2011年7月20日水曜日

米グーグル会長、モバイルの将来、アジア頼み、アンドロイドで市場開拓

 米グーグルのエリック・シュミット会長は19日、都内で開いたアジアのモバイル戦略説明会で、「(携帯電話など)モバイル市場の将来は、成長するアジアにかかっている」と指摘した。スマートフォン(高機能携帯電話)向け基本ソフト(OS)アンドロイドで使える新サービスを相次ぎ投入することなどで、アジア事業を拡大したい考えも示した。
 シュミット会長はアジアのモバイル市場に関して「これまで普及が遅れていたフィリピンやインドネシアも含め、ほとんどの市場で動き出している」と述べた。
 モバイル市場のけん引役になるスマートフォンの普及で課題といわれる端末価格について「すぐに200ドル程度になり、将来は大量生産により50ドル程度にまで下がる」と予測した。音声を認識して画面上の文字に変換する機能などの新サービスを投入し、アンドロイドの市場をアジアで拡大していきたい考えだ。
 このほど始めた交流サイト(SNS)「グーグル+(プラス)」は米フェイスブックと競合するが、同会長は「(SNSは)一人勝ちできるような市場ではない。ユーザーの選択肢をなくすことはできない」と指摘。情報を交換し合う友人をグループ分けする新機能など「優れたアプローチでユーザーが急増している」と述べた。

2011年7月19日火曜日

「大手と違う店づくりを」、丸栄・京極社長、就任後初の会見―具体像は明言避ける。

 丸栄の京極修二社長が5月の就任後初めての記者会見をした。親会社の興和が百貨店から業態転換するよう求めていることに対し、「旧態依然とした百貨店業態では生き残れないと叱咤(しった)激励されたと受け止めている」と述べ、「ビジネスモデルを進化させ、大手百貨店とは違った店づくりをしたい」と話した。具体像は「大まかな構想しか持っていない」と明言を避けた。
 京極氏は2008年に興和から丸栄の常務に転じ、5月に社長に就いた。業態転換について、「親会社の要望であり、我々もベクトルは同じ」と発言。「新しい商品の発信や先を見た提案ができる事業モデルを目指す」と強調した。
 建て替え方針を示している1953年築の本館ビルについては「年数からして(老朽化が進んでおり)将来再開発する」とした。
 足元の営業状況は、3・3平方メートルあたりの売上高が6月以降、前年並みに回復しているとし、今後は「攻めに転じる」と強調。「節約を続けてきたが、営業面では必要な経費を使い、顧客に足を運んでもらう」と来店者を増やす戦略を進めていく方針も示した。
 丸栄は08年に興和と資本・業務提携を強化し、不動産開発を一体で進めることで合意。10年に興和の子会社となり、経営に興和の意向が反映されやすい体制になった。

協同組合の国際団体、「風力発電も組合方式で」、会長、日本政府に法整備訴え。

 世界の生協や農協などの協同組合で作る国際協同組合同盟(ICA、本部・ジュネーブ)のポーリン・グリーン会長=写真=が日本記者クラブで会見し、「風力発電など新分野でも協同組合の手法を取り入れるべきだ」と述べ、日本政府に新たな法整備や規制緩和を求めた。東日本大震災の被災地の協同組合に対しては「復興を機に地産地消など持続性を志向する経済を目指す新たな動きがある」とエールを送った。
 グリーン会長は「協同組合の手法は世界の諸問題に答えを出すことができる」と強調。風力発電など再生可能エネルギー分野では法整備次第で消費者から出資を募るビジネスモデルが可能との考えを表明し、生協法や農業協同組合法など分野ごとに分かれている現行法の見直しを訴えた。
 1895年設立のICAは世界85カ国の生協や農協、漁協、保険などの金融機関の協同組合が参加する非政府組織(NGO)。組合員は約10億人とされる。グリーン会長は「協同組合の課題は国際的な知名度アップ」と指摘。2012年が国連の協同組合年になることから、傘下の組合による国際会議の開催や共通ロゴを使った店頭PRなどを展開するという。

