2011年7月15日金曜日

米ジュニパーネットワークスCEOケビン・ジョンソン氏

 クラウドコンピューティングの利用拡大やスマートフォン(高機能携帯電話)の普及で、ネットワークの重要性が増している。今後のネットワーク機器はどのような機能が求められるようになるのか。技術開発の方向性について、ネットワーク機器大手の米ジュニパーネットワークス最高経営責任者(CEO)のケビン・ジョンソン氏に聞いた。
――今後のネットワーク機器をどうみる。
 「『クラウドコンピューティング』と『モバイルインターネット』は今後10年を左右するトレンドだ。クラウドは一元化や自動化によりデータセンターのコンピューター利用を効率化する技術。これが、モバイルインターネットと組み合わされる。世界の数十億の人々がスマートフォンなどを使ってインターネットにつながり、データセンターから提供されるサービスを利用する時代になる」
 「この結果、インターネットを流れるデータは今後爆発的に増える。つまり、ネットワーク機器は、膨大な通信量を高速に処理できる能力が求められる。また、その処理性能を簡単に拡張できるようにする必要がある」
 「3つ目の重要な機能がセキュリティーだ。今後、モバイルで使われる端末の種類は増える。利用者が安全にネットを利用できるように機器側でなんらかの手当てをする必要がある」
――モバイル端末のセキュリティー対応は、ウイルス対策ソフト会社などの専門企業も手掛けている。
 「モバイル端末のセキュリティーは端末だけでは収まらない。ネットワーク全体で考える必要がある。だからこそ我々は独自に端末管理ソフト『ジュノスパルス』を提供した。スマートフォンの利用状況を個別に管理でき、ウイルス対策機能も持つ」
 「ただし、セキュリティー関連の技術のすべてを自社で提供する意図はない。我々のネットワーク機器の基本ソフト(OS)『ジュノス』は外部企業が独自のソフトを提供できる。今後の世界で十分なセキュリティーを担保するには、多くの頭脳が集まり、たくさんの技術革新を起こす必要がある。そのような状況を作りたいと思う」
――新興国への進出をどう考えるか。
 「我々は成長する市場の参加者でありたい。我々が成長するには、新市場に新製品を投入して、市場を広げていく必要がある。世界のどこでもネットワークに求められる機能は大きく違わない。今、起きているトレンドは世界同時進行。ネットにつながる新しいユーザーは新興国で生まれている。通信量も新興国で圧倒的に伸びている」
 「幸い、中国、インド、ロシア、ブラジルは既に我々にとって重要な市場になっている。人口の多い中国とインドが当面、市場を引っ張っていく形になるとみている」
 「ライバルは世界中にいる。だからこそ我々は技術革新を続けて引き離す必要がある。昨年は研究開発に売り上げの21%を投資した。今後も売り上げの18~19%を目安に投資を続けていく」

SRIスポーツ社長野尻恭氏―欧米・中国、果敢にアプローチ

 《抱負》「住友ゴム工業で海外駐在が長く、中国では駐在した5年間に売上高を5倍に引き上げた。課題はグローバル展開で、2015年までの早い段階に、海外売上高比率を現在の35%から50%以上にするのが目標だ」
 「足がかりとなるのが北米と欧州市場。北米のゴルフボール市場のシェアは6%程度。『スリクソン』ブランドで展開しているが、07年に買収したゴルフクラブ『クリーブランドゴルフ』の販売網を活用する。シェアを毎期1%伸ばし、早期に2ケタに乗せ、最大手の『タイトリスト』の牙城を切り崩す。欧州市場は英国以外の地域がまだ小さく、販売の強化で伸ばす」
 「圧倒的な市場の伸びが期待できるのは中国だ。ゴルフ場の数は日本の約2400に対し、中国は500程度。プレー代も高く、ゴルファーも少ない。ぜいたくなスポーツという見方だが、五輪の正式種目になる16年にはそうした認識が見直されるだろう。トーナメントへの協賛などを通じて知名度を高める」
 「海外事業を最も理解しているのは現場だ。7月から日本事業部と北米・欧・豪事業部、アジア地域事業部を新設したのもそうした背景がある。担当者を増員し、権限を与え、各地域のシェアを引き上げていく」
 「国内はトップブランドのゴルフクラブ『ゼクシオ』があり、現在の地位を維持していく。モデルチェンジを控えた今春に、相次ぎ他社が新ブランドを立ち上げ、追撃してきた。次世代のゼクシオは、さらに優れた製品に仕上げる」
 「東日本大震災の影響でゴルフ用品市場は厳しいが、秋口には回復するだろう。ただバブル崩壊以降、市場は年々縮小。高齢化という構造的な問題もあるが、減少カーブが緩やかになるように、女性ゴルファーの取り込みやトーナメントの運営を継続し、業界を盛り上げていく」
 《趣味》「東工大硬式野球部の主将だったが、入社後に独身寮の仲間とマラソンを始めた。今でもハーフマラソンを1時間40分台で走る。休日も走りたいが、社長に就任して満足に走れないのが悩み。ゴルフのハンディキャップは24。上手な社員が多いので、教わってうまくなりたい」

