそうだ。

ボッシュ日本法人社長織田秀明さん―ガソリン車、省エネに力

 ▽…「日系自動車メーカーとの取引は日本国内に限った話ではない」。ボッシュ日本法人(東京・渋谷)の織田秀明社長は今後の戦略についてこう話す。親会社である独ボッシュの社員のうち欧州以外の地域の社員が3割を超えており、「世界中の様々な地域のニーズに合わせた製品を提供できる」とグローバル企業ならではの利点を説く。
 ▽…足元では電気自動車(EV)の市場が誕生しつつあるが、「今後も95%の自動車には内燃機関が残る」と分析する。自動車メーカー各社による低燃費車の開発競争が激化する中、「部品メーカーとしてガソリン車の省燃費技術に力を入れる必要がある」と意気込んでいた。

海外製部品の調達検討、スズキ4副社長会見、国内向けで。

 スズキは18日、浜松市内で今年6月に副社長に就いた田村実氏(63)、本田治氏(61)、鈴木俊宏氏(52)、原山保人氏(55)の就任会見を開いた。4氏は同社が4月に設けた経営全般の意思決定を手がける合議体のメンバーでもある。技術担当の本田氏は「海外製部品の国内向け調達も本格的に検討する」と述べ、調達改革を進めて収益性を高める目標を示した。
 記者会見での主なやり取りは以下の通り。
 ――鈴木修会長兼社長が経営の意思決定を一手に手がける体制を改める合議体発足から約3カ月。滑り出しの評価は。
 鈴木氏「少しずつ動き出した。経営の最終決定は4副社長が担い、鈴木会長からは『それでやれ』と言われるくらいの形が理想だ。従来のやり方を変えるのは簡単ではないが、『我々が動かすんだ』という思いで仕事を進めている」
 ――自動車各社は調達改革を進めている。
 本田氏「いち早く進出したインドでは調達先の開拓が進んでおり、東日本大震災直後には、ごく一部ながら国内向け部品をインドから運んだ。国内向け部品の海外調達を増やすことを本格的に検討する」
 ――独フォルクスワーゲン(VW)との提携の現状は。
 原山氏「VWは独立企業同士の『イコールパートナー』として提携しようと持ちかけてきたが、提携後に当社を関連会社に位置付けた。原点に戻り、対等の関係であることを確認したい。足元で進んでいるプロジェクトはない」
 ――東海地震に備えた拠点再配置の進行は。
 鈴木氏「海岸近くにあった二輪車の技術センターの移転はすでに決めた。浜岡原子力発電所(御前崎市)に近い工場の移転については状況を見極めながら進めたい」
 ――軽自動車の市場競争激化に対する対策は。
 田村氏「トヨタ自動車の参入で『戦国時代』を迎える。人材や店舗の質を高めたい」

パレスチナ開発投資会社会長に聞く、イスラエルとの中東和平交渉。

「合意なら大きく経済発展」 サービス・製造業の育成が課題
 パレスチナ開発投資会社(PADICO)のムニブ・マスリ会長は日本経済新聞の取材に応じ、イスラエルとパレスチナ自治政府の中東和平交渉について「合意に達すればパレスチナ自治区は大きな経済発展を遂げられる」との見通しを示した。一方で堅調な経済成長が続く自治区経済については「依然としてイスラエルの経済活動への妨害が多い」と話し、満足のいく企業活動ができないとの認識も示した。
 PADICOは通信や金融サービス、観光、不動産など自治区内の産業振興につながる幅広い分野に投資している。パレスチナ証券取引所はPADICOの子会社。ヨルダン川西岸のベツレヘムやガザ地区に高級ホテルも建設した。
 ヨルダン川西岸はここ数年、衝突が沈静化していることもあり昨年の経済成長率は7・6%と高い。ただマスリ会長は「資本は臆病で、この地域はリスクだらけだ」と述べ、投資マネーが本格的に流入していないとの見方を示した。2000年代初めの第2次インティファーダ(民衆蜂起)時には10%前後のマイナス成長が続き、経済の現状は「元の水準に戻っただけ」と言明。ビジネス環境は依然として厳しいという。
 ヨルダン川西岸では現在、ペルシャ湾岸諸国などに出稼ぎするパレスチナ人の海外送金で、住宅建設が増えている。こうした現象についてマスリ会長は「住宅建設は産業の振興にほとんどつながらず、生産的ではない」との見方を示した。
 仮に将来、パレスチナ国家が樹立されたとしても「パレスチナの経済を立て直すには時間がかかる。ガザの20~30%はイスラエルの侵攻で破壊された」と非難。「アラブ諸国には支援する責任がある」とも話した。今後のパレスチナ経済の課題として、雇用の創出につながるサービス産業や製造業などの育成を掲げた。
 今年9月に自治政府が目指すとしている国連総会のパレスチナ国家承認については将来の正式な国家樹立につながらなければ「再びインティファーダが起きるかもしれない」と警告。「イスラエルとパレスチナは隣人だ。協力すれば双方に利益がある」と訴えた。

 ムニブ・マスリ・パレスチナ開発投資会社(PADICO)会長 パレスチナの代表的実業家。米石油大手のフィリップス(現コノコフィリップス)を経て1970年、ヨルダン政府の公共事業相。93年にPADICO設立。ヨルダンを拠点とする金融機関アラブ・バンク、パレスチナ自治区の中央銀行にあたるパレスチナ金融機構の幹部も歴任。故アラファト議長の元側近で、自治政府首相を打診されたこともあるという。パレスチナ有数の富豪としても知られる。米テキサス州立スル・ロス大学で地質学の修士号を取得。

メガチップス会長進藤晶弘氏―成長期のマネジャー不足

 成長過程に入ったベンチャーが抱える共通の問題は、マネジャー(管理職、経営職)経験のない人がマネジャーになることによって起こる“組織運営の問題”だ。
 例えば、日常業務で部下にうまく仕事をさせる、権限委譲をうまくやる、部下の管理を行う、他部門と協働して仕事の流れを管理するなど、大企業であれば係長や課長レベルの人が発揮しなければならないスキルを身につけた人材が乏しいことに起因する。
 往々にして、ベンチャーでは大企業で社員であった人が経営者や管理職となって組織運営を担うことが多く、そのような場合、マネジメント経験を持たないがために、多くの判断を創業者に頼って負担を増やし、組織活動のスピードを阻害する。
 一方、任せたままでフォローを怠れば、その人の関心の強い仕事に偏り的確な報告もおろそかになって、全体把握が困難になる。
 大企業におけるマネジャーは経験を着実に積み重ねて育っていくが、ベンチャーでは育成にかける時間もなく、未熟なままで重要な地位に就かざるを得ない。会社の成長に人材の成長が伴わないからだが、安易にマネジャー不足を中途採用で解決しようとすると“副作用”に苦しむ。
 協力体制の不備、組織の壁、そして創業文化と移入文化の衝突――。中途入社者と創業メンバーが持っている価値観の違いから社内に葛藤が生まれ、何をするにしても内向きにエネルギーを割かなければならない。
 私の体験で恐縮だが、メガチップス創業3年後に会社が急成長し、全体に目が行き届かなくなって創業メンバーに組織運営を任せたが“組織運営の問題”に遭遇した。さらに自らのあせりもあって、マネジャーを中途採用して解決を試みたが、創業文化の変化にも直面した。
 冷静に考えてみれば、私の場合は大企業に約27年間勤め、係長から事業部長までを経験し、それぞれのマネジメント階層で求められる能力を習得することができたが、マネジャー経験のない人にとって、一気に階層を飛び越えてマネジメントすることは至極難しいことなのだ。一筋に専門分野の能力を磨いてきた人がマネジャーとしての能力をつけるとなると、スキルの習得もさることながら意識や精神面の強化も不可欠となる。
 成長期に入るベンチャーのマネジャー不足は、避けて通れない共通の課題。起業家は、幹部が正しいマネジメントスキルを身につけるにはある程度の時間が必要であることを理解し、その育成環境を整えることが大切だ。
 1963年愛媛大工卒、三菱電機入社。79年リコー入社。半導体研究所所長などを経て90年にLSI開発のメガチップス創業、社長に就任。2000年から現職。

車載・無線に集中投資、JVCケンウッド不破社長に聞く―成長軌道へ開発も短縮。

 JVC・ケンウッド・ホールディングスが経営再建に向けた取り組みを急いでいる。2008年に日本ビクターとケンウッドが統合して以来、リストラ続きだった経営に終止符を打ち、再び成長に向けた絵を描くことができるのか。5月に社長に就任した不破久温社長に、今後の経営方針などを聞いた。
 ――就任から2カ月たつが、現状の課題認識はどうか。
 「再建途上という認識は変わらない。財務基盤はある程度回復してきたが、再建の過程で多くのリストラを断行してきた。4月時点で前年に比べ全体の約15%にあたる1100人の人員が減った。事業としても民生機器分野のテレビなどディスプレーモニター事業は国内から撤退するなど、全体を縮めてきた。私は外部から来た人間だが、これだけ思い切ったリストラをした事例をほとんど知らない」
 「さらに、苦戦していた民生機器事業でビデオカメラやオーディオなど、残った事業も決してバラ色なわけではない。今後はCカーブを描くように、事業を再び成長軌道に乗せる必要があるが、逆風のなかのスタートだ」
 ――成長には何が必要か。
 「今進めているのは、技術の『ふ分け作戦』だ。大規模なリストラを実行した結果、技術者などの開発リソースが十分手元にないのが現状だ。そんななかで技術者の持つ技能をマップ化する作業を進めている。例えば3次元(3D)動画を生み出す技術としてはすばらしいものを持っている。活用できる技術を丁寧に洗い出し、製品開発につなげていく」
 「スピード感も大事だ。これまで特に民生機器分野では開発期間が長期化してしまう課題があった。開発から発売までの期間は平均して14カ月。これでは市場の変化についていけない。12カ月など開発期間を短くするよう指示を出した。先回り作戦とも言えるかもしれないが、13年にかけた製品を先回りして作りだそうとしている」
 ――具体的に注力していく分野は。
 「喫緊の課題である民生機器分野以外では、カーナビゲーションシステムなどのカーエレクトロニクス分野と無線機器分野があり、これらは強い商品群もある。カーナビ事業で中国に販売網や製造拠点を持つシンワインターナショナルホールディングスを買収した。日本市場で小さな手を打つよりも、海外で積極的に事業を進めていきたい」
 「特にカーナビゲーションシステムも有望な分野だ。自動車メーカーは通信機能を通じてビジネスを大きく広げられる可能性があり、その通信分野を担うのがカーナビだからだ。店舗に自動車で立ち寄ればポイントが付与される、ドライブスルーを様々な店舗でできるようにする。ほかにもカーナビが安全な走行を補助することもできるかもしれない」
 ――赤字の続くビデオカメラ事業をどうテコ入れするのか。
 「3D動画やフルハイビジョン動画など、中高級機種の開発に集中し、低価格機種専用の開発は行わない。技術者が大幅に減ったなかで、低価格帯の機種に開発リソースを振り分けていくことは難しい。さらに、ビデオカメラという枠を超えた製品開発も積極的に進めたい。例えば家のなかで人の安全を見守るセキュリティー分野に向けた製品開発などだ。放送局向けの業務用カメラも引き続き注力していく」
 ――今後の投資計画をどのような方針で考えているか。
 「カーエレ分野と無線機器を含む業務用分野に集中投資していきたい。11年度の投資総額のうち、70~75%程度を両分野にあてていく方針だ」

米エヌビディアCEOに聞く、「クアッドコア」年内にも搭載品。

タブレット用MPUで頭角 「基盤ソフトが重要」
 工場を持たないファブレス半導体メーカーで、パソコン向け画像処理半導体(GPU)が主力だった米エヌビディアが、多機能携帯端末(タブレット)用のMPU(超小型演算処理装置)でシェアを拡大している。同社のジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)に、IT(情報技術)端末市場の動向や今後の戦略などを聞いた。
 ――タブレット、スマートフォン(高機能携帯電話)市場が急拡大し、パソコンが中心だったIT端末市場が大きく変化している。
 「別々の市場だったパソコンとスマートフォンの垣根がなくなりつつある。韓国サムスン電子がタブレットに参入し、米デルや台湾の宏碁(エイサー)、華碩電脳(アスース)はスマートフォンを作り始めた。今後は携帯電話機メーカーとパソコンメーカーがモバイルコンピューターの会社になる」
 ――エヌビディアの「テグラ2」はタブレット用のMPUに採用されるケースが急増している。
 「もともとPC向けのGPUに強みがあり(1チップに複数機能を搭載した)SoC(システムオンチップ)のテグラ2も高い処理速度が特徴だ」
 「テグラ2には英アーム社が設計したCPU(中央演算処理装置)を採用、モバイルコンピューター用のMPUでは世界で初めてCPUを2つ搭載した『デュアルコア』を実現した。次世代のテグラはCPUを4つ搭載したクアッドコアにする。年末までにクアッドコアを搭載した製品の発売を期待している」
 ――米マイクロソフト(MS)が英アームのCPUに対応することを表明し、MSの基本ソフト(OS)である「ウィンドウズ」と米インテルのMPUが業界標準となる「ウィンテル」が崩れようとしている。
 「アームを使ったMPUでウィンドウズを動かすことができれば、テグラがパソコンでも使える。大きなチャンスだ。今後はテグラのラインアップを拡充し、タブレット、スマートフォン、パソコンのすべてのモバイルコンピューターで使えるようにしたい」
 ――モバイルコンピューターのMPUを巡る競争は今後どうなるか。
 「携帯電話機向けで大きなシェアを持つ米クアルコムと、パソコン向けが強い米インテル、そしてタブレットで強いエヌビディアの三つどもえの争いになる」
 「エヌビディアは携帯電話の通信機能などを制御する『ベースバンド』と呼ばれる半導体に強い英アイセラを買収した。スマートフォンではMPUとともにベースバンドが重要。アイセラ買収で米クアルコムと同様、MPUとベースバンドを併せ持つ体制ができた」
 ――日本の半導体メーカーをどうみる。
 「日本勢の大きな問題は、製造に重点を置いてきたため基盤ソフト(ミドルウエア)が弱いことだ。今の半導体はSoCをどう作るか、つまりミドルウエアをどうするかが重要。実際の製造はファウンドリー(半導体受託生産会社)に任せればいい」
 「エヌビディアの社員6500人はほとんどが技術者だが、ハードウエアやチップ開発に携わるのは1500人ほど。ミドルウエア開発には3500人がかかわっている。日本のメーカーもミドルウエアを強化することが非常に重要だ」

 台湾南部の台南出身。5歳でタイに渡り9歳の時に米国に。84年オレゴン州立大電気工学理学卒、92年スタンフォード大で電気工学修士課程修

NEC社長遠藤信博氏(上)破綻味わい、視野広がる

  NECの遠藤信博社長(57)は東工大で電磁波の研究に没頭。大学に残るかどうか悩んだ末、衛星通信に力を入れていたNECに入社する。
 研究所に行けるとばかり思っていたら、衛星通信のアンテナ開発を担当する事業部に配属されました。最初の関門が電話。大学の研究室は秘書が取り次いでくれるけど、会社だと新入社員が最初に出なければならない。見ず知らずの人といきなり話すことが本当に嫌で、毎日大学に戻ることばかり考えてました。
  前向きな性格が幸いし、職場に慣れていく。
 次第に「仕事は結構面白い」と感じるようになりました。目の前にある課題を何とかせねば、と考えるタイプです。発注書の書き方、製品仕様の策定など「こうやったらもっと効率的なのに」と興味がわいてきました。「一つ一つ目の前の課題を解決するために最大限、努力することが大切だ」という思いは、社長になった今も変わりません。
  国内で通信衛星を活用した可搬式電話端末の開発などを経験する。担当部長だった1997年、英現地法人に出向。世界中で使える衛星携帯電話サービスのプロジェクトに加わる。
 インマルサットと、47の通信会社が出資した英ICOグローバルコミュニケーションズのプロジェクトです。高度約1万キロメートルの軌道上に飛ばした12個の衛星を利用し、世界中で使える手のひら大の衛星携帯電話を実現する国際プロジェクトでした。NECは地上システムと端末を受注し、私は端末のプロジェクトリーダーを務めました。
  通信技術の進歩は遠藤氏の予想を超えていた。
 デジタル携帯電話の欧州統一規格「GSM」が世界中に広がります。チップセットが進化し端末が小型化したことも追い風でした。アジアなど欧州以外でも通信会社同士が組んで国際ローミング(相互乗り入れ)サービスが普及し、普通の携帯電話で全世界をカバーできるようになりました。
  その余波で、ICOは99年8月に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請して経営破綻する。
 順調に事業資金が集まっていたのに、通信会社が急に「投資価値なし」と判断したようです。入社して初めて経験する大きな挫折で、本当にショックでした。当時はつぶれた理由がよく分かりませんでしたが、環境変化を読み切れなかったということでしょう。最終的に普通の携帯電話を使って世界中で通話できるようになると予想はしていましたが、ここまで一気に行くとは思わなかった。
 衛星携帯電話サービスは「世界中を旅するビジネスマン」が使うことを想定しましたが、「同じ端末を世界で使える」利便性が勝ったわけです。顧客層も絞り過ぎた。ビジネスは貢献度が大きいほどお客様に受け入れられやすい。これを機に「この事業は世の中に大いに役立つか」「独りよがりになっていないか」と自問する癖がつきました。
 えんどう・のぶひろ 81年(昭56年)東工大大学院理工学研究科博士課程修了(工学博士)、NEC入社。無線通信機器の開発に長く携わる。03年モバイルワイヤレス事業部長、06年執行役員、09年取締役執行役員常務。10年から現職。神奈川県出身。57歳。

日本サブウェイ社長伊藤彰氏―消費者の健康志向に応える食を

 ▽…高齢化の進展を受け、「食生活を見直して医療費を削減しようとする消費者はさらに増える」と話すのはサンドイッチチェーン、日本サブウェイ(東京・港)の伊藤彰社長。同社の既存店売上高は6月まで14カ月連続で前年同月を上回り続けている。他のファストフードに比べても価格は安くないが、野菜をたっぷり食べられると評判がいい。
 ▽…「日本の農業は世界で勝負できる」と全国の農家に呼びかけ、栽培手法にこだわった独自仕様のレタス生産にも乗り出した。通常より栄養成分を豊富にしてあり、食べれば免疫力を高められるという。今夏からメニューに使うほか、将来的には「海外のサブウェイにも供給したい」と意気込んでいた。