洗濯用など家庭向け製品、配合成分すべて公表、石鹸洗剤工業会が自主基準。

 日本石鹸洗剤工業会(東京・中央、大池弘一会長)は洗濯用洗剤や台所用洗剤など家庭用製品の成分に関する情報公開の基準をまとめた。製造時に添加・配合した成分については少量でもすべてを公表する。会員企業に周知徹底し、11月から実施する。製品の原材料についても詳しい情報を求める消費者が増えていることに対応する。米国やカナダなど海外でも同様の動きがあるため、日本でも独自の基準を設けることにした。
 成分表示の対象としたのは洗濯用や台所用、住居用の洗剤のほか、漂白剤や柔軟仕上げ剤、クレンザーなど家庭用製品。業務用製品は今回の自主基準の適用からは除外する。情報の公開方法については容器への記載、インターネットの専用サイトでの掲示、電話での回答、その他の媒体の活用のいずれか1つ以上を企業が柔軟に選ぶことができるようにする。
 表示する成分は「意図して添加、配合したすべて」とし、配合した成分に付随する成分は除く。表示方法については「酵素=脂汚れやタンパク質汚れを分解」「シリコーン=泡調整剤(泡を調整するための成分)」などとし、成分の名称と機能や配合の目的を併記する形にする。企業秘密にかかわる内容については法律による表示義務がある成分を除いて、成分の機能・目的のみの表示を認める。
 家庭用洗剤の場合、従来は家庭用品品質基準法などで指定された特定成分についてのみ公表してきた。配合割合が法律の表示基準に満たない場合も成分の名称は表示されていなかった。業界としての情報開示基準がまとまったことを受け、「自社のサイトで11月から、成分に関する情報を開示する予定」という花王など企業側も対応を急ぐ。
 安全・安心志向が高まるなか、洗剤などの原材料にも関心を示す消費者が増えているため、業界としての情報開示の基準をまとめることにした。日本石鹸洗剤工業会によると、米国やカナダのほか、オーストラリアでも業界が自主的に成分を表示する動きが広がっているという。

岩崎模型製造社長佐藤一作さん―食品サンプルの製造体験

 岐阜県のほぼ中央に位置し、清流や郡上おどり、郡上八幡城などの観光資源を誇る郡上市。ここで近年脚光を浴びつつあるのが産業観光「食品サンプル」の製造体験・見学だ。地域を代表するメーカー、岩崎模型製造の佐藤一作社長(63)は産業と観光の両立に向けた旗振り役として汗を流す。
 郡上市は知られざる食品サンプルの城下町。昭和初期に大阪で食品サンプル会社を創業した岩崎瀧三氏が故郷の郡上市に工場を作ったのが発展のきっかけという。
 1990年代の初めに「城やおどり以外に見るものはないか」と動き出したが、本格化したのは2007年度に岐阜県から観光資源「じまんの原石」に選ばれてからだ。白川郷(同県白川村)などに近い地の利もあって、いまでは年4万人超が訪れるようになった。
 外国人観光客の誘致にも取り組んでいたが、東日本大震災で急減。逆風に負けまいと、地元メーカーを中心に食品サンプルの業界団体を4月に立ち上げて代表に就いた。「個々の企業努力では限界があり、業界がもっと結束しなければ」との思いが後押し。団体発足で「行政との連携強化など振興策が進めやすくなる」と期待する。
 観光でブランド力が高まれば、サンプル製造セットなど個人向け商品の販売増も見込める。だが「業界活性化だけでなく、町おこしで地域に恩返ししたい」との気持ちも強い。(名古屋)
 さとう・いっさく 1948年岐阜県郡上市生まれ。63年に地元の中学を卒業して岩崎模型製造に入社。創業者の岩崎瀧三氏の薫陶を受けた最後の世代で、現在もしばしば製造現場で腕を振るう。2004年社長就任。

