2015年4月17日金曜日

アクロクエストテクノロジー寺田大典氏――ミャンマーの携帯利用、格安SIM発売で急増

アクロクエストテクノロジー ミャンマーブランチマネージャ 寺田大典氏
人の動きも調査可能に
 「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるミャンマーに日本企業が続々と進出している。ソフトウエア開発のアクロクエストテクノロジー(横浜市、新免流社長)も2012年に支社を設置。スマートフォン(スマホ)利用者の協力を得て、時間帯や曜日による人の動きである流動人口を最大都市ヤンゴンで調べた。寺田大典ミャンマー支社長に携帯電話の普及状況や調査の結果を聞いた。
 ――どのような調査を実施したのですか。
 「当社のミャンマー現地法人は、日本からのソフト開発業務の受託と、ミャンマーの企業向けソフトの開発・販売を担当している。それとは別の新事業としてミャンマー向けのスマホアプリを開発し、そのアプリを使ってヤンゴンにおける携帯電話網の通信品質や流動人口を調査した」
 「14年12月にアプリの配布を開始した。福引ができるアプリで、利用者から統計のための情報を収集することをあらかじめ断っている。6500人がダウンロードし、およそ4000人が頻繁に利用している」
 ――調査のもとになる現地の携帯電話サービスの状況は。
 「携帯電話の普及率を16年までに80%に高める目標のもと、政府は13年に国際入札を実施し、ノルウェーのテレノールとカタールのウーレドゥーの2社に免許を交付した。それまで市場を独占してきた国営ミャンマー郵電公社(MPT)は14年7月にKDDIと住友商事のグループと共同事業運営契約を結んだ」
 ――利用者は増えていますか。
 「14年前半まではSIMカードの価格が数万円だったが、3陣営が14年後半に相次いで格安SIMカードを発売した。100~150円程度で入手できるようになり、街中で見かける携帯電話利用者が急激に増加した。端末は従来型携帯電話機が1000~2000円、スマホが3万~4万円程度で売られている」
 ――サービスの質はどうですか。
 「実施した調査では、端末の位置と通信速度、通信事業者などの情報を収集している。各事業者がヤンゴン全体を面的にカバーできる状況になったものの、通信品質の改善が必要なエリアがどの事業者にも残っていることが分かった」
 ――人の動きも見えるそうですね。
 「どの場所に何人のユーザーがいるかを一定時間ごとに収集し、蓄積している。時間帯や曜日などに応じて、地点ごとの人の数がどのように変わるのかが分かる。インフラ整備や店舗出店の計画を練るのに使える」
 「休みの日なのにショッピングセンター付近に人が集まらないことがあった。その付近の時間的な変化を調べると、夕方から夜にかけて急に人出が増えていた。特に若い世代は自動車の保有者が少ないため、暑い日の日中には外出しないと言われる。それを裏付けるデータが得られた」
 ――平日の通勤ではどのように動きますか。
 「ミャンマーの中心街はオフィスと住居が混在するビルが多い。中心街における日中と夜間の人数の差はそれほど大きくないと想像していたが、夜間人口は中心街からバスで30~40分ほどかかる郊外で急激に増えることが分かった」
 ――今後はどのような調査をしますか。
 「データを取り始めた12月から今までは乾期だった。5月から始まる雨期には冠水が頻繁に発生する。これから取得するデータを使い、雨期と乾期の人の動きの変化も見つけていきたい」