日本企業の収益は―野村ホールディングス会長古賀信行氏

 東日本大震災から4カ月余り。政治の迷走は止まらず、株式市場も不安定な展開だ。日本企業は円高に加え電力不足という制約条件も課せられ、産業の空洞化が加速する懸念も強まっている。野村ホールディングスの古賀信行会長に経済や市場の先行きを聞いた。
40%近く増益に
 ――景気の持ち直しを指摘する声が増えてきましたね。
 「リーマン・ショックの後もそうだったが、どすんと落ちた生産活動や株式相場が、その反動でV字型に回復してくるのは当然。特に今回は、部品や素材の供給網の回復が予想以上に早い。このペースが年内いっぱい続き、ふり返れば回復の力強さが実感できる年になるのではないか」
 「われわれの予想では、今年度上期の主要400社の経常利益は、前年同期に比べて約30%減る。ところが下期は40%近く増え、さらに来年度上期は40%強の増益が続く見通しだ。自動車が供給網をいち早く立て直し、生産を正常化させることが、企業収益の回復を引っ張る」
 ――日本企業の業績は海外市場の動向に大きく左右されます。
 「最も気になるのは中国だ。金融の引き締めにより、一部の不動産価格が下がり始めた。とはいえ、景気の調整があったとしても一時的なものと考える。1990年前後に不動産バブルの隆盛と崩壊を経験した日本人には、当時の状況と今の中国を重ねようとする心情もある。しかし、それは違うだろう」
 「日本の不動産バブルは、こんな土地の値段がどうしてこれほど急騰するのかと思うような例が多かった。実需の裏づけを欠いた金融ゲームだ。中国の不動産市場も過熱しているのだろうが、沿海部を中心に実需も強い。かつての日本のような空前のバブルが発生しているとは思わない」
 ――円高や電力不足への懸念は。
 「為替やエネルギーに関する政策が迷走しすぎている。過去にも『事業会社が本社や生産拠点を海外に移す』といった議論が繰り返された。今では聞きあきたオオカミ少年の警告のように受けとめる向きもある。けれども、今回ばかりは企業の我慢が臨界点を超えるかもしれない」
 「国内に置いてきた開発拠点をあえて外に出す、といった動きが出るような気がする。需要は新興国を中心とする海外で膨らんでいくのだから、そこで一貫して開発から生産まで手がける方が効率的と考える企業も、少なくないだろう」
政策不透明嫌う
 ――投資家は今の日本をどのように見ているのでしょうか。
 「大事なことは、先が見通せるという前提条件だ。合理的に判断した結果ならば、仮に損が出ても投資家は納得する。今の日本はエネルギー政策を中心に不確実性が強まっており、合理的な判断をしにくい」
 「国を開く雰囲気が弱まっていることも、日本への投資が盛り上がらない一因だろう。日本企業が海外企業を買う『内―外』のM&A(合併・買収)は活発だが、海外から日本への『外―内』のM&Aは少ない。技術やノウハウを守るという意識が強すぎるために、外資を遠ざける結果になっているのではないか」
 ――経済の復旧・復興に金融が果たす役割は。
 「インフラファンドなどの形で、官民一体となってお金を生かす仕組みづくりなどが考えられる。しかし、それも復興の政策がはっきりしていることが大前提。官の意思がしっかり示されないと、国内はもちろん、海外からお金を呼び込むことも難しい」

2011年7月15日金曜日

米ジュニパーネットワークスCEOケビン・ジョンソン氏

 クラウドコンピューティングの利用拡大やスマートフォン(高機能携帯電話)の普及で、ネットワークの重要性が増している。今後のネットワーク機器はどのような機能が求められるようになるのか。技術開発の方向性について、ネットワーク機器大手の米ジュニパーネットワークス最高経営責任者(CEO)のケビン・ジョンソン氏に聞いた。
――今後のネットワーク機器をどうみる。
 「『クラウドコンピューティング』と『モバイルインターネット』は今後10年を左右するトレンドだ。クラウドは一元化や自動化によりデータセンターのコンピューター利用を効率化する技術。これが、モバイルインターネットと組み合わされる。世界の数十億の人々がスマートフォンなどを使ってインターネットにつながり、データセンターから提供されるサービスを利用する時代になる」
 「この結果、インターネットを流れるデータは今後爆発的に増える。つまり、ネットワーク機器は、膨大な通信量を高速に処理できる能力が求められる。また、その処理性能を簡単に拡張できるようにする必要がある」
 「3つ目の重要な機能がセキュリティーだ。今後、モバイルで使われる端末の種類は増える。利用者が安全にネットを利用できるように機器側でなんらかの手当てをする必要がある」
――モバイル端末のセキュリティー対応は、ウイルス対策ソフト会社などの専門企業も手掛けている。
 「モバイル端末のセキュリティーは端末だけでは収まらない。ネットワーク全体で考える必要がある。だからこそ我々は独自に端末管理ソフト『ジュノスパルス』を提供した。スマートフォンの利用状況を個別に管理でき、ウイルス対策機能も持つ」
 「ただし、セキュリティー関連の技術のすべてを自社で提供する意図はない。我々のネットワーク機器の基本ソフト(OS)『ジュノス』は外部企業が独自のソフトを提供できる。今後の世界で十分なセキュリティーを担保するには、多くの頭脳が集まり、たくさんの技術革新を起こす必要がある。そのような状況を作りたいと思う」
――新興国への進出をどう考えるか。
 「我々は成長する市場の参加者でありたい。我々が成長するには、新市場に新製品を投入して、市場を広げていく必要がある。世界のどこでもネットワークに求められる機能は大きく違わない。今、起きているトレンドは世界同時進行。ネットにつながる新しいユーザーは新興国で生まれている。通信量も新興国で圧倒的に伸びている」
 「幸い、中国、インド、ロシア、ブラジルは既に我々にとって重要な市場になっている。人口の多い中国とインドが当面、市場を引っ張っていく形になるとみている」
 「ライバルは世界中にいる。だからこそ我々は技術革新を続けて引き離す必要がある。昨年は研究開発に売り上げの21%を投資した。今後も売り上げの18~19%を目安に投資を続けていく」

SRIスポーツ社長野尻恭氏―欧米・中国、果敢にアプローチ

 《抱負》「住友ゴム工業で海外駐在が長く、中国では駐在した5年間に売上高を5倍に引き上げた。課題はグローバル展開で、2015年までの早い段階に、海外売上高比率を現在の35%から50%以上にするのが目標だ」
 「足がかりとなるのが北米と欧州市場。北米のゴルフボール市場のシェアは6%程度。『スリクソン』ブランドで展開しているが、07年に買収したゴルフクラブ『クリーブランドゴルフ』の販売網を活用する。シェアを毎期1%伸ばし、早期に2ケタに乗せ、最大手の『タイトリスト』の牙城を切り崩す。欧州市場は英国以外の地域がまだ小さく、販売の強化で伸ばす」
 「圧倒的な市場の伸びが期待できるのは中国だ。ゴルフ場の数は日本の約2400に対し、中国は500程度。プレー代も高く、ゴルファーも少ない。ぜいたくなスポーツという見方だが、五輪の正式種目になる16年にはそうした認識が見直されるだろう。トーナメントへの協賛などを通じて知名度を高める」
 「海外事業を最も理解しているのは現場だ。7月から日本事業部と北米・欧・豪事業部、アジア地域事業部を新設したのもそうした背景がある。担当者を増員し、権限を与え、各地域のシェアを引き上げていく」
 「国内はトップブランドのゴルフクラブ『ゼクシオ』があり、現在の地位を維持していく。モデルチェンジを控えた今春に、相次ぎ他社が新ブランドを立ち上げ、追撃してきた。次世代のゼクシオは、さらに優れた製品に仕上げる」
 「東日本大震災の影響でゴルフ用品市場は厳しいが、秋口には回復するだろう。ただバブル崩壊以降、市場は年々縮小。高齢化という構造的な問題もあるが、減少カーブが緩やかになるように、女性ゴルファーの取り込みやトーナメントの運営を継続し、業界を盛り上げていく」
 《趣味》「東工大硬式野球部の主将だったが、入社後に独身寮の仲間とマラソンを始めた。今でもハーフマラソンを1時間40分台で走る。休日も走りたいが、社長に就任して満足に走れないのが悩み。ゴルフのハンディキャップは24。上手な社員が多いので、教わってうまくなりたい」

社長100人アンケート――集計結果

【国内の景況感】
問1 現在の国内景気は半年前と比べてどう変化したと思われますか。
  (1)よくなった0.0
  (2)すでに改善の兆しが見えてきた5.7
  (3)ほとんど変化が見られない17.1
  (4)すでに悪化の兆しがある7.1
  (5)悪くなった68.7
  (6)わからない1.4
問1-1 問1で(4)または(5)を選ばれた方にうかがいます。国内景気はいつごろ持ち直すと見ていますか。
  (1)11年7~9月24.5
  (2)11年10~12月48.2
  (3)12年1~3月9.4
  (4)12年4~6月9.4
  (5)12年7~9月1.9
  (6)12年10月以降4.7
   無回答1.9
問1-2 問1で(4)または(5)を選ばれた方にうかがいます。国内景気が持ち直すための主な条件は何と見ていますか(3つまで)。
  (1)国内企業の主な施設・設備の復旧47.2
  (2)電力不足解消への見通しが立つこと64.2
  (3)福島第1原発事故の情報への信用回復12.3
  (4)震災からの本格的な復興予算の成立45.3
  (5)円高傾向の一服14.2
  (6)世界経済の堅調な推移54.7
  (7)資源・原材料価格の安定的な推移9.4
  (8)個人消費の回復38.7
  (9)その他2.8
問1-3 問1で(1)または(2)を選ばれた方にうかがいます。国内景気の改善はいつごろまで続くとお考えですか。
  (1)11年7~9月0.0
  (2)11年10~12月0.0
  (3)12年1~3月25.0
  (4)12年4~6月12.5
  (5)12年7~9月0.0
  (6)12年10月以降50.0
   無回答12.5
【世界経済】
問2 世界景気の現状をどのように認識していますか。
  (1)順調に拡大している2.1
  (2)緩やかながら拡大している30.7
  (3)拡大しているがペースが鈍ってきた49.3
  (4)横ばいとなっている11.4
  (5)天井を打って悪化に転じた2.9
  (6)緩やかながら悪化している3.6
  (7)急速に悪化している0.0
問3 米国の景気の現状をどのように認識していますか。
  (1)順調に拡大している0.0
  (2)緩やかながら拡大している21.4
  (3)拡大しているがペースが鈍ってきた44.4
  (4)横ばいとなっている26.4
  (5)天井を打って悪化に転じた2.1
  (6)緩やかながら悪化している5.7
  (7)急速に悪化している0.0
問3-1 問3で(3)~(7)を選ばれた方にうかがいます。米国景気が安定的な回復軌道に戻るのは、いつごろと見ていますか。
  (1)11年7~9月6.4
  (2)11年10~12月32.8
  (3)12年1~3月14.5
  (4)12年4~6月11.8
  (5)12年7~9月10.0
  (6)12年10月以降12.7
   無回答11.8
問4 欧州の景気の現状をどのように認識していますか。
  (1)順調に拡大している0.0
  (2)緩やかながら拡大している22.9
  (3)拡大しているがペースが鈍ってきた23.6
  (4)横ばいとなっている35.7
  (5)天井を打って悪化に転じた2.1
  (6)緩やかながら悪化している15.7
  (7)急速に悪化している0.0
問5 中国経済の現状をどのように見ていますか。
  (1)景気拡大のペースに変化は感じない17.9
  (2)景気拡大のペースが鈍る懸念が出てきた52.9
  (3)景気拡大のペースが緩やかに鈍ってきた27.1
  (4)景気拡大のペースが急に鈍ってきた2.1
  (5)景気が悪化する懸念が出てきた0.0
問6 世界経済で、特に懸念材料と思われていることは何ですか(2つまで)。
  (1)米国の景気回復の腰折れ57.1
  (2)ギリシャなど欧州の財政問題の深刻化49.3
  (3)中国など新興国の需要拡大ペースの鈍化55.0
  (4)中東情勢の混乱による原油価格などへの影響14.3
  (5)商品相場の高騰による原材料価格の上昇18.6
  (6)特に懸念はない0.0
  (7)その他0.7
【日本経済】
問7 日本国内の個人消費は半年前に比べて、どのように変化したと思われますか。
  (1)活発になった0.0
  (2)活発になりつつある5.7
  (3)ほぼ横ばい22.1
  (4)鈍化しつつある9.3
  (5)鈍化した62.9
  (6)わからない0.0
問7-1 問7で(4)または(5)を選ばれた方にうかがいます。個人消費はいつごろ持ち直すと見ていますか。
  (1)11年7~9月20.8
  (2)11年10~12月45.4
  (3)12年1~3月13.9
  (4)12年4~6月12.9
  (5)12年7~9月1.0
  (6)12年10月以降4.0
   無回答2.0
問8 日本企業全体の設備投資動向は半年前に比べて変化はありましたか。
  (1)旺盛になった0.7
  (2)旺盛になりつつある30.1
  (3)変化が見られない22.1
  (4)鈍化しつつある15.7
  (5)鈍化した25.7
  (6)わからない5.0
   無回答0.7
問9 貴社の国内での生産水準(生産量など)が東日本大震災前と同程度まで回復するのは、いつごろと見ていますか。
  (1)既に回復ずみ45.8
  (2)2011年7月10.7
  (3)同8月2.9
  (4)同9月3.6
  (5)同10月12.1
  (6)同11月0.7
  (7)同12月2.1
  (8)年明け以降5.0
   無回答17.1
問9-1 問9の回復時期は、4月末ごろの想定に比べてどうですか。
  (1)同程度49.4
  (2)約半月前倒し2.1
  (3)約1カ月前倒し6.4
  (4)約2カ月前倒し7.1
  (5)2カ月超前倒し7.9
  (6)遅れている1.4
   無回答25.7
問10 今夏の電力不足の懸念が関東・東北だけでなく、原発の再稼働のめどが立たないことから、全国的に広がり、来年も続く懸念が出ています。対応をどうお考えですか(3つまで)。
  (1)土日の操業など休日変更を今夏以降も適宜実施17.9
  (2)サマータイムなど勤務時間の変更を今夏以降も適宜実施10.7
  (3)休暇の長期化を今夏以降も適宜実施6.4
  (4)在宅勤務により、オフィスで節電する制度を継続的に採用7.9
  (5)自家発電設備の導入・増強42.1
  (6)空調・照明などの省エネ型設備への更新・更新拡大56.4
  (7)工場の海外シフトやその加速5.0
  (8)オフィスの海外シフトやその加速0.0
  (9)工場の国内での分散化6.4
  (10)オフィスの国内での分散化0.7
  (11)その他45.0
  (12)特に対策は考えていない1.4
問11 原発問題や電力不足問題を受け、エネルギー政策で当面(今後2、3年以内)と中長期(2020~2030年頃に向けて)で優先的に取り組むべき課題は以下のどれとお考えでしょうか(それぞれ2つまで)。
<当面の課題>
  (1)太陽光発電など新エネルギー(再生可能エネルギー)導入の加速26.4
  (2)原子力発電所の安全性の基準を明確にし、丁寧に説明して稼働を継続72.9
  (3)天然ガスなどによる火力発電の拡大52.9
  (4)発電・送電の分離など電力自由化の推進7.9
  (5)スマートグリッド(次世代送電網)の普及の加速4.3
  (6)その他10.0
<中長期的な課題>
  (1)太陽光発電など新エネルギー(再生可能エネルギー)導入の加速75.0
  (2)原子力発電所の安全性の基準を明確にし、丁寧に説明して稼働を継続10.0
  (3)天然ガスなどによる火力発電の拡大6.4
  (4)発電・送電の分離など電力自由化の推進21.4
  (5)スマートグリッド(次世代送電網)の普及の加速48.6
  (6)その他16.4
【2011年度の展望】
問12 貴社の11年度の損益見通しは10年度と比べてどうなりそうですか。
  (1)大幅に改善しそう11.4
  (2)やや改善しそう31.5
  (3)10年度と同じくらい18.6
  (4)何とも言えない12.1
  (5)やや悪化しそう15.0
  (6)大幅に悪化しそう5.7
   無回答5.7
問12-1 問12で(1)または(2)を選ばれた方にうかがいます。損益が改善すると期待する要因は何ですか(2つまで)。
  (1)海外需要の拡大68.3
  (2)国内需要の回復・拡大46.7
  (3)円高の一服による輸出採算の確保8.3
  (4)人件費の抑制3.3
  (5)原料・資材コストの下落1.7
  (6)海外での設備投資・研究開発費の抑制0.0
  (7)国内での設備投資・研究開発費の抑制0.0
  (8)その他36.7
問13 貴社の11年度の設備投資額は10年度と比べてどうなりそうですか。
  (1)大幅に上回りそう15.0
  (2)やや上回りそう38.0
  (3)10年度と同じくらい22.1
  (4)何とも言えない7.1
  (5)やや下回りそう6.4
  (6)大幅に下回りそう4.3
   無回答7.1
問14 貴社が11年度の設備投資の対象地域で最も重視しているのはどこですか。
  (1)日本50.8
  (2)中国をはじめとする東アジア20.0
  (3)東南アジア11.4
  (4)インドなどの南アジア1.4
  (5)中東・中央アジア0.0
  (6)欧州・ロシア0.7
  (7)北米(米国とカナダ)0.7
  (8)中南米1.4
  (9)アフリカ0.0
  (10)オセアニア0.0
   無回答13.6
問15 11年度の原材料・資材・燃料価格の先行きについてどうお考えですか。
  (1)かなり上昇する14.3
  (2)やや上昇する56.4
  (3)横ばい傾向19.3
  (4)やや下落する0.0
  (5)かなり下落する0.0
  (6)その他4.3
   無回答5.7
問16 M&A(合併・買収)について、貴社ではどのような姿勢で臨まれていますか。
  (1)積極的に相手を探している25.0
  (2)すでに交渉中の案件がある6.4
  (3)M&Aをする考えはない2.9
  (4)何とも言えない29.3
  (5)その他32.8
   無回答3.6
問16-1 問16で(1)または(2)を選ばれた方にうかがいます。競争力の大幅な向上が見込める場合、同業の大手企業とのM&Aを検討しますか。
  (1)検討する56.8
  (2)検討しない6.8
  (3)わからない34.1
   無回答2.3
問17 製品輸出や資材輸入など総合的に、貴社にとって望ましい為替水準はどれですか。
  (1)1ドル=75円未満0.0
  (2)1ドル=75円以上80円未満0.0
  (3)1ドル=80円以上85円未満9.3
  (4)1ドル=85円以上90円未満23.6
  (5)1ドル=90円以上95円未満29.3
  (6)1ドル=95円以上100円未満6.4
  (7)1ドル=100円以上9.3
   無回答22.1
問18 現状の為替水準(6月22日18時時点で1ドル=80円20銭程度)が続くと貴社の収益にどのような影響を及ぼすと予想しますか。
  (1)大幅な収益悪化の要因となる17.1
  (2)小幅ながら収益悪化の要因となる36.5
  (3)収益への影響はほとんどない32.2
  (4)小幅ながら収益改善の要因となる5.0
  (5)大幅な収益改善の要因となる0.0
  (6)わからない2.1
   無回答7.1
問19 貴社の11年度の主な経営課題は何ですか(3つまで)。
  (1)既存製品・サービスの品質などの強化39.3
  (2)新規の製品やサービス分野の開拓の強化60.7
  (3)M&Aや業務提携など外部資源活用17.1
  (4)人材育成・雇用の維持22.9
  (5)国内の生産・販売体制の復旧・強化12.1
  (6)新興国など海外事業の拡大72.9
  (7)省エネ・節電への事業や働き方での対応強化3.6
  (8)災害などリスク対応力の強化12.1
  (9)人員や設備などのコスト削減11.4
  (10)有利子負債削減など財務体質強化15.7
  (11)為替変動への対応6.4
  (12)法令順守の体制強化0.0
  (13)その他15.0
【今後の展望】
問20 税制など企業を取り巻く日本の制度や経営環境がほぼ現状のままの場合、今後3年以内に国内から海外へシフトせざるを得なくなるものは何ですか(3つまで)。
  (1)主力ではない生産拠点20.0
  (2)主力の生産拠点10.7
  (3)小規模な営業拠点5.0
  (4)大規模な営業拠点2.1
  (5)一部の研究開発拠点17.1
  (6)研究開発拠点全般0.0
  (7)一部の本社機能11.4
  (8)本社機能全般0.0
  (9)経営会議など重要な意思決定の場0.7
  (10)その他10.7
  (11)特にない47.1
問21 制度などがほぼ現状のままの場合、3年後の貴社の国内と海外の収益力はどう変化しそうですか。
  (1)国内、海外とも拡大が見込める25.7
  (2)海外は拡大するが、国内の伸びはあまり見込めない52.9
  (3)国内は拡大するが、海外の伸びはあまり見込めない1.4
  (4)国内・海外とも伸びはあまり見込めない4.3
  (5)その他9.3
   無回答6.4
問22 国内で企業が主な拠点や収益力を維持・拡大するため、政府の早期の取り組みが必要と思う制度的な課題は何ですか(2つまで)。
  (1)環太平洋経済連携協定(TPP)への参加35.0
  (2)電力不足解消策を含む総合的なエネルギー政策50.7
  (3)法人税率の引き下げ36.4
  (4)円高対策23.6
  (5)成長戦略の具体化33.6
  (6)温暖化ガスの「25%削減」目標の緩和2.9
  (7)その他5.7
問23 震災からの復興策の財源確保のための増税について、どう思われますか。
  (1)賛成5.0
  (2)条件付きで賛成64.9
  (3)反対8.6
  (4)どちらともいえない13.6
   無回答7.9
問23-1 問23で(2)を選ばれた方にうかがいます。最も重視する条件は何ですか。
  (1)民主党のマニフェストなど既存歳出についての削減策40.6
  (2)税収の用途とする復興対策の明確化29.7
  (3)社会保障と税の一体改革に伴う増税とのすり合わせ24.2
  (4)その他4.4
   無回答1.1
問23-2 問23で(1)または(2)を選ばれた方にうかがいます。増税の対象には何が最も適当とお考えになりますか。
  (1)所得税5.1
  (2)消費税65.3
  (3)法人税0.0
  (4)エネルギー関連税3.1
  (5)その他12.2
  (6)わからない8.2
   無回答6.1
【民主党政権について】
問24 国会は8月末まで会期を延長することが固まりました。菅首相はすでに退陣の意向は表明しましたが、時期を明示していません。退陣時期はいつが適当とお考えになりますか。
  (1)7月末まで22.9
  (2)8月初め~8月半ば2.9
  (3)8月末まで(延長国会の会期末まで)14.3
  (4)9月以降0.7
  (5)わからない31.3
   無回答27.9
問25 菅首相の退陣後はどのような政治体制を望みますか。
  (1)民主党、自民党などの大連立22.1
  (2)民主党中心の政権で、自民党などが閣外協力4.3
  (3)民主党中心の政権で、現在と同様の与野党体制0.7
  (4)政界再編による新たな政権の枠組み19.3
  (5)わからない23.6
   無回答30.0
問26 菅首相の退陣を機に、現状から特に加速を望む政策課題は何ですか(2つまで)。
  (1)震災の被災地のインフラなどの復旧対策16.4
  (2)被災地への特区設定など復興対策の具体化37.9
  (3)福島第1原発事故に関する正確な情報開示・収束対策11.4
  (4)総合的なエネルギー政策の立案35.7
  (5)環太平洋経済連携協定(TPP)など通商政策の推進25.0
  (6)円高・景気対策の強化20.0
  (7)日米関係など外交の強化2.1
  (8)税と社会保障の一体改革の具体化20.7
  (9)その他6.4
  (10)特にない0.0
 釜和明(IHI)/藤原健嗣(旭化成)/石村和彦(旭硝子)/泉谷直木(アサヒグループホールディングス)/伊藤雅俊(味の素)/畑中好彦(アステラス製薬)/中野和久(出光興産)/岡藤正広(伊藤忠商事)/遠藤信博(NEC)/三浦惺(NTT)/山田隆持(NTTドコモ)/江頭敏明(MS&ADインシュアランスグループホールディングス)/篠田和久(王子製紙)/川崎秀一(OKI)/白石達(大林組)/山田義仁(オムロン)/上西京一郎(オリエンタルランド)/井上亮(オリックス)/水野健太郎(オンワードホールディングス)/尾崎元規(花王)/樫尾和雄(カシオ計算機)/中村満義(鹿島)/長谷川聡(川崎重工業)/八木誠(関西電力)/内田恒二(キヤノン)/久芳徹夫(京セラ)/三宅占二(キリンホールディングス)/田中孝司(KDDI)/佐藤広士(神戸製鋼所)/野路国夫(コマツ)/佐治信忠(サントリーホールディングス)/高萩光紀(JXホールディングス)/馬田一(JFEホールディングス)/田川博己(JTB)/奥田務(会長・J・フロントリテイリング)/川西孝雄(ジェーシービー)/中西勝則(頭取・静岡銀行)/末川久幸(資生堂)/宮本洋一(清水建設)/片山幹雄(シャープ)/武藤光一(商船三井)/市川秀夫(昭和電工)/森俊三(信越化学工業)/宗岡正二(新日本製鉄)/谷真(すかいらーく)/鈴木修(スズキ)/十倉雅和(住友化学)/友野宏(住友金属工業)/加藤進(住友商事)/服部真二(セイコーホールディングス)/根岸修史(積水化学工業)/和田勇(会長・積水ハウス)/前田修司(セコム)/村田紀敏(セブン&アイ・ホールディングス)/伊東信一郎(全日本空輸)/ハワード・ストリンガー(ソニー)/桜田謙悟(損害保険ジャパン)/中山譲治(第一三共)/渡辺光一郎(第一生命保険)/井上礼之(会長・ダイキン工業)/山内隆司(大成建設)/北島義俊(大日本印刷)/徳植桂治(太平洋セメント)/日比野隆司(大和証券グループ本社)/大野直竹(大和ハウス工業)/鈴木弘治(高島屋)/富山幹太郎(タカラトミー)/長谷川閑史(武田薬品工業)/水野明久(中部電力)/杉江和男(DIC)/上釜健宏(TDK)/大八木成男(帝人)/新宅祐太郎(テルモ)/加藤宣明(デンソー)/石井直(電通)/竹中博司(東京エレクトロン)/隅修三(東京海上日動火災保険)/岡本毅(東京ガス)/佐々木則夫(東芝)/山田豊(東洋エンジニアリング)/坂元龍三(東洋紡)/日覚昭広(東レ)/張本邦雄(TOTO)/金子真吾(凸版印刷)/豊田章男(トヨタ自動車)/
山本亜土(名古屋鉄道)/川名浩一(日揮)/大枝宏之(日清製粉グループ本社)/玉村和己(ニッパツ)/橋本孝之(日本IBM)/加藤太郎(日本ガイシ)/垣添直也(日本水産)/大塚紀男(日本精工)/筒井義信(日本生命保険)/木村宏(日本たばこ産業)/渡辺健二(日本通運)/永守重信(日本電産)/樋口泰行(日本マイクロソフト)/工藤泰三(日本郵船)/大谷和彦(ニューオータニ)/岩田聡(任天堂)/渡部賢一(グループCEO・野村ホールディングス)/大坪文雄(パナソニック)/清野智(東日本旅客鉄道)/中西宏明(日立製作所)/柳井正(ファーストリテイリング)/上田準二(ファミリーマート)/山本忠人(富士ゼロックス)/山本正已(富士通)/古森重隆(富士フイルムホールディングス)/小池利和(ブラザー工業)/荒川詔四(ブリヂストン)/鈴木洋(CEO・HOYA)/伊東孝紳(ホンダ)/山内孝(マツダ)/青井浩(丸井グループ)/朝田照男(丸紅)/水野明人(ミズノ)/佐藤康博(みずほフィナンシャルグループ)/田中稔一(三井化学)/宮田孝一(三井住友フィナンシャルグループ)/飯島彰己(三井物産)/菰田正信(三井不動産)/小林喜光(三菱ケミカルホールディングス)/杉山博孝(三菱地所)/大宮英明(三菱重工業)/小林健(三菱商事)/中野勘治(会長・三菱食品)/山西健一郎(三菱電機)/矢尾宏(三菱マテリアル)/岡内欣也(三菱UFJ信託銀行)/佐藤尚忠(明治ホールディングス)/森雅彦(森精機製作所)/木川真(ヤマトホールディングス)/梅村充(ヤマハ)/高原豪久(ユニ・チャーム)/近藤史朗(リコー)/新浪剛史(ローソン)/沢村諭(ローム)/塚本能交(ワコールホールディングス)