米トイザラス会長兼CEOジェラルド・L・ストーチさん

 ライバルの低価格攻勢で苦境に立たされた米トイザラスが再生を果たし、再び成長路線へと踏み出している。赤ちゃんから子どもまで継ぎ目のない関係を築き、ネットでも新たな仕掛けを組み込みつつある。キーワードは融合だ。このほど来日したジェラルド・L・ストーチ会長兼最高経営責任者(CEO)に日本戦略、店舗とネットの新しい関係について聞いた。(聞き手は編集委員 田中陽)
 ――米トイザラスは経営不振から立ち直りました。再生のポイントは何だったのでしょうか。
 「ルーツに戻ったことです。我々の存在意義はおもちゃと赤ちゃんのためにあるということを改めて認識しました。スペシャリティー(専門性の高い)なお店をもう一度取り戻そうと基本にもどりました。かつてのトイザラスは大量に商品を仕入れて、大量に売ることで品ぞろえの幅がなくなり客離れが起きました」
 「トイザラスという社名は全米で知らない人はいません。両親からおもちゃを買ってくれた楽しい思い出を誰でも持っています。ホットな商品、すばらしい(接客)サービスを提供し、安全性も担保します」
 ――具体的には。
 「安全性の確保には積極的に投資してきました。品質安全の部署では取引先とも協力して徹底的に調べます。問題が表面化する前にちゃんと迅速に対応できる組織になっています。私自身も個人的に規制当局とも話し合いを持ち、社外の専門の第三者とも関わりをもってきました」
 「こうした取り組みはトイザラスのサイトでもきちんと紹介されています。お客さんからの信頼を勝ち得ることで業績も好転してきたのです。子供を持つ親にとって安全は何よりも大事なことです」
 ――日本に1号店を開いて20年ですね。
 「米国に次ぎ世界第2の規模になりました。少子高齢社会ではありますが、まだまだたくさんの赤ちゃんや子どもがいます。非常に重要な国です。日本市場で特徴的なのはお子さんの成長、発達、教育に関連するおもちゃに関心が高いことですね。英語を学ぶためのコーナーを作ったところ、その場所には必ずお客さんが立ち止まり、商品を手にとっています」
 ――日本には出店余地はまだあると。
 「米国で約850店があり、日本は170近くですからまだあります。進出当初は郊外のロードサイドでの出店ですが、今では商業施設内の出店もあります。店舗面積の規模も様々なものに対応していきます」
 「日本の玩具は独創的なので、それを世界中のトイザラスに紹介するのも仕事です。タカラトミーのミニカー『トミカ』やエポック社の『シルバニアファミリー』などがその例です」
  子供市場に
こだわり続ける
 ――赤ちゃん用品を扱うベビーザらスと玩具のトイザらスの融合が進んでますね。
 「2つの業態を合わせた業態をサイド・バイ・サイドストアと呼んでいます。赤ちゃんから子どもまで続く関係を築くための大切な取り組みだと考えています。これは世界戦略です。初めて赤ちゃんを産むお母さんには相談にのり、不安を解消する接客も心がけています」
 「サイド・バイ・サイドストアのパフォーマンスが一番いいのが日本です。日本トイザらスのモニカ・メルツ社長兼CEOがカナダ時代に作ったもので、それを米国、日本でも進めてきました」
 「現在、日本には45店のサイド・バイ・サイドストアがありますが、既存店の改装などで年末までに57店までしていきます。新店もいい条件の話があればやりますが、今はすべての店舗のサービスレベルを引き上げて標準化していくことに注力し、既存店舗の改装を重点的にしています」
 「サイド・バイ・サイドストアの特徴は、玩具だけだと需要のピークがクリスマスシーズンに偏ってしまうところを、赤ちゃん関連商品を扱うことで通年型の店舗運営が可能になります」
 ――ネット通販の取り組みはどうですか。
 「日本での構成比はまだわずかですが、米国では10%に迫り成長著しい分野です」
 「強調したいのは店舗とネット通販の違いはなくなり融合していくものと見ています。例えば、ネットで注文した商品を店舗で受け取ったり、店舗で見つからなかった商品をその場でネットで注文したり。いろいろなオプションが考えられます」
 「フェイスブックやツイッターなどの交流サイト(SNS)とも連携し、商品のレーティング(格付け)を能動的にやっていきたいです。お客さんにとってベストなソリューション(解決策)を提供します。楽しみにしていてください」
 ――顧客の年齢層を上に上げていくことはありますか。
 「ないです。米トイザラスにはこんな諺(ことわざ)があります。『トイザラスは永遠に子どもなのです』。WE LOVE KIDS(私たちは子どもたちが大好きです)。これがトイザラスのモットーです」
 米トイザラスの業績が堅調だ。2011年2~4月期の連結売上高は1%増。知育玩具や定番玩具が伸びた。ストーチ会長兼CEOは「玩具は安定市場」と強調する。リーマン・ショックの08年も百貨店などほかの小売企業のように売り上げが落ちなかったという。「親にとって子供にかける費用を削るのは最後の手段」(ストーチ会長)と分析する。
 同社は05年、大手買収ファンドであるコールバーグ・クラビス・ロバーツなどの3社連合によって買収された。
 その後、改装や不採算店閉鎖など経営の立て直しを進め、09年には同業のFAOシュワルツを買収するなど事業拡大への投資を本格的に再開している。昨年には新規株式公開(IPO)を米証券取引委員会(SEC)に申請したもようだ。

 日本トイザらスは春に池袋店をサイド・バイ・サイドストアに改装した
 Gerald L.Storch マッキンゼー&カンパニーでパートナーとして小売・金融業界を担当した後、1993年米ターゲット・コーポレーション入社。食料品ビジネスを成長させ、同社副会長に。2006年米トイザラスの会長兼最高経営責任者(CEO)就任。09年にネット通販会社を買収するなど成長戦略を指揮。