社長100人アンケート――集計結果

【国内の景況感】
問1 現在の国内景気は半年前と比べてどう変化したと思われますか。
  (1)よくなった0.0
  (2)すでに改善の兆しが見えてきた5.7
  (3)ほとんど変化が見られない17.1
  (4)すでに悪化の兆しがある7.1
  (5)悪くなった68.7
  (6)わからない1.4
問1-1 問1で(4)または(5)を選ばれた方にうかがいます。国内景気はいつごろ持ち直すと見ていますか。
  (1)11年7~9月24.5
  (2)11年10~12月48.2
  (3)12年1~3月9.4
  (4)12年4~6月9.4
  (5)12年7~9月1.9
  (6)12年10月以降4.7
   無回答1.9
問1-2 問1で(4)または(5)を選ばれた方にうかがいます。国内景気が持ち直すための主な条件は何と見ていますか(3つまで)。
  (1)国内企業の主な施設・設備の復旧47.2
  (2)電力不足解消への見通しが立つこと64.2
  (3)福島第1原発事故の情報への信用回復12.3
  (4)震災からの本格的な復興予算の成立45.3
  (5)円高傾向の一服14.2
  (6)世界経済の堅調な推移54.7
  (7)資源・原材料価格の安定的な推移9.4
  (8)個人消費の回復38.7
  (9)その他2.8
問1-3 問1で(1)または(2)を選ばれた方にうかがいます。国内景気の改善はいつごろまで続くとお考えですか。
  (1)11年7~9月0.0
  (2)11年10~12月0.0
  (3)12年1~3月25.0
  (4)12年4~6月12.5
  (5)12年7~9月0.0
  (6)12年10月以降50.0
   無回答12.5
【世界経済】
問2 世界景気の現状をどのように認識していますか。
  (1)順調に拡大している2.1
  (2)緩やかながら拡大している30.7
  (3)拡大しているがペースが鈍ってきた49.3
  (4)横ばいとなっている11.4
  (5)天井を打って悪化に転じた2.9
  (6)緩やかながら悪化している3.6
  (7)急速に悪化している0.0
問3 米国の景気の現状をどのように認識していますか。
  (1)順調に拡大している0.0
  (2)緩やかながら拡大している21.4
  (3)拡大しているがペースが鈍ってきた44.4
  (4)横ばいとなっている26.4
  (5)天井を打って悪化に転じた2.1
  (6)緩やかながら悪化している5.7
  (7)急速に悪化している0.0
問3-1 問3で(3)~(7)を選ばれた方にうかがいます。米国景気が安定的な回復軌道に戻るのは、いつごろと見ていますか。
  (1)11年7~9月6.4
  (2)11年10~12月32.8
  (3)12年1~3月14.5
  (4)12年4~6月11.8
  (5)12年7~9月10.0
  (6)12年10月以降12.7
   無回答11.8
問4 欧州の景気の現状をどのように認識していますか。
  (1)順調に拡大している0.0
  (2)緩やかながら拡大している22.9
  (3)拡大しているがペースが鈍ってきた23.6
  (4)横ばいとなっている35.7
  (5)天井を打って悪化に転じた2.1
  (6)緩やかながら悪化している15.7
  (7)急速に悪化している0.0
問5 中国経済の現状をどのように見ていますか。
  (1)景気拡大のペースに変化は感じない17.9
  (2)景気拡大のペースが鈍る懸念が出てきた52.9
  (3)景気拡大のペースが緩やかに鈍ってきた27.1
  (4)景気拡大のペースが急に鈍ってきた2.1
  (5)景気が悪化する懸念が出てきた0.0
問6 世界経済で、特に懸念材料と思われていることは何ですか(2つまで)。
  (1)米国の景気回復の腰折れ57.1
  (2)ギリシャなど欧州の財政問題の深刻化49.3
  (3)中国など新興国の需要拡大ペースの鈍化55.0
  (4)中東情勢の混乱による原油価格などへの影響14.3
  (5)商品相場の高騰による原材料価格の上昇18.6
  (6)特に懸念はない0.0
  (7)その他0.7
【日本経済】
問7 日本国内の個人消費は半年前に比べて、どのように変化したと思われますか。
  (1)活発になった0.0
  (2)活発になりつつある5.7
  (3)ほぼ横ばい22.1
  (4)鈍化しつつある9.3
  (5)鈍化した62.9
  (6)わからない0.0
問7-1 問7で(4)または(5)を選ばれた方にうかがいます。個人消費はいつごろ持ち直すと見ていますか。
  (1)11年7~9月20.8
  (2)11年10~12月45.4
  (3)12年1~3月13.9
  (4)12年4~6月12.9
  (5)12年7~9月1.0
  (6)12年10月以降4.0
   無回答2.0
問8 日本企業全体の設備投資動向は半年前に比べて変化はありましたか。
  (1)旺盛になった0.7
  (2)旺盛になりつつある30.1
  (3)変化が見られない22.1
  (4)鈍化しつつある15.7
  (5)鈍化した25.7
  (6)わからない5.0
   無回答0.7
問9 貴社の国内での生産水準(生産量など)が東日本大震災前と同程度まで回復するのは、いつごろと見ていますか。
  (1)既に回復ずみ45.8
  (2)2011年7月10.7
  (3)同8月2.9
  (4)同9月3.6
  (5)同10月12.1
  (6)同11月0.7
  (7)同12月2.1
  (8)年明け以降5.0
   無回答17.1
問9-1 問9の回復時期は、4月末ごろの想定に比べてどうですか。
  (1)同程度49.4
  (2)約半月前倒し2.1
  (3)約1カ月前倒し6.4
  (4)約2カ月前倒し7.1
  (5)2カ月超前倒し7.9
  (6)遅れている1.4
   無回答25.7
問10 今夏の電力不足の懸念が関東・東北だけでなく、原発の再稼働のめどが立たないことから、全国的に広がり、来年も続く懸念が出ています。対応をどうお考えですか(3つまで)。
  (1)土日の操業など休日変更を今夏以降も適宜実施17.9
  (2)サマータイムなど勤務時間の変更を今夏以降も適宜実施10.7
  (3)休暇の長期化を今夏以降も適宜実施6.4
  (4)在宅勤務により、オフィスで節電する制度を継続的に採用7.9
  (5)自家発電設備の導入・増強42.1
  (6)空調・照明などの省エネ型設備への更新・更新拡大56.4
  (7)工場の海外シフトやその加速5.0
  (8)オフィスの海外シフトやその加速0.0
  (9)工場の国内での分散化6.4
  (10)オフィスの国内での分散化0.7
  (11)その他45.0
  (12)特に対策は考えていない1.4
問11 原発問題や電力不足問題を受け、エネルギー政策で当面(今後2、3年以内)と中長期(2020~2030年頃に向けて)で優先的に取り組むべき課題は以下のどれとお考えでしょうか(それぞれ2つまで)。
<当面の課題>
  (1)太陽光発電など新エネルギー(再生可能エネルギー)導入の加速26.4
  (2)原子力発電所の安全性の基準を明確にし、丁寧に説明して稼働を継続72.9
  (3)天然ガスなどによる火力発電の拡大52.9
  (4)発電・送電の分離など電力自由化の推進7.9
  (5)スマートグリッド(次世代送電網)の普及の加速4.3
  (6)その他10.0
<中長期的な課題>
  (1)太陽光発電など新エネルギー(再生可能エネルギー)導入の加速75.0
  (2)原子力発電所の安全性の基準を明確にし、丁寧に説明して稼働を継続10.0
  (3)天然ガスなどによる火力発電の拡大6.4
  (4)発電・送電の分離など電力自由化の推進21.4
  (5)スマートグリッド(次世代送電網)の普及の加速48.6
  (6)その他16.4
【2011年度の展望】
問12 貴社の11年度の損益見通しは10年度と比べてどうなりそうですか。
  (1)大幅に改善しそう11.4
  (2)やや改善しそう31.5
  (3)10年度と同じくらい18.6
  (4)何とも言えない12.1
  (5)やや悪化しそう15.0
  (6)大幅に悪化しそう5.7
   無回答5.7
問12-1 問12で(1)または(2)を選ばれた方にうかがいます。損益が改善すると期待する要因は何ですか(2つまで)。
  (1)海外需要の拡大68.3
  (2)国内需要の回復・拡大46.7
  (3)円高の一服による輸出採算の確保8.3
  (4)人件費の抑制3.3
  (5)原料・資材コストの下落1.7
  (6)海外での設備投資・研究開発費の抑制0.0
  (7)国内での設備投資・研究開発費の抑制0.0
  (8)その他36.7
問13 貴社の11年度の設備投資額は10年度と比べてどうなりそうですか。
  (1)大幅に上回りそう15.0
  (2)やや上回りそう38.0
  (3)10年度と同じくらい22.1
  (4)何とも言えない7.1
  (5)やや下回りそう6.4
  (6)大幅に下回りそう4.3
   無回答7.1
問14 貴社が11年度の設備投資の対象地域で最も重視しているのはどこですか。
  (1)日本50.8
  (2)中国をはじめとする東アジア20.0
  (3)東南アジア11.4
  (4)インドなどの南アジア1.4
  (5)中東・中央アジア0.0
  (6)欧州・ロシア0.7
  (7)北米(米国とカナダ)0.7
  (8)中南米1.4
  (9)アフリカ0.0
  (10)オセアニア0.0
   無回答13.6
問15 11年度の原材料・資材・燃料価格の先行きについてどうお考えですか。
  (1)かなり上昇する14.3
  (2)やや上昇する56.4
  (3)横ばい傾向19.3
  (4)やや下落する0.0
  (5)かなり下落する0.0
  (6)その他4.3
   無回答5.7
問16 M&A(合併・買収)について、貴社ではどのような姿勢で臨まれていますか。
  (1)積極的に相手を探している25.0
  (2)すでに交渉中の案件がある6.4
  (3)M&Aをする考えはない2.9
  (4)何とも言えない29.3
