2013年1月24日木曜日

池内タオル社長池内計司氏――理想のタオル、原料綿から

 愛媛県今治市の特産品、今治タオルが元気を取り戻しつつある。昨年は東京など各地に今治タオル専門店が相次ぎ開店。減少を続けてきた生産量も品質の良さが再評価されて上向いてきた。独自ブランドのタオルが店頭で「2カ月待ち」という池内タオルは、この元気をけん引する1社だ。
 「今度、ニューヨークで新製品のプレス発表をやるんですよ」。社長の池内計司は今治市の本社で、26日から始まる「ニューヨークインターナショナル・ギフトショー」への出展に合わせた発表会についてうれしそうに語った。同ギフトショーには昨秋に4年ぶりに復帰したのに続く参加だ。
 新製品は同社の創業60周年モデルとなる「オーガニック7」。1999年から本格的に取り組んできたオーガニックコットン(有機栽培綿)による自社ブランドタオルの集大成という。昨年末には全商品が、繊維製品の国際的な安全規格「エコテックス規格100」の最も厳しいクラス1を取得した。「今年から、池内タオルの製品はすべて世界で最高水準の安全なタオルとなります」と目を輝かせる。
 家業のタオルメーカーを継ぐためサラリーマン生活をやめて帰郷。99年に立ち上げたオーガニックコットンによる自社ブランド「IKT」が国内のみならず欧米でも評価され、2002年にはニューヨークでの「ホームテキスタイルショー」で、日本企業として初めて最優秀賞を受賞した。
 同年からは東京電力や四国電力などが出資する日本自然エネルギー(東京・中央)の「グリーン電力証書システム」を利用。証書を購入することで、工場で使う電力は風力発電でまかなうとみなされる。
 「このシステムを利用するのはトヨタ自動車、ソニーなど大企業が多く、中小企業は珍しい」と池内が言うように、地方のタオルメーカーの参加は産業界で注目を集めた。いつしか同社の製品は「風で織るタオル」と呼ばれ、全国にファンを広げていく。
 順風満帆にみえたが、悲劇が襲う。03年初秋、取引先の卸が経営破綻したあおりで、同社は9億円の負債を抱えて民事再生法の適用申請に追い込まれた。「風で織るタオルの名前で本格的に売り込もうとした時期だったので、もう目の前は真っ暗」
 その時、池内を救ったのは、見ず知らずの全国の顧客からの応援メールだ。「『がんばれ』というメールが何百通も来たのです。『何枚買えば助かるの』という言葉には涙が出た」。応援メールはメーンバンクにも多数届いた。卸や小売りなどからも約100件の新規取引の申し込みがあり、同社は異例のスポンサーなしでの再建を遂げることになる。
 オーガニックコットンのタオルを始めたころから、「IKTマニア」というような熱烈なファンに支えられたという。「だからこそ、安全で最小限の環境負荷という基本から離れた製品は出せない。ファンの目は厳しいですから」と気を引き締める。
 11年から始めた「コットンヌーボー」はタンザニアの畑でその年に収穫されたオーガニックコットンだけを使う。「ワインのように原料の収穫年のタオルを味わってもらう」のがコンセプトだ。ただ、デザインや仕様は20年は変えないという。「目先を変えた新製品を多数出すより、磨き抜いた商品を作り続けることがいかに大事か、やっと分かった」。理想のタオル作りの試みは終わることはない。

キャリアバンク社長佐藤良雄氏―雇用への影響は

 安倍晋三政権がまとめた緊急経済対策は60万人の雇用創出を打ち出した。道内でも実現するのか。キャリアバンクの佐藤良雄社長に聞いた。
 ――道内雇用環境への影響をどうみますか。
 「自民党に政権が戻り、民主党に期待できなかった公共事業などの経済政策が大胆に出てきた。実施はこれからだが、政権交代だけで株価が上がり、円安に振れた。国民からの期待は大きい」
 「雇用対策には失業中の若年労働者の雇用を促す仕組みが盛り込まれた。道内でも雇用の創出を期待できる」
 ――道内では公共事業が雇用に結びつくよう期待する声が強い。
 「建設・土木業界は公共事業の縮小で長期にわたって身を縮めてきた。企業が持つ設備は縮小し、建設・土木業から観光、食品など他産業への転職が進んだ。公共事業に携われる人材数は相当落ちている。さらに震災復興でインフラ整備や家の建て替えなど、官民による建設需要が高まり、重機や人手が東北地方に移っている」
 「建設・土木関係の人材は地域に必要最小限しか残っていない。政府の公共事業が増えても、機械は借りられるが、人はいないというのが現状で、人手不足が顕在化するだろう。かつて建設・土木業で働いていた人材を呼び戻すしかない。雇用創出効果は限定的なものになる」
 ――道内には月間10万人の求職者がいます。
 「公共事業で生まれる雇用はゼネコンや下請けではない。孫請けかひ孫請けの中小企業による採用で、仕事もきつい。求人はあっても、そこで働きたいという人がいなければ、雇用を創出できない」
 ――公共事業発注による人手不足が生じないようにする方法は。
 「今後、不足を補うために道内の建設・土木業は東北から一部人材を引き揚げるだろう。影響を和らげるために、政府は適正な量で公共事業を発注することが重要だ」
 「地方の適正な処理能力に合わせた発注規模が望ましい。一度に大量の事業を発注されても受け入れられない。夏の参議院選前に票獲得を狙い、大量発注するといったことがないよう求めたい」
 ――緊急経済対策は大胆な規制改革の検討も打ち出しました。
 「雇用環境の改善には経済対策に加え、規制緩和も不可欠だ。適切な規制緩和を進めることで雇用を改善できる。たとえば最低賃金の弾力運用や解雇規制の緩和などが必要だ。人材を採用しやすく解雇しやすい環境をつくれば、企業による雇用は増える」
 ――道内雇用の今後の見通しは。
 「企業側は採用に慎重になっている。中国経済の減速懸念や欧州の財政不安など景気の展望が不透明で、不安要素が多い。高齢社会を迎え雇用期間はさらに延び、人件費が膨らむ可能性も高い。最もリスクの高い長期投資である雇用を控えざるを得ない」
 「道内における雇用創出には、基幹産業である農業への民間参入を後押しする政策が必要だ。民間企業が農業分野に資金を投下しやすい呼び水をつくる。たとえば農業で働く労働者を雇いやすいように社員寮建設費の補助などを検討すべきではないか」

名経営者に学ぶ仕事術 土川元夫氏(名古屋鉄道)

