2011年6月4日土曜日

中堅買収、5年で500億円、日立物流・鈴木社長に聞く――中印の成長市場取り込む。

売上高、4割増7500億円へ
 日立物流がM&A(合併・買収)を通じた業容拡大を加速させている。4月に自動車物流のバンテックを傘下に収めたのに続き、国内外の中堅物流企業の買収に今後5年間に500億円を投じる。メーカー系企業の取り込みなども進め、2016年3月期の売上高を7500億円と今期見通しの4割増の水準にまで高める考え。具体策などを鈴木登夫社長に聞いた。
 ――5年後に前期の2倍近くの売上高を目指すがどう実現するのか。
 「バンテックほどの規模ではないが、今後5年で少なくとも500億円弱を投じてM&Aを続ける。これまで事業を拡大するために日立物流から買収をしかけたことはなく、基本的には相手から話が持ち込まれる。これからもメーカーが経営改革の一環として物流子会社を切り離したいという話はくるだろう」
 ――顧客から集めた荷物を混載輸送するフォワーディング事業も強化したいのでは。
 「過去5年を振り返ると、インドの混載貨物事業者(フォワーダー)などを買収してきた。バンテックとあわせて3つの拠点になる。これからは中国、欧州に新しい拠点をつくるべきか、または大手の近鉄エクスプレスと提携する手もある」
 ――近鉄エクスプレスとは大型貨物の海外輸送で提携したばかりだが、資本提携はあるのか。
 「近鉄エクスプレスとは仲良くやろうと思っている。将来、資本関係を持つかは別として、とりあえずプロジェクトカーゴの会社を作った。近鉄エクスプレスにはサウジアラビアに工場を移設する話が来たり、ハイチの復興もやってきたように航空貨物に強い。ただ陸運の要請があってもできなかった。それを日立物流がやればワンストップでできる」
 「あくまでも当面はバンテックとともに成長をする。陸運を中心にグローバルで活躍し、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)分野で国内で圧倒的な1位になりたい。生産基地、消費基地が世界的に広がるなかで、フォワーディングは必要だ。中堅の海外企業を買収できればと考えている」
 ――急成長するなかで親会社の日立製作所との関係は変わったか。
 「親会社からみれば、自社の荷物だけ運ぶならコストセンターだし、利益を上げれば連結対象の効果がある。これまで売上高の3割ほどあった日立向けの取引は、バンテックの買収などで2割を切る。だが富をもたらす孝行息子になれば、ウィン―ウィンになれる」
 ――目標の7500億円の内訳をみると、国内売上高が7割と現状と変わらない。
 「現状のままではダメだと思っている。20年には売上高が1兆円になる勢いにするには、海外と国内が半々になっていないといけない。アジアの成長はまだ取り込みきれていない。中国、インド市場をもっとてこ入れしないとダメだ」
 ――東日本大震災の業績に及ぼす影響は軽微なようだ。
 「震災直後の物流停滞は想定より短かった。4月は営業利益ベースでみると、前年同月を1割上回り好調だった。実感としてマイナスの影響は感じない。企業の拠点や生産体制の見直しがあれば、物流の需要が増すだろう。こうした商機をしっかり取り込んでいく」
記者の目
拠点統廃合など
買収効果を注視
 電機と自動車。国内二大産業の物流を手にした日立物流だが、懸案もある。買収後も上場を維持したバンテックの株価下落だ。TOB(株式公開買い付け)価格は1株23万円台だったが、バンテックが2012年3月期の業績見通しを発表した26日の終値は12万700円と半値近い。決算期末に株価下落に伴うのれん代を特別損失として償却しなければならなくなる可能性もある。
 こうした不安を打ち消すには、買収の相乗効果を早期に示す必要がある。鈴木社長が強調する海外拠点の統廃合や、車両などの資産の共有をどう進められるかに注目が集まりそうだ。