  (5)その他32.8
   無回答3.6
問16-1 問16で(1)または(2)を選ばれた方にうかがいます。競争力の大幅な向上が見込める場合、同業の大手企業とのM&Aを検討しますか。
  (1)検討する56.8
  (2)検討しない6.8
  (3)わからない34.1
   無回答2.3
問17 製品輸出や資材輸入など総合的に、貴社にとって望ましい為替水準はどれですか。
  (1)1ドル=75円未満0.0
  (2)1ドル=75円以上80円未満0.0
  (3)1ドル=80円以上85円未満9.3
  (4)1ドル=85円以上90円未満23.6
  (5)1ドル=90円以上95円未満29.3
  (6)1ドル=95円以上100円未満6.4
  (7)1ドル=100円以上9.3
   無回答22.1
問18 現状の為替水準(6月22日18時時点で1ドル=80円20銭程度)が続くと貴社の収益にどのような影響を及ぼすと予想しますか。
  (1)大幅な収益悪化の要因となる17.1
  (2)小幅ながら収益悪化の要因となる36.5
  (3)収益への影響はほとんどない32.2
  (4)小幅ながら収益改善の要因となる5.0
  (5)大幅な収益改善の要因となる0.0
  (6)わからない2.1
   無回答7.1
問19 貴社の11年度の主な経営課題は何ですか(3つまで)。
  (1)既存製品・サービスの品質などの強化39.3
  (2)新規の製品やサービス分野の開拓の強化60.7
  (3)M&Aや業務提携など外部資源活用17.1
  (4)人材育成・雇用の維持22.9
  (5)国内の生産・販売体制の復旧・強化12.1
  (6)新興国など海外事業の拡大72.9
  (7)省エネ・節電への事業や働き方での対応強化3.6
  (8)災害などリスク対応力の強化12.1
  (9)人員や設備などのコスト削減11.4
  (10)有利子負債削減など財務体質強化15.7
  (11)為替変動への対応6.4
  (12)法令順守の体制強化0.0
  (13)その他15.0
【今後の展望】
問20 税制など企業を取り巻く日本の制度や経営環境がほぼ現状のままの場合、今後3年以内に国内から海外へシフトせざるを得なくなるものは何ですか(3つまで)。
  (1)主力ではない生産拠点20.0
  (2)主力の生産拠点10.7
  (3)小規模な営業拠点5.0
  (4)大規模な営業拠点2.1
  (5)一部の研究開発拠点17.1
  (6)研究開発拠点全般0.0
  (7)一部の本社機能11.4
  (8)本社機能全般0.0
  (9)経営会議など重要な意思決定の場0.7
  (10)その他10.7
  (11)特にない47.1
問21 制度などがほぼ現状のままの場合、3年後の貴社の国内と海外の収益力はどう変化しそうですか。
  (1)国内、海外とも拡大が見込める25.7
  (2)海外は拡大するが、国内の伸びはあまり見込めない52.9
  (3)国内は拡大するが、海外の伸びはあまり見込めない1.4
  (4)国内・海外とも伸びはあまり見込めない4.3
  (5)その他9.3
   無回答6.4
問22 国内で企業が主な拠点や収益力を維持・拡大するため、政府の早期の取り組みが必要と思う制度的な課題は何ですか(2つまで)。
  (1)環太平洋経済連携協定(TPP)への参加35.0
  (2)電力不足解消策を含む総合的なエネルギー政策50.7
  (3)法人税率の引き下げ36.4
  (4)円高対策23.6
  (5)成長戦略の具体化33.6
  (6)温暖化ガスの「25%削減」目標の緩和2.9
  (7)その他5.7
問23 震災からの復興策の財源確保のための増税について、どう思われますか。
  (1)賛成5.0
  (2)条件付きで賛成64.9
  (3)反対8.6
  (4)どちらともいえない13.6
   無回答7.9
問23-1 問23で(2)を選ばれた方にうかがいます。最も重視する条件は何ですか。
  (1)民主党のマニフェストなど既存歳出についての削減策40.6
  (2)税収の用途とする復興対策の明確化29.7
  (3)社会保障と税の一体改革に伴う増税とのすり合わせ24.2
  (4)その他4.4
   無回答1.1
問23-2 問23で(1)または(2)を選ばれた方にうかがいます。増税の対象には何が最も適当とお考えになりますか。
  (1)所得税5.1
  (2)消費税65.3
  (3)法人税0.0
  (4)エネルギー関連税3.1
  (5)その他12.2
  (6)わからない8.2
   無回答6.1
【民主党政権について】
問24 国会は8月末まで会期を延長することが固まりました。菅首相はすでに退陣の意向は表明しましたが、時期を明示していません。退陣時期はいつが適当とお考えになりますか。
  (1)7月末まで22.9
  (2)8月初め~8月半ば2.9
  (3)8月末まで(延長国会の会期末まで)14.3
  (4)9月以降0.7
  (5)わからない31.3
   無回答27.9
問25 菅首相の退陣後はどのような政治体制を望みますか。
  (1)民主党、自民党などの大連立22.1
  (2)民主党中心の政権で、自民党などが閣外協力4.3
  (3)民主党中心の政権で、現在と同様の与野党体制0.7
  (4)政界再編による新たな政権の枠組み19.3
  (5)わからない23.6
   無回答30.0
問26 菅首相の退陣を機に、現状から特に加速を望む政策課題は何ですか(2つまで)。
  (1)震災の被災地のインフラなどの復旧対策16.4
  (2)被災地への特区設定など復興対策の具体化37.9
  (3)福島第1原発事故に関する正確な情報開示・収束対策11.4
  (4)総合的なエネルギー政策の立案35.7
  (5)環太平洋経済連携協定(TPP)など通商政策の推進25.0
  (6)円高・景気対策の強化20.0
  (7)日米関係など外交の強化2.1
  (8)税と社会保障の一体改革の具体化20.7
  (9)その他6.4
  (10)特にない0.0
 釜和明(IHI)/藤原健嗣(旭化成)/石村和彦(旭硝子)/泉谷直木(アサヒグループホールディングス)/伊藤雅俊(味の素)/畑中好彦(アステラス製薬)/中野和久(出光興産)/岡藤正広(伊藤忠商事)/遠藤信博(NEC)/三浦惺(NTT)/山田隆持(NTTドコモ)/江頭敏明(MS&ADインシュアランスグループホールディングス)/篠田和久(王子製紙)/川崎秀一(OKI)/白石達(大林組)/山田義仁(オムロン)/上西京一郎(オリエンタルランド)/井上亮(オリックス)/水野健太郎(オンワードホールディングス)/尾崎元規(花王)/樫尾和雄(カシオ計算機)/中村満義(鹿島)/長谷川聡(川崎重工業)/八木誠(関西電力)/内田恒二(キヤノン)/久芳徹夫(京セラ)/三宅占二(キリンホールディングス)/田中孝司(KDDI)/佐藤広士(神戸製鋼所)/野路国夫(コマツ)/佐治信忠(サントリーホールディングス)/高萩光紀(JXホールディングス)/馬田一(JFEホールディングス)/田川博己(JTB)/奥田務(会長・J・フロントリテイリング)/川西孝雄(ジェーシービー)/中西勝則(頭取・静岡銀行)/末川久幸(資生堂)/宮本洋一(清水建設)/片山幹雄(シャープ)/武藤光一(商船三井)/市川秀夫(昭和電工)/森俊三(信越化学工業)/宗岡正二(新日本製鉄)/谷真(すかいらーく)/鈴木修(スズキ)/十倉雅和(住友化学)/友野宏(住友金属工業)/加藤進(住友商事)/服部真二(セイコーホールディングス)/根岸修史(積水化学工業)/和田勇(会長・積水ハウス)/前田修司(セコム)/村田紀敏(セブン&アイ・ホールディングス)/伊東信一郎(全日本空輸)/ハワード・ストリンガー(ソニー)/桜田謙悟(損害保険ジャパン)/中山譲治(第一三共)/渡辺光一郎(第一生命保険)/井上礼之(会長・ダイキン工業)/山内隆司(大成建設)/北島義俊(大日本印刷)/徳植桂治(太平洋セメント)/日比野隆司(大和証券グループ本社)/大野直竹(大和ハウス工業)/鈴木弘治(高島屋)/富山幹太郎(タカラトミー)/長谷川閑史(武田薬品工業)/水野明久(中部電力)/杉江和男(DIC)/上釜健宏(TDK)/大八木成男(帝人)/新宅祐太郎(テルモ)/加藤宣明(デンソー)/石井直(電通)/竹中博司(東京エレクトロン)/隅修三(東京海上日動火災保険)/岡本毅(東京ガス)/佐々木則夫(東芝)/山田豊(東洋エンジニアリング)/坂元龍三(東洋紡)/日覚昭広(東レ)/張本邦雄(TOTO)/金子真吾(凸版印刷)/豊田章男(トヨタ自動車)/
山本亜土(名古屋鉄道)/川名浩一(日揮)/大枝宏之(日清製粉グループ本社)/玉村和己(ニッパツ)/橋本孝之(日本IBM)/加藤太郎(日本ガイシ)/垣添直也(日本水産)/大塚紀男(日本精工)/筒井義信(日本生命保険)/木村宏(日本たばこ産業)/渡辺健二(日本通運)/永守重信(日本電産)/樋口泰行(日本マイクロソフト)/工藤泰三(日本郵船)/大谷和彦(ニューオータニ)/岩田聡(任天堂)/渡部賢一(グループCEO・野村ホールディングス)/大坪文雄(パナソニック)/清野智(東日本旅客鉄道)/中西宏明(日立製作所)/柳井正(ファーストリテイリング)/上田準二(ファミリーマート)/山本忠人(富士ゼロックス)/山本正已(富士通)/古森重隆(富士フイルムホールディングス)/小池利和(ブラザー工業)/荒川詔四(ブリヂストン)/鈴木洋(CEO・HOYA)/伊東孝紳(ホンダ)/山内孝(マツダ)/青井浩(丸井グループ)/朝田照男(丸紅)/水野明人(ミズノ)/佐藤康博(みずほフィナンシャルグループ)/田中稔一(三井化学)/宮田孝一(三井住友フィナンシャルグループ)/飯島彰己(三井物産)/菰田正信(三井不動産)/小林喜光(三菱ケミカルホールディングス)/杉山博孝(三菱地所)/大宮英明(三菱重工業)/小林健(三菱商事)/中野勘治(会長・三菱食品)/山西健一郎(三菱電機)/矢尾宏(三菱マテリアル)/岡内欣也(三菱UFJ信託銀行)/佐藤尚忠(明治ホールディングス)/森雅彦(森精機製作所)/木川真(ヤマトホールディングス)/梅村充(ヤマハ)/高原豪久(ユニ・チャーム)/近藤史朗(リコー)/新浪剛史(ローソン)/沢村諭(ローム)/塚本能交(ワコールホールディングス)