 企業は毎日のように様々な会議を開く。ちょっとした職場のミーティングから、部門を横断して会社の指針などをまとめる委員会、役員が勢ぞろいして課題を議論する経営会議まで。これら一連の会議をどれだけ効率的に運営できているかが、企業の強さを左右するように思う。
 私は総務部での仕事が長かったこともあり、会社全体を巻き込む重要な会議の事務局をいくつか担当した。インサイダー取引規制やコンプライアンス(法令順守)、災害対策などの議論が盛り上がった時期で、新しい委員会が次々に設置された。参加メンバーは激務に追われる各部門の重鎮たち。いかに効率的に議論をまとめるかには苦労した。
 会議の効率を上げるには一定のルールを決めておかなければならない。会議の目的、時間、資料の作り方など内容は多岐にわたる。ルールを曖昧にしておくと、議論がまとまらず、何時間かけても結論が得られない場合もある。どうすべきなのか悩んでいる時に、名古屋鉄道元社長、土川元夫の「私の履歴書」にヒントがあった。
 土川は「労務の土川」として知られ、犬山モンキーセンター、明治村など、中京経済圏の振興に大きく貢献した人物である。一地方の鉄道会社にすぎなかった名古屋鉄道を、全国規模で事業展開する複合企業体に育て上げ、「名鉄中興の祖」と呼ばれる名経営者のひとりだ。
 社内では典型的な「ワンマン社長」として君臨したが、労働組合とは協調を心掛けた。社会貢献、株主の利益安定、従業員の待遇改善を3軸とする「利益3分配」の方針を示し、労使一体となって経営合理化に取り組んだ。その実現のために設置した合理化委員会の取り組み方について、「私の履歴書」で次のように書いている。
 「合理化委員会にはいろいろの分科会を設けて会社全体を洗い直した。委員はおよそ10人程度で、分科会には研究員を配置した。私はこの研究活動の方法を次のように決めた。
1、抽象論はやめる。
2、現状にこうでいしない。いっさいの社内規則、時には法律も白紙として研究する。
3、体面論を否定する。
4、感情論を否定する。
5、七分三分の原理に従い、採決は満場一致をとらない。七分の賛成があればテストし、テスト期間中に訂正していく。
6、合理化は時間のファンクションであると自覚する。
 このほかに経費の10%以上の節約にならぬことはしない、合理化への投資も1年以内に戻らないものはやらないこと、などがあった。合理化委員会は画期的な成果を収めた。委員会発足後2カ年にして20億円以上の経費節約に成功した」(『私の履歴書』経済人13)
 私は土川が定めたルールを参考に、自分なりの会議運営のルールを考えていった。まず会議の目的によって参加人数を制限し、会議で使う資料や議論の内容は全員で共有できるようにする。無駄な時間を浪費しないためだ。会議で何を決めるのか、いつまでに結論を出すのか、といったことも事前にメンバーで共有しておく。これがないと会議の方向性が定まらない。さらに、決議事項は満場一致では決めない、定期的に会議の流れを見直す、といったルールも定めた。
 会議の主宰者は参加メンバーに対し、最初の段階でこうしたルールを明示しなければならない。さらに運営を支える事務局の熱意と工夫が加われば、会議の質は高まっていく

2013年1月23日水曜日

九州電力社長瓜生道明氏、沖縄電力社長石嶺伝一郎氏


 ――厳しい経営環境が続く。

 「今年は電気料金の引き上げや原子力発電所の再稼働など、多くの課題の解決を迫られる厳しい1年になる。重点課題は3つ。値上げに向けて丁寧な説明を実施するとともに、徹底した合理化の推進、原発の安心安全の取り組みを強化して再稼働に全精力を傾ける」

 ――値上げに対する理解は得られているか。

 「企業向けでは、営業担当者が約8割の大口契約先を訪れた。『やむを得ない』との答えを含めると、約7割には理解を得られたのではないか」

 ――原発再稼働を7月と想定している。

 「原子力規制委員会が7月にも新たな安全基準を決めることから、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)1、2号機が再稼働すると想定した。もし再稼働が遅れると、1基あたり1カ月90億円のコスト増になる。資金的に耐えられるのは数カ月で、さらに緊急避難的な対応を取らざるを得ない」
 「発電所などの(定期)修繕を止め、設備が壊れたら直すといったぐらいしか対応策はない。再値上げを申請するとしても、世間がそう簡単には許してくれないだろう」

 ――九電は変わったか。

 「東日本大震災以降、新卒募集は以前のような倍率になっていない。敬遠している人が多く、電力業界がどのような目で見られているかを端的に表していると思う」
 「過去の経営者は権威主義的に会社を統治してきた。大企業だからそうでなければまとまらなかったが、今は違う。号令を掛けるだけでは社員は動かない。思っていることを丁寧に伝えて、理解してもらうための努力をしなくてはならない」


 ――吉の浦火力発電所(沖縄県中城村)が営業運転を始めた。

 「県内初の液化天然ガス(LNG)火力の稼働で、長期的な電力の安定供給手段を確保、エネルギー源の分散、二酸化炭素(CO2)排出量が石炭の半分程度となるなどの効果がある」
 「電力需要が小さく原子力発電を持たない沖縄では、今後も火力発電が主力となる。これまで発電量の76%を石炭、22%を石油に依存してきたが、LNGを全体の30%程度まで引き上げたい」

 ――コスト見通しは。

 「吉の浦火力発電所の総事業費は1千億円。昨年11月の1号機、今年5月の2号機稼働で、13年度は減価償却費が大きな負担になる。LNGは石炭より価格が高いため燃料費が増えるほか、円安・ドル高も収益の悪化要因となる」
 「設備の保守・点検を効率化してメンテナンス期間を短縮するなど、各部門でコストの削減を徹底する。収支バランスを維持し、当面は電気料金の維持に努める」

 ――電力システム改革へ向けた議論が進む。

 「採算性が厳しい小規模離島を多く抱え、電力系統が独立する沖縄県では電力の安定供給を目指すことが第一だ。沖縄本島や離島で同一の価格やサービスを維持するためにも、沖縄の特殊性を訴えて発送配電の一貫体制を守っていきたい」

 ――再生可能エネルギーの導入計画は。

 「本島北部の大宜味村で、風力発電の実証研究を始める。小規模離島では、強風に対応できる可倒式の風力発電設備の設置を進めていく。潮流発電の実験に向けては、設置候補地を調査する」

山陰合同銀、東南アジア展開、山陰合同銀行頭取久保田一朗さん


 山陰合同銀行がタイやインドネシアなど東南アジアでの事業展開に動き出した。現地の金融機関と協定を結び、取引先企業への情報提供に力を入れているほか、駐在員事務所の設置を検討する。これまで中国で現地企業と取引先を橋渡しする商談会を企画してきたが、尖閣諸島を巡る日中関係の冷え込みの影響が心配される。久保田一朗頭取に展望などを聞いた。

 ――取引先の海外進出支援ではこれまで中国が先行してきました。

 「当行は1997年に大連、2003年に上海にそれぞれ駐在員事務所を設置した。中国でのビジネス展開を考える取引先への商談会開催や情報収集のための拠点として機能してきた」