技術者派遣・メイテック、西本社長に聞く、開発人員の需要底堅く。

営業益2.5倍目標 13年度
 技術者派遣最大手のメイテックは、このほど2013年度を最終年度とする中期経営計画を策定した。08年のリーマン・ショックでは多くの派遣契約が打ち切られたが、最大の経営資源である技術者は減らさずに難局を乗り切った。では東日本大震災後、日本の製造業各社はどう動くか。今後の見通しなどについて西本甲介社長に聞いた。
 ――東日本大震災は製造業に大きな爪痕を残した。影響はどうか。
 「製造業の復旧スピードが速いと実感している。東北や北関東には電機、自動車関連の集積があり、リーマン・ショックの経験から震災直後は700人以上が契約終了のリスクがあると見積もった。しかし派遣先である製造業各社は生産が打撃を受けても開発のアクセルをゆるめる動きはなく、杞憂(きゆう)に終わった」
 「特に新興国向けの需要は旺盛で、各社とも対応する製品の開発は最重要課題だ。震災の影響で一部失う契約もあるとみているが、逆にサプライチェーンの問題で部品の設計変更などを進めるための復興需要も出ているので、全体では相殺できるとみている」
 ――震災後に中期経営計画を決めた。
 「13年度の連結売上高は10年度比25%増の770億円、営業利益は2・5倍増の75億円以上を目指す。一見保守的にみえる数字だが、またリーマン・ショックと同規模の危機が来ても営業黒字を出せる体制という前提で計画を組んだ。最大の経営資源である人を大切にする」
 ――具体的には。
 「稼働率が最大で7割以下に落ち込んだリーマン後にも、国の雇用調整助成金を活用して人員は一切削減しなかった。当社の経営資源は技術者に尽きるので、当社で『雇用を守る』ことは情緒的な意味にとどまらない。リーマン後に雇用に手を付けなかったことは、結果的に評価してもらえている」
 「採用は10年度から一部再開していたが、今年度以降は新卒、中途を合わせて毎年600人以上を採用する。12年春卒業予定の新卒採用を含む11年度の採用計画は850人。キャリアサポートも充実させる」
 ――サポートという意味は何か。
 「技術者であっても“人間力”の向上が欠かせない。リーマン後には稼働を継続できた人とそうでない人に分かれた。さらに一旦契約解除されても、数カ月後の再契約で声がかかった人とそうでない人に分かれた。その差は定量的なスキルに現れない人間力にあった」
 「当社は派遣社員として働く従業員は常用雇用であり、多様な派遣先を経験しながら60歳の定年退職まで技術者として務められる。そういった技術者の先輩がロールモデルになるように、研修などを通じて若手社員などを育てていきたい」
 「このほかに中小企業で正社員として働くための人材紹介事業も再稼働させ、従業員に多くの選択肢を提供できるようにしていきたい」
メイテックの中期経営計画の骨子   
<13年度の収益目標>   
連結売上高   10年度比25%増の770億円以上
連結営業利益   10年度比2.5倍の75億円以上
<戦略目標>   
採用戦略   新卒と中途で年間600人以上を採用
キャリアサポート   技術力にとどまらず「人間力」を向上させる教育・研修
その他   コンプライアンス、IT戦略強化など

車増産にらみ450億円投資、日本精工社長に聞く、今期、成長の大前提崩れず。

 軸受け(ベアリング)国内最大手の日本精工は今年度に前年度比16%増の450億円の積極投資を実施する。最大の顧客である自動車は今年、世界の完成車の組み立て台数が7400万台を超えると予想し、増産態勢を急ぐためだ。11年度は東日本大震災の影響を読み切れず業績見通しの公表を見送ったが、「成長の大前提は崩れていない」と語る同社の大塚紀男社長に戦略を聞いた。
 ――震災が事業計画に与える影響は。
 「3月11日午後2時46分は、まさに11年度の予算審議の最終段階だった。事実上、事業計画は固まっているが、調達先や納入先の状況が不確定なので業績予想の発表は見送った。既に部材調達はメドがつき、納入先の自動車メーカーの操業も日々改善している。供給網が復旧さえすれば、自動車メーカーは一気に生産を拡大する」
 ――市場の成長は続くのか。
 「世界の市場環境に変化はない。例えば世界の自動車生産台数は10年に7200万台を達成したが、今年は7400万から7500万をうかがう勢いだ。産業機械分野も先進国こそリーマン・ショック前の水準まで戻っていないが、新興国需要がけん引し、全体としてはかなり高い」
 「当社の10年度の連結売上高は7104億円と07年度の9割の水準だが、物量ベースでは過去最高。中期計画では最終年度の12年度に世界の自動車生産が7200万台に達すると想定していたので、10年度はめいっぱいの状況だった」
 ――今年度の設備投資は。
 「成長の大前提が崩れていないとみて450億円程度投資する。ただ4~6月期は様子を見て、7~9月期以降に実行する。中国など特定の成長地域や成長商品については前倒しで投資する。例えば中国の仮工場で生産を始めた産業用の大型軸受けは受注が好調。10月に本工場が建設できたら、前倒しで設備を導入して増産体制を敷く」
 「中国市場の成長テンポは速く、10年度の事業規模は1000億円を超える。競争も厳しい中でさらに成長させるには、マネジメント体制の強化が必要。これはもう専務の仕事と判断し、現地トップとして送り込むことを決めた」
 ――震災を機に海外調達の必要性が高まった。
 「海外生産していても、日本から鋼材や部品を送っていたのでは不十分だ。軸受けの場合、欧米や中国、韓国では現地の鋼材メーカーから調達しているが、東南アジアでは実現できていない。中国や韓国の鋼材を使う検討を始めた」