設備・システム投資――DMG森精機森雅彦氏(社長)、工作機械、シェア争い激化。

 ――工作機械の事業環境をどうみていますか。
 「業界団体の日本工作機械工業会の加盟各社の合計で考えると、2015年の業界受注は1兆5千億~1兆6千億円(14年は1兆5093億円)になると思う。昨年並みか少し増えるイメージだ。オークマ、ヤマザキマザックなど他社とのシェア争いが厳しくなるだろう」
 「地域別では景気が上向く米国の需要が旺盛で欧州も悪くない。日本は国の補助金効果で古い設備の更新需要が見込める。世界最大の工作機械市場である中国でも工場などの生産性を高めたい顧客向けに、性能が良い日本製の工作機械の販売が増えるとみている」
 ――持ち分法適用の独DMG MORI SEIKI(旧ギルデマイスター)を連結子会社化する影響について教えてください。
 「子会社化により、今期の連結売上高は3千億円規模(前期は森精機のみで推定1700億円強)になるだろう。子会社に合わせるために、本体の決算期を3月から12月に変更し、今期(15年4~12月期)は9カ月の変則決算になる。12カ月に換算すると4500億円程度と世界最大の工作機械メーカーになる」
 「既に独DMG MORIと販売・サービス拠点を統合し、営業面は連携が進んでいる。今後は生産や原材料の調達で協業を一段と深めるほか、研究開発費やマーケティング費用の共通化でコストを削減する。DMG森精機の売上高営業利益率は8%(前期推定)だが、まずは10%、中長期で15%を目指す」
 ――企業統治の議論も盛んです。経営体制はどう変えていきますか。
 「6月の株主総会で社外取締役を導入する。工学系の大学関係者と家電メーカーの役員経験者の2人を起用する予定だ。いずれ独DMG MORIのルーディガー・カピッツァ最高経営責任者(CEO)には、DMG森精機の会長を兼務してもらうつもりだ」

大正銀、トモニと統合発表、「広域金融、最良の選択肢」、吉田社長、「10年後の経営考えた」。

 香川銀行と徳島銀行を傘下に持つトモニホールディングスと大正銀行は10日、2016年4月に経営統合すると正式に発表した。トモニHDの柿内慎市会長と大正銀行の吉田雅昭社長は大阪市内で記者会見し、相乗効果を高めるため大正銀とトモニ傘下2行の合併も含めたグループ再編を検討する方針を示した。会見での一問一答は以下の通り。
 ――統合の背景は。
 柿内氏「四国では人口減少が今後加速度的に起こる。(トモニは)地元での貸し出しシェアが高い分、落ち込みも響く。大阪地区で成長を進めるために我々から(統合を)持ちかけた。まだ決めていないが、徳島銀、香川銀、大正銀が合併すれば相乗効果は大きくなる。合併を含め再編を検討していく」
 吉田氏「地域に密着した金融機能を一層発揮するためには、東瀬戸内海圏にまたがる広域金融機関の一員となるのが最良の選択肢と判断した。両社の基幹システムが共通というベースがあり、トモニの資金調達力にも魅力を感じた」
 ――大正銀はこれまでも統合を考えていたのか。
 吉田氏「他行と話があったかなかったかは一切言わない。私の本音としては、大正銀は単体でも十分生き残っていけると思っている。ただ、金融環境が変化し、10年後どうなるか分からない状況では経営の体力を付ける必要があると考えた」
 ――大阪でどのような戦略を取るか。顧客にとってのメリットは。
 柿内氏「大正銀の店舗網や顧客を生かし、互いの取引先のビジネスマッチングに取り組む。(トモニの)中小企業への融資ノウハウを大正銀に移植し、大阪と地方とのつながりを強くする。企業への貸出金利が下がることはないと思う。出店戦略もこれから協議するテーマになる」
 ――関西のポテンシャルについての見方は。
 柿内氏「関西全体としては落ちつつあるが、地方都市に比べれば高い。大阪にポテンシャルがあるからこそ、周辺府県から進出し、競争が激しくなっている。徳島銀にとってなじみがある製造業や医療・介護分野は行員も営業で訪問しやすい」
 ――統合のコストメリットをどうみる。
 柿内氏「ただちに大きなメリットがあるわけではない。基幹システムは共通だが、(約100ある)サブシステムの一本化に4~5年程度かかる。重複する店舗は少ないため、統廃合や人員整理は一切考えていない」