MEMS海外撤退、住友精密社長に聞く、市況リスク、変動大きい―国内は合弁検討。

 住友精密工業が英子会社のMBO(経営陣が参加する買収)に応じ、MEMS(微小電子機械システム)製造装置の海外事業から撤退する。MEMSはスマートフォン(高機能携帯電話)に搭載される小型マイクロホンなどの微細加工部品で、その製造装置の受注は好調だった。同社はこの分野で世界首位で、連結売上高の3割を占める。そんな柱の事業をなぜ手放すのか。神永晋社長に聞いた。
 ――英子会社のSPPプロセス・テクノロジー・システムズ(SPTS)社を売却した経緯は。
 「足元ではスマートフォンに搭載するMEMSを加工する装置の受注は好調だ。ただ、MEMSはゲーム機に搭載する加速度センサーやインクジェットプリンター用部品など幅広い分野で使われており、市況の変化が激しく、リスクの見極めが難しい。こうした市況変化の大きい分野では顧客に装置が行き渡った途端、需要が大きく落ち込む特性もあり、先行きに慎重にならざるを得なかった」
 ――2009年に米社から成膜装置などを扱うMEMS装置部門を買収して事業を強化していたはずだった。
 「買収効果で海外の顧客が増え、連結に占めるMEMS製造装置の海外事業の割合が大きくなりすぎていた。このため海外事業は外国人経営者に任せた方がよいと考え、長年の信頼関係があるSPTS社の幹部のMBOの申し出に応じることにした」
 ――MEMS製造装置の国内事業はどうする。
 「(SPTS社の経営陣やファンドなどで構成する)新会社と9月までに国内で合弁会社を設立する方向で話を進めている。合弁会社がMEMS製造装置を国内メーカーに販売する。(住友精密としては)海外に向けていた力を国内に移すので、顧客に合った装置を開発するソリューション事業を今まで以上に強化する。合弁会社の売上高は30億円以上を目指す」
 ――売却で手にする125億円は何に使うのか。
 「財務バランスの改善と既存事業の強化に使う。航空機用部品では三菱航空機の『MRJ』や防衛省の新哨戒機『Pー1』など足回りシステム(航空機の脚など)の納入が見込まれており、設備の増強が必要になっていた。東日本大震災以降は液化天然ガス(LNG)気化装置も引き合いが増えている。既存事業の強化に資金が必要なことも今回の決断に至った理由の一つだ」
 ――5月に13年度の売上高を10年度比42%増の800億円とする中期計画を公表していた。
 「(今回の発表を受け)一時的には売上高や利益が減少する。だが、最終年度の売上高目標は変えない。航空機部品やLNGを含めた熱交換器、中国での環境関連事業などで補っていく。今秋までには新たな中計を発表できるだろう」
【図・写真】神永晋社長
 ▼MEMS 半導体の微細製造技術を応用し、シリコンや水晶などの基板にナノ(ナノは10億分の1)メートル単位の微細な加工を施した電子部品。微細化で電子機器の小型化に寄与する。任天堂のゲーム機「Wii」に内蔵される加速度センサーや、プリンターのヘッド部分のノズルなどだ。米IHSアイサプライによると、2014年の市場規模は09年比約8割増の108億1000万ドルに達する見込み。
 住友精密はMEMS製造装置の世界市場で7割を持つトップメーカー。同事業からの撤退を発表した翌日(6月28日)の株価は前日比19%安の610円まで下落。業界では「成長分野をなぜ売るのか」との声も多い。
 決断の最大の理由は「選択と集中」だ。同社にとって、航空機部品事業は1916年に始まり、熱交換器事業も50年以上の歴史がある基幹事業で、今後多額の投資が必要になる以上、MEMSの売却もやむをえなかった。MEMSは、市況変化に一喜一憂するビジネスで、他の事業とは異なった経営手法が求められることもあった。
 「かわいい子を手放す価値があると判断した」と話す神永社長の決断は一時的に投資家の失望を招いた。今後の焦点は、本人が「変えない」という売上高800億円の中期目標を達成する具体的な道筋だ。秋までに発表される新中計の中身が問われそうだ。

ボッシュ日本法人社長織田秀明さん―ガソリン車、省エネに力

 ▽…「日系自動車メーカーとの取引は日本国内に限った話ではない」。ボッシュ日本法人(東京・渋谷)の織田秀明社長は今後の戦略についてこう話す。親会社である独ボッシュの社員のうち欧州以外の地域の社員が3割を超えており、「世界中の様々な地域のニーズに合わせた製品を提供できる」とグローバル企業ならではの利点を説く。
 ▽…足元では電気自動車(EV)の市場が誕生しつつあるが、「今後も95%の自動車には内燃機関が残る」と分析する。自動車メーカー各社による低燃費車の開発競争が激化する中、「部品メーカーとしてガソリン車の省燃費技術に力を入れる必要がある」と意気込んでいた。

海外製部品の調達検討、スズキ4副社長会見、国内向けで。

 スズキは18日、浜松市内で今年6月に副社長に就いた田村実氏(63)、本田治氏(61)、鈴木俊宏氏(52)、原山保人氏(55)の就任会見を開いた。4氏は同社が4月に設けた経営全般の意思決定を手がける合議体のメンバーでもある。技術担当の本田氏は「海外製部品の国内向け調達も本格的に検討する」と述べ、調達改革を進めて収益性を高める目標を示した。
 記者会見での主なやり取りは以下の通り。
 ――鈴木修会長兼社長が経営の意思決定を一手に手がける体制を改める合議体発足から約3カ月。滑り出しの評価は。
 鈴木氏「少しずつ動き出した。経営の最終決定は4副社長が担い、鈴木会長からは『それでやれ』と言われるくらいの形が理想だ。従来のやり方を変えるのは簡単ではないが、『我々が動かすんだ』という思いで仕事を進めている」
 ――自動車各社は調達改革を進めている。
 本田氏「いち早く進出したインドでは調達先の開拓が進んでおり、東日本大震災直後には、ごく一部ながら国内向け部品をインドから運んだ。国内向け部品の海外調達を増やすことを本格的に検討する」
 ――独フォルクスワーゲン(VW)との提携の現状は。
 原山氏「VWは独立企業同士の『イコールパートナー』として提携しようと持ちかけてきたが、提携後に当社を関連会社に位置付けた。原点に戻り、対等の関係であることを確認したい。足元で進んでいるプロジェクトはない」
 ――東海地震に備えた拠点再配置の進行は。
 鈴木氏「海岸近くにあった二輪車の技術センターの移転はすでに決めた。浜岡原子力発電所(御前崎市)に近い工場の移転については状況を見極めながら進めたい」
 ――軽自動車の市場競争激化に対する対策は。
 田村氏「トヨタ自動車の参入で『戦国時代』を迎える。人材や店舗の質を高めたい」