アルプス電気社長片岡政隆氏、現場で即決、早期復旧(大震災と企業復興への道を聞く)

危機バネに環境分野強化
 東日本大震災で国内7工場のうち6工場が被災したアルプス電気。3週間以内に全工場を再稼働させ、サプライチェーン(供給網)への影響を最小限に抑えた。片岡政隆社長は単なる復旧に終わらず、今後は環境関連など新しい分野に経営資源を振り向ける考えだ。
 ――3月28日に国内すべての工場が稼働した。
 「本社と現場の密な連携で早期復旧を実現した。震災当日の11日の夜にはヘルメットなど救援物資を載せたトラックを東北に送り、12日には各工場に役員を派遣した。現場で陣頭指揮にあたってもらい、対応を即断即決できるようにした。古川工場(宮城県大崎市)の生産設備を被害が比較的小さかった北原工場(同)に移すなど、代替生産も臨機応変に行った。三陸南地震や岩手・宮城内陸地震で工場が被災した経験を生かせたことも大きい」
 「私自身も3月22日から1週間程度、現地に赴いた。危機の時こそトップが現場と信頼関係を築くことが重要だ。スピード復旧によって、ある米大手自動車メーカーは当社の評価を単なる1ベンダーから『パートナー』に格上げした」
 ――東北に集中する生産体制を国内外に分散させる考えはあるか。
 「新たに国内工場を建設する構想はないが、既存工場や他社の工場を含めて遊休スペースを活用する可能性は十分にある。電力需給や原子力発電所の問題が悪化した場合に備え、事業の継続性を高めたい。すでに全生産の6割を海外工場が担っており、今回も足元の供給体制を確保するため、一時的に中国などで代替生産した。すぐに海外生産比率を高めるわけではないが、いつでも対応できる体制は整えている」
 ――夏の節電対策は。
 「6月下旬から工場ごとに輪番制を導入する。自家発電装置も新たに設置した。今夏の節電目標を政府の昨年比15%ではなく、自主的に25%に設定した。予想以上に電力需給が逼迫する可能性があり、あらゆる事態を想定して動く」
 ――2012年度までの中期経営計画に変更はあるか。
 「変えていない。自動車向け部品に関しては、秋以降に生産不足を補うため自動車各社が一気に増産する可能性もある。急に多くの注文がきた場合でも対応できる体制を整える」
 「新規事業の立ち上げを加速したい。電力不足で省エネ関連製品が注目を浴びている。産業革新機構の出資を受けて昨年設立したアルプス・グリーンデバイスの電力を制御する機器も受注拡大が見込める。新製品の開発や発売を前倒しし、受注機会を広げたい」
 ――震災は電子部品業界に何をもたらしたか。
 「電力不足やサプライチェーンの乱れ、中国・韓国勢のさらなる台頭などで業界は苦境に立たされている。しかし、我々はオイルショックやプラザ合意後の円高などを自ら変革することで乗り越えてきた。今回の苦難も変革への転機としたい」

東京個別指導学院取締役井上久子氏――生徒や部下と「真剣勝負」(キャリアの軌跡)