 ――尖閣諸島を巡る日中関係の悪化で、どんな影響が出ていますか。

 「駐在員事務所への直接的な被害は出ていない。商談会は昨年4回開催した。ただ、昨年11月に予定していた商談会を延期せざるを得なくなった。日本からの企業だけでなく、中国企業の参加が難しくなったためだ。アジアへの進出や取引拡大を考える取引先企業の間では、チャイナ・プラス・ワンに関心を持つようになっている」

 ――取引先が目を向けてきた東南アジアでの展開はどのように進めますか。

 「タイでは現地のカシコン銀行と昨年4月に業務協力協定を結んだ。すでに自動車関連などのメーカーがかなり進出しているが、バイクから4輪へと、モータリゼーションのシフトが進んでいくとみられる。日本からも現地進出の重要性はさらに高まっていくだろう。取引先企業への進出支援や情報提供に力を入れていく」

 ――インドネシアでの取り組み状況はどうですか。

 「昨年7月に国際協力銀行が中心となり、当行など国内地銀の各行共同でバンクネガラインドネシアと提携した。インドネシアはまだ地銀で現地進出しているところはほとんどなく、先行して駐在員事務所を構えることができればメリットも大きいと考えている」
 「ただ、外国銀行の進出に対する規制が厳しいため、時間がかかりそうだ。米国でのリーマン・ショックを発端とした金融危機は金融機関の投機的取引が原因との見方もあり、警戒感が強いことがあるようだ。とはいえ、世界の投資マネーはインドネシアへかなりの規模で入っている」

 ――具体的な戦略はありますか。

 「インフラ整備などのための資金需要は逼迫している。現地では場所を移動するにも到着時間が読めないほど整備が遅れている。インフラ整備などのための資金需要は大きい。プロジェクト融資などで当行としても協力していきたい旨を当局の関係者などへ伝えている」

山陰合同銀行が東南アジア進出を目指すのは、地盤の山陰地域が過疎化などを背景に中長期的に経済成長の展望が描きづらいことがある。地域の企業にとってもアジア進出への潜在需要は小さくない。中国だけでなくタイやインドネシアへの進出により、そうした企業の選択肢を広げ、進出支援に力を発揮できるようになる。

 2012年度から3年間の中期経営計画のなかでも顧客企業の海外進出支援は重点項目のひとつ。地域に密着したリレーションバンキングと海外展開を組み合わせ、内向きに陥らない新しい地銀の成長モデルを模索する。

アボット分社アッヴィ日本法人社長に聞く、新薬、健康寿命に貢献


売上高、20年に900億円目標

 米製薬大手アボット・ラボラトリーズは今月、新薬の研究開発や製造販売事業を分社した。発足した新薬会社アッヴィはアボットと資本関係を持たない別会社となり、世界の製薬業界でも珍しい形の事業再編となった。日本で1月から事業を始めたアッヴィ日本法人(東京・港)のゲリー・エム・ワイナー社長兼最高経営責任者(CEO)に戦略などを聞いた。

 ――世界大手が規模拡大やパイプライン(開発候補品)拡充を求めてM&A(合併・買収)を進めるなか、なぜ分社なのか。

 「アボットは製薬事業とその他の多角化した医療製品で成功した。だが両分野で異なる戦略が必要だということが分かってきたため、分社化を決めた。統廃合で効率化やコストダウンを求める業界のトレンドとは逆行する野心的な試みとなる」
 「アッヴィは125年の歴史を持つアボットの主要な事業を受け継ぎ、研究開発に特化した企業となる。事業の選別や革新性、意思決定の早さ、科学への志向などバイオ技術企業としての要素と、財務の強さや強力な指導力、商業的な実行力、インフラなど従来的な製薬企業の強さを併せ持った独特なモデルとなる」

 ――日本市場では、どのような戦略で臨むのか。

 「日本は大きな機会がある市場と捉えている。米国に次ぐ第2の市場で、高齢化で慢性疾患に苦しむ人に新たな薬を届ける需要がある。アッヴィは治療の難しい疾患に焦点を当て、(自立して生活できる期間である)健康寿命の長期化に貢献できると思う。(アボットの新薬事業の)過去数年の成長率は業界でも高かった。2011年の日本での売上高は6億1600万ドル(約550億円)だったが、20年までに10億ドル(約900億円)を目標にしている」

 ――その目標に向けた製品戦略は。

 「すでに治療領域によっては市場をリードする製品を持っている。関節リウマチなど6つの適応症がある治療薬ヒュミラは成長の核。さらに適用を拡大して引き続き重要な製品であり続け、20年の目標に貢献するだろう。早産児の呼吸器感染を抑えるシナジスは発売から10年になるが、毎年伸び続けている。審査中のものが3件、神経科学領域など計約20件の開発候補品があり、製品領域を拡大する」

 ――今後、どのような領域に注力するのか。

 「C型肝炎や末期腎疾患、ある種の白血病、子宮内膜症などの治療薬も開発している。いずれも治療が難しい医学的に重要な疾患だ。患者の生活に大きく変化をもたらす専門的な医薬品に焦点を絞る。挑戦的な領域だが、独立した企業として的確な投資決定をし、開発を加速することで優れた医薬品を迅速に提供できるようになると思う」


新たな再編の形
製薬の試金石に
 アボットの株価は2011年10月の分社化発表後、12年末までに約25%上昇し、同期間のダウ工業株30種平均の上昇率の倍近い伸びとなった。事業に応じた迅速で適切な経営戦略を採るという趣旨は、市場にまずは受け入れられたといえる。
 アッヴィの事業はすべてがアボットから受け継ぐもの。それだけに今後の同社の成否は、分社の選択が正しかったか否かの評価に直結する。M&Aが相次ぐ製薬業界での事業再編の新たなモデルの試金石として、経営のかじ取りが注目される。

 ▼アボットの分社 米アボット・ラボラトリーズは2011年10月、長期収載品(特許切れ薬)を除く製薬事業を分割し、新会社として上場する計画を発表。新会社は「アッヴィ」として13年1月に発足し、アボット株主に新会社の株を割り当てる形でニューヨーク証券取引所に上場した。アボットは特許切れ薬や診断機器、診断薬、栄養剤事業を継続する。11年1~12月期のアボットの売上高は389億ドル(約3兆5000億円)、うち分社化された事業は170億ドル。

Uアローズ社長竹田光広氏―若年層ブランド開拓



 ――2014年3月期の戦略をどう描くか。

 「挑戦する年にしたい。既存事業をさらに強化するだけでなく、マルチブランド戦略をとっている以上は新事業も必要だ。商品、ブランド、インフラといろいろな意味で(攻めに出る事業基盤が)整ってきた」
 「来期の出店数は今期予定(44店)と同水準を見込む。ビューティー&ユース(BY)、グリーンレーベルリラクシング(GLR)、コーエンが中心だ。既存店でも部門間の連携をさらに深め、レベルを上げる」