コメット社長鈴木摂氏―素材開発の独自装置外販

 卓越した技術を持っていても稼げないベンチャー企業――。素材開発を請け負うコメット(茨城県つくば市)も例外ではなかった。独立行政法人の“お墨付き技術”を抱えながら赤字続き。2年前に社長に招かれた鈴木摂(60)は先端技術の流出を恐れず、社内だけで使っていた装置の外販に踏み切る。「レーサーにしか運転できないF1カーじゃ駄目なんだ」
 コメットは2007年に産声を上げた。物質・材料研究機構と東京工業大学が培った「コンビナトリアル」という物質融合技術の独自手法を、大きなビジネスに育てるつもりだった。
□  □
 コメットは通常、3カ月かかる素材開発を3日前後で終わらせる。いくつもの材料を重ねて、最も薄い場合で0・2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの膜に仕上げ、配合が異なるポイントを約300カ所つくり、その性質を一つ一つ調べあげる。つまり1枚の膜をつくるだけで、新しい素材に適した“材料のレシピ”を探すことができるのだ。
 画期的な技術だが、設立から2年間は「開店休業」の状態が続いた。そこに08年9月のリーマン・ショックが追い打ちをかけた。
 大学の同窓でコメット取締役の知京豊裕(52)から誘われ、09年2月に社長に就いた鈴木は、すぐに決断する。「素材開発の仕事を請け負うだけではなく、その技術を装置として売るべきだ」
 鈴木自身も技術にこだわってきたエンジニアで、装置を外販すれば技術流出のリスクがあることは百も承知。ただ、10年以上、激しい受注競争を繰り返す半導体の量産装置に携わってきた。「完成された技術を持たない企業は存在意義がない。一方、技術はあっても、ビジネスができない企業は継続できない」
 鈴木の方針で、使いやすさと安全性に気を配った装置の開発が始まった。1年後の10年夏に売り出した第1号モデルは4000万円近くと高価だったが、予想以上に売れた。もともと、コンビナトリアルへの関心は高く、大手メーカーや大学から引き合いがあった。「商談が次々と舞い込み、休む暇がなくなった」
□  □
 10年度のコメットの売上高は、09年度の7倍にあたる約7000万円となり、最終黒字も達成した。収益がしっかりすれば、取引先の不安も減る。茨城県などが出資する官民連携ファンドも出資したため、素材開発の依頼も増えた。11年度の売上高は1億円の大台を突破する見通しだ。
 わずか2年で成果を出した鈴木だが「マネジメントは勉強中」と控えめ。ただ、「まじめに取り組んで顧客の信頼を得る――。それを続けていれば会社は自然に大きくなっていく」と確信する。「本来、技術屋は楽天的だ。みんな、できると思って技術開発に打ち込む。そんな人々が安心して働ける環境を整えたい」
 コメットの使命については「日本の素材開発を支えること」とズバリ。鈴木は半導体の量産装置開発に携わり、日本の栄光と衰退を目の当たりにした。「同じ失敗は繰り返したくない」

京阪電鉄不動産受注事業部蘆田圭介氏――定額制のリフォームプラン

「理想の住空間」実現に走る
 京阪電鉄不動産は7月、同社として初めてのリフォームセンターを京都府八幡市に開設した。料金体系が明確な定額制を前面に打ち出し、スペースにゆとりを持たせた展示場で、理想の住空間を体感してもらう仕掛け。プロジェクトを引っ張るのは、入社間もない受注事業部の蘆田圭介(39)だ。理想のリフォームを求め職場を移ってきた蘆田のこだわりが詰まる。
 同社が打ち出した定額制のリフォームプラン「K―PAC」は、あらかじめ設定した坪(3・3平方メートル)単価に施工面積を乗じて施工費を算出する。分かりやすい料金体系が「不安を抱えながら入店してきた顧客の緊張感を解きほぐす」。
 蘆田はマンションデベロッパーで設計の仕事を経てから、住宅リフォームの専業大手で営業現場を歩んできた。そこでは違和感を覚えることもしばしばあった。自分の成績を上げるため必要でない高額品を顧客に販売する営業担当者などもいて、これでいいのかと思うこともあった。
 1級建築士の資格を持ち、「住まいのプロ」を自負する蘆田。商品性能に疎いのに営業の第一線に大量の人員を送り込む大手の手法に嫌気も差していた。そんな時、新たにリフォームセンターを立ち上げるという京阪電鉄不動産から誘いを受けた。業界のしがらみにとらわれず「理想を実現するチャンスかもしれない」と意を決した。今年4月に入社。開業までわずか残り3カ月の日々を全力で駆けた。
 リフォームセンターのなかで蘆田らがこだわったものの1つは、打ち合わせや資金相談会、セミナーなど様々な用途を想定したイベントスペースだ。モデルルームと同等の面積を割いてでも「ゆとりを持って理想の我が家について話してもらい『リフォームをしてみたい』と思ってもらえるようにしたかった」。そんな蘆田の上司にあたるマネジャーの菊本雅幸(41)は「経験が豊富なだけでなく、信念を持って仕事に取り組んでいる」と温かく見守る。
 親会社の京阪電気鉄道は1968年に「くずはローズタウン」(大阪府枚方市・京都府八幡市)、92年には「京阪東ローズタウン」(京都府京田辺市・八幡市)を分譲した。リフォームセンターにほど近いニュータウンもリフォームの適齢期にあたるだけに、商機はある。新天地で走り始めたばかりだが、日々の営業現場の中で理想を実現させたいと考えている。

今年度の経営課題―M&A、積極的3割。

 社長100人アンケートではM&A(合併・買収)に対する考え方も聞いた。「積極的に相手を探している」との回答が25・0%、「すでに交渉中の案件がある」が6・4%あり、合わせて3割強が積極姿勢だった。「M&Aをする考えはない」との回答は、わずか2・9%。海外や新製品分野を開拓していく上でも、M&Aを有効な手段ととらえているようだ。
 「相手を探している」「交渉案件がある」と答えた経営者に「同業他社とのM&A」について聞くと、競争力が大幅に向上する場合、56・8%が「検討する」と回答。「検討しない」は6・8%だった。同業の大型案件が増える可能性もある。

今年度の経営課題、「海外事業の拡大」7割。

 日本経済新聞社がまとめた社長100人アンケートでは、今年度の主な経営課題として「新興国など海外事業」を挙げる経営者が7割強に達した。これに「新規の製品・サービス分野の開拓」の6割が続いた。企業は東日本大震災からの拠点の復旧にほぼめどを付け、攻めの姿勢を強めているようだ。(集計結果と回答者一覧を18面に)
 主要企業の社長(会長、頭取なども含む)を対象に140社から回答を得て14日にまとめた。
 今年度の経営課題(3つまで回答)では「新興国など海外事業の拡大」が72・9%でトップ。2位は「新規の製品やサービス分野の開拓の強化」の60・7%で、この2つが他を大きく上回った。
 「国内生産・販売体制の復旧・強化」「災害などリスク対応力の強化」は、いずれも12・1%にとどまった。震災後の復旧やリスク対策は経営課題としては一段落しつつあるようだ。
 「人材育成・雇用の維持」が22・9%と、「人員や設備などのコスト削減」(11・4%)を上回った。攻めの経営のためにも雇用を改めて重視し、新分野開拓などを支える人材を育てようとする考えがうかがえる。
 国内景気の回復条件(3つまで)として「電力不足解消への見通しが立つこと」(64・2%)、「世界経済の堅調な推移」(54・7%)を挙げる回答も多かった。菅政権のエネルギー政策の迷走が続いて電力不足の懸念が長引いたり、米国の景気回復や中国の経済成長に変調の動きが広がったりすれば、経営者の意欲に水を差す恐れもある。

変わる東コレについて聞く―米IMG副社長レヴィ氏、JFW推進機構理事長三宅氏。

 今秋から衣替えする東コレについて、実施組織の日本ファッション・ウィーク(JFW)推進機構の三宅正彦理事長(TSIホールディングス会長)と、スポンサー獲得の仲介役となった米IMGのピーター・レヴィ副社長(ファッション部門最高責任者)に聞いた。(聞き手は編集委員 小林明)
 ――なぜダイムラーをスポンサーに選んだ。
 「世界の多くのコレクションとすでに連携しており、ニューヨーク、ベルリン、モスクワなどは東コレと同様にメルセデス・ベンツの冠イベント。ファッションへの理解が深く、デザイナー支援の経験も豊富で、信頼できるパートナーになる」
 ――外資の出資に対して一部に懸念もある。
 「変化には常に不安がつきもの。ただ東コレを存続するためにはほかに選択肢がないのも現実だ。世界各地のコレクションにはそれぞれにふさわしいデザイナーや運営形態がある。新規スポンサーはそれを尊重してくれているので心配ない」
 ――東コレが乗り越えるべき課題は何か。
 「すでに洗練されたショーを開催している。国際的に見ても水準は高い。才能ある国内デザイナーを発掘し、市場にアピールする環境づくりを支援したい。東京はストリート・ファッションに強みがある。国内市場も成熟しており魅力的だ」
 ――今後外国人デザイナーの参加が増えるか。
 「コレクションは市場のニーズの上に成り立っているので、需要が見込めるデザイナーが参加するのが基本だろう。ただ厳密なルールはない。現実的には日本人デザイナーが中心になるのが自然の流れ。消費者や時代の動向に従うだけだ」
 ――東コレはどう変わっていくのか。
 「具体策は実施組織が検討しているが、有料チケット制など一般消費者を巻き込めば、イベントへの関心が高まるはず。東京は映画、食事、アニメなどファッション以外の魅力も多い。東コレがライフスタイル全体の交差点になってほしい」
 ――IMGが東コレ以外のアジアのコレクションと提携する計画は。
 「まだ非公式だが、すでに北京、ソウル、香港などいくつかのコレクションと協力関係にある。IMGは海外拠点を多く抱える国際企業。チャンスがあれば積極的にビジネスに取り組みたい」
 ――外資の冠イベントをどう評価する。
 「大変にいいことだと思う。高級イメージが世界に浸透しており、うまく活用したい。スポンサーが国内企業でなければいけない理由はない。経産省の財政支援が切れた今、台所事情は一番厳しい。現実問題としてほかに選択肢はなかった」
 ――ダイムラー以外にも主要スポンサーの有力候補はあったのか。
 「ダイムラーとはIMGを通じて早い段階から接触しており、当初から最有力候補だった。ただ東日本大震災の影響で協議が中断していたため、冠イベントにする方向で合意したのはごく最近のこと。ダイムラーがファッション支援事業を積極化する時期とうまく重なったのが幸いした」
 ――政府の事業仕分けで資金難に陥ったが。
 「一時期はひがんだこともあったが、改革の好機だと前向きに考えることにした。東コレをやめてしまったら日本の恥になる。コレクションを続け、技術、クリエーションで日本の優位性を保つことが国力を支えることにつながる。外資主導は今や世界の潮流だ」
 ――今秋、予定している東コレの内容は。
 「これまではもっぱらBtoBだったが、今後はBtoCのイベントも考える時期。有料チケット制を一部に試験導入して様子を見たい。開催時期や場所は従来通り。東京・六本木のミッドタウンも三井不動産の協力で当面は主要会場として利用させてもらう予定。現在、ダイムラーと協議中だが、メルセデス・ベンツの冠イベントとして3年以上は続けたい」
 ――今後の資金計画の見通しはどうか。
 「経産省から財政支援を受けていたころの事業費は年10億円超。当面、それほど潤沢な予算は組めないが、年6億円程度は確保したい。今回、ダイムラーが最大スポンサーになるし、DHLやロレアルなど外資からも出資を受けるが、国内企業からの出資も不可欠。企業側の理解を得たい」