「MRJ納入に影響ない」、三菱航空機社長、初飛行延期で。

三菱重工業は10日、子会社の三菱航空機(愛知県豊山町)が開発する小型ジェット旅客機「MRJ」の初飛行を今年9~10月に延期すると発表した。当初は5月末に実施する予定だった。初飛行前に機体の改良を進め、開発の効率化を図る。2017年の全日本空輸への初納入の時期については「遅れはない」としている。
 開発スケジュールの延期は4回目。愛知県春日井市で記者会見した三菱重工の鯨井洋一副社長は「順調に強度試験などを進めており、作業は佳境を迎えている」とした。
 初飛行の延期は開発計画の変更が理由だ。航空機開発の過程では、地上試験や飛行試験を繰り返し、改善を重ねて機体やソフトウエアの完成度を高める。MRJは当初、初飛行の前後に改修期間を設けていたが、初飛行前に集約した。「繰り返しの確認作業がなくなる」(三菱航空機)。
 これまでの計画では、6月にパリで開かれる航空ショーの前に初飛行を終える予定だった。PRの機会である初飛行が見本市の後ろにずれ込み、受注活動への悪影響を懸念する声もあるが、三菱航空機の森本浩通社長は「納入(時期)に影響を及ぼすわけでなく、販売戦略・営業計画に大きな影響が出るとは考えていない」と話した。
 この日の記者会見では、三菱重工が愛知県営名古屋空港(同県豊山町)近くに建設中のMRJ用の新工場の概要も公表。幅150メートル、長さ135メートル、高さ22メートルの大きさで、5階建てのオフィス棟も併設する。建屋内には2つのラインを設け、主翼と胴体を結合させたり、装備品を搭載して機能試験を行ったりする。月産能力は10機で、来年春に完成する予定。一般客向けの見学コースや航空機製造の体験スペースなども設ける。

塩野義製薬社長手代木功氏――危機に攻めて荒療治、特許切れ前、買収に活路

 ドル箱の高脂血症薬「クレストール」の特許切れが2016年から始まる塩野義製薬。一部アナリストの間には経営危機を予想する向きもあったが大型M&A(合併・買収)や契約変更など矢継ぎ早に新たなカードを繰り出し、特許切れの「クリフ(崖)」を緩やかな「ヒル(丘)」に変えた。仕掛け人は社長の手代木功(55)だ。
 2008年9月。世界をあっと驚かすニュースが流れた。塩野義製薬が米中堅製薬のサイエル・ファーマ(現シオノギ・インク)を1500億円で買収するという発表をしたからだ。当時の塩野義の売上高は2000億円程度。決断したのは社長に就任してまだ半年の手代木だった。
 創業家一族から社長が出ることが多かった塩野義だが、手代木は非同族。しかも年齢は当時48歳だ。「何ができる」。そんな前評判だったが、あっさりと裏切ってみせた。
 巨費を投じた大型買収は、ほぼ無借金だった塩野義の経営を180度転換させた。社内やOBからも批判はあったが手代木の主張は明確だった。「海外にこそ活路がある。これで米国へのアーム(腕)を得た」
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 長年、塩野義は海外販売網の構築に手間取り、それが泣きどころでもあった。高脂血症薬「クレストール」も良薬だが海外に販売ルートを持たないために英アストラゼネカ社など他社に供与してきた。このため実入りはロイヤルティー収入にとどまり、これが成長の足かせとなっていた。
 手代木は特許クリフという危機を逆手にとってこれまでの弱点を克服するための攻めの転換点とした。会長の塩野元三(68)も手代木の経営判断を支持。「やり過ぎ」「勇み足」といった社内外からの批判の封じに回った。
 サイエル社は最初は営業赤字が続いたが、塩野義が自社で開発した婦人科領域の治療薬「オスフィーナ」を米国市場に流し込む役割を見事に果たした。手代木の狙いは的中した。
 1000億円単位の大型M&Aと並んで手代木が力量を見せつけたのはエイズウイルス(HIV)薬を一緒に開発していた英ViiVヘルスケア社との契約の見直しだ。共同開発だった契約を見直しViiVに商業化権を全面的に移管、対価として10%の株式を取得する形に切り替えた。名を捨て実をとった。
 もう一つ手代木流のしたたかさが際だったのが英アストラゼネカとの間の契約変更だ。塩野義が受け取るロイヤルティーの料率を思い切って引き下げる代わりに、ロイヤルティーを受け取る期間を当初の16年から23年にまで引き延ばした。
 手代木は1982年に入社、国内で医薬品開発に携わった後、2度の米国勤務を経験した。英語でのギリギリの交渉術を磨き、帰国後は経営企画部長も兼任し第1次中期経営計画の策定を主導した。
 子会社や植物薬品などを切り離し、さらに600人規模の希望退職も実施した。代わりに医療用医薬品に経営資源を集約、創薬型の企業として生き残る道筋をつけてきた。
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 矢継ぎ早に新たな手を繰り出す手代木。背景にあるのは危機感だ。そのために前例も簡単に覆す。
 昨年3月の中期経営計画の作り直しはその典型例だ。これまで中計と言えば5年が決まりだったが毎年、3年分の計画を公表する「ローリング方式」に切り替えた。当時、走っていた中計は最終年度までまだ1年残していたが、途中で打ち切り新計画に変えた。
 こうした手代木のスピード感を今のところ市場も好感している。昨年3月時点で2000円前後だった株価はすでに倍近い4000円台まで上昇している。
 ただ、手代木もいずれ退場する。その時に備え、早くも次代のリーダー育成にも着手している。毎年40代半ばから50代前半の幹部候補7人前後を選び1年かけて教育する『社長塾』のほか執行役員による『経営塾』も立ち上げた。10年で70人の幹部候補生を育てるという

