2011年6月10日金曜日

アニメ、制作も営業も、早く安く、DLE流――椎木社長に聞く、日本発の作品世界へ。

 アニメ業界の常識を大きく外れた制作・営業スタイルで注目を集めるDLE。椎木隆太社長に今後の戦略などを聞いた。
 ――アニメ会社を興したきっかけは。
 「実は個人的には今も、昔もアニメには疎い。もともと世界規模のビジネスを起業したいと考えていた。ソニー・ピクチャーズエンタテインメントに在籍した時、日本アニメが米で高く評価されており、世界で勝負できる分野だと思った。当初は日本のアニメ会社が海外進出する際のコンサルを手掛けていた」
 ――自社でアニメ制作に乗り出した理由は。
 「米にはContent is King(コンテンツが王様)という格言がある。この業界に身を置いてみて、権利を保有して勝負するのが王道だと痛感した。そんな折にFROGMANという抜群のスピード感とプロ意識をもつクリエーターと出会えた」
 ――企業の著作権保有にこだわるのはなぜか。
 「米では企業が著作権を持つことで、様々なビジネスが生まれている。個人ではできないキャラ活用に向けた大規模な営業をDLEが行って収益機会を増やし、クリエーターが創作に専念できる環境を提供する」
 ――今後の事業戦略は。
 「海外にどんどん打って出る。アジアや中東では日本のアニメへの評価は非常に高い。自社の作品を持ち込むより、我々が窓口となり、日本発の新しいコンテンツを海外で広げたい。国内のゲーム会社などとの連携も模索していく」

大量開発で流行つかむ、アイリスオーヤマ大山社長に聞く――LED、低価格でリード。

 震災後も「意思決定の速さ」というトップダウン経営の強みを発揮し、快走を続けるアイリスオーヤマ(仙台市)。ほぼ半世紀にわたり同社を率いてきた大山健太郎社長に、注力する発光ダイオード(LED)照明事業や今後の販売戦略について聞いた。(1面参照)
 ――角田工場の復旧が早かった。
 「現場で社員に対して明確な方針、具体的な指示を出せたことが良かった。アイリスには被災した人が一刻も早く欲しい商品がたくさんある。メーカーは商品を届けることが一番大事。社員にはアイリスが元気になることが宮城県を復興させると説いた」
 ――LED照明は増産に継ぐ増産と好調だ。
 「LEDはビジネスチャンスの塊。あらゆる企業が照明で節電する空気が生まれている。中部電力の浜岡原子力発電所停止を受け、全国的に5月中旬から一気に需要が伸びた。家庭用電球も供給が間に合わない状態だ。中国・大連の自社工場の設備を発注し、人員を確保した。倉庫だったところを組み立てラインに変えるなど、スペースには余裕がある」
 ――米ゼネラル・エレクトリック(GE)製品の販売契約も結んだ。自社製品との競合は。
 「照明は用途が広く、すみ分けできる。アイリスが得意とするのは家庭用電球、オフィス向けの直管形、工場で使う水銀灯の代替タイプなど。服飾専門店などが使う多彩な『色温度』や配光角が必要となる商品は弱い。GEは世界的に大量生産しているので、特殊な製品でも割高にならない」
 ――LED照明市場は競争も激しい。
 「今後も多数のメーカーが参入するだろう。技術革新とスピード経営で常に価格リーダーを保てるかどうかがすべて。電卓でカシオとシャープが残ったのと同じように、アイリスは残れる」
 ――新商品のテーマは。
 「年内にかけては『節電』と考えている。生活スタイルが変わることはビジネスチャンス。商品をたくさん作れば、その中に『当たりカード』がある。当たりが見つかれば我々は立ち上げが早い。問屋を介さず直接取引先に商品を納入しているため、販売データが週次で分かる。1週遅れで日本の流行をつかめる」
 ――コンビニエンスストアとの取引は。
 「開拓したいが、アイリスの商品コンセプトとコンビニは遠く、定番商品になれるかは分からない。今回の『とうもろこしのひげ茶』のように当たり商品があればぜひ売りたい」
 ――最大販路のホームセンター(HC)は秋以降、震災特需の反動が来るといわれている。
 「HCが急に悪くなるとは思わない。(ここ数年のHCは)安売りにより単価は下がったが、客数は増えている。商品輸入先の中国の人件費は上がり続けており、デフレも限界だ」
 ――HCはプライベートブランド(PB=自主企画)比率を高めている。アイリスのブランドをどう維持する。
 「とにかく新商品を作り続けること。発売3年以内の商品の売り上げに占める割合が5割を超えているから不況にも強い。家電、収納など分野の違う事業部が集まるので、業界が気づかない視点で商品開発ができる。LED電球のボディーに従来のアルミではなくプラスチックを使って軽くしたのがいい例だ」
 ――後継者の育成は。
 「息子が(会社に)入っている。事業が多岐にわたるため、相当キャリアを積まないと総合的な判断はできない。最近は私の出張時に付いてきて、私がどういう判断をするのか実際に見せている。能力を蓄えてバトンをつなげるようにしたい」