原油――JX日鉱日石エネルギー取締役常務執行役員池田道雄氏

 商品市況の回復の足取りが鈍い。内需は総じて低迷し、東日本大震災の復興需要の本格化も遅れている。原油や金など国際商品の一部は高止まりしているが、最近の大幅な円高や米国景気の減速懸念は弱材料だ。主要市場の関係者に市況の現状や見通しを語ってもらった。初回はJX日鉱日石エネルギーの池田道雄取締役常務執行役員に聞いた。
 ――6月下旬、国際エネルギー機関(IEA)が約6千万バレルの石油備蓄放出を決めた。
 「意外な印象だ。IEAの成り立ちや目的を考えるとあまり歓迎できない。リビア産原油の供給途絶を理由にしているが、実施が遅すぎたため、原油価格の引き下げを狙ったと市場は受け止めている。石油備蓄は持ち続けること自体に価格変動の抑止効果がある。実際に放出してしまったら、その効果は薄れる」
 ――原油価格を引き下げる効果はあったのか。
 「上値を抑える効果はあったが、一週間で再び高値に戻った。1カ月で6千万バレルの放出量は世界需要の2%程度にすぎず、市場へのインパクトが小さかった。今後は備蓄を放出しても市場の反応は鈍いだろう」
 「原油高の背景には将来の供給不安がある。IEAによると現在の世界の原油需要は日量8900万バレル。2020年には1億バレルとなり、それまで毎年100万バレル以上のペースで増えるとみられる。今後の世界経済に悪影響を与えないためにIEAと石油輸出国機構(OPEC)は供給や価格の安定策を議論すべきだ」
 ――東京電力の原子力発電所事故で発電用原油の需要が膨らんでいる。
 「電力向けの主力燃料は液化天然ガス(LNG)と石炭で、原油は最後だ。原油に回帰することはないが西アフリカや中央アジアからの輸入を増やしている。ただ、欧州勢がリビア産の代替として西アフリカ産を買い集めており、調達には苦労している。価格も北海ブレントに連動しているため割高だ。これまでの調達先だったインドネシアやベトナムでは産出量が減り、入手しにくくなっている」
 ――米国が追加の金融緩和に動く可能性が出てきたが、今後の価格見通しは。
 「中長期的には需要拡大による市況上昇圧力が続くだろう。供給面では(1)イラク産原油(2)ブラジルの海底油田(3)カナダのオイルサンド(重質油を含む砂の層)(4)岩盤内部のシェールオイル――が増える見込みだが、国際需給の逼迫感を解消するほどではない」
 「ただ、年内は弱含みに推移しそうだ。欧米景気の先行き不透明感が強く、目先の原油需要は低迷する可能性がある。日本の輸入原油の価格指標となるドバイ原油は現在、1バレル110ドル前後だが、北アフリカ・中東の政情不安が下値を支えるだけに90ドルを大きく割り込むことは考えにくい」

世界景気―拡大ペース、「鈍る」49%

 世界景気の現状認識については「拡大のペースが鈍ってきた」という回答が49・3%で最も多かった。世界経済の懸念材料については、「米国の景気回復の腰折れ」と「中国など新興国の需要拡大の鈍化」が共に半数を超えた。日本の景気回復にも大きく影響する米国や中国などの「景気変調」の先行きを経営者は注視している。
 世界景気の現状については「順調に拡大している」「緩やかながら拡大している」は計32・8%で、「拡大鈍化」の方が多い。「悪化に転じた」「悪化している」は計6・5%にとどまった。
 世界経済の懸念材料(2つまで)を聞くと、「米国の景気回復の腰折れ」が57・1%と最多で「中国など新興国の需要拡大ペースの鈍化」が55・0%、「ギリシャなど欧州の財政問題の深刻化」が49・3%と続く。
 米国景気の現状は44・4%が「拡大のペースが鈍ってきた」と回答。「横ばい」が26・4%で続く。米国景気が安定的な回復軌道に戻る時期は「今年10~12月」が32・8%で最多。雇用環境などを不安視しつつも、短期で落ち着くとみる傾向が強い。
 中国経済の現状は「景気拡大のペースが鈍る懸念が出てきた」との見方が52・9%で過半を占めた。

復興増税―容認は7割

 震災復興策の財源確保のための増税について是非を聞いたところ、経営者の7割が容認する考えを示した。増税に「賛成」が5・0%、「条件付きで賛成」が64・9%となった。条件付き賛成と回答した経営者が最も重視する条件として挙げたのが「マニフェストなどの既存歳出の削減」(40・6%)。次いで「復興対策の明確化」(29・7%)となった。
 増税の対象はどの税目が最も適当か聞いたところ、消費税が65・3%で最も多く、所得税が5・1%で続いた。法人税と回答した経営者はゼロだった。
 東日本大震災への対応に「一定のメド」がついた段階での辞任の意向を示した菅直人首相について退陣時期はいつが適当かとの質問には140社のうち101社の経営者が回答した。最多は「7月末まで」の31・7%で、早期退陣を求める声が多い。「8月初め~同月末(延長国会の会期末)まで」が23・8%で続き、「9月以降」はわずか1・0%にとどまった。「わからない」も43・6%あった。
 退陣を機に加速を望む政策(2つまで回答)は「被災地への特区設定など復興対策の具体化」が37・9%で最も多い。「総合的なエネルギー政策の立案」(35・7%)が続いた。具体化が進まない復興政策、政局絡みで迷走気味のエネルギー政策にいらだちがあるようだ。

エネルギー政策―当面は「原発継続」72%

 日本経済新聞社が14日まとめた「社長100人アンケート」で、エネルギー政策について聞いたところ、経営者が優先すべきとした課題は、短期と中長期で明確に分かれた。当面の課題では7割超が「原子力発電所の稼働継続」をあげる一方、中長期では同じく7割超が「再生可能エネルギーの導入加速」を求めた。足元の電力不足の懸念も直視して計画的にエネルギー政策を立てるよう望む声が強い。(1面参照)
 エネルギー政策で当面(今後2~3年以内)優先すべき課題(2つまで回答)については、「原子力発電所の安全性の基準を明確にし、丁寧に説明して稼働を継続」が72・9%と最も多く、「天然ガスなどによる火力発電の拡大」が52・9%と半数を超えて続いた。
 「原子力発電を段階的に縮小しつつ、再生可能エネルギーが代替可能となるように環境整備を急ぐべきだ」(武田薬品工業の長谷川閑史社長)など、産業空洞化の回避へ、まずは電力の安定供給を求める経営者が多い。
 一方、中長期(2020~30年ごろ)の優先課題(2つまで)を聞くと、「太陽光発電など新エネルギー(再生可能エネルギー)導入の加速」が75・0%に達した。続くのは「スマートグリッド(次世代送電網)普及の加速」で48・6%。「原発稼働の継続」は10・0%だった。
 原発の定期検査後の再稼働を巡って菅直人首相が唐突にストレステスト(耐性調査)を実施する方針を示すなど、政府のエネルギー政策は混乱がみられる。経営者は「安全に配慮しつつ、安定したエネルギー供給が可能となる総合的な政策」(鉄道会社トップ)など、場当たり的でない幅広い視野での政策立案を切望している。

エプソントヨコム社長矢島虎雄氏―時計技術、次世代送電網に強み

 ▽…「スマートグリッド(次世代送電網)市場は時計機能に強い当社の水晶技術が生かせる分野だ」。そう語るのはエプソントヨコムの矢島虎雄社長。通信回線を経由して電力の状況を管理するスマートメーターは正確な時間管理が求められる。クオーツ(水晶)式腕時計を世界で初めて開発したセイコーグループの強みを生かす狙いだ。
 ▽…今月には親会社のセイコーエプソンと開発部門を統合した。エプソンの持つ半導体分野と自社の得意とする水晶分野の融合を進め、高精度で付加価値の高い水晶部品やセンサー部品の開発を加速する考えだ。「顧客が求める小型・低消費電力というニーズにいち早く応える」と意気込む。

首相の「脱原発依存」に批判―同友会代表幹事、「誤解招きかねず不見識」。

■同友会代表幹事
 経済同友会の長谷川閑史代表幹事は14日、夏季セミナーを開いている仙台市内で記者団に対し、菅直人首相が「脱原発依存」を表明したことについて「(原子力から再生可能エネルギーへの転換が)短期間に実現できるような誤解すら招きかねない形で発表するのは極めて不見識だ」と批判。「来夏以降の電力供給の見通しを示さない限り、企業は事業計画もつくれない」と語った。
 長谷川代表幹事は再生可能エネルギーの推進を支持しているが「一番問題なのはどのくらいの時間軸とコストをかけてやるかということだ」と指摘。「政府には国民や産業界が納得できる中長期の戦略を説明する義務がある」と述べた。

2011年7月14日木曜日

トヨタ、本体主導で再編――豊田社長、昨年5月から検討。

 13日の記者会見でのトヨタ自動車の豊田章男社長、新美篤志副社長の主な一問一答は以下の通り。
 ――円高など環境が厳しいなか、あえて日本でのものづくりを強化する狙いは。
 豊田社長「状況を考えれば、理屈上は日本のものづくりは成り立たない。政府には海外メーカーと同じ土俵で戦える環境整備をお願いしたい。ただ、戦う力士としては、自分たちでできることはすべてやり切る。トヨタは日本で生まれ育てられたグローバル企業。環境が悪いからといって、日本のものづくりを簡単に諦めるわけにはいかない」
 新美副社長「現状のような為替では苦しい。採算ラインは(1ドル=)85円。これを80円でも戦える状況に持っていこうと検討・研究している」
 ――子会社再編の検討を始めた時期は。
 豊田社長「昨年5月、国内生産体制を抜本的に見直すと発表したころだ。トヨタ車体や関東自動車工業とも将来の方向性について話し合った」
 ――3社の統合で雇用はどうなるか。
 新美副社長「正社員の雇用はなんとしても守っていく。それぞれの企業が相乗効果を出し、成長を持続したい」
 ――生産拠点の見直しは。
 新美副社長「まったく想定していないわけではないが、秋以降は震災のダメージから立ち直って生産能力が必要になる。いま持っている設備を急いで廃却したりはしない」
 ――国内の300万台の生産水準は維持するのか。
 新美副社長「300万台を死守するためにも3社統合の道を選んだ。企画から生産まで一貫して行うことで競争力を保っていく」

米マッキンゼー、トップに聞く、「日本企業、新興国攻めよ」、人材の現地化課題。

 米コンサルティング大手、マッキンゼー・アンド・カンパニーのドミニク・バートン代表パートナー社長=写真=は13日、日本経済新聞の取材に応じ、東日本大震災後の日本企業の課題として「グローバル化の加速」を挙げた。「今年初めて、新興国が世界経済の成長に寄与する比率が5割を超える」と指摘。今後10年のアジアのインフラ投資額は8兆ドル規模に達する。日本企業は「技術力を生かして成長市場へ打って出るべきだ」と強調した。
 バートン氏は「人材は日本企業が抱える最大の課題だ」と述べた。日本人以外は一定の役職より上に昇進できない「ガラスの天井」があるとし、現地化を急がなければ「優秀な海外人材を引き付けられない」と語った。
 欧米で近年、政府と産業界が一体となって企業の国際競争力を高める政策の進展が見られると指摘。日本では「政府がビジネスに関心があるように見えず、非常に奇妙」と語った。
 優先分野にはエネルギー政策を挙げた。国内で規制緩和や技術革新を進めるなど「包括的なエネルギー政策を早期に描くべきだ」と語った。

住友林業社長市川晃氏―スマートハウス仕様統一に安堵

 ▽…「これで普及にはずみがつく」。住友林業の市川晃社長は13日、東芝やKDDIなど10社が次世代省エネ住宅「スマートハウス」を制御する仕組みの統一化で連携したことに安堵の表情を浮かべた。住宅メーカーはスマートハウス分野で異なる電機メーカーと提携。仕様が乱立すれば普及の障害になるためだ。
 ▽…住友林業は東芝から家庭内のエネルギー使用量を適切に管理する機器を調達し、蓄電池を搭載したスマートハウスの先駆け商品を今年度内に投入する予定。製造時の二酸化炭素(CO2)排出量が少ない木造住宅は「スマートハウスにうってつけ」とみており、10社と手を携えるつもりで普及に力を注ぐ構えだ。

2011年7月13日水曜日

ココカラファイン社長塚本厚志氏―「中価格帯で高品質」注力

 ▽…「安売りのためのプライベートブランド(PB=自主企画)商品だけでは消費者はついてこない」とココカラファインの塚本厚志社長は話す。消費者の低価格志向が続く中でも、安さよりも品質を求めてメーカー品を買い求める客は多い。
 ▽…2011年3月期のPB商品の売上高比率は8・5%。16年3月期には15%まで高める方針だが、競合と比べても高い比率ではない。「トイレットペーパーなど日用品を使えばPB比率を上げるのは簡単だが、消費者に求められる付加価値品を開発する必要がある」と話す。
 ▽…たとえば「中価格帯で高品質」を掲げる化粧品は有望商品だ。PBで販売する美白・保湿効果のあるスキンケアオイルは「5000円程度の価格で、6000~8000円のメーカー品と同等の品質」。5000円の化粧品は安くはないが、お得感のある商品には消費者は手を伸ばすという。「採算が悪く、閉店を考えていた店舗にこれらのPB商品を入れたことで黒字化したこともあった」と効果を実感している。

ダイネツ社長葛村和正氏―4つの金属熱処理工場が関電管内(みちしるべ)

 ▽…「15%の節電要請は正直言ってきつい」とダイネツ(堺市)の葛村和正社長はこぼす。金属の熱処理をするグループ5工場のうち4工場が関西電力の管内に立地。「使用量が多いため普段からエネルギーの効率利用を心がけている我々の業界が一層節電するには操業度を落とすしかなく、注文に対応できなくなる」と悩む。
 ▽…「自動車メーカーに3月以降の減産分を取り戻そうという動きがある」といい、熱処理の受注も上向いている。「景気回復の兆しに電力不足が水を差すのか」と危惧していた。

関電工・山口社長、東電の株売却に備え、「人員削減は考えない」。

 関電工の山口学社長は日本経済新聞と会い、筆頭株主の東京電力が保有株式を売却する可能性について「具体的な話は来ていないが、対応は検討している」と語った。東電からの受注減少で2012年3月期は大幅な減益が避けられないが、人員削減には否定的な考えを示した。
 関電工の今期の連結売上高は前期比8%減の4260億円、経常利益が67%減の38億円になる見通し。東電向け工事が2割減るが、「東電の投資抑制が来期以降も長引くと電力の安定供給に支障が出る」と指摘。「回復時に急な増員はできないため人員削減は考えない」と語った。外注の削減や社内での配置転換で対応する方針だ。
 東電は関電工に46%出資している。東電が原子力発電所事故の被害者に対する損害賠償のため資産売却に取り組む過程で保有株を売却する可能性については「事業面の結びつきから考えにくいが準備は必要」と語った。自社株買いや従業員持ち株会の拡充、取引先企業の保有など「様々な選択肢を検討している」。
 関電工の受注の4割強を東電の発注工事が占めるが、工事単価については「(東電向けの)配電工事は09年3月期と10年3月期は赤字で、11年3月期に自助努力で改善させた」と説明した。

自工会会長、電力の安定供給要望、冬の休日操業、想定せず。

 日本自動車工業会の志賀俊之会長(日産自動車最高執行責任者、写真)は12日の定例記者会見で「これから自動車業界は大増産に入る。増産は日本復興にもつながる。そのためにも電力の安定供給を切望する」と話し、原子力発電所の再稼働問題で揺れる政府に要望した。今冬の休日操業の可能性については「現時点では考えていない。色々と節電に工夫を凝らし対応していきたい」と述べた。
 原発再稼働問題について「国民の安心・安全が第一。国民が納得できる方策を政府は導き出してほしい」と話した。その上で「政府が決めたことは尊重するが、産業界にとってあまりにも影響が大きい結論になればその都度、政府には意見を出したい」とした。
 今月、発効した韓国と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)に関して「(日本も)早期に交渉を本格化し、同じ土俵で戦える環境を作ってもらいたい」とした。欧米に比べて重い自動車取得税など自動車諸税の減免や簡素化なども要望、「自動車産業の雇用維持にも尽力してほしい」と重ねて政府に注文を付けた。

丸善CHIホールディングス社長小城武彦氏

 電子書籍が広がりを見せている。有望市場での主導権を握るべく、大日本印刷(DNP)もグループの総力を集め、攻勢をかけている。丸善CHIホールディングスの小城武彦社長は、コンテンツ配信会社のトップを兼ねるなど、DNPグループの電子書籍戦略のかじ取りを担う。今後の業界動向や次の一手などについて聞いた。
 ――電子書籍市場の現状をどう見ているか。
 「スマートフォン(高機能携帯電話)の力に驚いている。ゲームやツイッターなどと消費者の時間の奪い合いをしてきたが、電子書籍はこの競争に負け続けてきた。しかし、ここに来てスマートフォンの力を借りて盛り返し始めている」
 「文庫本に慣れた日本人にちょうど良い画面サイズ。しかも、片手で操作できる。移動や休憩など細切れの時間に電子書籍を読むという習慣が急激に広がっている。『スマホすげえな』のひと言だ。消費者が書籍を持っていなかった時間に、今注目している」
 ――電子書籍とリアルの書店などを結びつける「ハイブリッド書店」の進ちょくは。
 「DNPグループの配信サイト『honto』のバージョンアップを来年1月までに完了する。グループ内で運営する書籍通販サイト『bk1』を統合し、書籍の購入でたまったポイントを管理するカードを導入する。1つのIDで電子書籍の配信とネット通販を利用でき、リアル書店で買い物をしてもポイントがたまるようにする」
 「時間を指定した販促などもできるようにしたい。例えば、サッカー日本代表の試合のハーフタイムに、メールで関連書籍を推薦するようなことを目指す。読者が欲しいと思った時に購入できる仕組みとすることが重要だ」
 ――リアル書店をどう位置付けるのか。
 「メールを使った店頭での商品取り置きサービスや店内イベントを効果的に実施していきたい。同じグループのジュンク堂書店(神戸市)、丸善書店、文教堂グループホールディングスが運営する書店の店頭には年間2000万人もの消費者が訪れている」
 ――さまざまな形で集めた読者情報はどう活用していくのか。
 「出版社との協力が前提になるが、紙と電子の書籍の発売時期をどの程度ずらすのが適当か、といったことなども検証できると考えている。どのようなタイミングで販促メールを送信したら良いかもわかるようになるかもしれない」
 ――陣営の異なるソニーと紀伊国屋書店、パナソニックと楽天が電子書籍で連携した。
 「(協力要請を含め)いろんな話は来るが、今の時点で他と連携する考えはない。いつになるかわからないが、(電子書籍市場は)最終的には競争によっていくつかの陣営に集約されるだろう。ただ、現在は陣営やサイトによってコンテンツの数や種類に大きな差はないとみている」
 「米国と一緒である必要がどこにあるのか」。電子書籍や書店について日米比較が話題になるたび、小城社長はこう強調する。車がなければ書店に行けない地域が多い米国と、都市部であれば帰宅途中などに立ち寄れる日本。米国人の2倍の年間1万5000円を書籍購入に充てる日本人。事情は全く異なるからだ。
 そこで提唱するのがリアル店舗とネットを融合したハイブリッド書店。紙を電子に置き換えるのではなく、相乗効果を出せるはず、との読みがある。日本独自の次世代の書籍流通が根付くか。小城社長率いるDNPグループの動向が注目される。
 おぎ・たけひこ 1984年東大法卒。通商産業省入省。カルチュア・コンビニエンス・クラブなどを経て2007年に丸善社長。10年CHIグループ(現丸善CHIホールディングス)社長。49歳