パレスチナ開発投資会社会長に聞く、イスラエルとの中東和平交渉。

「合意なら大きく経済発展」 サービス・製造業の育成が課題
 パレスチナ開発投資会社(PADICO)のムニブ・マスリ会長は日本経済新聞の取材に応じ、イスラエルとパレスチナ自治政府の中東和平交渉について「合意に達すればパレスチナ自治区は大きな経済発展を遂げられる」との見通しを示した。一方で堅調な経済成長が続く自治区経済については「依然としてイスラエルの経済活動への妨害が多い」と話し、満足のいく企業活動ができないとの認識も示した。
 PADICOは通信や金融サービス、観光、不動産など自治区内の産業振興につながる幅広い分野に投資している。パレスチナ証券取引所はPADICOの子会社。ヨルダン川西岸のベツレヘムやガザ地区に高級ホテルも建設した。
 ヨルダン川西岸はここ数年、衝突が沈静化していることもあり昨年の経済成長率は7・6%と高い。ただマスリ会長は「資本は臆病で、この地域はリスクだらけだ」と述べ、投資マネーが本格的に流入していないとの見方を示した。2000年代初めの第2次インティファーダ(民衆蜂起)時には10%前後のマイナス成長が続き、経済の現状は「元の水準に戻っただけ」と言明。ビジネス環境は依然として厳しいという。
 ヨルダン川西岸では現在、ペルシャ湾岸諸国などに出稼ぎするパレスチナ人の海外送金で、住宅建設が増えている。こうした現象についてマスリ会長は「住宅建設は産業の振興にほとんどつながらず、生産的ではない」との見方を示した。
 仮に将来、パレスチナ国家が樹立されたとしても「パレスチナの経済を立て直すには時間がかかる。ガザの20~30%はイスラエルの侵攻で破壊された」と非難。「アラブ諸国には支援する責任がある」とも話した。今後のパレスチナ経済の課題として、雇用の創出につながるサービス産業や製造業などの育成を掲げた。
 今年9月に自治政府が目指すとしている国連総会のパレスチナ国家承認については将来の正式な国家樹立につながらなければ「再びインティファーダが起きるかもしれない」と警告。「イスラエルとパレスチナは隣人だ。協力すれば双方に利益がある」と訴えた。

 ムニブ・マスリ・パレスチナ開発投資会社(PADICO)会長 パレスチナの代表的実業家。米石油大手のフィリップス(現コノコフィリップス)を経て1970年、ヨルダン政府の公共事業相。93年にPADICO設立。ヨルダンを拠点とする金融機関アラブ・バンク、パレスチナ自治区の中央銀行にあたるパレスチナ金融機構の幹部も歴任。故アラファト議長の元側近で、自治政府首相を打診されたこともあるという。パレスチナ有数の富豪としても知られる。米テキサス州立スル・ロス大学で地質学の修士号を取得。

メガチップス会長進藤晶弘氏―成長期のマネジャー不足

 成長過程に入ったベンチャーが抱える共通の問題は、マネジャー(管理職、経営職)経験のない人がマネジャーになることによって起こる“組織運営の問題”だ。
 例えば、日常業務で部下にうまく仕事をさせる、権限委譲をうまくやる、部下の管理を行う、他部門と協働して仕事の流れを管理するなど、大企業であれば係長や課長レベルの人が発揮しなければならないスキルを身につけた人材が乏しいことに起因する。
 往々にして、ベンチャーでは大企業で社員であった人が経営者や管理職となって組織運営を担うことが多く、そのような場合、マネジメント経験を持たないがために、多くの判断を創業者に頼って負担を増やし、組織活動のスピードを阻害する。
 一方、任せたままでフォローを怠れば、その人の関心の強い仕事に偏り的確な報告もおろそかになって、全体把握が困難になる。
 大企業におけるマネジャーは経験を着実に積み重ねて育っていくが、ベンチャーでは育成にかける時間もなく、未熟なままで重要な地位に就かざるを得ない。会社の成長に人材の成長が伴わないからだが、安易にマネジャー不足を中途採用で解決しようとすると“副作用”に苦しむ。
 協力体制の不備、組織の壁、そして創業文化と移入文化の衝突――。中途入社者と創業メンバーが持っている価値観の違いから社内に葛藤が生まれ、何をするにしても内向きにエネルギーを割かなければならない。
 私の体験で恐縮だが、メガチップス創業3年後に会社が急成長し、全体に目が行き届かなくなって創業メンバーに組織運営を任せたが“組織運営の問題”に遭遇した。さらに自らのあせりもあって、マネジャーを中途採用して解決を試みたが、創業文化の変化にも直面した。
 冷静に考えてみれば、私の場合は大企業に約27年間勤め、係長から事業部長までを経験し、それぞれのマネジメント階層で求められる能力を習得することができたが、マネジャー経験のない人にとって、一気に階層を飛び越えてマネジメントすることは至極難しいことなのだ。一筋に専門分野の能力を磨いてきた人がマネジャーとしての能力をつけるとなると、スキルの習得もさることながら意識や精神面の強化も不可欠となる。
 成長期に入るベンチャーのマネジャー不足は、避けて通れない共通の課題。起業家は、幹部が正しいマネジメントスキルを身につけるにはある程度の時間が必要であることを理解し、その育成環境を整えることが大切だ。
 1963年愛媛大工卒、三菱電機入社。79年リコー入社。半導体研究所所長などを経て90年にLSI開発のメガチップス創業、社長に就任。2000年から現職。