コメット社長鈴木摂氏―素材開発の独自装置外販

 卓越した技術を持っていても稼げないベンチャー企業――。素材開発を請け負うコメット(茨城県つくば市)も例外ではなかった。独立行政法人の“お墨付き技術”を抱えながら赤字続き。2年前に社長に招かれた鈴木摂(60)は先端技術の流出を恐れず、社内だけで使っていた装置の外販に踏み切る。「レーサーにしか運転できないF1カーじゃ駄目なんだ」
 コメットは2007年に産声を上げた。物質・材料研究機構と東京工業大学が培った「コンビナトリアル」という物質融合技術の独自手法を、大きなビジネスに育てるつもりだった。
□  □
 コメットは通常、3カ月かかる素材開発を3日前後で終わらせる。いくつもの材料を重ねて、最も薄い場合で0・2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの膜に仕上げ、配合が異なるポイントを約300カ所つくり、その性質を一つ一つ調べあげる。つまり1枚の膜をつくるだけで、新しい素材に適した“材料のレシピ”を探すことができるのだ。
 画期的な技術だが、設立から2年間は「開店休業」の状態が続いた。そこに08年9月のリーマン・ショックが追い打ちをかけた。
 大学の同窓でコメット取締役の知京豊裕(52)から誘われ、09年2月に社長に就いた鈴木は、すぐに決断する。「素材開発の仕事を請け負うだけではなく、その技術を装置として売るべきだ」
 鈴木自身も技術にこだわってきたエンジニアで、装置を外販すれば技術流出のリスクがあることは百も承知。ただ、10年以上、激しい受注競争を繰り返す半導体の量産装置に携わってきた。「完成された技術を持たない企業は存在意義がない。一方、技術はあっても、ビジネスができない企業は継続できない」
 鈴木の方針で、使いやすさと安全性に気を配った装置の開発が始まった。1年後の10年夏に売り出した第1号モデルは4000万円近くと高価だったが、予想以上に売れた。もともと、コンビナトリアルへの関心は高く、大手メーカーや大学から引き合いがあった。「商談が次々と舞い込み、休む暇がなくなった」
□  □
 10年度のコメットの売上高は、09年度の7倍にあたる約7000万円となり、最終黒字も達成した。収益がしっかりすれば、取引先の不安も減る。茨城県などが出資する官民連携ファンドも出資したため、素材開発の依頼も増えた。11年度の売上高は1億円の大台を突破する見通しだ。
 わずか2年で成果を出した鈴木だが「マネジメントは勉強中」と控えめ。ただ、「まじめに取り組んで顧客の信頼を得る――。それを続けていれば会社は自然に大きくなっていく」と確信する。「本来、技術屋は楽天的だ。みんな、できると思って技術開発に打ち込む。そんな人々が安心して働ける環境を整えたい」
 コメットの使命については「日本の素材開発を支えること」とズバリ。鈴木は半導体の量産装置開発に携わり、日本の栄光と衰退を目の当たりにした。「同じ失敗は繰り返したくない」

京阪電鉄不動産受注事業部蘆田圭介氏――定額制のリフォームプラン

「理想の住空間」実現に走る
 京阪電鉄不動産は7月、同社として初めてのリフォームセンターを京都府八幡市に開設した。料金体系が明確な定額制を前面に打ち出し、スペースにゆとりを持たせた展示場で、理想の住空間を体感してもらう仕掛け。プロジェクトを引っ張るのは、入社間もない受注事業部の蘆田圭介(39)だ。理想のリフォームを求め職場を移ってきた蘆田のこだわりが詰まる。
 同社が打ち出した定額制のリフォームプラン「K―PAC」は、あらかじめ設定した坪(3・3平方メートル)単価に施工面積を乗じて施工費を算出する。分かりやすい料金体系が「不安を抱えながら入店してきた顧客の緊張感を解きほぐす」。
 蘆田はマンションデベロッパーで設計の仕事を経てから、住宅リフォームの専業大手で営業現場を歩んできた。そこでは違和感を覚えることもしばしばあった。自分の成績を上げるため必要でない高額品を顧客に販売する営業担当者などもいて、これでいいのかと思うこともあった。
 1級建築士の資格を持ち、「住まいのプロ」を自負する蘆田。商品性能に疎いのに営業の第一線に大量の人員を送り込む大手の手法に嫌気も差していた。そんな時、新たにリフォームセンターを立ち上げるという京阪電鉄不動産から誘いを受けた。業界のしがらみにとらわれず「理想を実現するチャンスかもしれない」と意を決した。今年4月に入社。開業までわずか残り3カ月の日々を全力で駆けた。
 リフォームセンターのなかで蘆田らがこだわったものの1つは、打ち合わせや資金相談会、セミナーなど様々な用途を想定したイベントスペースだ。モデルルームと同等の面積を割いてでも「ゆとりを持って理想の我が家について話してもらい『リフォームをしてみたい』と思ってもらえるようにしたかった」。そんな蘆田の上司にあたるマネジャーの菊本雅幸(41)は「経験が豊富なだけでなく、信念を持って仕事に取り組んでいる」と温かく見守る。
 親会社の京阪電気鉄道は1968年に「くずはローズタウン」(大阪府枚方市・京都府八幡市)、92年には「京阪東ローズタウン」(京都府京田辺市・八幡市)を分譲した。リフォームセンターにほど近いニュータウンもリフォームの適齢期にあたるだけに、商機はある。新天地で走り始めたばかりだが、日々の営業現場の中で理想を実現させたいと考えている。