昭和電線HD常務西田征拓氏

 ――昭和電線ホールディングス(HD)は、海外売上高比率を2012年度に23%まで高める中期経営計画を掲げる。
 「海外売上高比率は10年度で13%とまだグローバル企業とは言い難い。しかし電線業界も国内は厳しく、海外でがんばるしかない。特にインフラ投資が活発な中国市場を重視しており、現地同業の富通集団から出資を受け、中国で合弁工場の増強・新設を進める」
 「経営管理や技術指導に当社のノウハウが求められ、総経理やセンター長などの要職に中国語を話せる日本人管理職が必要だ」
 ――現在の陣容は。
 「海外16拠点に日本人35人が駐在している。このうち中国は11拠点29人だ。これから富通と共同事業を進めていくため、年内にも、中国では駐在員を35人に増やす必要がある。しかし、投入できる人材が不足している」
 「これまでは駐在経験者をローテーションで何度も赴任させてきたのが現実で、60歳代などの年配者が増えてしまった。中国と全く縁のない40~50歳代をいきなり総経理として赴任させるわけにもいかず、ベンチに人がいない状況だ。次の登板を待つ予備軍を急いで育成しておかなければならない」
 ――具体的な育成策はあるか。
 「3月から本社(東京・港)で20~30歳代の若手社員向けに中国語会話の無料講座を始めた。当社は経理や生産管理などの総合職に中国出身者17人を採用しており、彼らに謝礼を払って講師を引き受けてもらっている。講師も会社への貢献度を高め、日本人社員と交流を図れるため、モチベーションは高い。教える訓練は受けていないが、受講者が気軽に指導を仰げる存在で、有効だと感じている」
 「講座は業務終了後の午後5時半から実施しており、あくまで自己研さんの位置付け。受講費は取らないが、教材は自己負担。内容も中国語会話入門のレベルで、学ぶ意欲のある社員にとっかかりとして生かしてもらうのが目的だ。3月開始の講座には11人が参加しており、中国語を業務上使わない国内営業担当者もいる。意外な人がやる気をみせており、うれしくなる」
 ――講座の頻度や今後の計画は。
 「ほぼ週1回のペースで講座は続いたが、東日本大震災後の復旧需要への対応で忙しいなかでも受講率は高かった。7月下旬には受講者の発表会も予定する。次回は10月以降、相模原事業所(相模原市)で若手技術者向けに開講したいと考えている。12年度以降も継続し、年2回程度は開く計画だ」
 ――資格取得補助などのメニューは。
 「10年2月から資格取得の報奨制度の対象に中国語検定を加えた。日本中国語検定協会(東京・千代田)の4級取得者に1万円を支給する。今回の無料講座開始で4級取得者は増える見通しで、3級以上についても報奨制度への組み入れを検討していく」
 「将来のキャリアとのつながりも明確にしていきたい。部署によって昇進に必要な知識は異なるが、その一つに中国語を加えるのも一案だ。同じ営業でも中国では国内とケタの違う案件にかかわれることも説明し、中国で働くことの魅力に気づいてもらいたい。若いうちに中国への出張や赴任の経験を踏ませることで将来の総経理候補に育てていく」

森トラスト社長に聞く、大震災、地価の先行きに影――投資に慎重でも低金利魅力。

 東日本大震災が地価の先行きに影を落としている。国土交通省がまとめた4月1日時点の地価動向報告では、全国主要146地区のうち、3カ月前より上昇したのは、わずか2地区にとどまった。都心部でも下落に転じているところもあり、再開発などにも影響を与えそうだ。多数の案件を抱えている森トラストの森章社長に今後の戦略などを聞いた。
 ――足元の事業状況はどうか。
 「先々期、前期、今期は負の資産を整理する時期と位置付け、財務体質の強化に力を入れてきた。その結果、2009年3月末の自己資本比率は20%だったが、12年3月末には27~30%に引き上げられる見込みだ」
 「リーマン・ショックと東日本大震災を受け、不動産の資産価値が下がった。住宅事業子会社のアーバンライフとフォレセーヌ(東京・港)が仕入れた土地などの評価損や、オフィスビルの賃料減収分など今期までの3年間で累計350億円の処理にあたる。これで財務基盤は固められるだろう。経営体力を充実し、次の大型投資に備えてきたところだ」
 ――再開発はどういう姿勢で臨むのか。
 「金融危機から平時に戻りつつあった矢先の東日本大震災発生で、日本経済の先行きは当面、不透明さを拭えなくなった。オフィス需要も弱含みとの見方があるなかで新規投資は慎重な判断が求められているのは事実だ」
 「とはいえ、空前の低金利は好機でもある。8月以降、東京で2つの物件の再開発に着手する。中央区の京橋一丁目には環境配慮型のオフィスビルを建てる。東京駅に近い京橋二丁目には、オフィスとホテルの複合施設を整備する」
 ――お膝元である港区にも大型案件を抱えている。
 「虎ノ門パストラルの跡地については解体工事こそ終えたが、再開発の計画はまだ決まっていない。震災後、防災面でも優れたまちづくりの重要性が高まった。行政が計画を示せば、それに応じるのも一案と思っている。赤坂ツインタワーについては、建て替えるか大規模改修にするかを年内にも判断したい」
 ――将来の経営体制についてはどう考えるか。
 「当社の総合職の平均年齢は33歳を超え、若返りが必要だと考えている。それは経営陣も同じだ。若い人材にある程度の責任を持たせて仕事をやらせたい。その時に不安材料をなるべく小さくして引き継ぐのが私の使命だと思っている」
 12日に75歳の誕生日を迎えた森章社長は在任18年を超え、次世代への引き継ぎを意識した言動が増えている。6月、子会社の森観光トラスト社長に長女で森トラスト専務を務める伊達美和子氏(40)を据えたのもその一環といえる。
 リーマン・ショックと東日本大震災という危機が不動産ビジネスに与える影響は大きい。長期にわたり経営の第一線に立つ森章社長にとって、残る仕事は中長期の成長戦略を示し、事業ポートフォリオを整えてバトンを渡すことだろう。その手腕はこれまで以上に問われそうだ。

富士重の中計、安定志向脱却、吉永社長に聞く――「個性」で存在感高める。

 富士重工業が2015年度に連結営業利益で10年度比43%増の1200億円、世界販売台数で同36%増の90万台にする5カ年の中期経営計画をまとめた。中国市場へ本格参入し、10年以内に100万台超の自動車メーカーとなる礎を築く5年とする。これまでの安定志向から脱却し、規模拡大にカジを切る。吉永泰之社長に背景を聞いた。
 ――どんな問題意識で中計をまとめたのか。
 「自動車産業は世界的には成長産業だ。新興国を中心に伸びる。ただ、市場が成長する中、現状の60万台規模では、下手すると埋没しかねない。当社はこれまでしばらく60万台規模でいた。現状維持を支持する声も社内にあるが、それを許してもらえない競争の環境下にある。危機意識を社員皆がもたなければならない」
 ――中計の発表の席では「規模」という言葉を繰り返し強調した。
 「正面向かって『規模を拡大する』と言ったのは今回が初めてだ。もちろん、いたずらに規模を追うつもりはない。当社がこれまで生き残れてきたのは、信頼を大事にするまじめなものづくり集団としての文化が根づいているからだろう。ただし、まじめゆえに変化に疎い。変化を得意としない社風があった。危機意識をあおるつもりはないが、変化を恐れるなというメッセージだ」
 ――規模とスバルの個性をどう両立させるのか。
 「『量』ではなく『個性』で存在感を高める。スバルの走りの楽しさはよくお客様にも理解してもらっているが、『安心』という柱を明確に打ち出す。衝突回避装置の『アイサイト』など、先進技術を全車種、海外への展開を拡大する」
 「当社の源流は中島飛行機という飛行機メーカーで、安全を重視する気風が今も根っこにある。例えば、ハイブリッド車で先行するトヨタ自動車と同じようなことを追求しても、当社の企業規模では難しい。アイサイトは周囲から浸透させるのは厳しいという指摘もあったが、今や搭載率は75%に達し、他社との差異化に貢献している」
 ――中国の奇瑞汽車と大連市での合弁工場の交渉をしている。進捗は。
 「合弁相手とは交渉を続けているところだ。条件は煮詰まりつつある。今は中国政府の認可が下りるのを待っている。下りれば、すぐにプロジェクトを実行に移せる体制を整えている」
 ――15年度に中国で現状の3倍の18万台に増やす。達成への自信は。
 「市場調査の結果、保守的に見積もっても18万台という目標値が出た。十分にいける。販売店網も2倍の250拠点に広げ、沿海部のほか、内陸部の大都市も開拓する。現地生産を決心した以上、今回の目標値ぐらいは狙わないといけない」
 ――来春に軽自動車の生産を終える。群馬製作所本工場の跡地利用は。
 「トヨタ自動車と共同開発している小型スポーツ車を生産する。ただし、スポーツ車は生産変動が大きいため、稼働率を平準化しづらい。排気量660cc超の登録車も一緒につくる。『ブリッジ生産』という概念で、需要動向に応じて生産車種を柔軟に切り替える。車種は最終決定していないが、どの車種でも対応できる」
記者の目
健全な危機意識 成長への活力に
 新中計はアジアなど新興国市場の開拓が柱。成長志向を強めるうえで、「健全な危機意識が土台として必要だ」と吉永社長は強調し、おっとりとした社風に揺さぶりをかける。危機意識を成長への活力に変えたいという思いがにじむ。
 ただ、富士重はかつて日産自動車や旧日本興業銀行からトップを招き、庇護されてきた歴史が長い。「甘え体質がまだある」(富士重OB)との指摘もある。吉永社長は「変化」と「自立」を求めるが、生き馬の目を抜く自動車業界で勝ち残るため、社長にも社員にも風土改革の覚悟が問われる。

京浜急行電鉄取締役施設部長道平隆氏

 京浜急行電鉄が発光ダイオード(LED)照明の導入を加速する。駅構内だけでなく、トンネルや車両での利用も視野に入れる積極ぶりだ。節電と二酸化炭素(CO2)削減を同時に進める。コスト面の効果などLED化を狙う鉄道会社の事情を道平隆取締役施設部長に話を聞いた。
 ――今夏の節電策は。
 「羽田空港国内線ターミナル駅と天空橋駅の照明を全部、LEDに切り替えた。地下駅で一日中、電気をつけておく必要があり節電効果が大きいと判断した。合計1750個ほどで、夜間に約1カ月作業して羽田空港の方は6月末に切り替えを完了した」
 「試算ではLED化で使用電力量は約半分になる。CO2排出量も同じ程度減らせるとみている。駅構内や車内照明の一部消灯、平日昼間の運転本数削減なども実施している」
 ――LEDの光は直進性が強く、通常の電灯とは異なる。導入に抵抗はなかったのか。
 「電灯が切れた時でも昼間には交換しにくい女性用トイレを対象に、数年前からLED照明を導入して(明るさの感じ方などに)問題がないかどうか確認してきた。私自身もデスクの回りの照明を蛍光灯型のLEDにして体感してきた」
 「駅やトンネルなどの照明は約1年に1度、交換する必要がある。蛍光灯そのもののコストより、終電が終わった深夜に取り換える人件費の負担の方が大きい。LED照明ならこの交換までの期間を長くできる。価格は高いが、こうした保守管理費用を考えて10~20年の期間でみると総コストは安くなる」
 ――実際にLEDに切り替えてみた効果は。
 「今はまだ、全部で72駅あるうちの2駅について取り換えただけだ。会社全体への影響力というより、『CO2排出量がトラック輸送の約7分の1』という環境負荷の低さを標榜している鉄道会社としての使命感の方が先行している」
 「今後、他の駅もLED化を進めたいと考えている。一部車両などにもLED照明を導入したい。列車は振動が多いためLEDには過酷な環境になるが、現在4両編成の普通列車の一部の照明をLED化して、蛍光灯と比較しながら導入可能性の確認をしている」
 ――事業面だけでなくグループ社員約1万人にもLED電球を配布した。
 「消費電力量が従来の電球の約5分の1となるLED電球を、社員一人ひとりに1000円程度の寄付を募って配った。寄付は被災地に送る。有料にしたのは自分で料金を負担しないと、LED電球を積極的に使おうとは考えないと判断したためだ」
 「社員が家庭でLED電球を使っても、当社の節電に貢献するわけではない。ただ1つ使ってみてよいと思えば2個、3個と家庭の節電につながっていく。その動機付けの効果がある」

2011年7月12日火曜日

「スポーツHV、3年内に」、フェラーリ会長インタビュー

日本の販売目 標震災で1割減に
 来日した伊フィアットグループの高級車メーカー、フェラーリのルカ・ディ・モンテゼモロ会長(フィアット前会長)が日本経済新聞のインタビューに応じ、グループの経営戦略や業績、市場動向の見通しなどについて明らかにした。主なやりとりは次の通り。
 ――日本市場における東日本大震災の影響はどの程度出ているか。
 「昨年の日本市場でのフェラーリの販売実績は約400台。今年もほぼ同程度を予定していたが、震災直後にこの目標を10%程度引き下げた。震災が消費者心理に影響したせいか、5月まではたしかに引き合いが鈍ったが、6月以降は明らかに改善傾向にある。もともと需要は販売目標の2倍程度はあるとみているので、先行きはそれほど心配していない」
 ――世界でのフェラーリの販売動向はどうか。
 「フェラーリ最大市場の米国は前期比12%増。急成長する中国市場は前期比で約30%増え、昨年の4位以下から3位に浮上する見通し。今年2位になるドイツを抜くのも時間の問題だろう。フェラーリ初の4人乗り、四輪駆動車『FF』などの戦略製品も順次、市場に投入するし、今春、参入したインド、ウクライナの市場も安定した成長が見込める。昨年の販売実績を上回る勢いだ」
 ――昨年3月のジュネーブ国際自動車ショーでフェラーリ初の高級スポーツ・ハイブリッド車(HV)を発表した。
 「環境保全への取り組みを強化している。これは決して自動車業界内での横並び意識からではなく、消費者が求めている製品を提供するのがメーカーの責務だと考えているから。3年以内には販売にこぎ着けたい」
 ――フィアットの前会長として2009年の米クライスラーとの資本提携を主導してきた。シナジー効果は出ているか。
 「徐々に出ているし、今後も十分に期待できるだろう。クライスラーとの資本提携のメリットは主に部品・車体の共用化と販売網の乗り入れだ。フィアットにとっては念願の米国市場への再参入の足場を得たし、製品のラインアップにクライスラー車が加わることで欧州市場での販売攻勢も強化できる。次世代車開発への巨額投資に備えなければならないし、クライスラーは業界で生き残るための重要なパートナーだと考えている」
 ――フィアットのマルキオーネ最高経営責任者(CEO)は2、3年でクライスラーと経営統合し、本社を伊トリノから米国内に移転する可能性を示唆している。
 「国際競争力を高めるため、現在、イタリア国内にあるフィアットの工場で労組と労務協約を改革する方向で協議している。だがこれが必ずしも円滑に進んでいない。改革が進まないならば、様々な選択肢があるという理論上の可能性に言及したにすぎない。フィアットにとってトリノは発祥の地。イタリアの国内経済への影響も大きいし、本社が簡単にイタリアを離れることはない」
 ――独フォルクスワーゲンがフィアット傘下のアルファロメオの買収に興味を示している。
 「グループにとってアルファロメオは欠かせない会社。ブランドイメージが高いうえ、固定客も多く、傘下に抱えているメリットは大きい。米市場参入の切り札でもある。たとえ買収の提案があっても受け入れるつもりはない。アルファロメオが抜けたら、グループは計り知れない打撃を受けることになる」
 1947年伊ボローニャ生まれ。ローマ大卒。F1フェラーリチームのマネジャー、フィアット幹部などを経て、2004年、創業者一族のウンベルト・アニェリ会長の死去に伴いフィアット会長に就任。10年4月、創業家のジョン・エルカン氏に会長職を譲る。現在はフェラーリ会長兼フィアット取締役。次期首相候補にも名前が挙がっている。63歳。
記者の目
伊の工場改革 残り時間少なく
 後継のエルカン会長(35)が独り立ちするまで、フィアット創業家の代理人として振る舞うことが許された唯一の人物。実務はマルキオーネCEOに任せているが、現在もグループ内に隠然たる影響力を持つ。
 グループの最高実力者として2000年代の経営危機を乗り越え、クライスラーとの資本提携を実現した“知将”は、提携のシナジー効果が浮沈のカギを握るとみる。
 「早くても年末以降」と見られていたクライスラーの子会社化を前倒したのはそのため。掲げた目標は年産600万台。業界上位に食い込まなければ生き残りは難しい。
 目下、取り組んでいるのが「米市場への再進出」と「イタリア国内工場の改革」。特に後者については「国際基準で考えなければ時代に取り残される」と何度も熱弁を振るった。ただ残された時間はそれほど多くない。

イビデン社長竹中裕紀氏―携帯IC基板、海外生産も

 イビデンの竹中裕紀社長は、スマートフォン(高機能携帯電話)などに使う高付加価値な基板の需要動向について強気の見通しを示す。サプライチェーン(供給網)の寸断リスクを避けるため、生産地域の分散も視野に入れている。
海外の需要旺盛
 ――生産や販売などで東日本大震災の影響は。
 「原材料調達で震災直後は影響が多少あった。当社に大きな支障は出なかったが、国内景気のマイナス材料にはなる。2012年3月期の上期は平時に比べ電子部品の需要が伸び悩みそうだ。連結売上高で150億円ほど下振れするとみて業績予想に織り込んだ。震災の影響は秋口には一服すると思う。通期で純利益は前期比19%増、売上高は10%増を見込んでいる」
 「設備投資計画も変更はない。前期比16%増の700億円を計画しており、リーマン・ショック前の水準に回復した。電子部品では主にスマートフォン向けやタブレット端末向け部品の生産・販売強化に充てる」
 ――携帯電話向け製品などの世界需要の見通しは。
 「今期も新興国が成長をけん引するが、パソコン向けは伸び悩みそうだ。しかし世界はIT(情報技術)機器で結ばれ、新興国の成長は止められない。多少の踊り場があっても来期以降の成長は続くだろう」
 ――スマートフォン向け製品が大きく伸びそうだ。
 「電子部品部門のうちスマートフォンやタブレット端末に使うプリント基板やICパッケージ基板が、今後2~3年の当社の成長を支えることは間違いない」
 「プリント基板は青柳事業場(岐阜県大垣市)や中国・北京工場に加え、マレーシアの第1工場で今春に生産を始めた。来年夏に第2工場も立ち上がり、需要増に対応する体制が整う」 「ICパッケージ基板については当面、河間事業場(岐阜県大垣市)の設備増強でしのぐつもりだ。ただ、顧客企業が震災後、1カ所で集中生産している製品の調達リスクに懸念を強めており、海外での生産拠点を探しているところだ」
節電対策を推進
 ――電力不足の対策は。
 「中部地方が計画停電に陥らないように最大限協力したい。当社の使用電力は自家発電の水力、火力が各3分の1で、残りを中部電力から買っている。自家発電設備は夏場に最大出力を発揮できるよう念入りに保守・点検している」
 「前期に5%の省エネを実現したが、今期もさらに5%の削減を目指す。照明をLED(発光ダイオード)に交換し、クリーンルームの空調効率も改善する。以前から取り組む夜間や土日の集中操業も今年は徹底させたい」=随時掲載
 民間調査会社によると、2011年度の携帯電話出荷は、2台に1台がスマートフォン(高機能携帯電話)になる見通しだ。イビデンは付加価値が高いスマートフォン向けのICパッケージ基板やプリント基板を成長のけん引役と位置付け、力を入れている。
 ただ、技術の最先端分野でもあり、世界需要の急変動リスクも抱えている。シェアや収益力の向上を追求するうえで最適な生産地や仕様の選定、投資のタイミングなど高度な経営判断を迫られている。

六甲バター社長塚本哲夫氏―給食が伝える食文化

 ▽…「学校給食で日本の食文化を子供たちに伝えていきたい」と話すのは六甲バターの塚本哲夫社長。5月から学校給食用食品メーカー協会の会長も務める。今後、地元の老人などにも手伝ってもらい、和洋の食事の調理法や食の歴史を伝えていきたいとしている。
 ▽…同社は昭和20年代から、マーガリンやスライスチーズ、ベビーチーズなどの商品を全国の小中学校に卸す。「当社は学校給食によって成長させてもらった」と給食に対する思いは強い。食育に貢献することで恩返しをしたいという。

アシックス執行役員渡辺博司さん――極細繊維で選手を支援

 ▽…「体に吸い付くような極細繊維を採用した」。こう語るのは世界陸上選手権の公式ウエアを11日に発表したアシックスの渡辺博司執行役員。同大会に向けて素材メーカーと開発した繊維をランニングシャツに使い、前後への揺れを従来に比べて「平均約7%低減した」という。選手からは「フィット感があって服のズレが気にならない」との声もあった。
 ▽…今回の世界陸上は韓国・大邱で8月末から始まる。日本代表のメダル獲得に期待が高まるなか、選手がウエアの揺れや重さなどを気にせず、「競技だけに集中できるようにすることが我が社の果たす役割」と力強く話していた。

