2011年7月11日月曜日

ロレアルCEOジャン―ポール・アゴンさん―美の革新日本が司令塔

 世界最大の化粧品メーカー、ロレアルのジャン―ポール・アゴン最高経営責任者(CEO)がこのほど来日。東日本大震災で消費の風景が変わったといわれる中で化粧品や美を求める姿勢は変わっていないことを改めて強調した。日本をアジアの司令塔と位置付けるその意義について聞いた。

 ――来日の目的は。
 「震災が起きる約2週間前に日本を訪れていました。あのような悲劇に日本が見舞われたことに心を痛めていました。これは世界のロレアル従業員の気持ちです。震災後は1日に3度も日本に連絡を入れて状況の把握に努めるのとともに、一日も早く立ち直ってほしいと励ましてきました。それにしても日本の皆さんの力強い意志には敬服します」
 「世界のロレアルの従業員の気持ちを日本に伝え、責任ある企業市民として、私たちが連帯して支援を必要とする人たちのためにアクションを起こすための来日です。例えば被災された皆さんへの無料のヘアカットサービスなどを通して東北のために価値ある貢献を続けていきたいです」
 ――消費の風景は変わったと思いますか。
 「それよりも良質で、合理的で、理にかなった価格に対する意識が強まったと考えています。高級ブランドのランコム、ロレアル、ヘレナ・ルビンスタイン、イヴ・サンローランなどへの購買意欲は強いです」
 ――日本の百貨店の位置付けは。
 「百貨店の市場規模は縮小していますが、大切な販路で、独特の雰囲気を醸し出す場所に変わりありません。わくわくさせ、魅力的で、そこに行きたい気持ちにさせる力が百貨店にはあります」
 「最近、日本では博多や大阪の大都市のターミナル駅に隣接する大きな百貨店が相次ぎ、開業や増床をしています。そうした百貨店は次世代の若い消費者をとらえようとする姿が感じられます。成長するために新しい世代へ新しいファッションや新しいブランドを提供していますね。我々のアメリカの自然派化粧品ブランドのキールズは日本のお客さんにも受け入れられています」
 「日本は世界の中で先を行く存在です。生活水準、技術革新などロレアルにとって戦略的な位置づけであることに変わりはありません。世界で最も目が肥え、いろいろなニーズを持っており、それに対応することが求められています。ロレアルグループにとって日本はベンチマークなのです。新しいトレンドやアイデアを新しい組織で新製品を作り上げています。イノベーション(革新)の場所です」
 「日本で生まれて世界で大成功を収めた商品は多いです。メイベリンのウオーターシャイニー、リップスティック。ランコムもあります。シュウウエムラもそうですね」
 ――化粧品の世界の革新とは。
 「消費者にとって『ビューティー(美)』は永遠の課題です。いつもいい商品、満足を求めます。全売り上げに占める新製品の比率は15%にもなっています。安全性、効率性、パフォーマンスの面からも新しく、そしてこれまでと違うモノをつくり出していくことです」
戦略はシンプル
新興国でも1位
 ――昨年、日本でアジアの研究開発を統括するようになりました。
 「今、日本の研究開発の拠点には6カ国の人たちが働いています。ロレアルの強みはチームで仕事をすることです。人をベースに考えて、個々の才能を引き出していくのを得意とした独特な組織です。これはロレアルの哲学でもあります。多様性の中からオリジナルなモノをつくり上げていきます。こうした柔軟性のある組織を世界に広げてきました。生物学的にいえば、常に変化に合わせて対応していく柔軟で有機的な組織です。研究開発費は毎年2ケタ増で推移しています」
 ――新興国への取り組みは。
 「戦略はシンプルで、ナンバーワンになることです。たくさんの消費者がいるので大きなチャンスととらえています。中国では年率15%、インドでは30%も伸びています。ただ消費環境はとても複雑です。グローバリゼーションは世界で同一商品を売ることを意味しますが、化粧品の世界はそうではありません。インドではマス市場向けのガルニエが成功していますが、高級ブランドは時間がかかります。ニーズ、ウオンツ、生活様式、そして見る夢も違います」
 ――買収したいブランドはありますか。
 「頭の中にはありますよ。グローバルブランドにしなければなりませんので厳密に選択しています。日本企業があるかどうかは言えません」
 ――ネット通販は。
 「日本は今年、ネットの売上高構成比が4%で推移しており、昨年よりも伸びています。危機に強く、パイロットカントリーだとみています。中国でも始めていますが、インドは物流体制等の課題がありまだ手掛けていません」
 ――日本は暑い夏になっています。
 「暑い夏に対応できるような提案をすばらしい日本の女性にしていくつもりです」
 Jean-Paul AGON 1978年に仏ロレアル本社に入社。ギリシャ、ドイツなど海外子会社の社長を歴任し、海外での豊富な経験を持つ「国際派」。最大市場の米国での成功を経て、2006年ロレアルグループ5代目社長兼最高経営責任者に就任。07年、仏政府よりレジオン・ド=ヌール勲章のシュバリエ章を受章。

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