2011年6月9日木曜日

SCE平井社長に聞く、「PSP後継」7000万台超目標。

「流出問題、敬遠傾向出ず」
 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の平井一夫社長は7日、米ロサンゼルスで開かれているゲーム見本市「E3」会場で日本経済新聞の取材に応じた。平井社長は6日に発表した携帯型ゲーム機「プレイステーション・ヴィータ」の開発の経緯などについて明かすとともに、インターネット配信サービスの情報流出問題について説明した。
 「プレイステーション・ポータブル(PSP)」の後継機種であるヴィータの価格は2万4980円からと、関係者の間では想定よりも安いことが話題になった。
 平井社長は「利用者に究極の携帯型ゲーム機を提供する中、どれだけアグレッシブな価格にできるか議論した」と説明。また「PSPの累積販売台数である7000万台を上回ることを目指す」と述べた。
 ゲーム機では「普及台数が多いほどソフトメーカーにとってプラットフォームとしての魅力が高まる」(平井社長)一方、SCE内部には「家庭用ゲーム機『プレイステーション3』のように製造コストが販売価格を上回る逆ざやの期間を長くはできない」(幹部)との考え方があり、双方のせめぎ合いの結果が今回発表した価格につながったもようだ。
 一方、個人情報流出問題については、「サービスを再開した地域で利用動向を見ているが、問題が発生する前の80~90%の利用者がサービスを再び使っている」と述べた。加えて「問題を機に退会した利用者は数%に満たない。利用者が当社の商品やサービスを敬遠する傾向は出ておらず、ネット戦略に大きな変更はない」と断言した。
 スマートフォン(高機能携帯電話)などを通じたゲームが急速に存在感を高めていることについては、「当社として一番大事なことは、いかにしてゲームに特化した利用者が楽しむことができる商品に仕上げるかということ」と述べ、大型の有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)の画面や物理的なボタンなどを搭載したヴィータの意義を強調した。
 さらに「スマートフォンなど向けにプレイステーションの体験を提供することも必要」と指摘。1月に発表した米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載した端末向けにゲームを提供する「プレイステーションスイート」により「本格的なゲームと手軽なゲームという両方の市場を押さえる」と述べた。