2011年7月11日月曜日

サトウ食品、包装米飯、夏に期待、社長に聞く――被災地支援、今後も

 東日本大震災で非常食として注目を集めた包装米飯。被災地に送るなどして支援したサトウ食品工業は業界トップメーカーだ。震災直後は増産対応に追われたが、夏場の需要はどう読むか。佐藤元社長に聞いた。
 ――足元の需要は。
 「震災直後は増産体制をとったが、足元は落ち着いている。6月は前年同期並みだ」
 「3~4月には保存が利く包装米飯を消費者が非常食として買い込んだ。小売業者からも発注が増えた。需要は根強いが、大型連休以降に反動が出た」
 ――今後の需要をどう見る。
 「基本的には明るい。1995年の阪神大震災の時も直後から1度需要が落ち、それから徐々に回復した。普段、包装米飯を食べない人たちも味の良さや便利さといったことに気がついた結果だと考えている」
 「当社の商品は競合と比べて安くはないが、味へのこだわりは強い。もともと包装米飯は子どもが夏休みに入り、共働きの家庭で消費量が増える夏場が需要期だ。おいしさを前面に出して売り上げにつなげたい」
 ――被災地支援をどう続けるか。
 「現在、『サトウのごはん 銀シャリ3食パック』に被災地のコメを原料に使ったことがわかるよう、シールを張って販売している。今後もそういった商品を増やして応援していきたい」

日本マイクロソフト社長に聞く――医療や防災、情報技術で支援、奈良県と協定

 米マイクロソフトの日本法人、日本マイクロソフト(東京・港)が地方自治体との連携を強化している。今年度は岡山、山梨両県に続き奈良県と情報通信技術(ICT)を通じて地域活性化に取り組む協定を結んだ。関西の府県は初めてだ。少子高齢社会の様々な課題や、大規模災害時の対応などにICTはどんな可能性を持つのか。樋口泰行社長に聞いた。
 ――自治体との連携を拡充しているのは。
 「ビジネスと切り離した企業市民活動の一環。既に佐賀、高知、千葉など6県と実施した。年3自治体をメドに我々の技術を提供する。自治体の現場、教育の現場ではICTの活用が遅れている。改善したい」
 ――奈良ではどんな分野に力を入れるのか。
 「非営利組織(NPO)の人材育成など5分野を考えている。奈良県はICTの活用水準が全国でも低く底上げをしたい」
 「他県にない取り組みとして、地域の医療連携への(インターネットを経由してソフトなどを提供する)クラウドコンピューティングの活用を考えている。例えば、1人の患者をどうみるか。奈良県とは勉強会を立ち上げて病院間や病院・診療所間の診療情報乗り入れや、急患の割り振りの仕組みを研究したい」
 ――東日本大震災を機に、有事にどう情報発信を継続するか、自治体の関心が高まっている。
 「震災直後、固定電話、携帯電話の脆弱性が露呈したのに対し、インターネットは堅牢(けんろう)だった。今後に備え、自治体は有事にも情報発信を継続できる堅牢な基盤をつくっていくことが重要だ」
 「今回の震災では様々なデータの消失やホストコンピューターが機能しなくなる問題も相次いだ。クラウドの活用と、データの二重化によって災害の影響をどう防ぐか課題になる」
 ――震災を受け、データセンターの機能分散など自社としての対応は。
 「企業向け大型データセンターはアジアはシンガポール、香港にある。能力が満杯になった場合、日本にということも考えられる」

戸田建設社長井上舜三氏―ブラジル現法、地元から受注重視

 ▽…「目標の達成にメドが立ちつつある」。戸田建設の井上舜三社長は中期経営計画で掲げた海外受注高200億円の実現に自信を見せる。このほど6社目となる現地法人をフィリピンに設立することを決定。海外では過去に赤字を出した経験もあるが「慎重になりすぎてはいけない」と再びアクセルを踏み込む。
 ▽…成長のカギを握るのがブラジル。現法設立から40年近く経過、今では日本から進出する製造業の多くが顧客となっている。ただ日系企業への過度の依存は「業績が乱高下する可能性がある」と危惧する。M&A(合併・買収)などで現地企業との関係を深め「地元企業の受注を取りたい」と意気込んでいた。

成城石井の原社長に聞く、中部・関西も出店拡大、三菱商事系傘下入り。

 高級スーパーの成城石井(横浜市)は5月31日付で、三菱商事系の投資ファンドである丸の内キャピタル(東京・千代田)の100%出資会社へ全事業を譲渡し、新たなスタートを切った。三菱商事のノウハウをどう活用し、事業を拡大していくのか。原昭彦社長に、今後の事業戦略について聞いた。
 ――新会社として新たなスタートを切った。
 「年10店舗前後という出店戦略に変更はない。関東を中心に中部や関西へも出店を進めて、日本中に成城石井のファンを増やしていきたい」
 「関西では弁当やサンドイッチなどを現地調達している。出来たての商品を提供するため、また店舗数を増やすことも考慮して、将来的に関西でも総菜工場などの建設を検討しないといけない」
 ――丸の内キャピタルに出資する三菱商事のネットワークをどう生かすのか。
 「具体的にはこれから策定する中期経営計画に盛り込むが、出店ではこれまでも三菱商事系の新丸の内ビルディング(東京・千代田)や横浜ランドマークタワー(横浜市)などへ出店してきた。そういった新規出店の物件開発や、卸事業における物流網の効率化などの効果が期待できる。商品の配送でも現在の物流網を整理して、三菱商事のネットワークを利用するなどしてコスト削減効果が期待できる」
 ――東日本大震災が業績に与える影響は。
 「東北からは野菜や畜産物を仕入れており、これからの季節は桃やメロンの出荷も始まる。原発の風評被害も含めて生鮮3品が非常に不安定に推移しており、先が見えない状況が続いている」
 ――震災を受けて商品の調達方法に変化は。
 「関西から牛乳、名古屋から納豆を仕入れるなど、これまでも仕入れ先を分散してリスクヘッジをしてきた。震災を受けて、牛乳や卵などの仕入れ先も分散する必要があると考えている」
 ――事業拡大に向けて、今期重点的に取り組みたいことは。
 「食品スーパーと卸両事業とも扱う商品のカテゴリーを広げて商品力を高める必要がある。今年からアメリカとオーストラリアの食品見本市に参加して商品の輸入を始める。ナッツやドライフルーツなどを原料で大量に仕入れて、日本で仕分けて販売する。卸事業を食品スーパーに次ぐ事業に育てたい」
 ――社員教育も強化している。
 「入社1~3年目ぐらいの若手を中心に少人数の研修を月2~4回ほど実施している。商品の知識があっても陳列がきちんとできるわけではない。複数店舗の売り場づくりを支援するスーパーバイザーが7~8人の若手社員に、季節に合わせた売り場作りを教えている。若手が疑問に思ったことを聞きやすい環境をつくっていきたい」
 新会社でも引き続き社長を務める原昭彦氏は、大久保恒夫前社長時代から、現場のトップとして経営改革を進めてきた。
 「『こだわり豊かな社会を創造する』という企業理念の下、新会社でも大きく経営方針を変えることはない」と原社長が強調するのは、一般的な食品スーパーの2倍前後と言われる売上高経常利益率5%(2009年度)など同社が順調に業績を伸ばしてきた自信が背景にある。
 しかし同社がこれまで中心的に出店してきた駅ナカは、東日本旅客鉄道傘下の紀ノ国屋(東京・港)も出店戦略を進めており、今後は出店余地が少なくなる可能性もある。
 今後も成長を続けていくためには、丸の内キャピタルと同じく三菱商事系の小売りや卸などとも連携し合って、出店戦略や商品調達など物流面で協力できるかどうかが鍵となりそうだ。

ロレアルCEOジャン―ポール・アゴンさん―美の革新日本が司令塔

 世界最大の化粧品メーカー、ロレアルのジャン―ポール・アゴン最高経営責任者(CEO)がこのほど来日。東日本大震災で消費の風景が変わったといわれる中で化粧品や美を求める姿勢は変わっていないことを改めて強調した。日本をアジアの司令塔と位置付けるその意義について聞いた。

 ――来日の目的は。
 「震災が起きる約2週間前に日本を訪れていました。あのような悲劇に日本が見舞われたことに心を痛めていました。これは世界のロレアル従業員の気持ちです。震災後は1日に3度も日本に連絡を入れて状況の把握に努めるのとともに、一日も早く立ち直ってほしいと励ましてきました。それにしても日本の皆さんの力強い意志には敬服します」
 「世界のロレアルの従業員の気持ちを日本に伝え、責任ある企業市民として、私たちが連帯して支援を必要とする人たちのためにアクションを起こすための来日です。例えば被災された皆さんへの無料のヘアカットサービスなどを通して東北のために価値ある貢献を続けていきたいです」
 ――消費の風景は変わったと思いますか。
 「それよりも良質で、合理的で、理にかなった価格に対する意識が強まったと考えています。高級ブランドのランコム、ロレアル、ヘレナ・ルビンスタイン、イヴ・サンローランなどへの購買意欲は強いです」
 ――日本の百貨店の位置付けは。
 「百貨店の市場規模は縮小していますが、大切な販路で、独特の雰囲気を醸し出す場所に変わりありません。わくわくさせ、魅力的で、そこに行きたい気持ちにさせる力が百貨店にはあります」
 「最近、日本では博多や大阪の大都市のターミナル駅に隣接する大きな百貨店が相次ぎ、開業や増床をしています。そうした百貨店は次世代の若い消費者をとらえようとする姿が感じられます。成長するために新しい世代へ新しいファッションや新しいブランドを提供していますね。我々のアメリカの自然派化粧品ブランドのキールズは日本のお客さんにも受け入れられています」
 「日本は世界の中で先を行く存在です。生活水準、技術革新などロレアルにとって戦略的な位置づけであることに変わりはありません。世界で最も目が肥え、いろいろなニーズを持っており、それに対応することが求められています。ロレアルグループにとって日本はベンチマークなのです。新しいトレンドやアイデアを新しい組織で新製品を作り上げています。イノベーション(革新)の場所です」
 「日本で生まれて世界で大成功を収めた商品は多いです。メイベリンのウオーターシャイニー、リップスティック。ランコムもあります。シュウウエムラもそうですね」
 ――化粧品の世界の革新とは。
 「消費者にとって『ビューティー(美)』は永遠の課題です。いつもいい商品、満足を求めます。全売り上げに占める新製品の比率は15%にもなっています。安全性、効率性、パフォーマンスの面からも新しく、そしてこれまでと違うモノをつくり出していくことです」
戦略はシンプル
新興国でも1位
 ――昨年、日本でアジアの研究開発を統括するようになりました。
 「今、日本の研究開発の拠点には6カ国の人たちが働いています。ロレアルの強みはチームで仕事をすることです。人をベースに考えて、個々の才能を引き出していくのを得意とした独特な組織です。これはロレアルの哲学でもあります。多様性の中からオリジナルなモノをつくり上げていきます。こうした柔軟性のある組織を世界に広げてきました。生物学的にいえば、常に変化に合わせて対応していく柔軟で有機的な組織です。研究開発費は毎年2ケタ増で推移しています」
 ――新興国への取り組みは。
 「戦略はシンプルで、ナンバーワンになることです。たくさんの消費者がいるので大きなチャンスととらえています。中国では年率15%、インドでは30%も伸びています。ただ消費環境はとても複雑です。グローバリゼーションは世界で同一商品を売ることを意味しますが、化粧品の世界はそうではありません。インドではマス市場向けのガルニエが成功していますが、高級ブランドは時間がかかります。ニーズ、ウオンツ、生活様式、そして見る夢も違います」
 ――買収したいブランドはありますか。
 「頭の中にはありますよ。グローバルブランドにしなければなりませんので厳密に選択しています。日本企業があるかどうかは言えません」
 ――ネット通販は。
 「日本は今年、ネットの売上高構成比が4%で推移しており、昨年よりも伸びています。危機に強く、パイロットカントリーだとみています。中国でも始めていますが、インドは物流体制等の課題がありまだ手掛けていません」
 ――日本は暑い夏になっています。
 「暑い夏に対応できるような提案をすばらしい日本の女性にしていくつもりです」
 Jean-Paul AGON 1978年に仏ロレアル本社に入社。ギリシャ、ドイツなど海外子会社の社長を歴任し、海外での豊富な経験を持つ「国際派」。最大市場の米国での成功を経て、2006年ロレアルグループ5代目社長兼最高経営責任者に就任。07年、仏政府よりレジオン・ド=ヌール勲章のシュバリエ章を受章。

2011年7月8日金曜日

奮闘日本ブランド海外戦略を聞く サンジェイ・インターナショナル社長佐藤隆氏

 福島第1原子力発電所の事故処理が長期化し、海外では日本の食品や農水産物の安全性を不安視する「風評」がいまだ絶えない。そうした中、江戸時代創業の老舗しょうゆ・みそ醸造会社のサンジルシ醸造(三重県桑名市)は海外で順調に売り上げを伸ばしている。海外事業を束ねるサンジェイ・インターナショナル(米バージニア州)の佐藤隆社長に話を聞いた。
 原発事故を受けて少なくとも35カ国・地域が日本の農水産物に対する輸入規制を敷き、風評被害も相次いだ。
 「放射能に関する問い合わせは確かに増えている。製品に「米国産」と記載してあるが、原料の産地などを巡る質問が東日本大震災後、月10~15件寄せられる。大豆、水、塩、こうじ菌の4種の原料のうち、日本産はこうじ菌のみで輸入元は愛知県だ。それでも情報開示は大切と考え、自主的に放射線量検査を実施し、希望があれば数値を提供する対策をとってきた」
 「食品会社にとっては、どういう原料を使うかも企業秘密となるが、正しく詳細な情報を開示すれば、お客さんも納得する。客観性に徹するため、第三者機関を積極的に活用することも重要だ。原発事故の影響で納入が止まった例は出ていない。ただ、日本産を輸入している欧州、アジアの業者から、サンプル提供の要望がくるようになった。日本産は不安だからというのが理由で、あまり喜べなかった」
 震災後も海外売上高が伸びている。米国では高級食材店に商品が並び、健康ブームに乗った丸大豆100%の「たまりじょうゆ」は堅調だ。
 「海外売上高は2月が前年同月比で1・6%増だったのに対し、3月は7%増、4、5月は同16%増になった。クッキングソース、ドレッシング、スープなどの関連商品を出しているが、主力の『たまりじょうゆ』の伸びが非常に高く、在庫切れを起こしている状況だ。増産しても製品になるまで半年かかる。需給のミスマッチにどう対応するかが現在の課題だ」
 サンジルシは桑名藩御用商人の回船問屋として1804年に創業。1978年に米国輸出を開始し、現在はバージニア州に生産工場を持つ。
 「最大手のキッコーマンと同じ土俵では戦えないと思い、米国人に対象を絞ったマーケティング戦略でやってきた。広大な米国の土地に散らばる日本人を追いかければロスが大きい。駐在員も数年後には帰任してしまう。ならば一生米国で暮らす米国人に売る方が、時間はかかるが将来性があると考えた」
 「しょうゆで味付けをするいため物やバーベキューなど、家庭料理のメニュー提案を地道に重ねてきた。その結果、米国人の食生活に入り込むことができたのだと思う。原発事故の風評被害に悩まされなかったのも、米国の食卓に浸透していたことが理由かもしれない」
 日本の1人当たりのしょうゆ消費量は年6・8リットル(2010年)。過去30年で3割減った。
 「市場としての日本の将来性は乏しくなってきている。人口構成や食生活の変化の影響で生産量も毎年1~2%ずつ減少してきた。一方、海外市場は米国は5%前後、欧州は2桁で伸び、商品単価も高い。食文化が未発達な土地ほど、抵抗感なく新しい味を取り入れる素地がある。先入観にとらわれることなく、今後も海外マーケットを開拓していきたい」

中国で電力不足深刻――世界平和研究所・主任研究員藤和彦氏

石炭高・送電網整備も遅れ 値上げ困難長期化
 中国で電力不足が深刻化している。現地報道などによると今夏の電力不足が4000万キロワットに達する可能性がある。既に一部の地域で供給制限を開始しており、これまで最悪だった2004年を上回る情勢だ。中国のエネルギー事情に詳しい世界平和研究所の藤和彦・主任研究員に、電力不足の原因や今後の見通しについて話を聞いた。
 ――日本と比べた深刻度合いはどうか。
 「中国の発電電力量は日本の約4倍で、10年に4兆2300億キロワット時となった。石炭火力発電が全体の8割を占めており、水力が16%。原子力発電は全体の2%にも満たない」
 「現在の発電設備容量は9億6200万キロワット。政府は06年以降年9000万キロワットの発電設備の建設を進めているが、経済成長のスピードに追いついていない。日本は今夏に全国で1000万~1500万キロワットが不足すると言われているので、4000万キロワットの不足は日本より深刻という見方もできる」
 ――発電設備の建設スピードをさらに上げる必要があるのでは。
 「実は需要は最大で4億2000万キロワットしかないので、全設備容量に対しピーク時でも約6割の設備が余っている。これが日本とは決定的に違う点だ。原因は大きく分けて2つで、発電用石炭価格の上昇と送電網の整備の遅れだ」
 ――石炭価格が上がっても電力料金を値上げすればいいのでは。
 「電力用の国内炭の価格は06年初頭から今年の3月までに約2倍になったが、産業用の電力価格は2割しか値上げできていない。中国政府がインフレを抑制するために電力料金の大幅な値上げを認めていないからだ」
 「5大国営発電会社は08年以降、5社合計で累計600億元(7500億円)以上の赤字を計上した。そのために設備はあっても稼働率が上がらない状況が続いている」
 ――送電網も脆弱なのか。
 「内陸部で発電した電気を経済成長が著しい沿岸部に運ぶための送電網の投資も遅れている。国営送電会社2社は黒字だが、中国は国土も広く経済成長も想定以上に進んだ。努力しても解決は13年以降となるだろう」
 ――日本企業への影響は。
 「中国国内メディアによれば、今年5月から華中地区を中心に十数省で停電が発生している。供給制限の手法は省ごとに異なるようだが、送電停止の予告が直前になることも多いという。日本など外資系企業の多くは自家発電設備を整備しており、ただちに影響は出ない。だが中国での生産活動のリスク要因の1つになることは間違いない」
 ――今冬以降の状況はどうなるか。
 「冬場にも2800万キロワット程度の電力が不足すると言われている。電気料金の抜本的な値上げが認められれば、石炭火力発電所の稼働率も上がり電力不足は解決に向かうはずだ。だが、政府は何としてもインフレを避けたいと考えている。電力会社に補助金を出すという手段もあるが、そういった議論は聞かない。問題の解決は一筋縄でいかず、電力不足は長期化するだろう」
日本のエネ戦略 LNGなど影響
 福島第1原子力発電所事故を契機に、世界中でエネルギー問題の克服が大きな課題になった。中国では引き続き石炭火力発電が主軸だが、原発や液化天然ガス(LNG)火力など多様な電源の構築が課題だ。日本は原発の新増設が当面難しく、発電電力量の約3割を占めるLNG火力発電の稼働率を高めるのが、考えられる現実的な選択肢と言える。
 中国のガス火力発電は現在1%程度だが、環境意識の高まりもあり全国で建設計画が相次いでいる。隣国がLNG輸入を増やす動きは日本のエネルギー戦略に従来以上に大きな影響を与える。日本は中国の電力事情にも注意を払いながら今後の電力不足に対処する必要がある。

