2013年1月23日水曜日

アボット分社アッヴィ日本法人社長に聞く、新薬、健康寿命に貢献


売上高、20年に900億円目標

 米製薬大手アボット・ラボラトリーズは今月、新薬の研究開発や製造販売事業を分社した。発足した新薬会社アッヴィはアボットと資本関係を持たない別会社となり、世界の製薬業界でも珍しい形の事業再編となった。日本で1月から事業を始めたアッヴィ日本法人(東京・港)のゲリー・エム・ワイナー社長兼最高経営責任者(CEO)に戦略などを聞いた。

 ――世界大手が規模拡大やパイプライン(開発候補品)拡充を求めてM&A(合併・買収)を進めるなか、なぜ分社なのか。

 「アボットは製薬事業とその他の多角化した医療製品で成功した。だが両分野で異なる戦略が必要だということが分かってきたため、分社化を決めた。統廃合で効率化やコストダウンを求める業界のトレンドとは逆行する野心的な試みとなる」
 「アッヴィは125年の歴史を持つアボットの主要な事業を受け継ぎ、研究開発に特化した企業となる。事業の選別や革新性、意思決定の早さ、科学への志向などバイオ技術企業としての要素と、財務の強さや強力な指導力、商業的な実行力、インフラなど従来的な製薬企業の強さを併せ持った独特なモデルとなる」

 ――日本市場では、どのような戦略で臨むのか。

 「日本は大きな機会がある市場と捉えている。米国に次ぐ第2の市場で、高齢化で慢性疾患に苦しむ人に新たな薬を届ける需要がある。アッヴィは治療の難しい疾患に焦点を当て、(自立して生活できる期間である)健康寿命の長期化に貢献できると思う。(アボットの新薬事業の)過去数年の成長率は業界でも高かった。2011年の日本での売上高は6億1600万ドル(約550億円)だったが、20年までに10億ドル(約900億円)を目標にしている」

 ――その目標に向けた製品戦略は。

 「すでに治療領域によっては市場をリードする製品を持っている。関節リウマチなど6つの適応症がある治療薬ヒュミラは成長の核。さらに適用を拡大して引き続き重要な製品であり続け、20年の目標に貢献するだろう。早産児の呼吸器感染を抑えるシナジスは発売から10年になるが、毎年伸び続けている。審査中のものが3件、神経科学領域など計約20件の開発候補品があり、製品領域を拡大する」

 ――今後、どのような領域に注力するのか。

 「C型肝炎や末期腎疾患、ある種の白血病、子宮内膜症などの治療薬も開発している。いずれも治療が難しい医学的に重要な疾患だ。患者の生活に大きく変化をもたらす専門的な医薬品に焦点を絞る。挑戦的な領域だが、独立した企業として的確な投資決定をし、開発を加速することで優れた医薬品を迅速に提供できるようになると思う」


新たな再編の形
製薬の試金石に
 アボットの株価は2011年10月の分社化発表後、12年末までに約25%上昇し、同期間のダウ工業株30種平均の上昇率の倍近い伸びとなった。事業に応じた迅速で適切な経営戦略を採るという趣旨は、市場にまずは受け入れられたといえる。
 アッヴィの事業はすべてがアボットから受け継ぐもの。それだけに今後の同社の成否は、分社の選択が正しかったか否かの評価に直結する。M&Aが相次ぐ製薬業界での事業再編の新たなモデルの試金石として、経営のかじ取りが注目される。

 ▼アボットの分社 米アボット・ラボラトリーズは2011年10月、長期収載品(特許切れ薬)を除く製薬事業を分割し、新会社として上場する計画を発表。新会社は「アッヴィ」として13年1月に発足し、アボット株主に新会社の株を割り当てる形でニューヨーク証券取引所に上場した。アボットは特許切れ薬や診断機器、診断薬、栄養剤事業を継続する。11年1~12月期のアボットの売上高は389億ドル(約3兆5000億円)、うち分社化された事業は170億ドル。

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