ユニクロ「脱・価格経営」、ファストリ柳井会長、事業見直し急ぐ――海外、米国立て直し。

 ファーストリテイリングは海外事業を今後の成長エンジンと位置づける。今秋には海外の店舗数が日本を上回る見込みで、グレーターチャイナ(中国、台湾、香港)を中心に出店。国内の高付加価値路線を支える上でも海外の成長は不可欠だ。
  我々の最終目標は、進出したそれぞれの市場でナンバーワンになること。日本とグレーターチャイナ、韓国では実現した。東南アジアや欧米でも存在感は確実に高まっている
 ユニクロの海外出店は2015年8月期に200店を計画し、8月末に818店舗となる見込み。8月末に844店舗となる見通しの国内店舗数に迫り、秋には海外が国内を超える。
 15年8月期のユニクロ事業の売上高はグレーターチャイナで3千億円、韓国で1千億円に迫るという。8千億円をうかがう国内に次ぐ柱に育ってきた。柳井氏は「世界一の市場である米国を最優先にする」とこのほど表明。「北米で3年後に売上高1千億、営業利益100億円を目指す」という。主戦場は国内から海外へ移ってきた。
  事業経営をしていると毎日世界中でいろんな問題が起きていて、それを愚直に1点ずつ、つぶしていく。そういう情熱がなくなった時が一番の死角だろうと思う
 ファストリの15年8月期の連結業績は売上高が1兆6500億円、営業利益は2000億円と、いずれも過去最高となる見通し。中国や韓国のユニクロ事業の好調がけん引する。国内ユニクロ事業も既存店売上高は前期比6%増を見込み、衣料品の需要が落ち込む中で強さが際立っている。
 ただ米国のユニクロ事業はまだ赤字で、国内ユニクロ事業も原価上昇が響き営業利益は伸び悩む見込み。「2020年度に連結売上高5兆円」という目標実現には、成長のスピードをさらに速める必要がある。
  ジーユーは「ファッションと低価格のブランド」として確立したと思う。それ以外のブランドも最短で10億ドルのビジネスに育てたい
 低価格衣料品店の「ジーユー」は14年8月期に売上高が1000億円を超え、現在は売上高3000億円、営業利益300億円を目指している。3月に国内300店舗を超え、なお出店余地は大きい。海外も中国・上海と台湾を足がかりに、欧米への出店をうかがう。今後は「ZARA」や「H&M」といった外資ファストファッションと競える体制作りが課題だ。
 他のブランドは苦戦している。米高級ジーンズの「Jブランド」は赤字に苦しみ、仏婦人服「コントワー・デ・コトニエ」や仏婦人肌着「プリンセス タム・タム」も当初計画ほどは伸びていない。15年中にもファストリやユニクロと業務システム全般を共通にし、あらためて底上げを目指す考えだ。
  今後うちの経営やっていく人間には、絶対僕のスタイルにするなよって言っている。チームで会社を発展できる人が我々の会社を継ぐと思う。スケジュールは未定
 「折り込みチラシの細部まで口を出す」という柳井氏も66歳。後継育成も待ったなしの課題だ。柳井氏は「チーム経営」を掲げ、現在約50人の役員を将来200人に増やす考え。1月から約50人の若手社員を選抜し育てる研修を始めた。各自に執行役員以上が指導役として付き、3年間かけて育てていくという。