 熱血と根性の人だ。地元の塾で講師をしていた時のこと。担当していた生徒の中に、学校生活になじめずに不登校になったり、勉強に前向きになれなかったりするなどの悩みを抱えた生徒が何人かいた。彼らに対して常に、「いいものを持っているのに、小さなつまずきで投げやりになるな」と励まし続けた。
 生徒が学校に行っていないことが分かると、迎えに行って校門まで連れていったし、朝起きようとしない生徒の部屋に入って起こしたこともある。「勉強だけではなく、将来何をしたいのかを一緒になって探した」という。
 熱血スタイルは東京個別指導学院入社後も続いた。事業本部長時代、営業担当の部長と携帯電話で何時間も議論するあまり、途中でバッテリーが切れてしまうことなどは日常茶飯事。「数字の鬼」と恐れられたこともあった。「真剣に子どもと向き合える講師と教室をもっと作りたい」という信念で突き進んだが、「今思うと気張ってしまった時期もあった」と振り返る。
 大学を卒業した23歳の時、まだ40代後半だった母親が亡くなった。放送局に勤めるキャリアウーマンだった母親は、「いつも夢を具体的に語る人だった」。数字や具体的なビジョンを重視して仕事をするスタイルは母親から受け継いだと思っている。
 会社を一人前に育てたいという強い気持ちとは裏腹に業績が伸び悩んだ時期もあったが、「この程度で落ち込むなら、本当にやりたい仕事とはいえない。今できることをやるだけ」と自分に言い聞かせ、腹をくくった。根性と強さは家族の死を乗り越えた経験と無関係ではない。
 ベネッセホールディングスの傘下に入った当初、副社長としてそれまでのやり方とベネッセ流の板挟みになった。対立するのではなく、社員が共に進むための軸は何か。考えた結果、導き出した答えは「生徒、社員すべての人が自分の夢を実現できる場をつくること」。創業社長や長年一緒に働いた多くの仲間が去った今、この原点を次の世代に引き継ぐことが、自分の使命だと心得ている。
ほっと一息
 「三度の飯より活字が好き」。特に好きなのは「源氏物語」などの古典文学だ。卒業論文で源氏物語について書いて以来、何度も読み返している。「読むたびに感情移入する場所が違うのが面白い」とか。平日でも寝る前は必ず読書をするし、休日は「思う存分掃除をしたあと、窓辺に寝転がって読む」という。
 いのうえ・ひさこ 神奈川県出身。1995年東京個別指導学院入社。2004年営業部長、05年事業本部長、06年副社長就任。10年から取締役。45歳。

メッセージ執行役員折野千恵氏――介護人材育成「諦めない」(キャリアの軌跡)

 高齢者福祉施設を運営するメッセージで、介護職員の育成に力を注ぐ。この10年で4施設から178施設へと急拡大するなか、「いい介護はいい人材から生まれる」と現場を支える人材を育ててきた。
 介護に目を向けたのは25年ほど前、がんセンターで看護師として働き始めて間もなくのことだ。余命1カ月と告げられた50代の女性のがん患者から「もう一度だけ自宅で過ごしたい」と訴えられた。前例はなかったが看護師長にかけあい、就業時間外に患者の自宅まで看護に通うことを認めてもらった。自宅に戻った患者を見て驚いた。「何と穏やかな表情だろう」
 女性は2週間家族に囲まれて満ち足りた時間を過ごし、最後は病院で亡くなった。「人生最期のときを支えたい」。在宅医療へ気持ちが傾いていった。
 29歳で大学に編入し社会福祉士の資格を取得。その後、メッセージの母体である社会福祉法人に転職した。介護施設展開に向け、職員の育成プログラム開発を任された。「同じ人間として相手が何を望んでいるのかを考えよう」と説くものの、忙しい職員にはなかなか受け入れられなかった。そこで高齢者の立場を体感してもらうことにした。
 当時は、こまめにオムツ替えをする時間が取れないため2枚重ねとする事業所も少なくなかった。研修では職員にトイレで自らオムツを当ててもらい、講義をしながら「ここで排尿していかに不快かわかってほしい」と促した。数年後「研修の成果が出てきたね」と社長に言われたときはうれしかったという。口癖は「諦めたらダメ」。人材育成でもこれを貫き「諦めず何度も言い続けている」。
 介護職のやりがいを高めるためキャリアアップ制度づくりも手掛けた。介護ヘルパーには10段階の等級を用意。昇格にあたっては8カ月のウェブ研修やリポート提出などで、職員が現場で自ら考え行動する力を育む。成長には年収アップで報いる仕組みだ。
 「介護者にキャリアの展望を示したい。それが高齢社会の安心につながる」と語る目は遠くを見据えている。
ほっと一息
 歴史小説を読みふけるのが至福の時。司馬遼太郎、池波正太郎、佐伯泰英の作品をよく手にする。また「三国志」からは駆け引きを学ぶなど組織運営に役立つヒントを得られるという。
 夫との2人暮らしで、休日は写真が趣味の夫に付き合い撮影旅行も。「撮影中は近くのカフェで本を読んで待っている」と笑う。
 おりの・ちえ 島根県出身。1982年神戸市立看護短期大学卒、病院看護師、短大助手を経て97年に社会福祉法人へ。2009年4月現職。50歳。