今年度の経営課題―M&A、積極的3割。

 社長100人アンケートではM&A(合併・買収)に対する考え方も聞いた。「積極的に相手を探している」との回答が25・0%、「すでに交渉中の案件がある」が6・4%あり、合わせて3割強が積極姿勢だった。「M&Aをする考えはない」との回答は、わずか2・9%。海外や新製品分野を開拓していく上でも、M&Aを有効な手段ととらえているようだ。
 「相手を探している」「交渉案件がある」と答えた経営者に「同業他社とのM&A」について聞くと、競争力が大幅に向上する場合、56・8%が「検討する」と回答。「検討しない」は6・8%だった。同業の大型案件が増える可能性もある。

今年度の経営課題、「海外事業の拡大」7割。

 日本経済新聞社がまとめた社長100人アンケートでは、今年度の主な経営課題として「新興国など海外事業」を挙げる経営者が7割強に達した。これに「新規の製品・サービス分野の開拓」の6割が続いた。企業は東日本大震災からの拠点の復旧にほぼめどを付け、攻めの姿勢を強めているようだ。(集計結果と回答者一覧を18面に)
 主要企業の社長(会長、頭取なども含む)を対象に140社から回答を得て14日にまとめた。
 今年度の経営課題(3つまで回答)では「新興国など海外事業の拡大」が72・9%でトップ。2位は「新規の製品やサービス分野の開拓の強化」の60・7%で、この2つが他を大きく上回った。
 「国内生産・販売体制の復旧・強化」「災害などリスク対応力の強化」は、いずれも12・1%にとどまった。震災後の復旧やリスク対策は経営課題としては一段落しつつあるようだ。
 「人材育成・雇用の維持」が22・9%と、「人員や設備などのコスト削減」(11・4%)を上回った。攻めの経営のためにも雇用を改めて重視し、新分野開拓などを支える人材を育てようとする考えがうかがえる。
 国内景気の回復条件(3つまで)として「電力不足解消への見通しが立つこと」(64・2%)、「世界経済の堅調な推移」(54・7%)を挙げる回答も多かった。菅政権のエネルギー政策の迷走が続いて電力不足の懸念が長引いたり、米国の景気回復や中国の経済成長に変調の動きが広がったりすれば、経営者の意欲に水を差す恐れもある。

変わる東コレについて聞く―米IMG副社長レヴィ氏、JFW推進機構理事長三宅氏。

 今秋から衣替えする東コレについて、実施組織の日本ファッション・ウィーク(JFW)推進機構の三宅正彦理事長(TSIホールディングス会長)と、スポンサー獲得の仲介役となった米IMGのピーター・レヴィ副社長(ファッション部門最高責任者)に聞いた。(聞き手は編集委員 小林明)
 ――なぜダイムラーをスポンサーに選んだ。
 「世界の多くのコレクションとすでに連携しており、ニューヨーク、ベルリン、モスクワなどは東コレと同様にメルセデス・ベンツの冠イベント。ファッションへの理解が深く、デザイナー支援の経験も豊富で、信頼できるパートナーになる」
 ――外資の出資に対して一部に懸念もある。
 「変化には常に不安がつきもの。ただ東コレを存続するためにはほかに選択肢がないのも現実だ。世界各地のコレクションにはそれぞれにふさわしいデザイナーや運営形態がある。新規スポンサーはそれを尊重してくれているので心配ない」
 ――東コレが乗り越えるべき課題は何か。
 「すでに洗練されたショーを開催している。国際的に見ても水準は高い。才能ある国内デザイナーを発掘し、市場にアピールする環境づくりを支援したい。東京はストリート・ファッションに強みがある。国内市場も成熟しており魅力的だ」
 ――今後外国人デザイナーの参加が増えるか。
 「コレクションは市場のニーズの上に成り立っているので、需要が見込めるデザイナーが参加するのが基本だろう。ただ厳密なルールはない。現実的には日本人デザイナーが中心になるのが自然の流れ。消費者や時代の動向に従うだけだ」
 ――東コレはどう変わっていくのか。
 「具体策は実施組織が検討しているが、有料チケット制など一般消費者を巻き込めば、イベントへの関心が高まるはず。東京は映画、食事、アニメなどファッション以外の魅力も多い。東コレがライフスタイル全体の交差点になってほしい」
 ――IMGが東コレ以外のアジアのコレクションと提携する計画は。
 「まだ非公式だが、すでに北京、ソウル、香港などいくつかのコレクションと協力関係にある。IMGは海外拠点を多く抱える国際企業。チャンスがあれば積極的にビジネスに取り組みたい」
 ――外資の冠イベントをどう評価する。
 「大変にいいことだと思う。高級イメージが世界に浸透しており、うまく活用したい。スポンサーが国内企業でなければいけない理由はない。経産省の財政支援が切れた今、台所事情は一番厳しい。現実問題としてほかに選択肢はなかった」
 ――ダイムラー以外にも主要スポンサーの有力候補はあったのか。
 「ダイムラーとはIMGを通じて早い段階から接触しており、当初から最有力候補だった。ただ東日本大震災の影響で協議が中断していたため、冠イベントにする方向で合意したのはごく最近のこと。ダイムラーがファッション支援事業を積極化する時期とうまく重なったのが幸いした」
 ――政府の事業仕分けで資金難に陥ったが。
 「一時期はひがんだこともあったが、改革の好機だと前向きに考えることにした。東コレをやめてしまったら日本の恥になる。コレクションを続け、技術、クリエーションで日本の優位性を保つことが国力を支えることにつながる。外資主導は今や世界の潮流だ」
 ――今秋、予定している東コレの内容は。
 「これまではもっぱらBtoBだったが、今後はBtoCのイベントも考える時期。有料チケット制を一部に試験導入して様子を見たい。開催時期や場所は従来通り。東京・六本木のミッドタウンも三井不動産の協力で当面は主要会場として利用させてもらう予定。現在、ダイムラーと協議中だが、メルセデス・ベンツの冠イベントとして3年以上は続けたい」
 ――今後の資金計画の見通しはどうか。
 「経産省から財政支援を受けていたころの事業費は年10億円超。当面、それほど潤沢な予算は組めないが、年6億円程度は確保したい。今回、ダイムラーが最大スポンサーになるし、DHLやロレアルなど外資からも出資を受けるが、国内企業からの出資も不可欠。企業側の理解を得たい」