ユニクロ「脱・価格経営」、ファストリ柳井会長、事業見直し急ぐ、国内、「個店経営」磨く。

 ファーストリテイリングが主力であるユニクロ事業の見直しを急いでいる。国内は2年連続の値上げに踏み切る。画一的な店づくりも地域密着型に変え、デフレ型経営との決別を目指す。「時代に適合して一番良い業態、売り方、商品をやってきた」とする柳井正会長社長の最近の発言から、「脱・価格経営」の成否を探る。
  いままでユニクロは「チェーンストア」だったが、今後日本の市場が縮むなら「個店経営」に徹しないといけない
 3月下旬に開いた「札幌エスタ店」(札幌市)は子供の多い立地にあわせ子供服売り場を広くし、ベビーカーごと入れる試着室も設けた。27日午前9時の開店時には子連れ客など約1000人が殺到。だが通路の幅が広かったことから大きな混雑はなかったという。
 子供服売り場の壁は、札幌を拠点とする絵本作家SORAさんのオリジナルイラストで彩った。北海道限定のテレビCMを流し、近隣の飲食店を紹介するチラシも配って地域共存をうたう。
 「吉祥寺店」(東京都武蔵野市)は2014年10月の開店時に、吉祥寺に住んでいることで知られる漫画家の楳図かずお氏や近隣の有名店の店主らを広告に起用。店内では広告に協力した店のサービスや地図を展示した。4月には吉祥寺の街を歩いて景観マップをまとめるワークショップや、吉祥寺駅周辺を回るスタンプツアーを開催。「ユニクロ大阪」(大阪市)でも同様の取り組みをしている。コスト増になるが既存店でも今後、地域密着の手法を磨いていく。
  付加価値が認められない限り売れない。我々はよりよい品質を目指していきたい
国内のユニクロでは7月から順次発売する秋冬物の新商品を平均10%値上げする。14年の秋冬物に続いて2度目となる。最大の理由は円安による衣料品の調達コストの上昇だ。ウールやカシミヤなど素材の値上がりや、主要な生産地である中国での人件費上昇も響いているという。
 柳井氏は「円安もあり日本で売っている商品が世界で一番安い」と言う。例えばブラジャーカップ内蔵の肌着「ブラトップ」の日本での価格は税込み2145円。米国では19・9ドル(約2400円)、中国では149元(約2900円)だ。値上げによる販売への影響は「ないと思う」とする柳井氏。だが既存店の客数は前年を下回っている。新しい戦略が消費者に受け入れられるかどうかは不透明だ。

「食の安心・安全を徹底」、はごろも新社長、他業態と連携強化。

はごろもフーズはトップ交代を機に、他業態との連携強化や若年層の取り組みを強化する。4月1日付で社長に就いた池田憲一氏(38)に戦略を聞いた。
 ――新社長としての課題は何ですか。
 「食の安心・安全に対する取り組みだ。食品メーカーにとって半永久的な課題であり、すでに協力工場を含む全工場を回った。魔法のつえのようなものはなく、現場には日々の積み重ねを大事にするよう伝えている」
 「全社員に『挑戦』の意識を浸透させたい。これまで培ってきた伝統を守りつつ、若年層の取り込みへ他業態との連携も模索する。部署、年次を問わず、新規事業のアイデアを募る社内ベンチャー制度を導入し、女性の登用も進める」
 ――どのような具体策を考えていますか。
 「3月下旬からレシピ投稿サイト『クックパッド』との連携を始めた。最大の主力ブランドであるツナ缶『シーチキン』などのメニューを発信する専用ページがあり、幅広い層に約20種類のレシピを提案している」
 「近く、全国展開する大手料理教室と商品提供などの連携を始める。若者が注目するチャネルと組むことで高い訴求効果が見込める。販路開拓へ大手外食チェーンとの協働なども模索していく」
 ――シーチキンに次ぐ商品群も必要です。
 「削り節ブランド『はごろも舞』など新しい食べ方の提案などで動き出した。スーパーなどに並ぶパックに入ったものが主流だが、外食店のテーブルでも使えるような食べ方を提案していきたい。ノリやデザートでも従来と切り口を変えた商品開発を進めている」
 「社員には『どんな小さな市場でも構わないので一番のブランドを目指せ』と伝えている。ネコ用の国産ペットフードやサラダ用パスタでも構わない。突出した商品を作らなければ、食品市場では淘汰されてしまう」