車載・無線に集中投資、JVCケンウッド不破社長に聞く―成長軌道へ開発も短縮。

 JVC・ケンウッド・ホールディングスが経営再建に向けた取り組みを急いでいる。2008年に日本ビクターとケンウッドが統合して以来、リストラ続きだった経営に終止符を打ち、再び成長に向けた絵を描くことができるのか。5月に社長に就任した不破久温社長に、今後の経営方針などを聞いた。
 ――就任から2カ月たつが、現状の課題認識はどうか。
 「再建途上という認識は変わらない。財務基盤はある程度回復してきたが、再建の過程で多くのリストラを断行してきた。4月時点で前年に比べ全体の約15%にあたる1100人の人員が減った。事業としても民生機器分野のテレビなどディスプレーモニター事業は国内から撤退するなど、全体を縮めてきた。私は外部から来た人間だが、これだけ思い切ったリストラをした事例をほとんど知らない」
 「さらに、苦戦していた民生機器事業でビデオカメラやオーディオなど、残った事業も決してバラ色なわけではない。今後はCカーブを描くように、事業を再び成長軌道に乗せる必要があるが、逆風のなかのスタートだ」
 ――成長には何が必要か。
 「今進めているのは、技術の『ふ分け作戦』だ。大規模なリストラを実行した結果、技術者などの開発リソースが十分手元にないのが現状だ。そんななかで技術者の持つ技能をマップ化する作業を進めている。例えば3次元(3D)動画を生み出す技術としてはすばらしいものを持っている。活用できる技術を丁寧に洗い出し、製品開発につなげていく」
 「スピード感も大事だ。これまで特に民生機器分野では開発期間が長期化してしまう課題があった。開発から発売までの期間は平均して14カ月。これでは市場の変化についていけない。12カ月など開発期間を短くするよう指示を出した。先回り作戦とも言えるかもしれないが、13年にかけた製品を先回りして作りだそうとしている」
 ――具体的に注力していく分野は。
 「喫緊の課題である民生機器分野以外では、カーナビゲーションシステムなどのカーエレクトロニクス分野と無線機器分野があり、これらは強い商品群もある。カーナビ事業で中国に販売網や製造拠点を持つシンワインターナショナルホールディングスを買収した。日本市場で小さな手を打つよりも、海外で積極的に事業を進めていきたい」
 「特にカーナビゲーションシステムも有望な分野だ。自動車メーカーは通信機能を通じてビジネスを大きく広げられる可能性があり、その通信分野を担うのがカーナビだからだ。店舗に自動車で立ち寄ればポイントが付与される、ドライブスルーを様々な店舗でできるようにする。ほかにもカーナビが安全な走行を補助することもできるかもしれない」
 ――赤字の続くビデオカメラ事業をどうテコ入れするのか。
 「3D動画やフルハイビジョン動画など、中高級機種の開発に集中し、低価格機種専用の開発は行わない。技術者が大幅に減ったなかで、低価格帯の機種に開発リソースを振り分けていくことは難しい。さらに、ビデオカメラという枠を超えた製品開発も積極的に進めたい。例えば家のなかで人の安全を見守るセキュリティー分野に向けた製品開発などだ。放送局向けの業務用カメラも引き続き注力していく」
 ――今後の投資計画をどのような方針で考えているか。
 「カーエレ分野と無線機器を含む業務用分野に集中投資していきたい。11年度の投資総額のうち、70~75%程度を両分野にあてていく方針だ」