 ――新規事業とは。

 「ブランドポートフォリオの空白地帯を狙いたい。例えば若年層。BYに置いていたメンズブランド『モンキータイム』を個別店舗で出したが、当社の特徴であるトラッドを外さず展開する」
 「商業環境の開発にも興味がある。野村不動産と組み、高級マンション向けのクローゼットの受注を始めた。高松市の丸亀町商店街でも、商業施設の屋上庭園を当社のクリエイティブディレクターが監修した。顧客から当社店舗のような空間がほしいとの声がある」

 ――海外事業やブランド企業のM&A(合併・買収)を加速する考えは。

 「海外出店は中長期の課題だ。セレクトショップは世界から商品を調達するノウハウが欠かせない。香港のアパレル企業、アイ・ティーと組んでBYなどを香港や上海に試験展開しているが、十分に市場調査できていない。当社が強みとする接客サービスも海外で担保できないといけない」
 「M&Aはないとはいえない。当社は創業24期目を迎えるが、欧米にも経営の節目とされる30年前後のブランド企業は多い。(事業承継など)同じような課題や意識を持つ企業も多いだろう」

 ――ファッション市場ではネット通販の存在感が増している。

 「店頭売上高に占める電子商取引(EC)比率は11%だ。将来は15%ぐらいを目指したいが、中身が肝心。当社は実店舗とECで顧客の併売率が高く、サービスを共通にしていく。在庫の共有化や新商品の先行予約を始めており、顧客がどこで買うか選べればよい」
 「ECに占める自社サイトの比率は15%だが、出店している他社モールより伸び率が高い。モールと自社サイトでは顧客が異なる。ゾゾタウンが購買ポイントを10%に引き上げた昨年11月以降、目立って自社のサイトや実店舗に影響がないのも客層が異なるからだろう」

 ――消費増税の影響をどうみているか。

 「あまりないと思う。衣料品はものづくりで商品価値を高めて対応すべきだ。全商品のうち約46%ある自社開発商品はさらに増やす。過去の史料や国内外のサンプル品を集めた企画資料室、試作品がその場でできるアトリエを昨年に立ち上げた。そこで試作を重ねた婦人衣料を秋から投入し、顧客の評価を得ている」

ライオン社長浜逸夫氏―通販、第3の柱に育成

 ――社長就任から1年が経過したが手応えは。

 「2020年までの経営ビジョン、中期3カ年計画の実行に入った。国内では歯磨き関連のオーラルケアや洗濯用洗剤に経営資源を集中し、新製品も好調。主要ブランドの地位も感触が良い」
 「洗濯用の液体洗剤で昨年7月、衣料を洗うたびに抗菌力が高まる『トップ ハイジア』を発売し、洗浄力で勝負する『トップ ナノックス』、感性に訴える『香りつづくトップ』との3本柱がそろった。超コンパクト液体洗剤は15年に市場の過半を占めると予測され、当社はそこでナンバーワンになり、洗剤全体でもトップを目指す」

 ――海外事業の進め方は。

 「海外売上高は現地通貨ベースで前年比2桁増えている。中間所得層の拡大で、価格が高めでも生活の質が上がる商品が売れている。ただ競合も増えてくるので、国ごとに当社のポジションを明確にすることが重要になる。オーラルケアや洗濯用洗剤を核に、各分野で1、2位を獲得する」
 「特にアジアは国ごとに市場も異なる。成功の確率を上げるには事前の準備をしっかりして、それぞれのやり方で入っていく。流通販路を掌握できるかがカギだ。商品供給力を強化するための生産設備投資も増やす」

 ――通信販売が好調だ。

 「通販は、適度な食事と運動を組み合わせることでダイエット効果が期待できる健康食品『ナイスリムエッセンス ラクトフェリン』を軸に、売上高は11年で62億円。従来は14年に100億円まで引き上げる計画だったが、13年に前倒しできそうだ。通販事業を始めた07年から5年間でこの規模にできたのは、通販業界でも特異だと思う」
 「それでもまだ100億円。13年は次の柱となる商品を出す。生活の質全体を高めるような商品を複数考えており、それぞれ数十億円の売り上げに育てる。通販は国内、海外に続く第3の事業の柱に早く成長させたい」

 ――国内事業の基盤固めについては。

 「国内営業体制を昨年見直した。従来はブランドを育てることを重視して、商品分野ごとに事業部門と営業部門を持っていた。それを事業本部、営業本部としてそれぞれ一つに束ねた。小売業、販売エリアごとにカスタマイズした提案で密着した営業を狙う。単純な価格競争に陥らず、客単価を引き上げ固定客を増やす。こうした取り組みを深めたい」

2013年1月22日火曜日

UT、幹部職を社内公募、長期定着、競争力の源泉に――若山社長に聞く


「成長実感できる環境重要」

 執行役員など幹部職を社内公募するUTホールディングスの「UTエントリー制度」が注目を集めている。工場などへの人材派遣や請負を手掛ける同社にとって、優秀な人材の確保と定着は重要課題だ。工場閉鎖や人員削減など製造現場の雇用環境が厳しさを増すなか、どうやって請負事業を伸ばすのか。同社の若山陽一社長に聞いた。

 ――UTエントリー制度を導入した狙いは。

 「全社員に公平なキャリアアップの機会提供と、主体的に貢献する人材の育成を目的に今年度から始めた。FCマネージャーという監督者レベルでは、自らのキャリア形成について書類選考と各部門長へのプレゼンテーションで審査する。これまでに約150人から応募があり、60人近くが登用。同じくFCマネージャーから執行役員クラスにも、取締役会の審査を経て3人が昇進した。入社1年目から誰もが立候補できるため、現場の社員から最短2年で経営幹部となることも可能だ」
 「社内イントラネットを活用して必要な技能や知識をオンラインでいつでも自習できる。集合教育も定期開催している。継続的なキャリア支援には安定した雇用が不可欠なため、多くの従業員を正社員として雇用した上で顧客企業へ派遣している。当社の正社員比率は70%と業界では高い」

 ――人材育成を重視する理由は。

 「これまで派遣会社は主に企業を向いて仕事をしてきたが、働き手から選ばれる時代に変わり、『この会社なら成長できる』と実感できる環境づくりが重要になった。技能や役割貢献度を25段階で公平に評価して処遇に反映している。月間の離職率は2%で業界平均の8%を大きく下回る。離職率を抑えて熟練者が増えれば高品質なサービスが提供でき、競争力の強化につながる」