メドピア石見陽社長――医療改善、ファイザー口説く、医師専用共有サイト黒字化

 患者の治療法や医薬品などを医師同士で議論したり、共有したりするサイトを運営するメドピアは2014年6月に東証マザーズに上場した。現役の医師でもある石見陽社長(41)は起業家との二足のわらじを履く異色の経歴の持ち主。ただ、事業は赤字が長く続き苦しんだ。転機となったのは、狙い澄ましたともいえる世界一の製薬会社、米ファイザーとの提携だった。
 「高血圧の患者さんに処方すると動悸(どうき)を訴えられることがあります」。メドピアが運営する医師専用の共有サイトには、こうした処方した薬の評価などが医師から書き込まれる。現在、日本の医師の4人に1人にあたる7万人超が登録する。医師はコミュニケーションで発生した「集合知」を治療に生かせるようになる。
 今でこそ多くの医師が利用するが、当初は収益化に苦しんだ。赤字が続くなか10年に立ち上げた医薬品の評価などを共有するサイトの活用を検討する。医師が集まる場として製薬会社に広告を出してもらうビジネスだ。
 しかし、製薬会社側には悪評を書かれたりすることに対する抵抗感が強かった。そこで目を付けたのが、製薬会社で世界最大手のファイザー。利益を熱心に説得した。外資は挑戦心が強いとの見込みも功を奏し、11年9月に提携にこぎ着けた。「最大手が落とせれば他社もいける」。読み通り製薬各社は続々と契約に踏み切り、現在は30社超にのぼる。
 医師専用の共有サイトの創設から約5年かけ12年9月期に初めて黒字を達成した。15年9月期の営業利益は前年同期比13%増の3億円となる見込みで、4期連続の黒字も視野に入れる。
 上場も果たしたが、その道のりは偶然に左右されたことも多かった。そもそも石見社長は起業に関心はなかった。1999年の信州大医学部卒業後、東京女子医大の循環器内科に入局し、臨床研究の道を極める考えだった。だが同大でカルテ改ざん事件が発生して患者が来なくなり、研究の方向性を変える。
 起業のきっかけは、知人に誘われて訪れた異業種交流会の参加者のこんな発言だ。「医師のビジネスはなかなかないよね」。新しいアイデアを練るなか、起業を強く意識するようになった。そして04年に当時はなかった医師の人材紹介サービスをスタートした。
 それなりに手応えを感じるなか、現在のビジネスの源流に出会う。あるとき、交流サイト(SNS)のミクシィで医師のコミュニティーに患者が多く質問し、医師同士の議論が深められなくなってしまったのだ。そこで、「医師だけのコミュニティーを立ち上げよう」と決心した。
 立ち上げに向けて準備するなか、医師の副業では事業の成功は難しいと痛感し、覚悟を決めた。医師の仕事は週1日とし、それ以外はビジネスに取り組むことにしたのだ。そこから「サービスを通じて医療に貢献していきたい」との思いは変わっていない。
 「実際の医療にもっと使われるようにしていく」。石見社長はそう語る。すべての医師が集まる場にすることで、患者がよりよい医療が受けられる可能性を高められる。医療は旧来の慣例や規制が多く、ネットの活用なども遅れているのが現状だ。そんな日本の医療を「手当て」する大きな夢に挑む。(名古屋和希)
トップは語る
従業員と理念を共有
 経営者としては人の運営に苦労してきました。事業の黒字化が見えてきた2011年には従業員が大量退職してしまう事態も経験しました。医師のサイドビジネスとして始めるなか、人材運営では理念を共有することの大事さを改めてかみしめています。
 医師同士の共有サイトを立ち上げた2007年から採用を積極化しました。一方、採用ありきとなり、「医師を支援し、患者を救うこと」という自社の使命を従業員全体で共有することが不明確になっていました。
 その結果、ポロポロと退職が出て20人いた従業員は7人に減ってしまいました。そのときは「光が見えてきているのになぜ」と理由がわかりませんでしたが、面談で一人ひとりの意思を確認するなかで「この使命の達成に本気であること」が大事だと気付いたのです。
 特に理念や使命は自分は理解していても、従業員にまで腹落ちしてもらうには根気強く伝える必要があります。今でもその努力は続けています。まさに経営者としての腹を決めるきっかけになった出来事でした。
《石見社長の歩み》
1999年 信州大学卒業
2004年 メディカル・オブリージュ(現メドピア)を設立
2007年 医師専用の交流サービスを展開
2011年 ファイザーと提携
2012年 黒字化
2014年 東証マザーズ上場

