2013年1月22日火曜日

成長期の東南ア、どう攻める?――丸紅社長朝田照男氏



インフラの強み突破口に

 日本経済再興のカギを握る存在として東南アジアに注目が集まっている。生産拠点としてだけでなく、中間層の台頭で消費市場としての魅力も増した。尖閣諸島を巡る深刻な日中対立も日系企業を東南アジア進出へ駆り立てる。その成長力をどう取り込むか。丸紅の朝田照男社長に聞いた。

 ――「中国+1」の受け皿として距離的にも近い東南アジアに期待が集まる。

 「6億人の域内人口は13億人の中国の半分だが、中国の発展初期に比べると経済水準が高く、消費拡大のスピードは中国を上回っている。ただ賃金上昇は恐らくあっという間。労働集約型の縫製品などで中国に取って代わる輸出基地になるのは簡単ではない」

 ――日中対立は長期化が必至。「+1」にとどまらず「脱・中国」を模索する動きも出てきそうだ。

 「日本企業は中国のカントリーリスクを再認識した。脱・中国という発想も当然出てくるだろう。ただ伸び率が鈍化したとはいえ、なお年7~8%を期待できる成長力を捨ててすべて東南アジアへシフトできるわけはない。強硬姿勢の中国側も安定成長には日本の協力が不可欠なはずだ」

 ――タイの大洪水、インドネシアの労働ストなど、東南アにもリスクはある。

 「政情、宗教、災害などどこでもリスクは付きものだが、東南アジアは多様な国家の集合体。バランスを考えて投資すれば域内でリスク分散が可能だ。共産党一党独裁の中国のリスクとは別次元と考えていい。何よりも中国との最大の違いは大半が親日国なことだ」

 ――丸紅はどう攻める。

 「タイの発電分野で同国の能力全体の25%分の建設を手掛けるなど、特にインフラ分野に強みがある。昨年末にフィリピンの世界最大規模の民間水道会社に出資し、東南アジアでは未参入だった水処理事業でも足掛かりを得た。そこでの運営実績をてこにインドネシアなどへも参入したい」
 「東南アジアには海外駐在員の2割強の180人を配置し、北米を上回るが、ヒトやカネといった経営資源の配分に利益が追いついていない。一因は三菱商事におけるブルネイの液化天然ガス(LNG)、三井物産のタイの石油のようなドル箱となる資源権益がないこと。焦って高値づかみはしないが、ミャンマーなどで権益獲得を狙っていく」

 ――ミャンマーでは三菱商事、住友商事と共に、最大都市ヤンゴン近郊の「ティラワ経済特別区」の事業化調査に参画している。

 「(東京ドーム510個分の)2400ヘクタールもの開発が一筋縄ではいかないのはわかっている。日本が官民挙げて取り組む国家的事業であり、事業化調査の結果、見通しが厳しくても撤退する選択肢はない」


日系進出が加速守りの姿勢禁物

 安倍晋三首相が就任後初の外遊先に選び、インフラ整備への協力を持ちかけたように、新たな成長期に入った東南アジアは日本にとって投資・貿易の両面で重みが増す。日本車が8割のシェアを握るなど、もともと日本への信頼感や存在感が大きいことも、一段の進出加速を容易にする。
 ただ投資ラッシュの陰では「日系が多いから何か仕事があるはず」とまず進出ありきの事例も増加。相手国ではなく日本企業自身の「円借款頼み」も目立つ。新興国群ではリスクの低い東南アジアで守りの姿勢ばかり目立つようでは成長力の取り込みはおぼつかない。

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