2011年7月19日火曜日

MEMS海外撤退、住友精密社長に聞く、市況リスク、変動大きい―国内は合弁検討。

 住友精密工業が英子会社のMBO(経営陣が参加する買収)に応じ、MEMS(微小電子機械システム)製造装置の海外事業から撤退する。MEMSはスマートフォン(高機能携帯電話)に搭載される小型マイクロホンなどの微細加工部品で、その製造装置の受注は好調だった。同社はこの分野で世界首位で、連結売上高の3割を占める。そんな柱の事業をなぜ手放すのか。神永晋社長に聞いた。
 ――英子会社のSPPプロセス・テクノロジー・システムズ(SPTS)社を売却した経緯は。
 「足元ではスマートフォンに搭載するMEMSを加工する装置の受注は好調だ。ただ、MEMSはゲーム機に搭載する加速度センサーやインクジェットプリンター用部品など幅広い分野で使われており、市況の変化が激しく、リスクの見極めが難しい。こうした市況変化の大きい分野では顧客に装置が行き渡った途端、需要が大きく落ち込む特性もあり、先行きに慎重にならざるを得なかった」
 ――2009年に米社から成膜装置などを扱うMEMS装置部門を買収して事業を強化していたはずだった。
 「買収効果で海外の顧客が増え、連結に占めるMEMS製造装置の海外事業の割合が大きくなりすぎていた。このため海外事業は外国人経営者に任せた方がよいと考え、長年の信頼関係があるSPTS社の幹部のMBOの申し出に応じることにした」
 ――MEMS製造装置の国内事業はどうする。
 「(SPTS社の経営陣やファンドなどで構成する)新会社と9月までに国内で合弁会社を設立する方向で話を進めている。合弁会社がMEMS製造装置を国内メーカーに販売する。(住友精密としては)海外に向けていた力を国内に移すので、顧客に合った装置を開発するソリューション事業を今まで以上に強化する。合弁会社の売上高は30億円以上を目指す」
 ――売却で手にする125億円は何に使うのか。
 「財務バランスの改善と既存事業の強化に使う。航空機用部品では三菱航空機の『MRJ』や防衛省の新哨戒機『Pー1』など足回りシステム(航空機の脚など)の納入が見込まれており、設備の増強が必要になっていた。東日本大震災以降は液化天然ガス(LNG)気化装置も引き合いが増えている。既存事業の強化に資金が必要なことも今回の決断に至った理由の一つだ」
 ――5月に13年度の売上高を10年度比42%増の800億円とする中期計画を公表していた。
 「(今回の発表を受け)一時的には売上高や利益が減少する。だが、最終年度の売上高目標は変えない。航空機部品やLNGを含めた熱交換器、中国での環境関連事業などで補っていく。今秋までには新たな中計を発表できるだろう」
【図・写真】神永晋社長
 ▼MEMS 半導体の微細製造技術を応用し、シリコンや水晶などの基板にナノ(ナノは10億分の1)メートル単位の微細な加工を施した電子部品。微細化で電子機器の小型化に寄与する。任天堂のゲーム機「Wii」に内蔵される加速度センサーや、プリンターのヘッド部分のノズルなどだ。米IHSアイサプライによると、2014年の市場規模は09年比約8割増の108億1000万ドルに達する見込み。
 住友精密はMEMS製造装置の世界市場で7割を持つトップメーカー。同事業からの撤退を発表した翌日(6月28日)の株価は前日比19%安の610円まで下落。業界では「成長分野をなぜ売るのか」との声も多い。
 決断の最大の理由は「選択と集中」だ。同社にとって、航空機部品事業は1916年に始まり、熱交換器事業も50年以上の歴史がある基幹事業で、今後多額の投資が必要になる以上、MEMSの売却もやむをえなかった。MEMSは、市況変化に一喜一憂するビジネスで、他の事業とは異なった経営手法が求められることもあった。
 「かわいい子を手放す価値があると判断した」と話す神永社長の決断は一時的に投資家の失望を招いた。今後の焦点は、本人が「変えない」という売上高800億円の中期目標を達成する具体的な道筋だ。秋までに発表される新中計の中身が問われそうだ。

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