米エヌビディアCEOに聞く、「クアッドコア」年内にも搭載品。

タブレット用MPUで頭角 「基盤ソフトが重要」
 工場を持たないファブレス半導体メーカーで、パソコン向け画像処理半導体(GPU)が主力だった米エヌビディアが、多機能携帯端末(タブレット)用のMPU(超小型演算処理装置)でシェアを拡大している。同社のジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)に、IT(情報技術)端末市場の動向や今後の戦略などを聞いた。
 ――タブレット、スマートフォン(高機能携帯電話)市場が急拡大し、パソコンが中心だったIT端末市場が大きく変化している。
 「別々の市場だったパソコンとスマートフォンの垣根がなくなりつつある。韓国サムスン電子がタブレットに参入し、米デルや台湾の宏碁(エイサー)、華碩電脳(アスース)はスマートフォンを作り始めた。今後は携帯電話機メーカーとパソコンメーカーがモバイルコンピューターの会社になる」
 ――エヌビディアの「テグラ2」はタブレット用のMPUに採用されるケースが急増している。
 「もともとPC向けのGPUに強みがあり(1チップに複数機能を搭載した)SoC(システムオンチップ)のテグラ2も高い処理速度が特徴だ」
 「テグラ2には英アーム社が設計したCPU(中央演算処理装置)を採用、モバイルコンピューター用のMPUでは世界で初めてCPUを2つ搭載した『デュアルコア』を実現した。次世代のテグラはCPUを4つ搭載したクアッドコアにする。年末までにクアッドコアを搭載した製品の発売を期待している」
 ――米マイクロソフト(MS)が英アームのCPUに対応することを表明し、MSの基本ソフト(OS)である「ウィンドウズ」と米インテルのMPUが業界標準となる「ウィンテル」が崩れようとしている。
 「アームを使ったMPUでウィンドウズを動かすことができれば、テグラがパソコンでも使える。大きなチャンスだ。今後はテグラのラインアップを拡充し、タブレット、スマートフォン、パソコンのすべてのモバイルコンピューターで使えるようにしたい」
 ――モバイルコンピューターのMPUを巡る競争は今後どうなるか。
 「携帯電話機向けで大きなシェアを持つ米クアルコムと、パソコン向けが強い米インテル、そしてタブレットで強いエヌビディアの三つどもえの争いになる」
 「エヌビディアは携帯電話の通信機能などを制御する『ベースバンド』と呼ばれる半導体に強い英アイセラを買収した。スマートフォンではMPUとともにベースバンドが重要。アイセラ買収で米クアルコムと同様、MPUとベースバンドを併せ持つ体制ができた」
 ――日本の半導体メーカーをどうみる。
 「日本勢の大きな問題は、製造に重点を置いてきたため基盤ソフト(ミドルウエア)が弱いことだ。今の半導体はSoCをどう作るか、つまりミドルウエアをどうするかが重要。実際の製造はファウンドリー(半導体受託生産会社)に任せればいい」
 「エヌビディアの社員6500人はほとんどが技術者だが、ハードウエアやチップ開発に携わるのは1500人ほど。ミドルウエア開発には3500人がかかわっている。日本のメーカーもミドルウエアを強化することが非常に重要だ」

 台湾南部の台南出身。5歳でタイに渡り9歳の時に米国に。84年オレゴン州立大電気工学理学卒、92年スタンフォード大で電気工学修士課程修

NEC社長遠藤信博氏(上)破綻味わい、視野広がる

  NECの遠藤信博社長(57)は東工大で電磁波の研究に没頭。大学に残るかどうか悩んだ末、衛星通信に力を入れていたNECに入社する。
 研究所に行けるとばかり思っていたら、衛星通信のアンテナ開発を担当する事業部に配属されました。最初の関門が電話。大学の研究室は秘書が取り次いでくれるけど、会社だと新入社員が最初に出なければならない。見ず知らずの人といきなり話すことが本当に嫌で、毎日大学に戻ることばかり考えてました。
  前向きな性格が幸いし、職場に慣れていく。
 次第に「仕事は結構面白い」と感じるようになりました。目の前にある課題を何とかせねば、と考えるタイプです。発注書の書き方、製品仕様の策定など「こうやったらもっと効率的なのに」と興味がわいてきました。「一つ一つ目の前の課題を解決するために最大限、努力することが大切だ」という思いは、社長になった今も変わりません。
  国内で通信衛星を活用した可搬式電話端末の開発などを経験する。担当部長だった1997年、英現地法人に出向。世界中で使える衛星携帯電話サービスのプロジェクトに加わる。
 インマルサットと、47の通信会社が出資した英ICOグローバルコミュニケーションズのプロジェクトです。高度約1万キロメートルの軌道上に飛ばした12個の衛星を利用し、世界中で使える手のひら大の衛星携帯電話を実現する国際プロジェクトでした。NECは地上システムと端末を受注し、私は端末のプロジェクトリーダーを務めました。
  通信技術の進歩は遠藤氏の予想を超えていた。
 デジタル携帯電話の欧州統一規格「GSM」が世界中に広がります。チップセットが進化し端末が小型化したことも追い風でした。アジアなど欧州以外でも通信会社同士が組んで国際ローミング(相互乗り入れ)サービスが普及し、普通の携帯電話で全世界をカバーできるようになりました。
  その余波で、ICOは99年8月に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請して経営破綻する。
 順調に事業資金が集まっていたのに、通信会社が急に「投資価値なし」と判断したようです。入社して初めて経験する大きな挫折で、本当にショックでした。当時はつぶれた理由がよく分かりませんでしたが、環境変化を読み切れなかったということでしょう。最終的に普通の携帯電話を使って世界中で通話できるようになると予想はしていましたが、ここまで一気に行くとは思わなかった。
 衛星携帯電話サービスは「世界中を旅するビジネスマン」が使うことを想定しましたが、「同じ端末を世界で使える」利便性が勝ったわけです。顧客層も絞り過ぎた。ビジネスは貢献度が大きいほどお客様に受け入れられやすい。これを機に「この事業は世の中に大いに役立つか」「独りよがりになっていないか」と自問する癖がつきました。
 えんどう・のぶひろ 81年(昭56年)東工大大学院理工学研究科博士課程修了(工学博士)、NEC入社。無線通信機器の開発に長く携わる。03年モバイルワイヤレス事業部長、06年執行役員、09年取締役執行役員常務。10年から現職。神奈川県出身。57歳。

