高齢者福祉施設を運営するメッセージで、介護職員の育成に力を注ぐ。この10年で4施設から178施設へと急拡大するなか、「いい介護はいい人材から生まれる」と現場を支える人材を育ててきた。
介護に目を向けたのは25年ほど前、がんセンターで看護師として働き始めて間もなくのことだ。余命1カ月と告げられた50代の女性のがん患者から「もう一度だけ自宅で過ごしたい」と訴えられた。前例はなかったが看護師長にかけあい、就業時間外に患者の自宅まで看護に通うことを認めてもらった。自宅に戻った患者を見て驚いた。「何と穏やかな表情だろう」
女性は2週間家族に囲まれて満ち足りた時間を過ごし、最後は病院で亡くなった。「人生最期のときを支えたい」。在宅医療へ気持ちが傾いていった。
29歳で大学に編入し社会福祉士の資格を取得。その後、メッセージの母体である社会福祉法人に転職した。介護施設展開に向け、職員の育成プログラム開発を任された。「同じ人間として相手が何を望んでいるのかを考えよう」と説くものの、忙しい職員にはなかなか受け入れられなかった。そこで高齢者の立場を体感してもらうことにした。
当時は、こまめにオムツ替えをする時間が取れないため2枚重ねとする事業所も少なくなかった。研修では職員にトイレで自らオムツを当ててもらい、講義をしながら「ここで排尿していかに不快かわかってほしい」と促した。数年後「研修の成果が出てきたね」と社長に言われたときはうれしかったという。口癖は「諦めたらダメ」。人材育成でもこれを貫き「諦めず何度も言い続けている」。
介護職のやりがいを高めるためキャリアアップ制度づくりも手掛けた。介護ヘルパーには10段階の等級を用意。昇格にあたっては8カ月のウェブ研修やリポート提出などで、職員が現場で自ら考え行動する力を育む。成長には年収アップで報いる仕組みだ。
「介護者にキャリアの展望を示したい。それが高齢社会の安心につながる」と語る目は遠くを見据えている。
ほっと一息
歴史小説を読みふけるのが至福の時。司馬遼太郎、池波正太郎、佐伯泰英の作品をよく手にする。また「三国志」からは駆け引きを学ぶなど組織運営に役立つヒントを得られるという。
夫との2人暮らしで、休日は写真が趣味の夫に付き合い撮影旅行も。「撮影中は近くのカフェで本を読んで待っている」と笑う。
おりの・ちえ 島根県出身。1982年神戸市立看護短期大学卒、病院看護師、短大助手を経て97年に社会福祉法人へ。2009年4月現職。50歳。
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