高精細液晶、寡占化狙う、JDI大塚周一社長、スマホ以外、車載用など開拓。

 ジャパンディスプレイ(JDI)が石川県内にスマートフォン(スマホ)用の高精細な液晶パネルの新工場を建設するなど、新たな成長戦略を打ち出し始めた。需要変動が激しく、新興国勢と激しい受注競争を繰り広げる液晶パネルの業界でいかに安定収益を確保し続けるか。大塚周一社長に今後の戦略を聞いた。
 ――スマホ向け液晶パネルの足元の受注状況を教えてください。
 「前年比で10%程度の伸びを続けている。世界的に高機能機種をほしがる購買層は堅調だ。ただ昨年秋ごろから中国のスマホメーカーの中でも勝ち負けが出てきている。高機能で勝負するメーカーと低価格で勝負するメーカーの双方に勝ち組は存在する。ただ中庸な商品を作っているメーカーは売れ行きがよくない」
 ――中国市場にどう対応しますか。
 「この1年間、中国市場に本気で取り組んでわかったことは、低価格に一歩足を踏み入れると一気に価格破壊が進んでしまうということだ。価格だけを重視する顧客に省電力や映り込みの少なさといった我々の価値を伝えようとしても、『で、いくら?』と言われてしまう。高機能の価値を認めてくれる顧客との取引を重視していく」
 ――スマホ以外への用途をどう開拓しますか。
 「まず順調なのが車載用途。自動車のモデルチェンジに合わせた受注となるため時間はかかるが、2017年には年率50%くらいの売り上げの伸びが期待できる。もう一つは反射型ディスプレー。消費電力が100分の1という価値を売り込み、腕時計やデジタルサイネージ、電子書籍といった用途を開拓する。3年後にはスマホ以外の売上高比率を3割(現状は2割)にもっていきたい」
 ――コモディティー(汎用品)化への対策はできていますか。
 「当社が首尾一貫して目指してきたことは、高精細の画像が表示できる『低温ポリシリコン(LTPS)』の寡占化だ。LTPSの量産技術は相当難しい。設備を買ったら誰でもできるというものではない。中国や台湾勢もやがて実現すると言っているが、3年後には技術的な格差はさらに開くだろう」
 「実際に中国勢の営業トーンも変わってきている。そのうち『投資に見合わない』と諦めるような技術面での絶対優位を狙っている。米国に『トップ3理論』というものがある。寡占化によって上位3社に絞られた時、市場が安定するというものだ。3年後には中小型の高精細液晶の分野はそうなっているだろう」
 ――寡占化後のプレーヤーは誰になりますか。
 「LTPSの分野ではJDIのほか韓国LGディスプレーとシャープの3社になるだろう。個人的な意見では、複数社が互いに切磋琢磨(せっさたくま)し合う市場が健康的だと思っている。(経営再建中のシャープには)強力なライバルとして生き残ってほしい」
技術革新 スピード持続カギ
 2012年の事業開始から3年。同社はこれまで約3000億円を国内の工場に投じて、絶え間ない生産能力の増強と技術革新を続けてきた。高精細のスマホ向け液晶パネルの分野で、大塚社長は中台勢との技術優位について「今後3年でさらに差が開く」と明言する。
 大塚社長が描く「未来の寡占化状態」の大きな懸念材料と言えるのが、想定を上回る新興国勢の急速な追い上げだろう。コモディティー化のスピードを上回る速度で技術革新を持続できるか。シャープの経営再建問題など、競争環境の激変を予感させる15年度はJDIにとっても大きな分岐点となりそうだ。