原油――JX日鉱日石エネルギー取締役常務執行役員池田道雄氏

 商品市況の回復の足取りが鈍い。内需は総じて低迷し、東日本大震災の復興需要の本格化も遅れている。原油や金など国際商品の一部は高止まりしているが、最近の大幅な円高や米国景気の減速懸念は弱材料だ。主要市場の関係者に市況の現状や見通しを語ってもらった。初回はJX日鉱日石エネルギーの池田道雄取締役常務執行役員に聞いた。
 ――6月下旬、国際エネルギー機関(IEA)が約6千万バレルの石油備蓄放出を決めた。
 「意外な印象だ。IEAの成り立ちや目的を考えるとあまり歓迎できない。リビア産原油の供給途絶を理由にしているが、実施が遅すぎたため、原油価格の引き下げを狙ったと市場は受け止めている。石油備蓄は持ち続けること自体に価格変動の抑止効果がある。実際に放出してしまったら、その効果は薄れる」
 ――原油価格を引き下げる効果はあったのか。
 「上値を抑える効果はあったが、一週間で再び高値に戻った。1カ月で6千万バレルの放出量は世界需要の2%程度にすぎず、市場へのインパクトが小さかった。今後は備蓄を放出しても市場の反応は鈍いだろう」
 「原油高の背景には将来の供給不安がある。IEAによると現在の世界の原油需要は日量8900万バレル。2020年には1億バレルとなり、それまで毎年100万バレル以上のペースで増えるとみられる。今後の世界経済に悪影響を与えないためにIEAと石油輸出国機構(OPEC)は供給や価格の安定策を議論すべきだ」
 ――東京電力の原子力発電所事故で発電用原油の需要が膨らんでいる。
 「電力向けの主力燃料は液化天然ガス(LNG)と石炭で、原油は最後だ。原油に回帰することはないが西アフリカや中央アジアからの輸入を増やしている。ただ、欧州勢がリビア産の代替として西アフリカ産を買い集めており、調達には苦労している。価格も北海ブレントに連動しているため割高だ。これまでの調達先だったインドネシアやベトナムでは産出量が減り、入手しにくくなっている」
 ――米国が追加の金融緩和に動く可能性が出てきたが、今後の価格見通しは。
 「中長期的には需要拡大による市況上昇圧力が続くだろう。供給面では(1)イラク産原油(2)ブラジルの海底油田(3)カナダのオイルサンド(重質油を含む砂の層)(4)岩盤内部のシェールオイル――が増える見込みだが、国際需給の逼迫感を解消するほどではない」
 「ただ、年内は弱含みに推移しそうだ。欧米景気の先行き不透明感が強く、目先の原油需要は低迷する可能性がある。日本の輸入原油の価格指標となるドバイ原油は現在、1バレル110ドル前後だが、北アフリカ・中東の政情不安が下値を支えるだけに90ドルを大きく割り込むことは考えにくい」

世界景気―拡大ペース、「鈍る」49%

 世界景気の現状認識については「拡大のペースが鈍ってきた」という回答が49・3%で最も多かった。世界経済の懸念材料については、「米国の景気回復の腰折れ」と「中国など新興国の需要拡大の鈍化」が共に半数を超えた。日本の景気回復にも大きく影響する米国や中国などの「景気変調」の先行きを経営者は注視している。
 世界景気の現状については「順調に拡大している」「緩やかながら拡大している」は計32・8%で、「拡大鈍化」の方が多い。「悪化に転じた」「悪化している」は計6・5%にとどまった。
 世界経済の懸念材料(2つまで)を聞くと、「米国の景気回復の腰折れ」が57・1%と最多で「中国など新興国の需要拡大ペースの鈍化」が55・0%、「ギリシャなど欧州の財政問題の深刻化」が49・3%と続く。
 米国景気の現状は44・4%が「拡大のペースが鈍ってきた」と回答。「横ばい」が26・4%で続く。米国景気が安定的な回復軌道に戻る時期は「今年10~12月」が32・8%で最多。雇用環境などを不安視しつつも、短期で落ち着くとみる傾向が強い。
 中国経済の現状は「景気拡大のペースが鈍る懸念が出てきた」との見方が52・9%で過半を占めた。

復興増税―容認は7割

 震災復興策の財源確保のための増税について是非を聞いたところ、経営者の7割が容認する考えを示した。増税に「賛成」が5・0%、「条件付きで賛成」が64・9%となった。条件付き賛成と回答した経営者が最も重視する条件として挙げたのが「マニフェストなどの既存歳出の削減」(40・6%)。次いで「復興対策の明確化」(29・7%)となった。
 増税の対象はどの税目が最も適当か聞いたところ、消費税が65・3%で最も多く、所得税が5・1%で続いた。法人税と回答した経営者はゼロだった。
 東日本大震災への対応に「一定のメド」がついた段階での辞任の意向を示した菅直人首相について退陣時期はいつが適当かとの質問には140社のうち101社の経営者が回答した。最多は「7月末まで」の31・7%で、早期退陣を求める声が多い。「8月初め~同月末(延長国会の会期末)まで」が23・8%で続き、「9月以降」はわずか1・0%にとどまった。「わからない」も43・6%あった。
 退陣を機に加速を望む政策(2つまで回答)は「被災地への特区設定など復興対策の具体化」が37・9%で最も多い。「総合的なエネルギー政策の立案」(35・7%)が続いた。具体化が進まない復興政策、政局絡みで迷走気味のエネルギー政策にいらだちがあるようだ。

エネルギー政策―当面は「原発継続」72%

 日本経済新聞社が14日まとめた「社長100人アンケート」で、エネルギー政策について聞いたところ、経営者が優先すべきとした課題は、短期と中長期で明確に分かれた。当面の課題では7割超が「原子力発電所の稼働継続」をあげる一方、中長期では同じく7割超が「再生可能エネルギーの導入加速」を求めた。足元の電力不足の懸念も直視して計画的にエネルギー政策を立てるよう望む声が強い。(1面参照)
 エネルギー政策で当面(今後2~3年以内)優先すべき課題(2つまで回答)については、「原子力発電所の安全性の基準を明確にし、丁寧に説明して稼働を継続」が72・9%と最も多く、「天然ガスなどによる火力発電の拡大」が52・9%と半数を超えて続いた。
 「原子力発電を段階的に縮小しつつ、再生可能エネルギーが代替可能となるように環境整備を急ぐべきだ」(武田薬品工業の長谷川閑史社長)など、産業空洞化の回避へ、まずは電力の安定供給を求める経営者が多い。
 一方、中長期(2020~30年ごろ)の優先課題(2つまで)を聞くと、「太陽光発電など新エネルギー(再生可能エネルギー)導入の加速」が75・0%に達した。続くのは「スマートグリッド(次世代送電網)普及の加速」で48・6%。「原発稼働の継続」は10・0%だった。
 原発の定期検査後の再稼働を巡って菅直人首相が唐突にストレステスト(耐性調査)を実施する方針を示すなど、政府のエネルギー政策は混乱がみられる。経営者は「安全に配慮しつつ、安定したエネルギー供給が可能となる総合的な政策」(鉄道会社トップ)など、場当たり的でない幅広い視野での政策立案を切望している。

エプソントヨコム社長矢島虎雄氏―時計技術、次世代送電網に強み

 ▽…「スマートグリッド(次世代送電網)市場は時計機能に強い当社の水晶技術が生かせる分野だ」。そう語るのはエプソントヨコムの矢島虎雄社長。通信回線を経由して電力の状況を管理するスマートメーターは正確な時間管理が求められる。クオーツ(水晶)式腕時計を世界で初めて開発したセイコーグループの強みを生かす狙いだ。
 ▽…今月には親会社のセイコーエプソンと開発部門を統合した。エプソンの持つ半導体分野と自社の得意とする水晶分野の融合を進め、高精度で付加価値の高い水晶部品やセンサー部品の開発を加速する考えだ。「顧客が求める小型・低消費電力というニーズにいち早く応える」と意気込む。