 ――電機・半導体など製造業の雇用情勢は厳しくなっている。

 「企業の請負ニーズを開拓し、2012年9月末の取引工場数は411カ所と3年で4倍になった。一方、生産減による解約数も増えている。12年4~9月期の解約数は前年比22カ所増の53カ所になった」
 「加速する製造業のリストラに対して受け皿となる施策も始めた。工場の閉鎖に伴い、社員と工場を当社が一括して受け入れ、職場を変えずに雇用する事業は3年間で1000人の実績となった。12年4月には『UTキャリア』を設立し、再就職支援に乗り出した」
 ――今後の重点課題は何か。

 「規模の拡大を目指す。需要が短期間に大きく変動するために取引工場数を増やし、配置転換先の確保が必要なためだ。企業側も本社が全国の工場を一括管理する体制に移行している。規模拡大は顧客ニーズに全国で対応するためにも重要だ」

 UTホールディングス 製造現場への人材派遣や請負大手。請負事業を拡大しており、顧客工場数は411、稼働社員数は7169人

レジャー消費の行方 常磐興産社長斎藤一彦氏


「原発」風評払拭に全力
 ――2012年を振り返ると。

 「『感謝』という言葉に尽きる。運営するスパリゾートハワイアンズ(福島県いわき市)は東日本大震災後に休業し、昨年2月に営業を全面再開した。それ以降、全国から予想を大きく上回るお客様が来てくださった。とにかく無我夢中でなんとか乗り切ってきた」
 「13年3月期の入場者数は138万人と震災前の95%程度と予想している。現在、福島県内のホテルや旅館の観光客は中通りや会津地方で震災前の8割ほどなので、まずまずの回復だ。正月の入場者数も震災前を2割弱上回った。復興支援の団体客が増えている。土産を買い、飲食もしてくれるので、客単価も震災前に比べて2割ほど上昇している」

 ――今後、重点的に取り組みたい施策は。

 「なんと言っても東京電力福島第1原子力発電所の事故による風評被害の払拭だ。首都圏からの入場者について、中高年は震災前と比べて2割近く増えているが、子ども連れは2~3割減ったままだ。風評払拭に向け、地元企業や商工会議所とともにNPO法人も立ち上げた。食品に含まれる放射性物質や空間放射線量の検査をしており、この活動も軌道に乗せていきたい」
 「これまでは『感謝』をテーマにしてきたが、今年は『イムア・未来へ』とした。(イムアは)ハワイ語で前進を意味する。地震、津波、原発事故で壊滅的な被害を受けた福島が、未来に向かって力強く進んでいく姿を次代を担う子どもたちに見せたい。そこで、4月から全国の小学校にフラガールが出張し、子どもたちと対話するキャラバンを始める。交通費などは当社で負担し、学校側には求めない」

 ――今後の設備投資計画は。

 「被災施設の修復に約50億円、昨年2月に開業した新ホテルに約50億円投資しているので、今年は大型投資は予定していない。ただ、フラガールのショーが予想以上に好評で、立ち見でも見られないほどなので、春以降、現在より300席多い1500席ほどにする予定だ。投資額は数億円程度になるだろう。ショーと温泉が最大の商品なので、今後もこの2点に重点を置き、4~5年に1回は消費者の目先を変えるような投資をしていく」
 「ショーも今月16日に刷新した。故郷・福島へのフラガールらの思いを歌詞にした、オリジナル曲を初めてつくり、その曲に合わせてダンスを披露するというのが目玉だ」

 ――新政権への要望は。

 「景気浮揚、デフレ脱却はもちろん、東北の観光振興に国を挙げて取り組んでほしい。NHK大河ドラマ『八重の桜』の放送が始まり、今年は福島を訪れる人も増えると期待している。従来の活気のある街を早く取り戻したい」
記者の目
「応援消費」後の
ファン育成課題
 常磐興産の2013年3月期の売上高は前期比53%増の453億6000万円、最終損益は15億円の黒字(前期は88億5300万円の赤字)を見込んでいる。予想以上の「復興応援消費」が続いており、上ぶれする可能性もある。
 ただ、応援消費はいつまで続くかは分からない。このため、震災後に獲得した新規客に新たな魅力を提示し、リピーターにすることができるかどうかが今後の業績を左右しそうだ。子ども客の回復や訪日外国人の獲得も課題だ。

資生堂社長末川久幸氏――団塊世代の女性を応援


 ――2012年の尖閣諸島問題や反日デモで、成長エンジンだった中国の売上高が急減した。

 「思っていたより厳しい。中国専用ブランドとして1994年に発売した『オプレ』は息長く国民的ブランドのように支持され売り上げが戻りつつある。一方、現地で輸入している世界共通ブランド『グローバルシセイドウ』などは厳しい」
 「中国では日本製品を使いづらい雰囲気があり、特殊な需要、法人などギフト用途の購入もダメだ。例年12月は特需が一番多いが、これまでとは事情が違っていた」

 ――苦戦が続く国内事業のてこ入れがより重要になる。具体策は。

 「『女性を応援している会社』との評価を生かし、メーキャップ講座などを通じた女性の支援を本業として伸ばす。まず一番ボリュームが大きい団塊の世代を考えている。化粧を使い、美しく年を重ねることを『きらめきエイジング』と呼び、新しい生き方を提案しながら化粧を売り込む」
 「社内には美容室向けなどの化粧品やシャンプーを手掛ける事業や、髪のカラーやスタイリング、手入れの仕方の知見を提供する研究所もある。そうしたリソース、データを有効に使い、事業の壁を越えて店頭で提案する。3月までには1、2回実験をやりたい」

 ――主販路の小売業とどう連携するのか。

 「ドラッグストアや総合スーパーなどはそれぞれ特色を出すと思う。極論すると価格志向と品質志向といった具合だ。それに合うよう営業活動を組み立てて、商品から営業、店頭の美容部員まで一気通貫させる。組織は既に走らせている」
 「プライベートブランド(PB=自主企画)も単に価格が安いのとは一線を画したライフスタイル提案に変わっている。化粧品でどういう提案になるのかはまだ模索する必要があるが、顧客の役に立つならば我々としても提案したい」

 ――化粧品専門店の販路はどう強化するか。

 「今年は資生堂がチェインストア制度を導入して90周年に当たる。専門店ともう一回議論し、どういうチャネルでありたいかというビジョンをしっかり立てたい。約1万3千ある専門店の中には内容が素晴らしいところが結構ある。12年春に開設した自社サイト『ワタシプラス』での紹介を通じて来店してもらえるようにもなってきた」
 「地元に密着した専門店を、顧客がくつろいで化粧について話し合って明日の活力につなげる空間にできればよい。昨年12月、震災復興支援で訪ねた福島県の専門店で話を聞くと、それができていた」