日本サブウェイ社長伊藤彰氏―消費者の健康志向に応える食を

 ▽…高齢化の進展を受け、「食生活を見直して医療費を削減しようとする消費者はさらに増える」と話すのはサンドイッチチェーン、日本サブウェイ(東京・港)の伊藤彰社長。同社の既存店売上高は6月まで14カ月連続で前年同月を上回り続けている。他のファストフードに比べても価格は安くないが、野菜をたっぷり食べられると評判がいい。
 ▽…「日本の農業は世界で勝負できる」と全国の農家に呼びかけ、栽培手法にこだわった独自仕様のレタス生産にも乗り出した。通常より栄養成分を豊富にしてあり、食べれば免疫力を高められるという。今夏からメニューに使うほか、将来的には「海外のサブウェイにも供給したい」と意気込んでいた。

日本企業の収益は―野村ホールディングス会長古賀信行氏

 東日本大震災から4カ月余り。政治の迷走は止まらず、株式市場も不安定な展開だ。日本企業は円高に加え電力不足という制約条件も課せられ、産業の空洞化が加速する懸念も強まっている。野村ホールディングスの古賀信行会長に経済や市場の先行きを聞いた。
40%近く増益に
 ――景気の持ち直しを指摘する声が増えてきましたね。
 「リーマン・ショックの後もそうだったが、どすんと落ちた生産活動や株式相場が、その反動でV字型に回復してくるのは当然。特に今回は、部品や素材の供給網の回復が予想以上に早い。このペースが年内いっぱい続き、ふり返れば回復の力強さが実感できる年になるのではないか」
 「われわれの予想では、今年度上期の主要400社の経常利益は、前年同期に比べて約30%減る。ところが下期は40%近く増え、さらに来年度上期は40%強の増益が続く見通しだ。自動車が供給網をいち早く立て直し、生産を正常化させることが、企業収益の回復を引っ張る」
 ――日本企業の業績は海外市場の動向に大きく左右されます。
 「最も気になるのは中国だ。金融の引き締めにより、一部の不動産価格が下がり始めた。とはいえ、景気の調整があったとしても一時的なものと考える。1990年前後に不動産バブルの隆盛と崩壊を経験した日本人には、当時の状況と今の中国を重ねようとする心情もある。しかし、それは違うだろう」
 「日本の不動産バブルは、こんな土地の値段がどうしてこれほど急騰するのかと思うような例が多かった。実需の裏づけを欠いた金融ゲームだ。中国の不動産市場も過熱しているのだろうが、沿海部を中心に実需も強い。かつての日本のような空前のバブルが発生しているとは思わない」
 ――円高や電力不足への懸念は。
 「為替やエネルギーに関する政策が迷走しすぎている。過去にも『事業会社が本社や生産拠点を海外に移す』といった議論が繰り返された。今では聞きあきたオオカミ少年の警告のように受けとめる向きもある。けれども、今回ばかりは企業の我慢が臨界点を超えるかもしれない」
 「国内に置いてきた開発拠点をあえて外に出す、といった動きが出るような気がする。需要は新興国を中心とする海外で膨らんでいくのだから、そこで一貫して開発から生産まで手がける方が効率的と考える企業も、少なくないだろう」
政策不透明嫌う
 ――投資家は今の日本をどのように見ているのでしょうか。
 「大事なことは、先が見通せるという前提条件だ。合理的に判断した結果ならば、仮に損が出ても投資家は納得する。今の日本はエネルギー政策を中心に不確実性が強まっており、合理的な判断をしにくい」
 「国を開く雰囲気が弱まっていることも、日本への投資が盛り上がらない一因だろう。日本企業が海外企業を買う『内―外』のM&A(合併・買収)は活発だが、海外から日本への『外―内』のM&Aは少ない。技術やノウハウを守るという意識が強すぎるために、外資を遠ざける結果になっているのではないか」
 ――経済の復旧・復興に金融が果たす役割は。
 「インフラファンドなどの形で、官民一体となってお金を生かす仕組みづくりなどが考えられる。しかし、それも復興の政策がはっきりしていることが大前提。官の意思がしっかり示されないと、国内はもちろん、海外からお金を呼び込むことも難しい」