首相の「脱原発依存」に批判―同友会代表幹事、「誤解招きかねず不見識」。

■同友会代表幹事
 経済同友会の長谷川閑史代表幹事は14日、夏季セミナーを開いている仙台市内で記者団に対し、菅直人首相が「脱原発依存」を表明したことについて「(原子力から再生可能エネルギーへの転換が)短期間に実現できるような誤解すら招きかねない形で発表するのは極めて不見識だ」と批判。「来夏以降の電力供給の見通しを示さない限り、企業は事業計画もつくれない」と語った。
 長谷川代表幹事は再生可能エネルギーの推進を支持しているが「一番問題なのはどのくらいの時間軸とコストをかけてやるかということだ」と指摘。「政府には国民や産業界が納得できる中長期の戦略を説明する義務がある」と述べた。

2011年7月14日木曜日

トヨタ、本体主導で再編――豊田社長、昨年5月から検討。

 13日の記者会見でのトヨタ自動車の豊田章男社長、新美篤志副社長の主な一問一答は以下の通り。
 ――円高など環境が厳しいなか、あえて日本でのものづくりを強化する狙いは。
 豊田社長「状況を考えれば、理屈上は日本のものづくりは成り立たない。政府には海外メーカーと同じ土俵で戦える環境整備をお願いしたい。ただ、戦う力士としては、自分たちでできることはすべてやり切る。トヨタは日本で生まれ育てられたグローバル企業。環境が悪いからといって、日本のものづくりを簡単に諦めるわけにはいかない」
 新美副社長「現状のような為替では苦しい。採算ラインは(1ドル=)85円。これを80円でも戦える状況に持っていこうと検討・研究している」
 ――子会社再編の検討を始めた時期は。
 豊田社長「昨年5月、国内生産体制を抜本的に見直すと発表したころだ。トヨタ車体や関東自動車工業とも将来の方向性について話し合った」
 ――3社の統合で雇用はどうなるか。
 新美副社長「正社員の雇用はなんとしても守っていく。それぞれの企業が相乗効果を出し、成長を持続したい」
 ――生産拠点の見直しは。
 新美副社長「まったく想定していないわけではないが、秋以降は震災のダメージから立ち直って生産能力が必要になる。いま持っている設備を急いで廃却したりはしない」
 ――国内の300万台の生産水準は維持するのか。
 新美副社長「300万台を死守するためにも3社統合の道を選んだ。企画から生産まで一貫して行うことで競争力を保っていく」

米マッキンゼー、トップに聞く、「日本企業、新興国攻めよ」、人材の現地化課題。

 米コンサルティング大手、マッキンゼー・アンド・カンパニーのドミニク・バートン代表パートナー社長=写真=は13日、日本経済新聞の取材に応じ、東日本大震災後の日本企業の課題として「グローバル化の加速」を挙げた。「今年初めて、新興国が世界経済の成長に寄与する比率が5割を超える」と指摘。今後10年のアジアのインフラ投資額は8兆ドル規模に達する。日本企業は「技術力を生かして成長市場へ打って出るべきだ」と強調した。
 バートン氏は「人材は日本企業が抱える最大の課題だ」と述べた。日本人以外は一定の役職より上に昇進できない「ガラスの天井」があるとし、現地化を急がなければ「優秀な海外人材を引き付けられない」と語った。
 欧米で近年、政府と産業界が一体となって企業の国際競争力を高める政策の進展が見られると指摘。日本では「政府がビジネスに関心があるように見えず、非常に奇妙」と語った。
 優先分野にはエネルギー政策を挙げた。国内で規制緩和や技術革新を進めるなど「包括的なエネルギー政策を早期に描くべきだ」と語った。

住友林業社長市川晃氏―スマートハウス仕様統一に安堵

 ▽…「これで普及にはずみがつく」。住友林業の市川晃社長は13日、東芝やKDDIなど10社が次世代省エネ住宅「スマートハウス」を制御する仕組みの統一化で連携したことに安堵の表情を浮かべた。住宅メーカーはスマートハウス分野で異なる電機メーカーと提携。仕様が乱立すれば普及の障害になるためだ。
 ▽…住友林業は東芝から家庭内のエネルギー使用量を適切に管理する機器を調達し、蓄電池を搭載したスマートハウスの先駆け商品を今年度内に投入する予定。製造時の二酸化炭素(CO2)排出量が少ない木造住宅は「スマートハウスにうってつけ」とみており、10社と手を携えるつもりで普及に力を注ぐ構えだ。

2011年7月13日水曜日

ココカラファイン社長塚本厚志氏―「中価格帯で高品質」注力

 ▽…「安売りのためのプライベートブランド(PB=自主企画)商品だけでは消費者はついてこない」とココカラファインの塚本厚志社長は話す。消費者の低価格志向が続く中でも、安さよりも品質を求めてメーカー品を買い求める客は多い。
 ▽…2011年3月期のPB商品の売上高比率は8・5%。16年3月期には15%まで高める方針だが、競合と比べても高い比率ではない。「トイレットペーパーなど日用品を使えばPB比率を上げるのは簡単だが、消費者に求められる付加価値品を開発する必要がある」と話す。
 ▽…たとえば「中価格帯で高品質」を掲げる化粧品は有望商品だ。PBで販売する美白・保湿効果のあるスキンケアオイルは「5000円程度の価格で、6000~8000円のメーカー品と同等の品質」。5000円の化粧品は安くはないが、お得感のある商品には消費者は手を伸ばすという。「採算が悪く、閉店を考えていた店舗にこれらのPB商品を入れたことで黒字化したこともあった」と効果を実感している。

ダイネツ社長葛村和正氏―4つの金属熱処理工場が関電管内(みちしるべ)

 ▽…「15%の節電要請は正直言ってきつい」とダイネツ(堺市)の葛村和正社長はこぼす。金属の熱処理をするグループ5工場のうち4工場が関西電力の管内に立地。「使用量が多いため普段からエネルギーの効率利用を心がけている我々の業界が一層節電するには操業度を落とすしかなく、注文に対応できなくなる」と悩む。
 ▽…「自動車メーカーに3月以降の減産分を取り戻そうという動きがある」といい、熱処理の受注も上向いている。「景気回復の兆しに電力不足が水を差すのか」と危惧していた。

関電工・山口社長、東電の株売却に備え、「人員削減は考えない」。

 関電工の山口学社長は日本経済新聞と会い、筆頭株主の東京電力が保有株式を売却する可能性について「具体的な話は来ていないが、対応は検討している」と語った。東電からの受注減少で2012年3月期は大幅な減益が避けられないが、人員削減には否定的な考えを示した。
 関電工の今期の連結売上高は前期比8%減の4260億円、経常利益が67%減の38億円になる見通し。東電向け工事が2割減るが、「東電の投資抑制が来期以降も長引くと電力の安定供給に支障が出る」と指摘。「回復時に急な増員はできないため人員削減は考えない」と語った。外注の削減や社内での配置転換で対応する方針だ。
 東電は関電工に46%出資している。東電が原子力発電所事故の被害者に対する損害賠償のため資産売却に取り組む過程で保有株を売却する可能性については「事業面の結びつきから考えにくいが準備は必要」と語った。自社株買いや従業員持ち株会の拡充、取引先企業の保有など「様々な選択肢を検討している」。
 関電工の受注の4割強を東電の発注工事が占めるが、工事単価については「(東電向けの)配電工事は09年3月期と10年3月期は赤字で、11年3月期に自助努力で改善させた」と説明した。