米ディスプレイサーチ田村喜男氏―大型液晶、需要に一服感

 薄型テレビ向けなど大型液晶市場では、需要の一服感が出始めている。中国など新興国を中心とした成長市場の先行きに不透明感が出始めているためだ。価格が低迷するなか世界シェア80%超を握る韓国・台湾勢には設備投資を延伸する動きも出ている。市場の先行きや技術動向を米ディスプレイサーチの田村喜男上級副社長兼シニアアナリストに聞いた。
 ――大型パネルの価格が下落しているが
「ボリュームゾーンの32型の汎用パネルの価格は150ドル以下で推移している。底値の状態で利益を上げることが難しい。2010年は日本でも液晶テレビの出荷が2000数百万台、世界的にも前年比15%増の異例の成長を遂げたが11年はそこまでの成長は見込めない」
 ――韓国、台湾のパネルメーカーは中国での大型パネル工場の稼働を13年に延期する
 「12年は供給過剰となり事業環境が厳しいと判断しているようだ。ただ、中国では地場のパネル、テレビメーカーも育っている。需給は引き締まり13年以降は年率5%程度の成長は継続できる」
 「液晶パネルメーカーにとって11年1~3月期が底だった。首位のサムスン電子でも営業利益率は約10%でようやく黒字を確保できたが、2位のLG電子になると同5%程度ともうけることは非常に難しい状況だった」
 「世界5位のシャープは、円高や国内生産によるコスト高など不利な条件が重なるなかエコポイントの恩恵があった。エコポイントが切れる11年には非常に厳しい戦いが強いられる。こうしたなかで中小型パネルにシフトするのは理にかなった戦略といえる」
 ――パネルサイズの主流はどうなるのか
「現在の主流は30~34インチで全体の約40%を占める。40~44インチは約20%。欧米や日本などの先進国市場では大型化が進むが、同時に中国やインドなど新興国市場で30インチ台のパネル需要が高まるので、今後も主流は30~34インチで変わらないだろう」
 ――パネル技術はさらに進化するか
「3840ドット×2160ドットのいわゆる『4K×2K』の高精細なパネルが普及するだろう。同時に、3D(3次元)など高速表示が必要な周辺機能が増えているため、駆動周波数が現在主流の60ヘルツの倍の120ヘルツや4倍速の240ヘルツのパネルが広がっていく」
 ――中小型パネル市場でで普及が進む有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルは大型では浸透するか
「液晶テレビは2000年ころから登場し、約10年間で既存のCRT(ブラウン管)からの移行が進んだ。分厚いブラウン管から液晶パネルへの移行は消費者にとってもメリットが分かりやすかった。有機ELパネルは自発光物質を使うので動画や3Dなどの高速表示に向く。大型化やコスト面で課題もあるが、消費者に理解されれば浸透するだろう」
「有機ELパネルを使った大型テレビの登場は13年、普及が始まるのは15年くらいだろう。液晶を置き換えるくらいの普及は25年くらいまでかかる」

第3の収益源模索、JSRの新中計、小柴社長に聞く―M&Aにも500億円。

 JSRが2011~13年度の中期経営計画をまとめた。石油化学やファイン(半導体・液晶材料)事業に次ぐ第3の収益源を早期に育成して経営体質を強化する。M&A(合併・買収)にも500億円を用意し、医薬分野などで案件を積極的に発掘する。小柴満信社長との一問一答は次の通り。
 ――中期計画の土台となるテーマは。
 「20年度にありたい姿を想定し、それを達成するための最初の3カ年と位置付けた。13年度までの連結売上高で(10年度比で約3割増の)4500億円、営業利益は(約5割増の)600億円以上を目指す。20年度までに(現在の約2・4倍の)時価総額1兆円を達成したい」
 ――具体策は。
 「第3の収益源の候補として、3つの『戦略事業』がある。過去2年間でも育成してきたが一番先に成果が出そうなのが精密材料・加工だ。スマートフォン(高機能携帯電話)などに使うタッチパネル用の導電膜付きフィルムは、11年度中に韓国での生産量を約3倍に増やす」
 「環境・エネルギーでは蓄電装置などに使うリチウムイオンキャパシタなどが有望だ。メディカル材料は診断薬材料などを伸ばす」
 ――M&Aはどんな分野を目指すのか。
 「設備投資の1300億円とは別枠で500億円程度を用意する。現時点で目ぼしい案件はないが、当社が比較的手薄なメディカル分野などが中心となろう。石化やファイン事業を含めて業界再編には常に関心を持っている。機会があれば積極的に検討したい」
 ――既存の2大事業はどう伸ばすのか。
 「グローバルな競争力を持つ製品は市場の2倍以上のペースで成長を目指す。例えば、石化事業のうち低燃費タイヤ用で世界シェア首位の高機能合成ゴムは13年にタイの合弁工場が稼働する。3カ年の売上高の成長率は年平均で27%を見込む」
 「ファイン事業のうちレジスト(感光性樹脂)など半導体材料は、回路の微細化や素子(チップ)の積層化に対応した高機能品で年平均15%の成長を目指す」
 ――震災で合成ゴムを生産する鹿島工場(茨城県神栖市)が2カ月以上、停止した。
 「原料の供給元である三菱化学の鹿島事業所の被災が大きかった。ただ自動車の窓枠などに使うEPDM(エチレン・プロピレンゴム)は韓国のグループ会社からの代替出荷や在庫の放出でカバーし、必要最低限の量は供給できた。夏場の15%節電も自家発電や作りだめなどで対応し、主要製品の生産にあまり影響はない」
 「今後も成長を続けるためには海外売上高比率は必然的に上がる。10年度は44%だったが13年度は52~53%程度を見込む。20年度には70%くらいになるかもしれない」

2011年7月6日水曜日

TOHOシネマズ社長中川敬氏

入場者数頭打ち集客策は シネコン、20万人都市にも
 国内の映画興行収入は2010年に過去最高を記録した。だが入場料金が通常より高い3次元(3D)映画の超大作がけん引したためで、入場者数は横ばい傾向。ここ10年で急増したシネマコンプレックス(複合映画館)には飽和感が強まり、戦略の見直しが迫られる。新たな料金体系などを試み始めた最大手、TOHOシネマズ(東京・千代田)の中川敬社長に今後の事業展開などを聞いた。
 ――東日本震災の集客への影響は。
 「関東と東北の計25劇場で、一時的に営業を休止したため、両地域の4~5月の興収で約10億円のマイナス要因となった。直営の全58劇場の1~6月の興収は前年同期に比べて17%ダウン。ただし震災の影響はこのうちの7%程度とみている。10年の同時期は『アバター』や『アリス・イン・ワンダーランド』など、興収が100億円を超すヒット作が多く、残る10%減は作品力の違い。レジャーの安近短志向はあっても、基本は作品次第だ」
 ――夏休みの見通しは。
 「ラインアップに期待している。洋画は『ハリーポッター』や『トランスフォーマー』など人気シリーズの最新作、邦画はファンの信用度が高いスタジオジブリの『コクリコ坂から』などで大きな数字が見える。7~8月は年間の興収の4分の1程度を占める稼ぎ時。昨夏は122億円と好調だったが、今夏も同じ程度までいければと考える」
 ――節電策も必要だ。
 「劇場内では冷房の設定温度を例年通りとして快適な環境を維持する。一方、東北・東京電力管内の劇場では約1億円をかけて空調の無駄な稼働を省く温度管理システムを導入した。発光ダイオード(LED)電球の切り替えも完了。看板の消灯やバックヤードの空調制限なども合わせて15%削減を目指す。中部電力管内より西の劇場でも順次導入を進める」
 ――シネコンは飽和状態との指摘もある。
 「これまでシネコンは人口40万~50万人以上の都市への出店が一般的だった。今年4月、試験的に20万人弱の長野県上田市に8スクリーン体制で進出した。すべてデジタル上映で映写担当者を置かず、自動券売機を導入して販売窓口の従業員も減らした。年間の入場者数は延べ30万人を目標とし、運営コストの抑制により収益は上がる見通しだ。人口20万人規模で映画館がない都市は少なくない。出店戦略の1つになる」
 ――「ODS(アザー・デジタル・スタッフ)」と呼ぶ映画以外のコンサートやスポーツイベントなどの上映を増やしている。
 「映画が基本であることは変わらない。ヒット作だけでなく、多様な作品の上映が必要だ。ただTOHOシネマズは計10万席ある。1日5~6回の上映で年間約2億席を販売しているが、平均稼働率は2割にとどまる。閑散期対策として、コンサートの生中継などのODSは有効だ。入場料金も2000~2500円と映画より高い。10年は約50本を上映して売り上げは8億円程度だったが増やしていきたい」
 ――一部劇場で3月から試験的に当日入場料金を300円引き下げた。
 「わかりやすい料金で映画館にライトユーザーの客足を増やすのが目的だ。逆にこれら劇場ではレディースデーや、深夜の割引料金などを取りやめたため、コアな映画ファンは高くなったと感じるかもしれない。夏休みの状況を踏まえ、それぞれの客層の評価を検証するのに年内いっぱいかかる見通しだ。ただ、市場の拡大には重要な試みと考えている」
記者の目
料金下げなど改革の成否注目
 日本映画製作者連盟によると2010年の国内の映画興行収入は09年比7%増の約2207億円だった。「アバター」など通常より入場料金が数百円高い3次元(3D)映画ブームが支えた。平均入場料金も1266円と過去最高で、3D効果が出た格好だ。
 入場者数も約1億7400万人と同3%増えたが、01年以降は頭打ちなのも確か。一方でスクリーン数は01年から3割増え、1スクリーン当たりの客足は減った。「新たなファン開拓とコスト削減が業界の課題」と話す中川社長。硬直した料金体系の見直しなど改革の成否に注目が集まる。
 なかがわ・たかし1975年阪大卒、東宝入社。映像本部宣伝部長などを経て、97年に取締役。2002年常務、06年専務に就任。10年5月から現職。京都府出身。61歳。

みすずコーポレーション社長塚田裕一氏

高野豆腐 若い世代にPR  簡単・便利な調理提案
 大豆加工食品のみすずコーポレーション(長野市)が幅広い年齢層に向け需要開拓を進めている。主力商品が高野豆腐やいなりずしに使う味付け油揚げに偏っていることが背景にある。味付けを工夫したり、食べ方の提案や売り方を模索することで、若い女性や子供の需要を掘り起こす。戦略について塚田裕一社長に聞いた。
 ――商品の市場環境をどう見る。
 「高野豆腐は食料品といっても日常的に食卓にのぼる地域は限られている。全国平均をとれば、半年に1度程度の頻度で食べる人が多く、嗜好品のようになっている。普段の食卓に並べ、いかに食べてもらうかを考え、特に若い世代を意識した販売戦略が重要になっている」
 「原材料は高騰するが、競合他社を考えると小売価格に転嫁できない。原材料の大豆や食用油の価格は上昇している。消費財のデフレ傾向はまだまだ続いている。当社商品がスーパーの特売品になり安売りされないように需要を開拓するしかない」
 ――商品開発のポイントは何か。
 「高野豆腐を食べるのは40歳代以上が中心で、煮物の具材の一つとして選ばれている。30歳代以下は調理方法を含めて高野豆腐の料理すら知らない。高野豆腐とだしをセットにして電子レンジで調理して簡単に食べられる商品が必要だ」
 「これからの商品は『簡単で便利で本物』がキーワードだ。さらに低カロリーでたんぱく質が豊富という健康面のメリットも必要だ。高齢者には食感と食べやすさを工夫した鍋物用具材を開発する。子供にはアニメのキャラクターをパッケージに印刷した商品を販売しており、人気だ。高野豆腐という伝統ある食材をどう食卓に残すか、知恵を絞っている」
 ――味付け油揚げを増産している。
 「原材料の高騰で小規模な生産者が撤退し、大手メーカーに注文が集中しているようだ。業務用では素材やだしで競合他社との違いを明確にする必要がある」
 「生産量は1日に280万枚体制で国内最大級となった。いなりずしを食べるきっかけとなるイベントの開催も考えたい。増産すれば、おからなどの副産物も増える。廃棄物にせず飼料や肥料に加工し資源循環型の生産に取り組んでいく」
 ――市場は国内だけか。
 「味付け油揚げは米飯を主食とするアジアでも需要を開拓したい。高野豆腐は中華料理の鍋の具材で親しまれている。人口が減少する日本国内では幅広い世代で潜在需要を掘り起こし、海外での需要も開拓したい」
商品・レシピ訴求 需要拡大のカギ
 サンリオのキャラクター「ハローキティ」の焼き印をつけた高野豆腐が子育て中の芸能人のブログで紹介されるなど人気商品となった。こうした商品を敬遠しがちな顧客層にアピールする企画が奏功した。買ってみたいと思わせる商品力が新たなファンを獲得した。
 今後は新たなファンに味付け油揚げを含めみすずコーポレーションの商品をどう訴求するかが課題になる。キャラクター頼りにならないためにもヘルシーさや新たな食べ方の認知度を高めることが欠かせない。商品とレシピの両輪での訴求が需要拡大のカギとなる。

縮むLPG市場、打開策は、元売り2社トップに聞く――松沢純氏。

ENEOSグローブ社長 松沢純氏
特約店へのコンサル強化
 ――新会社の強み、弱みをどう分析する。
 「統合は人口減時代に対応するとともに他のエネルギーとの競争に勝つためだ。強みは輸入調達から販売までのサプライチェーン。旧三井丸紅液化ガスは商社の情報も生かした柔軟な調達と270社の特約店、旧新日本石油はFOB(本船渡し)の調達や石油販売と兼業する230社の特約店を持つ。エネファームを扱わなかった三井丸紅側の販社にも紹介できる」
 「一方で大きい会社になり、旧2社で特約店との取引条件、担保の取り方も異なる。新会社のコスト構造が適正かの検証は必要だ。今後策定する中期計画で詰めていく」
 ――同じJXエネルギー子会社のジャパンガスエナジー(東京・港)との関係は。
 「株主の意向で決まるため、当社には全くわからない」
 ――東日本大震災で事業環境に影響は。
 「LPGは発電機用の需要が増え、業界全体で約300件の問い合わせがある。分散型、可搬式のエネルギーという強みを業界としてさらに訴える必要がある。一方で東北を1カ所のLPG基地で支えていいのかという点から、リスク分散の重要性が増している。現在は新会社の基地統廃合の結論は出ていない。まず運営の効率化を急ぐ」
 ――需要全体では減少傾向が続いている。
 「当社の10年度の国内販売量は単純合算で350万トン。家庭用や石油化学用は有望とみており年2%は増やしたい。需要減と言われるが全国5000万世帯のうち、約半数の2450万世帯はLPGを使い、潜在性はある。家庭と信頼関係を築いた販社はコメ、水、住宅リフォームなども扱う。元売りが特約店へのコンサルティング機能を強める必要がある」

縮むLPG市場、打開策は、元売り2社トップに聞く――山崎達彦氏。

アストモスエネルギー社長 山崎達彦氏
給湯や空調、発電用を拡大
 石油会社と商社の間で続いてきた液化石油ガス(LPG)元売りの再編が新しい段階に入った。JX日鉱日石エネルギーと三井物産、丸紅の事業統合で3月、ENEOSグローブが誕生。出光興産・三菱商事系のアストモスエネルギーを抜き業界首位になった。国内市場が縮むなか、トップ2社はどう打開策を描くのか。ENEOSグローブの松沢純社長とアストモスの山崎達彦社長に聞いた。(聞き手は加藤貴行)
 ――計画停電などで事業環境に変化は。
 「オール電化一辺倒だった住宅メーカーが創エネや省エネに興味を持っている。LPGを使う(家庭用燃料電池)『エネファーム』と、太陽光のダブル発電の問い合わせは増えている。産業用の燃料転換に加え、家庭・業務分野の給湯、空調、発電の用途拡大にも力を入れる」
 「消費電力が電気エアコンの10分の1のガスヒートポンプなど新機器も登場している。従来、業界自らで需要創造できていなかったが、流れが変わってきた。あとは特約店と協力し、実際に需要を作れるかが問われる」
 ――ENEOSグローブ誕生の影響は。
 「実力、存在感のある会社が業界をリードするのは心強い。創エネ分野でも当社の先を行く企業であり、当社も工事、施工の研修拠点を通じ需要を掘り起こす。競争しながら市場を切り開く」
 ――業界再編の先べんを付けたアストモスの5年間をどう評価する。
 「ガス産出国の提示価格に基づき小売価格を決める、透明性の高い価格体系をつくれた。業界全体にとっても成果だ。当社の海外での自社船によるトレーディングも伸び、販売量で国内350万トン、海外500万トンの体制ができた。2014年には計1000万トンをめざす」
 「常に新しいものに挑戦するのが統合の目的。4月には社員に第1ステップは終わり“第2の創業”と呼びかけた。エネルギー政策の動きを見ながら中期計画を策定し、来年からスタートする」
 ――この先の業界再編はどう進むと思うか。
 「燃料調達、精製部門を伴う従来型の再編以外に、機器メーカーやリフォーム事業者など異業種との統合、元売りと小売事業者の垂直統合もあるだろう。全体で需要を創出するしかけが大事だ」

米クラウデラCEOマイク・オルソン氏、分散処理ソフト利用拡大

ビッグデータ解析に威力
 膨大で雑多なデータの塊である「ビッグデータ」を収集・分析し、事業戦略に役立てる動きが出てきた。IT(情報技術)の進歩で、データ分析手段が登場したからだ。そうした新技術の一つである分散処理ソフト「Hadoop(ハドゥープ)」を開発している米クラウデラの最高経営責任者(CEO)、マイク・オルソン氏に最新動向を聞いた。
――ハドゥープは米国でどのような用途で使われ始めているのか。
 「ハドゥープは複雑で量が多いデータの処理に向く。ビッグデータを対象にした分析や解析、その前段階であるデータの整理などの用途が多い。米国ではウェブ・サービスや通信事業者だけでなく、金融機関、政府機関、小売業にも利用が広がっている」
 「典型的なものはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に流れるコメントのような大量で雑多な情報から、自社に関係するものだけを抽出、内容を整理する用途だ。情報を基に顧客は、製品改良に役立てたり、宣伝や販売の計画を立てたりする」
 「ハドゥープは設計図を公開して誰でも無料で使えるオープンソース・ソフトウエア(OSS)の一種だ。米グーグルの技術を基に米ヤフーや米フェイスブックの技術者が育ててきた。その登場の背景にはデータの性質や利用法の変化がある」
 「2008年を境にハドゥープを含むデータ処理の新技術が続々と登場した。企業が扱うデータ量が増え、1980年代に開発された従来のデータベース(DB)技術では対応が難しい課題が出てきたからだ。通信記録やSNSのような大量データを分析する用途は、00年以降、データセンターやネット事業者で生まれた」
――ビッグデータ解析の今後の行方をどうみるか。
 「ハドゥープなどの新技術と、従来のDBを基にした集計・解析技術を組み合わせる『ハイブリッド』とみている。ビッグデータ解析の企業利用に向けて大手IT各社が参入しているが、OSSのハドゥープはその中で一定の地位を占めると確信している」
 「米IBMはハドゥープを基にした大規模データの解析ソフトを提供している。利用者がすぐに使えるソフトの登場は、ハドゥープやビッグデータ解析の利用を後押しする。本格的な普及に向け、すぐに使えるソフトが登場することを期待している」
――クラウデラの事業の今後をどうみるか。
 「OSSのハドゥープを企業が使いやすいようにパッケージ化して販売し、技術支援や技術者教育を提供している。IBMなどとは直接競合せず共存共栄の良好な関係にある」
 「ハドゥープ市場は将来的に現在のDB市場と同じ100億ドル(約8000億円)規模になると思う。我々の事業は商用ソフトの販売とは事業モデルが異なるため急速な成長は難しいが、OSS事業の先達である米レッドハットは今年の年間売上高が10億ドル(約800億円)を超える見込み。彼らの事業モデルなどを参考に成長していきたい」
 Mike・Olson カリフォルニア大でコンピューター科学の修士号取得。複数ソフト会社を経てDBソフト企業を設立。06年に米オラクルが買収後、08年まで同社副社長。08年から現職