高島屋社長鈴木弘治氏――株高、春先には好影響。


 ――株価や円高修正など高額消費を刺激する材料がでてきた。

 「今年の消費はそれほど悲観していない。新内閣が積極的に施策を打ち出し、先行的に指標の改善が進んでいる。すぐには売り上げに結びつかないが、春先には店頭の動きを後押しするだろう。高額品だけでなく、一般の消費も含め全般的に活気が出てくると思う」

 ――元日から始めたり、開始時期を遅らせたり、冬のクリアランスセールも百貨店によって対応が分かれた。

 「セールは今後もこれまで通り従来の習慣的な時期を尊重する。それがお客様の期待に応えることだと思っている。売り上げ面では大きな成果につながっていないものの、例年通りになった冬は夏と比べて消費者の混乱はだいぶ改善した」

 ――消費税の増税にどう対処する。

 「来年以降、厳しい状況になると懸念している。社内の構造改革と合わせて、それぞれの店ごとに特徴ある品ぞろえを強化して手を打つ」

 ――業界では、自社で企画した商品を直接工場に委託して生産する動きが広がっている。

 「満足のいく品ぞろえができていない部分がある。これを補完するために新しいモノづくりの提案は必要だろう。昨年秋は原材料から自社で調達したカシミヤセーターの反応が良かった。こうした商品は増やすが、従来の取引先との関係を捨てて自分たちで何でも直接やると方針転換するのではない。協力関係を強めながら新ブランドを提案したい」

 ――ネット通販の売上高を前年の2倍に拡大する目標を掲げている。

 「今年はネットとリアルの融合に踏み出す年にする。まず(昨年買収した)セレクトスクエアと高島屋のネット通販を一元化する」
 「ネット専門の事業者との大きな違いは、価格や品質を含めて今までやってきた、信頼感がある高島屋という実店舗があることだ。これはネット販売でも海外展開でも大事なベースになる」

 ――昨年12月、上海に中国1号店を開いた。

 「コピー商品が氾濫する中国だからこそ『高島屋ブランド』を浸透させたい。15年にはベトナムにも出店する。その他の東南アジアでも検討中だが、ベトナムでも、高級な百貨店だけでなく、もう少し大衆向けの商業施設の開発もできるのではと考えている」

三越伊勢丹HD社長大西洋氏――ネットとの競合危惧


 ――昨年12月の年末商戦はさえなかった。

 「防寒衣料が昨年11月に一気に売れた反動だ。クリスマス商戦も間際になってようやく動き出した。ボーナス支給額の減少など所得環境の悪化は直接的な影響ではないにしても、経済環境の厳しさは続いている」
 「株高と円安で景気回復ムードが広がるが、実体は変わっていない。投資家のマインドは変わったが、消費者の行動には現れていない。経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が変わらないと消費は動かない。足元の株高にしても先行きは楽観視していない」

 ――年始の出足不調は冬のクリアランスセールを先送りした影響が出ている。

 「1月は伊勢丹新宿本店でも前年同月比7%くらいのマイナスだったとみている。だが、大切なのは百貨店の『あるべき姿』を追求すること。需要の最盛期に大幅値引きして客寄せをするのは中長期的にみてマイナス。こうした取り組みを実行したうえで、今期、約束した連結営業利益250億円はきっちり出す」

 ――ネット消費が大きく広がっている。百貨店への影響は。

 「ものすごく競合している。ネット通販はこれから本格的に取り組み、年200億円規模の事業に引き上げたい。ただ、それだけでは満足できない。新しいビジネスモデルを作っていかなくてはならない」
 「それには人材が必要だ。外部と提携したり、外部人材を登用したりする。昨年立ち上げたネット上で情報を発信する会社はそうした事業戦略の一環だ。将来的にはファッションに関心のある人が集まるサイトに仕立てたい。通販では自社で企画・生産する独自商品の比率を高める。三越伊勢丹でしか買えない品をそろえ違いを出す」

 ――海外展開は。

 「5年以内に売上高で年1000億円に引き上げる。成長著しい東南アジアでは新店の数を追うのではなく、店舗網の再編も視野に入れている。年末に店舗数が6店となるシンガポールでは収益性を高めるためにも、3万平方メートル規模の旗艦店が必要になる」
 「シンガポールを軸にインドネシア、マレーシア、タイと店舗網を広げ東南アジアでの存在感を高めたい。競争が激しい中国では百貨店単独ではなく、デベロッパーと組んで大型商業施設を展開していく」

復活なるか家電王国――自前主義排し世界標準を


 「皆さんは我々をテレビメーカーと思っているようだが」。米国で開かれた家電見本市で、パナソニックの津賀一宏社長が今後は産業分野に力を入れると講演し話題となった。ソニーの平井一夫社長もテレビと連携できるスマートフォン(スマホ)を発表、日本の家電産業の反撃が始まった。

 今回の見本市は、テレビ事業で大幅損失を計上した日本の家電各社が復活へのシナリオをどう描くかが注目された。その切り札が現行テレビの4倍の解像度を持つ「4K」の技術や、バックライトの要らない有機ELテレビなど。サムスン電子など先行する韓国勢に一矢報いる形となった。

 だが会場では「アップルやグーグル、アマゾン・ドット・コムなどが出展しない家電見本市に意味があるのか」という声も聞かれた。音楽や映像の視聴手段は今やインターネット。技術をリードするのはそうした米ネット企業だからだ。

 4Kなどハードの開発は重要だが、製品だけでは価格競争に飲み込まれてしまう。それに高画質にこだわるのはマニア層で、多くの消費者の関心は「アップルはテレビを売るのか」「NTTドコモはiPhone(アイフォーン)を売らないのか」といったことだ。
 この2つの問いに共通するのは、様々なコンテンツをいつでもどこでも簡単に楽しみたいというデジタル世代の欲求だ。プレーよりも道具の良しあしにこだわってきたアナログ世代とは異なる。アップルの成功もそうした消費者の要望をかなえたことにある。
 そう考えると、日本企業が家電市場で再び主導権を握るには、従来のデジタル家電に加え、白物家電や自動車、住宅など生活回りのモノを上手につなぎ、快適な新しい生活様式をどう提案できるかが鍵を握る。

 その一つが会場でも話題を呼んだスマートTVだ。この分野はアップルもグーグルもまだ技術を確立していない。日本もNHKが「ハイブリッドキャスト」と呼ぶ放送とネットの融合技術を広めようとしている。
 ではスマートTVで日本が主導権を発揮するにはどうすべきか。まずアップルとドコモが自前技術を競い合う構図は得策ではないだろう。独自規格にこだわれば、再び閉鎖的な市場を作りかねない。日本の家電技術と米国のネット技術を持ち寄り、一緒に世界標準を作るのが王道だ。

 ドコモは日本の民放各社と2012年4月からスマホ向け有料放送「NOTTV」を始めた。契約件数は約50万と伸び悩んでいるが運営会社、mmbi(東京・港)の二木治成社長は「ソーシャルメディアと連動したら反応がいい」と話す。もはや放送とネットは切り離せない関係にある。