2011年6月1日水曜日

タワーレコード社長嶺脇育夫氏

D店の生き残り策は 音楽配信、協業も模索
 2月末、タワーレコードの新トップに就任した嶺脇育夫社長。早々に東日本大震災への対応を迫られ、音楽CD市場の縮小や筆頭株主となったセブン&アイ・ホールディングスとの連携強化など難題も山積みだ。今後、CD店が生き残るには何が必要か。店舗運営のあり方やCD店の将来像、音楽配信との距離感などについて聞いた。
 ――震災の影響は。
 「3月の売上高は全店で前年同月比10%、既存店で同13%減った。音楽CDメーカーの生産や物流の混乱で、新譜の発売が止まったことなどが影響した。ただ、新譜発売が回復した4月の売上高は全店で8%、既存店で5%増えた」
 ――CD販売への逆風は変わらない。
 「CD店が減ったこともありネット通販などに流れたのは事実だろう。当社は在庫を詰め込めるだけ詰め込むという考え方で、新譜だけでなく旧譜もしっかり売る。洋楽の過去の名作を千円で売る独自企画『輸入盤千円生活』の販売枚数は100万枚を超えた。ヒットがなければヒットを作ろうということだ」
 「CD店は顧客目線のサービスがまだ徹底できていない。来店した顧客を(買わずに)帰らせているケースもある。そこで最近、ネットで商品を取り置き予約できる仕組みを始めた。CDが欲しいという消費者以外の取り込みも重要でイベントや催事、ライブも強化する考えだ」
 ――成長するネット音楽配信への対応は。
 「音楽配信を自社でやることはないが、協業できるなら組みたい。配信を利用する消費者は目的意識が強くスピードが速い。しかし、CDという目に見える形だから話題となることもある。例えば福島県出身のアーティストが震災を受け結成した『猪苗代湖ズ』。配信開始から1カ月後にCDをタワーレコードで限定販売したところ、多くの消費者が購入した」
 ――出店戦略は。
 「店舗の広さは165~5000平方メートルまであり様々な店を作れるが、最近は330平方メートル未満の小型店で、JR東京駅の八重洲地下街に出した『タワーミニ』が中心業態。今年8月までに計5店を出し、総店舗数を90店にしたい。来年2月までには計10店を出したい。新規出店により2012年2月期の売上高を前期(548億円)と同水準とするのが最低限の目標だ」
 ――店舗運営は。
 「10年11月に1億~2億円を投じ旧譜を大幅に増やした。今年3月には店頭やネット通販向けの在庫を備蓄する都内の物流拠点を拡充した。資金繰りを考えれば在庫は少ない方がよいが、CD店は品ぞろえを厚くしなければならない。バランスは難しいが不良在庫の流動化なども進め、魅力ある店舗を維持したい」
 ――セブン&アイが3月に筆頭株主となった。
 「(同HD傘下の)赤ちゃん本舗(大阪市)へのCD卸事業や新規出店の方針について頻繁に話し合っている。やはり大株主のNTTドコモとは携帯電話向け情報提供などで連携している」
記者の目
品ぞろえ拡充と効率の両立カギ
 音楽CD店の経営の難しさの1つに「品ぞろえの拡充」と「在庫圧縮」の両立がある。品ぞろえを潤沢にすれば在庫負担がかさむ。在庫を絞りすぎれば店の魅力が失われる。相反する課題のバランスをとることは、メガヒットが生まれにくい現在、音楽ファンを店にひき付ける上でますます重要だ。
 タワーレコードは大型店を中心に、回転の低い旧譜洋楽などの品ぞろえで支持を得てきた。ただ、震災以降の消費動向は予断を許さない。経営者が在庫より資金繰りに余裕を持ちたいと考えるのは自然だ。筆頭株主のセブン&アイの協力を得つつ、どう店作りを主導するか。若く生え抜きの嶺脇社長の手腕が早くも問われる。
みねわき・いくお1986年に秋田県立鷹巣高校を卒業。88年にタワーレコードに入社。2005年に取締役。11年2月社長就任。どんなジャンルの音楽も聴くという。44歳