2011年7月5日火曜日

三菱自・益子社長に聞く、「EV、給電機能向上」、電力不足補う手段にも。

三菱自動車の益子修社長は電気自動車(EV)事業を拡大する方針を示した。益子社長との主なやりとりは次の通り。(1面参照)
 ――東日本大震災が起き、EVの用途に注目が集まっている。
 「当社のEV『i―MiEV(アイ・ミーブ)』約90台を無償貸与した岩手、宮城、福島県の人々から役に立っているという声を頂いた。車両に新たなニーズを求める声も聞いた。災害など緊急時に家電に給電する機能だ。できるだけ開発を急いで、電力消費が1500ワット級の電子レンジ、炊飯器、ポットなどに給電できる電力供給装置を2011年度内に車両オプションとして発売することにした」
 ――一方で、震災後の電力不足懸念は電気を使うEVにとって逆風という見方もある。
 「違う見方をしている。原子力発電の安全性を巡る動きを受け、太陽光、風力発電など再生可能エネルギーへの依存が高まるはずだ。気候などに発電状況が左右される再生可能エネルギーは供給電力量が安定しない問題があり、EVの蓄電機能はこの解消に役立つ。EVにためた電気で発電量の減少を補えば良い。電力消費の少ない夜間に充電すれば、電力不足を呼び込むこともない」
 ――販売状況は。
 「欧州だけでなく、アジアなど新興市場でも車両に対する引き合いは強い。シンガポールやインドネシア、アラブ首長国連邦(UAE)に続き、タイでも走行試験を始める計画。ニーズを予期していなかったロシアからも発注があり、年内には輸出を始める計画だ」
 「国内では『働くEV』として軽商用EV『MINICAB―MiEV(ミニキャブ・ミーブ)』を年内に発売する。先行予約の数は当初想定を上回っている。車両の品ぞろえを増やし量産効果でコストも削減する」
 ――競合他社が相次ぎ市場参入を果たしてくる。三菱自の強みは何か。
 「先行者利益があると考えている。すでに1万台以上の車両を国内外で販売した。EVの利用状況などのデータの検証により、ノウハウ蓄積が進んでいる。EVの商品開発のなかで大事なのは制御技術だ。この制御ノウハウの蓄積は次の開発強化にもつながる」
 「多くのメーカーが競争に参加すれば、その分だけ普及は進む。競争と協調の間の微妙なバランスのなかで事業を進めるつもりだ」
 ――メーカー間だけでなく、各国政府の普及支援策も相次いでいる。日本政府に望むことは。
 「新しい技術に挑戦する必要があり、そのための環境づくりをやってほしい。電池の容量拡大や急速充電器などさらなる研究開発を要する分野は多い」
記者の目
普及期に入り
性能向上急務
 東日本大震災後の電力供給不安を受け、国内でも整備が検討されるスマートグリッド(次世代送電網)のシステムにEVなど電動車両は組み込みやすい。今後のエネルギー政策を考えたとき、自動車メーカーは協調して普及を進める必要がありそうだ。
 ただ、一方で競争も激しい。三菱自は13年度にEVとプラグイン・ハイブリッド車(PHV)で7万5千台の販売を目指すが、ライバルの日産自動車は今後6年間で仏ルノーと合わせて世界で150万台のEVを売る目標を公表。トヨタやホンダなども相次ぎEV、PHVを投入する。電動車両も普及期に入り、車載電池のコストダウンや性能向上、調達量の確保など普及のボトルネックの解消がますます個々のメーカーには求められる。

2011年7月4日月曜日

蘇寧電器の子会社に、中国で「日本式」を提案――ラオックス社長羅怡文氏。

ヤマダと市場作りたい
 ラオックスは8月、中国の家電量販最大手の蘇寧電器集団の子会社になる。上場企業が中国の事業会社の子会社になるのは初めて。同社の羅怡文社長に経緯や今後の事業戦略などを聞いた。
 ――蘇寧から追加出資を受けた経緯は。東日本大震災の影響はあったのか。
 「蘇寧電器とは震災前からいろいろ話をしてきた。ラオックスが今後成長していくには中国本土への本格的な店舗展開、国内のテコ入れが必要。その資金を得るには蘇寧の協力が欠かせない。子会社化はあくまで結果論だ。蘇寧から初めて出資を受けた2009年以来、両者の間でうまく信頼関係が築けている」
 ――中国で展開する家電量販店は1万平方メートルを超える大型店。運営ノウハウがない中ではリスクは大きくないか。
 「確かに日本で大型の家電量販店を運営した経験はない。だが、日本の大型店をそのまま中国に持って行って商売するわけではない。日本の商品を扱いながら、現地の事情に合わせた売り場を作る」
 ――中国の家電量販店はメーカーがそれぞれ売り場を作り、メーカーの販売員が売る。日本式は浸透していない。
 「今度の店は家電だけを売るわけではない。家電の比率は7~8割程度だ。雑貨や楽器、秋葉原のサブカルチャーなど日本のライフスタイルを提案していく。日本式の売り方は、昨年12月にヤマダ電機が中国に進出して実践している。両社で競争していくというより、市場を作っていきたい」
 ――先行するヤマダは3年で5店。3年で30店という計画は大丈夫か。
 「日本から持って行く商品以外の調達、物流、アフターサービスなどは蘇寧のインフラを使える。出店候補地としてまず人口1000万人級の巨大都市を想定している。1号店は上海か北京あたりを考えている」
 ――日本国内の事業展開はどうか。
 「中国出店は日本の免税店にとっても大きなこと。これから増える中国人の個人観光客を取り込むうえでは現地での知名度向上は重要だ。今後、日本で買った土産の家電製品のアフターサービスをできるようにしたい。訪日中国人観光客はまだ厳しいが、観光地としての日本の潜在力は高く、来年には回復するだろう」

グッチ社長ディ・マルコさん――「イタリア製」にこだわる

歴史との思いが創る世界観
 東日本大震災で消費者の目はさらに厳しくなった。ラグジュアリーブランド、伊グッチのパトリツィオ・ディ・マルコ社長兼最高経営責任者(CEO)は「生命線である品質の高さをしっかりと伝える必要がある」と危機感を示す。そのため、インターネット通販の参入と並行して店舗を大幅改装する考えだ。創業90年を迎えた高級ブランドが日本でどう変わるのか。今後の戦略を聞いた。(聞き手は日経MJ編集長 三宅耕二)
ネット通販
年内に参入
 --大震災は売り上げにどう影響しましたか。
 「地震から2週間ほど直営店を閉めましたので、当然、売り上げに響きました。ただ、想像したほど落ち込みませんでした。夏以降については分かりません。高級ブランドですから、節電で店内が暗かったり暑かったりすると、ゆっくりと商品を選ぶ気持ちにはなりにくいですからね」
 --大震災で日本事業を見直す考えはありますか。
 「日本はグッチにとって重要な市場なので引き続き計画通りに進めていきます。とはいえ、日本を取り巻く環境は厳しいですね。市場は縮小する一方ですし、今後は伸びないだろうと思っています。1964年に東京・銀座に初の直営店を出してから50年近くになり、日本では認知度が非常に高くなりました。ただ、この15年ほどで高級ブランドにとって良い状況とは言えなくなりました」
 「80年から90年代初めはロゴがもてはやされる時代でした。一目見てグッチやルイ・ヴィトンと分かる商品が人気を集めましたが、今やすっかり変わってしまいました。もちろん日本のお客様はブランドを好きでいてくれますが、上から下まで同じブランドというのは過去の話です」
 「自分の個性を出せる商品しか選びません。主要販路である百貨店離れも非常に影響が大きいですね」
 --では、日本でどう伸ばしていこうと考えていますか。
 「今の時代だからこそよりグッチの生命線である品質の良さを訴える必要があります。グッチは時計だけはスイス製ですが、ほかの商品はすべてイタリアで職人の手によって作っています。日本にはすでに55店舗の直営店がありますが、増やす計画はありません。逆にこの価値をしっかり伝えられるように、店舗の改装や移転による規模の拡大を目指していきます」
 「日本人は消費者の目が肥えていますが、大震災でますます厳しくなってきました。いかに我々が本物の高級ブランドであるかを伝えるかが、さらに重要になってきたと言えます。店舗改装で逆にお客様の数は減るかもしれません。本当の価値を見いだすお客様に最高のおもてなしを提供し、客単価を高めてシェアを伸ばすことで生き残っていきたいと思います」
 --成長するネット通販市場にはどう対応しますか。
 「年末までにネット通販のサイトを立ち上げます。我々は、高級ブランドが通販を手掛けることに懐疑的だった2001年ごろに、米国で挑戦してきました。米国で学んだのはネット通販は1つの流通販路と機能し、実際の店舗とのお客様の取り合いにはならないことです。全商品を店頭と同じ価格でネットで販売していきますので、店舗で扱っていない商品でも自宅で手軽に買えます。ネットでの買い物体験でグッチをより身近に感じていただくことが目的ですね」
京都での展示
職人の技伝える
 --スマートフォン(高機能携帯電話)の普及が急速に進んでいます。
 「スマートフォンは全世界で重要性が高まっています。立ち上げ当初はパソコンサイトのみですが、消費者と接するうえで重要な手段ですので、その対応も当然視野に入っています」
 --6月25日から金閣寺(京都市)でグッチの貴重な商品の数々を展示しています。意外な組み合わせですが、その狙いはどこにありますか。
 「グッチの職人による伝統的な皮工芸品の素晴らしさを伝えるためです。京都とグッチの創業の地であるフィレンツェは姉妹都市という深い関係にあることから、今回の企画が実現しました」
 「90年代はブランドのロゴブームがありましたので、ファッションで伝統とかうたっても関係がなかったでしょう。ただ、人気に火が付いた半面、多くの日本人が手を伸ばしたため、高級ブランドが庶民的になったとも感じていました。もう一度、今の感性に微調整をしながらフィレンツェの伝統的な職人技を伝えていこうと考えました」
 --中国市場開拓には「ロゴ戦略」が有効では。
 「中国は20年前の日本と同じ段階にあると言えばそうですが、北京や上海のような中心都市では、すでに洗練されて値段が高い商品も求めるようになっています。(内陸部の)第2、第3グループの都市はまだ最初のブランドはロゴが入った商品にあこがれる人が多いです」
 「ロゴといってもロゴがすべて悪い訳ではありませんが、ロゴを作ればそれでいいというやり方だけでは難しいですね。ブランドに歴史や思いを詰めることが重要です」
業績データから
シェア争奪の時代に
 グッチの2010年度の売上高は27億ユーロ(約3156億円)で、前の期に比べて17%も伸びた。リーマン・ショックで消費が落ち込んでいた米国や欧州が復調してきたほか、中国などアジア事業の伸びが好業績につながったようだ。
 一方の日本。世界でも重要な位置を占めてきたが、ディ・マルコ氏は「市場は伸びない」と厳しい見立てだ。「日本で生き残るためにはシェアを高めることが必要」と語る。これは市場拡大の時代からシェアを奪い合う時代に入ったことを示す。
 ディ・マルコ氏はインタビューで何回も「伝統」を強調した。何も逆風ばかりではない。「ファストファッションの人気は過去となり、職人が作る高級品の価値が見直されてきている」と前を見据える。高級ブランド請負人の手腕に注目が集まりそうだ。
 Patrizio di Marco プラダ・ジャパンの最高財務責任者などの役割で5年間日本で過ごした経験を持つ。1993年から98年までプラダ・アメリカの社長兼最高経営責任者。2001年にボッテガ・ヴェネタの社長兼CEOとしてグッチ・グループに入社、苦境のブランドを世界有数の高級ブランドに押し上げた。09年から現職。

米大手JLL・アジアCEOに聞く――東京の不動産投資、回復、来夏以降に。

割安な物件、関心戻る
 東日本大震災の影響で国内の不動産市場の回復が遅れる一方、海外ではアジアを中心に投資が活発になりつつある。国内外のオフィスなど商業不動産市況はどのように推移するのか。米不動産大手ジョーンズラングラサール(JLL)アジア・太平洋地域のアラステア・ヒューズ最高経営責任者(CEO)に今後の見通しを聞いた。
 ――世界の不動産市況をどうみるか。
 「2011年は主要な不動産市場で取引の額・量がともに上向き、特にクロスボーダー案件が大幅に増えるだろう。商業不動産の売買が高い水準に達した07年以来の堅調さで推移すると考える。
世界の商業用不動産への直接投資は前年比20~25%増え、3800億ドル(約30兆5700億円)を上回りそうだ」
 「リーマン・ショック前は高いリターンを求めリスクの大きな物件にも手を出す動きもあった。現在の買い手は保守的で安全かつ確実に収益を生む物件を見極め投資している。オフィス市場では世界全体の平均空室率が現在の14・1%から年末には13・5%を下回る水準まで下がるだろう」
 ――アジアはどうか。
 「香港、上海、シンガポールなどでは09年には底打ちし、急速に回復し、投資規模は最近のピークだった07年の水準近くまで戻した。11年はアジア・太平洋地域への投資額は1000億ドルに達し、10年に比べて15~20%増える見込みだ」
 「こうした市場でも賃料水準は完全に戻っていないところもあるが、物件価値そのものは高くなっている。一方で東京の投資水準は08年以降、07年の4割程度にとどまる。それは割安な投資機会が大きいともいえる」
 ――日本では震災の影響が今後、不動産市場にどのように及ぶか。
 「震災発生前までは、投資家は高い賃料で稼働する質の良い物件を探しており、東京のオフィスビル賃料も優良物件は緩やかながら上昇傾向にあった。震災直後から6週間は今後の状況をほとんど見通せず、東京を中心に投資を手控える動きが広がった。しかし、落ち着いてくるにつれて再び関心が戻り始めている」
 「東京での不動産投資は11年秋以降に上昇基調に転じると予測していた。しかし、震災で年内は押し上げる要因がない。12年夏以降に遅れるだろう。安全性や事業継続の観点でオフィスを選ぶ意識が強まり、物件の優劣の差が開くはずだ。古いスペックのビルは競争力が低下し、ますます厳しくなるだろう」
 ――東京の不動産市場に投資を呼び込むには何が必要か。
 「オフィスビルの質を保つには、常に改良しなければならない。日本では1960~70年代に建設したビルの多くが陳腐化している。日本のデベロッパーは効率よく再開発に動いており、投資機会は充実している。こうした面は香港などにはない強みで、その動きを加速するのが有効だ」

 ジョーンズラングラサール(JLL) 米シカゴに本拠を置く総合不動産大手で、ニューヨーク証券取引所に上場している。1999年に米ラサールパートナーズと英ジョーンズラングウートンが合併して誕生した。現在、世界に約180の営業拠点を持つ。2010年の売上高は29億2600万ドル(2340億円)、11年4月末時点の預かり運用資産は430億ドル(3兆4400億円)。
【表】2011年末までの主要都市における優良オフィスの資産価格変化予測   
増減率   都 市
20%増   香港
10~20%増   上海、シンガポール、東京、ニューヨーク、モスクワ
5~10%増   ロンドン
0~5%増   フランクフルト、ムンバイ
0~5%減   該当なし
5~10%減   マドリード
10~20%減   ドバイ

シングテル、クラウド、日本に攻勢、執行副社長ビル・チャン氏、震災後の需要増狙う。

データ保護、安く安全 中規模企業を開拓
 東南アジア最大の通信会社、シンガポール・テレコム(シングテル)が、ネットワークを通じて多様なソフトを利用できるクラウド・コンピューティングで日本企業への売り込みに照準を合わせている。東日本大震災の後で、シンガポールのデータセンターを災害復旧時のバックアップに活用したいとする日本企業が増えていることが背景にある。法人向け事業を統括するビル・チャン執行副社長に、現状と先行きの狙いを聞いた。
 ――なぜ日本企業に注目するのか。
 「震災後、目先の電力不足や将来の災害に備えたバックアップ態勢をシンガポールに配備したいという日本企業の需要が高まっている。シンガポールには自然災害がほとんどないからだ。会社名は明らかにできないが、世界的に展開する大手製造業や物流、小売業など、10社以上から引き合いがあった」
 ――企業の負担は。
 「シングテルはクラウドでこの需要に応える戦略だ。企業は必要な時に必要な容量を使用でき、料金も使った分だけ支払えばよい。多額の設備投資をしなくて済み、自前でサーバーを設置するより、3年間で最大73%のコストを節約できる利点が売りだ」
 「大企業だけでなく、データセンター設備を日本国内にしか持たない中規模の企業に大きな潜在需要があるはずだと思っている。日本での事業を8月までに本格化しようと提携相手との交渉に入っている。提携先は、いずれ発表する」
 ――シンガポールにはデータセンターが林立しており、競争が激しいが。
 「当社が2010年9月に開業した最新のデータセンターは、非常時の稼働状況や耐久性が東南アジアで唯一かつ最高水準の施設だ。海底ケーブルなど自前の通信ネットワークも保有している。米ヴイエムウエア(カリフォルニア州)との提携により、高性能のクラウド環境を提供できる」
 ――シングテルのクラウド事業の現状は。
 「法人向けクラウド事業は、10年の売上高は09年比で70%増と急拡大した。この伸び率が今後3年は続くとみている。クラウドの法人顧客は、アジア太平洋で複数の拠点を展開する多国籍企業を中心に800社。このほかシングテルの『ソフトウエア・アズ・ア・サービス』(SaaS)を利用する顧客は中小企業を中心に2万社に達した」
 ――海外のクラウド拠点の展開見通しは。
 「すでに全額出資子会社のオプタスがオーストラリアのデータセンターでシンガポールと同水準のクラウド・サービスを提供している。香港も数カ月後には可能になる」
記者の目
法人向けが成長の柱に
 シンガポールは小国ながら優れた通信インフラ、ビジネス支援に熱心な政府、豊富な技術系人材、天災がほぼないなど恵まれた環境にあり、内外企業のデータセンター(DC)が集積している。米アマゾン・ウェブ・サービシズ、インドのタタ・コミュニケーションズ、KDDIなどが進出。2013年には政府が開発する12ヘクタールの「DCパーク」も完成する。
 シングテルは国内に8カ所の高度DCを展開。これまでIP―VPN(インターネットプロトコルを使った仮想私設網)などを提供してきた法人顧客にも、クラウド事業を広げようとしている。
 シングテルがインドなど新興国で積極的に出資していた携帯電話事業は競争が激化しているため、法人向けクラウドを次の柱に育てたい考えだ。

デジカメ、「売上高1000億円超狙う」、近藤リコー社長、消費者向け拡大。

 リコーは10月1日付でHOYAのデジタルカメラ事業を買収すると発表した。記者会見したリコーの近藤史朗社長とHOYAの鈴木洋最高経営責任者(CEO)の一問一答は以下の通り。
 ――買収はどちらから持ちかけたのか。
 近藤氏「初めは2年くらい前、鈴木さんにお会いしたいと申し上げ、カメラの話をした。当時は収益性がどうかという話もあったが、HOYAのデジカメ事業はリストラが進み利益を出せるところまできた。いい状態で迎えられるようになった」
 鈴木氏「ペンタックスを買収した当時から、単独ではない何らかの形が必要だと考えていた。初めからリコーとの話を考えていたわけではないが、再編を模索するという考え方は変わらなかった」
――両社のカメラは競合するのではないか。
 近藤氏「両社の主要製品ではあまりバッティングはないとみている。3年で(売上高)1000億円を超える事業に育てていきたい。ただ、利益や製品別の売上高はまだ言える段階にない」
 ――両社の事業を合わせてもシェアは小さい。
 近藤氏「カメラ市場が厳しいのは百も承知だ。だが1000万台を出荷しないと利益が出ないというわけではない。価値の高い製品をリコーやペンタックスのブランドの愛好者に提供していく」
 「ただ、規模を追わないわけでもなく、未来につながる案件があるなら投資をしていく。今は(一眼レフに強いキヤノン、ニコンの)先行2社にかなわないが、いつまでも2社だけではないだろう」
 「M&A(合併・買収)は常に考えている」
 ――どのように相乗効果を出すか。
 近藤氏「長年の課題であるコンシューマー(消費者向け)事業の確立を目指す。ストレージやプロジェクター、ネットワークなどを組み合わせて提案する新しい事業も育てていきたい」
 鈴木氏「カメラには写真を撮影する機能と、映像を取り込む入力装置としての機能がある。当社は医療関連で映像を扱っている。デジカメ事業は売却するが、映像の伝達処理や加工などの分野でリコーの資産を活用させてもらいたい」