 日本の家電産業が失速したのは、ネット技術で攻めてきた米国勢とウォン安を武器とした韓国勢との挟み撃ちにあったためだ。韓国との競争は円高が是正されれば和らぐかもしれないが、技術革新に基づく米国の優位性はゲームのルールを変えない限り続く。
 だとすれば、パソコンや携帯に次いでテレビや車がネットにつながる今こそ、日本企業は自前主義を排し持てる技術を動員して、世界に通じるビジネスモデルを創り出す必要がある。

成長期の東南ア、どう攻める?――丸紅社長朝田照男氏



インフラの強み突破口に

 日本経済再興のカギを握る存在として東南アジアに注目が集まっている。生産拠点としてだけでなく、中間層の台頭で消費市場としての魅力も増した。尖閣諸島を巡る深刻な日中対立も日系企業を東南アジア進出へ駆り立てる。その成長力をどう取り込むか。丸紅の朝田照男社長に聞いた。

 ――「中国+1」の受け皿として距離的にも近い東南アジアに期待が集まる。

 「6億人の域内人口は13億人の中国の半分だが、中国の発展初期に比べると経済水準が高く、消費拡大のスピードは中国を上回っている。ただ賃金上昇は恐らくあっという間。労働集約型の縫製品などで中国に取って代わる輸出基地になるのは簡単ではない」

 ――日中対立は長期化が必至。「+1」にとどまらず「脱・中国」を模索する動きも出てきそうだ。

 「日本企業は中国のカントリーリスクを再認識した。脱・中国という発想も当然出てくるだろう。ただ伸び率が鈍化したとはいえ、なお年7~8%を期待できる成長力を捨ててすべて東南アジアへシフトできるわけはない。強硬姿勢の中国側も安定成長には日本の協力が不可欠なはずだ」

 ――タイの大洪水、インドネシアの労働ストなど、東南アにもリスクはある。

 「政情、宗教、災害などどこでもリスクは付きものだが、東南アジアは多様な国家の集合体。バランスを考えて投資すれば域内でリスク分散が可能だ。共産党一党独裁の中国のリスクとは別次元と考えていい。何よりも中国との最大の違いは大半が親日国なことだ」

 ――丸紅はどう攻める。

 「タイの発電分野で同国の能力全体の25%分の建設を手掛けるなど、特にインフラ分野に強みがある。昨年末にフィリピンの世界最大規模の民間水道会社に出資し、東南アジアでは未参入だった水処理事業でも足掛かりを得た。そこでの運営実績をてこにインドネシアなどへも参入したい」
 「東南アジアには海外駐在員の2割強の180人を配置し、北米を上回るが、ヒトやカネといった経営資源の配分に利益が追いついていない。一因は三菱商事におけるブルネイの液化天然ガス(LNG)、三井物産のタイの石油のようなドル箱となる資源権益がないこと。焦って高値づかみはしないが、ミャンマーなどで権益獲得を狙っていく」

 ――ミャンマーでは三菱商事、住友商事と共に、最大都市ヤンゴン近郊の「ティラワ経済特別区」の事業化調査に参画している。

 「(東京ドーム510個分の)2400ヘクタールもの開発が一筋縄ではいかないのはわかっている。日本が官民挙げて取り組む国家的事業であり、事業化調査の結果、見通しが厳しくても撤退する選択肢はない」


日系進出が加速守りの姿勢禁物

 安倍晋三首相が就任後初の外遊先に選び、インフラ整備への協力を持ちかけたように、新たな成長期に入った東南アジアは日本にとって投資・貿易の両面で重みが増す。日本車が8割のシェアを握るなど、もともと日本への信頼感や存在感が大きいことも、一段の進出加速を容易にする。
 ただ投資ラッシュの陰では「日系が多いから何か仕事があるはず」とまず進出ありきの事例も増加。相手国ではなく日本企業自身の「円借款頼み」も目立つ。新興国群ではリスクの低い東南アジアで守りの姿勢ばかり目立つようでは成長力の取り込みはおぼつかない。

LIXILグループ社長藤森義明さん――「住」の総合力訴える


消費者との「接点」磨く

 INAXなど5社を2011年4月に統合した、建材・住宅機器最大手のLIXIL(リクシル)グループ。藤森義明社長兼最高経営責任者(CEO)は攻めの経営に転じるにあたり、「住まいのすべてがそろう総合力」を直接、消費者に訴える姿勢を強調する。ショールームを見直し、今年2月には全商品分野でLIXILの統一ロゴを導入。今後も顧客との「接点」に一段と磨きをかける。
ショールームの展示に統一感

 ――今年は攻めの年と位置付けていますね。
 「2月にトイレ、風呂、キッチン、サッシ、エクステリアなど、当社が扱う全ての分野で、ほぼ一斉に新製品を投入します。いずれも統合前の企業のブランドと『LIXIL』を合わせたロゴマークに統一します。これまで各社が築き上げてきた財産を、新たな体制が引き継ぐことを明示するわけです」
 「この2年間は組織の見直しや営業拠点の再編に努め、経費削減を進めてきました。ようやく組織固めが完成し、LIXILグループとして筋肉質の営業体制が整ったと思います。今年は大きく飛躍する年になります」
 ――新製品の開発で強く意識した点は。
 「やはりLIXILの統一された世界観の提示ですね。当社の製品で家を作り上げていくと、どんな生活シーンが描けるのか、を伝えることに心を砕いています。製品を売るだけでなく、家の中の空間、庭の情景などをお客様に思い描いてもらえることが重要です」
 「もともと当社の商品力は強い。サッシ、バスルーム、キッチン、洗面化粧台などシェアトップの製品群をそろえ、それ以外の分野も大半が2、3位に位置しています。これからもナンバーワン製品を出し続けます」
 ――それにはブランドの認知度を一段と上げる取り組みが重要です。
 「テレビCM、雑誌などマスメディアを活用するほか、北海道から九州まで全国に8カ所ある基幹ショールームでの展示会に力を入れます。展示内容には統一感を持たせ、『ここに来れば何でもそろう』とお客様に認識してもらわねばなりません」
 ――消費者との「接点」を今まで以上に重視するわけですね。
 「これまでは工務店や代理店に住設機器を販売するBtoB(企業間取引)の企業イメージが強かった。でも12年にマーケティング本部を立ち上げ、お客様の声を直接すくい上げる体制を整えました。そこでショールームから製品開発まで、消費者目線で仕事を組み立てる意識を全社に浸透させたのです。いわば『LIXILグループとはどのような会社なのか』を再定義したわけです」
 「今後は、お客様とリフォームなどを通じて長くお付き合いする心掛けが大事になります。太陽光発電により家庭で電力を作る『ゼロエネホーム』など、当社のビジョンもショールームで訴え続けねばなりません。こうしたビジョンを消費者に伝えるには、工務店や中間流通業者にも理解してもらわねばならないので、社員がこまめに説明にうかがっています」