テバ社の傘下入り、売上高3割上乗せ期待――大洋薬品・島田社長に聞く。

10月にも新中期計画
 後発医薬品大手、大洋薬品工業(名古屋市)は後発薬世界最大手であるテバファーマスーティカル・インダストリーズ(イスラエル)の傘下に入ることを受け、10月にも新しい経営計画をまとめる方針を示した。島田誠社長に今後のテバとの連携のあり方などについて聞いた。
 ――テバとは今後、どのように連携していくか。
 「6月半ばからテバ側と本格的な話し合いを始める。テバの組織体系にあわせる形で、人事や法務、営業、生産など社内に新たに9部門のチームを発足した」
 「両社の『統合チーム』という位置付けで議論の場を設ける。9月末までに連携の内容やスケジュールといった大枠を固めるつもりだ」
 ――課題は何か。
 「テバとの相乗効果をどう出すのかが一番大きな課題。テバの医薬品原薬を活用できるようになるだけでも(我が社にとって)大幅な生産コストの削減が見込める。テバは幅広いヘルスケア事業も持つので、こうした事業をどの段階でどのように取り込んでいくかなども検討課題になる」
 ――テバ側が表明していた取締役の派遣はどうなるか。
 「3人の取締役を迎える予定だ。テバの日本担当役員や日本法人の社長らが取締役メンバーになる。14日に開く株主総会で株主から承認を得ることにしている」
 ――テバによる完全子会社化に向け、創業家以外からの株式取得は。
 「大洋薬品とテバの両社から、全株主に対して『株式譲渡依頼書』を出した。それには買い取り価格も明記している。順次、取得を進めていく考えだ」
 ――今後の大洋薬品の経営計画は。
 「提携決定前の中期経営計画では2015年度(16年3月期)に売上高1000億円を目指していたが、恐らく前倒しで実現できるだろう」
 「10月には提携効果を織り込んだ新たな中期経営計画を示したい。テバとの提携効果が出てくれば、(現行の中期経営計画に比べて)売上高で3割ほどの上乗せが見込めると期待している」
 ――テバが日本において既に合弁会社を設立している興和との今後の関係はどうなるか。
 「今回のテバとの提携交渉は日本におけるテバのグループの企業は1社であるべきだというのが原点にある。契約書にもその旨を盛り込んだ。今後は(その契約内容の)履行に向けて進んでいくだろう」
 「ただ、これについてはテバと興和の両社が話し合うべき問題であり、私たちが口をはさむことはしない」
記者の目
連携効果発揮
スピード肝心
 「日本の後発薬業界におけるリーディングカンパニーを目指す」。島田誠社長はテバへの傘下入りを機に日本市場でトップの座を目指す発言を繰り返す。ただ後発薬を巡る合従連衡の動きは加速しており、両社にとっては連携効果をいち早く出すことが求められる。
 テバは海外の後発薬市場で圧倒的な強さを誇るが、日本市場での存在感はまだ薄い。それだけに大洋薬品の果たす役割も大きい。テバの経営資源と豊富なノウハウ、生産基盤をフル活用できるかどうか。スピード感と併せて島田社長の総合的な経営手腕が試される。
【表】大洋薬品とテバの事業連携に向けた今後のスケジュール   
6月14日   ○大洋薬品工業、株主総会
6月半ば   ○事業連携に向け、両社で3期間に分けて話合い
~   
9月下旬   
10月   ○大洋薬品、テバの連結対象へ移行予定
○具体的な事業連携の内容やスケジュール、大洋薬品の新中期経営計画を決定、公表へ

全日空・伊東社長に聞く、格安航空で関西を開拓――夏休み、需要回復。

 格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションを通じ「関西で新たな需要を掘り起こす」――。全日本空輸の伊東信一郎社長は、国際航空運送協会(IATA)総会出席のため訪れたシンガポールで日本経済新聞の取材に応じ、ピーチの事業性に自信を示した。東日本大震災の影響や燃料価格の上昇など経営環境は厳しいが、「国際線については悲観していない。夏には(需要は)戻る」と強調した。主な一問一答は以下の通り。
 ――IATAが航空業界の業績予想を大幅に下方修正した。
 「アジアの需要は伸びていく。震災の影響は大きかったが、3~4月には底を打ち、当社の5月の国際線旅客数は前年比7%増と回復した。日本発のビジネス需要が好調で、海外発も回復に向かっている。残るは日本のレジャー需要だが、夏休みをきっかけに確実に戻るだろう。今年度300億円のコスト削減を実施し、黒字を確保したい」
 ――ピーチの国際展開は。
 「当面は国内線とソウル行きだが、関西国際空港から中国など片道4~5時間圏内にも展開する。世界中でLCCが従来飛行機に乗らなかった層という新たな需要を掘り起こしたように、約2千万人の関西市場で新セグメントを開発したい」
 ――シンガポール航空は中長距離のLCCを立ち上げる。
 「長距離のLCCはまだ実績が少ないので注目している。日本に飛ぶのか、使用機材は何かなど、興味ある。シンガポール航空は競争相手であり、航空連合スターアライアンスの仲間だ。アライアンスは進化しており、(同連合のユナイテッド航空らと開始したような)共同事業を、シンガポール航空などアジア勢と始めることもあり得る」