ビバホームでリフォーム提案

 ――ホームセンターのビバホームも、消費者との重要な接点になりますね。
 「まさにその通りで、広い売り場を最大限に活用して、大型のリフォームコーナーを設けられます。実際にリフォームした住まいの形を展示することも可能ですね。一方で、中小工務店や専門業者向けのプロ用資材を扱う店も積極的に展開する考えです」
 ――今後の市場環境をどう見ていますか。
 「建設・住宅業界にはこれから5年程度、追い風が吹くと予想しています。足元では東日本大震災からの復興需要がありますし、耐震など災害への備えも見込めます。新政権が住宅需要を刺激する政策を打ち出す可能性もあるでしょう」
 ――1997年の消費税率引き上げ後は、駆け込み需要の反動で業界が苦しみました。
 「当時と今とでは環境が違います。97年はベビーブーマー世代の多くが住宅購入に動きました。今回はそれほどの規模にはならないはずです。むしろ当時購入した住宅のリフォーム需要がこれから見込めます。それこそ当社の製品と長くお付き合いいただくきっかけになります」
 ――米GE(ゼネラル・エレクトロニクス)の上級副社長を務め、現地での生活が長かった経験を踏まえ、日本の住宅市場をどう見ますか。
 「米国は圧倒的に中古市場が大きい。これら中古物件は大規模なリフォームによって価値も上がります。日本はまだ新築主体の市場ですが、ゆくゆくは耐用年数が長いストック型市場になっていくでしょう。長く住んだ家には愛着がわきます。そこで役立つビジネスを育てたいですね」
 ――グローバル展開にも積極的に取り組んでいます。
 「16年3月期までに国内事業2兆円、海外事業1兆円の売上高達成を目標にしています。海外事業に関してはM&A(合併・買収)も大きな選択肢です。その場合、相手先の経営は事情をよく知る現地の人に委ねることになるでしょう」

業績データから海外市場の開拓急ぐ

 LIXILグループの12年3月期連結業績は売上高が前期比6・3%増の1兆2913億9600万円、経常利益は前期比58・8%減の161億2500万円だった。断熱窓の販売拡大やホームセンターの出店が増収に寄与。一方、タイの洪水で現地工場が操業停止し、国内で代替生産したため費用がかさんだ。

 事業会社5社統合からの2周年を控え「投資家はさらなる成長戦略を求めている」と藤森社長。そこで見据えるのが、中期計画で掲げる「16年3月期までに海外売上高1兆円」の実現に向けた欧州市場の開拓だ。まずは11年12月に買収したイタリアの外壁材大手ペルマスティリーザの販路を活用しトイレやキッチンを売り込む。もっとも、12年3月期の海外売上高は539億円。計画達成には第2、第3の海外M&Aが不可欠となりそうだ。

はごろもフーズ社長溝口康博氏――「シーチキン」値上げへ

価格低迷・原料高が打撃 来期、「営業黒字を確保」 
 はごろもフーズが苦戦している。デフレによる販売価格の低迷と原料価格高騰というダブルパンチに見舞われ、2013年3月期の連結業績は2期連続の最終赤字となりそう。足元の為替の円安傾向もコストの一段の上昇につながる可能性が高い。溝口康博社長は業績立て直しに向けて、14年3月期には主力のツナ缶詰「シーチキン」の値上げが避けられないという考えを示した。

 ――「シーチキン」の参考小売価格は07年に引き上げて以来、据え置いています。
 「消費者の低価格志向と円高の進行などを受けて中国などから安価な海外製品が流入。小売業界のプライベートブランド(自主企画)商品も浸透した。当社のようなナショナルブランドを取り巻く環境は本当に厳しく、値上げしたくてもできない状況が続いてきた」
 ――今期は2期連続の赤字に陥りそうです。
 「販売価格が低迷する一方、缶に使う鉄や、原料のカツオやマグロの価格が上昇し、円高の恩恵を打ち消した。海外での原料価格は高止まりしており、昨年末からの円安が輸入コストの上昇につながる。当社の場合、円がドルに対し10円安くなると、年間7億~8億円の利益が無くなる」
 「これまで製造現場でのムダの排除などコスト削減に努めてきたが、自社努力の限界はとうに超えた。14年3月期中にはシーチキンなど主力商品の値上げが避けられないと考えている」
 ――消費者の低価格志向は依然として続いています。値上げは容易ではないと思いますが。
 「確かに消費者は価格に対して敏感だ。容量を減らして実質値上げにするか、参考小売価格を引き上げるかはこれから議論する。ブランドや商品力を強化するなどして対応したい」
 ――具体的にどう訴求していきますか。
 「引き続きメニュー提案型の販促に取り組む。これまではシーチキン主体だったが、今年は『シャキッとコーン』や『朝からフルーツ』など他の商品にも導入する。コンビニエンスストアで人気のパンやデザートを手軽に家で再現する方法など食べる楽しさを伝えたい」
 「60歳代以上に配慮した商品も充実させる。例えばシーチキンでは、アルミシールで蓋をした商品のデザインを変更し、品目数も増やす。『やさし~る』と名付けた新たな缶が店頭に並ぶ春先には広告も打つ」
 「『やさし~る』は手の力が弱くても爪が長くても開けやすいが、特殊な設備が必要で製造コストが上がるのが難点だ。この缶を全面採用するには協力会社を含め大きな設備投資が必要。消費者の反応を見ながら、慎重に判断したい」
 ――コスト減のために海外生産を進める考えはありますか。
 「当社は内需に応えるという前提に立っている。国産であるという安心感を消費者に与えられることや原材料の手当てのしやすさなどを考えると、現在の工場体制は最適だと考えている」
 ――14年3月期の業績をどう見ていますか。
 「来期は最低でも営業黒字を確保しなければならない。売上高を無理に追おうとは思わないが、商品内容などで付加価値を出し、規模が小さくても利益が出る体質にしたい。(消費冷え込みの懸念がある)消費増税前ということもあり、今年は正念場だ」
ツナ缶の代名詞
問われる真の力

 焼津市内にあるシーチキンの工場を訪れて驚いた。蒸した魚の身を従業員が一つずつほぐしていた。機械では適度なほぐし身を作りにくいという。「セールの目玉になりやすい」という現状を見ると、商品の価値とこだわりは、どれだけ消費者に伝わっているだろうか。

 溝口社長は値上げが不可避だとしたが、上げ幅やタイミングの判断は難しい。価格重視の風潮が強まるなか、ツナ缶詰の代名詞とも言われる商品をどのように訴求し、消費者離れを食い止められるか。ブランドの真の力が問われそうだ。