自工会会長、電力の安定供給要望、冬の休日操業、想定せず。

 日本自動車工業会の志賀俊之会長(日産自動車最高執行責任者、写真)は12日の定例記者会見で「これから自動車業界は大増産に入る。増産は日本復興にもつながる。そのためにも電力の安定供給を切望する」と話し、原子力発電所の再稼働問題で揺れる政府に要望した。今冬の休日操業の可能性については「現時点では考えていない。色々と節電に工夫を凝らし対応していきたい」と述べた。
 原発再稼働問題について「国民の安心・安全が第一。国民が納得できる方策を政府は導き出してほしい」と話した。その上で「政府が決めたことは尊重するが、産業界にとってあまりにも影響が大きい結論になればその都度、政府には意見を出したい」とした。
 今月、発効した韓国と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)に関して「(日本も)早期に交渉を本格化し、同じ土俵で戦える環境を作ってもらいたい」とした。欧米に比べて重い自動車取得税など自動車諸税の減免や簡素化なども要望、「自動車産業の雇用維持にも尽力してほしい」と重ねて政府に注文を付けた。

丸善CHIホールディングス社長小城武彦氏

 電子書籍が広がりを見せている。有望市場での主導権を握るべく、大日本印刷(DNP)もグループの総力を集め、攻勢をかけている。丸善CHIホールディングスの小城武彦社長は、コンテンツ配信会社のトップを兼ねるなど、DNPグループの電子書籍戦略のかじ取りを担う。今後の業界動向や次の一手などについて聞いた。
 ――電子書籍市場の現状をどう見ているか。
 「スマートフォン(高機能携帯電話)の力に驚いている。ゲームやツイッターなどと消費者の時間の奪い合いをしてきたが、電子書籍はこの競争に負け続けてきた。しかし、ここに来てスマートフォンの力を借りて盛り返し始めている」
 「文庫本に慣れた日本人にちょうど良い画面サイズ。しかも、片手で操作できる。移動や休憩など細切れの時間に電子書籍を読むという習慣が急激に広がっている。『スマホすげえな』のひと言だ。消費者が書籍を持っていなかった時間に、今注目している」
 ――電子書籍とリアルの書店などを結びつける「ハイブリッド書店」の進ちょくは。
 「DNPグループの配信サイト『honto』のバージョンアップを来年1月までに完了する。グループ内で運営する書籍通販サイト『bk1』を統合し、書籍の購入でたまったポイントを管理するカードを導入する。1つのIDで電子書籍の配信とネット通販を利用でき、リアル書店で買い物をしてもポイントがたまるようにする」
 「時間を指定した販促などもできるようにしたい。例えば、サッカー日本代表の試合のハーフタイムに、メールで関連書籍を推薦するようなことを目指す。読者が欲しいと思った時に購入できる仕組みとすることが重要だ」
 ――リアル書店をどう位置付けるのか。
 「メールを使った店頭での商品取り置きサービスや店内イベントを効果的に実施していきたい。同じグループのジュンク堂書店(神戸市)、丸善書店、文教堂グループホールディングスが運営する書店の店頭には年間2000万人もの消費者が訪れている」
 ――さまざまな形で集めた読者情報はどう活用していくのか。
 「出版社との協力が前提になるが、紙と電子の書籍の発売時期をどの程度ずらすのが適当か、といったことなども検証できると考えている。どのようなタイミングで販促メールを送信したら良いかもわかるようになるかもしれない」
 ――陣営の異なるソニーと紀伊国屋書店、パナソニックと楽天が電子書籍で連携した。
 「(協力要請を含め)いろんな話は来るが、今の時点で他と連携する考えはない。いつになるかわからないが、(電子書籍市場は)最終的には競争によっていくつかの陣営に集約されるだろう。ただ、現在は陣営やサイトによってコンテンツの数や種類に大きな差はないとみている」
 「米国と一緒である必要がどこにあるのか」。電子書籍や書店について日米比較が話題になるたび、小城社長はこう強調する。車がなければ書店に行けない地域が多い米国と、都市部であれば帰宅途中などに立ち寄れる日本。米国人の2倍の年間1万5000円を書籍購入に充てる日本人。事情は全く異なるからだ。
 そこで提唱するのがリアル店舗とネットを融合したハイブリッド書店。紙を電子に置き換えるのではなく、相乗効果を出せるはず、との読みがある。日本独自の次世代の書籍流通が根付くか。小城社長率いるDNPグループの動向が注目される。
 おぎ・たけひこ 1984年東大法卒。通商産業省入省。カルチュア・コンビニエンス・クラブなどを経て2007年に丸善社長。10年CHIグループ(現丸善CHIホールディングス)社長。49歳

昭和電線HD常務西田征拓氏

 ――昭和電線ホールディングス(HD)は、海外売上高比率を2012年度に23%まで高める中期経営計画を掲げる。
 「海外売上高比率は10年度で13%とまだグローバル企業とは言い難い。しかし電線業界も国内は厳しく、海外でがんばるしかない。特にインフラ投資が活発な中国市場を重視しており、現地同業の富通集団から出資を受け、中国で合弁工場の増強・新設を進める」
 「経営管理や技術指導に当社のノウハウが求められ、総経理やセンター長などの要職に中国語を話せる日本人管理職が必要だ」
 ――現在の陣容は。
 「海外16拠点に日本人35人が駐在している。このうち中国は11拠点29人だ。これから富通と共同事業を進めていくため、年内にも、中国では駐在員を35人に増やす必要がある。しかし、投入できる人材が不足している」
 「これまでは駐在経験者をローテーションで何度も赴任させてきたのが現実で、60歳代などの年配者が増えてしまった。中国と全く縁のない40~50歳代をいきなり総経理として赴任させるわけにもいかず、ベンチに人がいない状況だ。次の登板を待つ予備軍を急いで育成しておかなければならない」
 ――具体的な育成策はあるか。
 「3月から本社(東京・港)で20~30歳代の若手社員向けに中国語会話の無料講座を始めた。当社は経理や生産管理などの総合職に中国出身者17人を採用しており、彼らに謝礼を払って講師を引き受けてもらっている。講師も会社への貢献度を高め、日本人社員と交流を図れるため、モチベーションは高い。教える訓練は受けていないが、受講者が気軽に指導を仰げる存在で、有効だと感じている」
 「講座は業務終了後の午後5時半から実施しており、あくまで自己研さんの位置付け。受講費は取らないが、教材は自己負担。内容も中国語会話入門のレベルで、学ぶ意欲のある社員にとっかかりとして生かしてもらうのが目的だ。3月開始の講座には11人が参加しており、中国語を業務上使わない国内営業担当者もいる。意外な人がやる気をみせており、うれしくなる」
 ――講座の頻度や今後の計画は。
 「ほぼ週1回のペースで講座は続いたが、東日本大震災後の復旧需要への対応で忙しいなかでも受講率は高かった。7月下旬には受講者の発表会も予定する。次回は10月以降、相模原事業所(相模原市)で若手技術者向けに開講したいと考えている。12年度以降も継続し、年2回程度は開く計画だ」
 ――資格取得補助などのメニューは。
 「10年2月から資格取得の報奨制度の対象に中国語検定を加えた。日本中国語検定協会(東京・千代田)の4級取得者に1万円を支給する。今回の無料講座開始で4級取得者は増える見通しで、3級以上についても報奨制度への組み入れを検討していく」
 「将来のキャリアとのつながりも明確にしていきたい。部署によって昇進に必要な知識は異なるが、その一つに中国語を加えるのも一案だ。同じ営業でも中国では国内とケタの違う案件にかかわれることも説明し、中国で働くことの魅力に気づいてもらいたい。若いうちに中国への出張や赴任の経験を踏ませることで将来の総経理候補に育てていく」

森トラスト社長に聞く、大震災、地価の先行きに影――投資に慎重でも低金利魅力。

 東日本大震災が地価の先行きに影を落としている。国土交通省がまとめた4月1日時点の地価動向報告では、全国主要146地区のうち、3カ月前より上昇したのは、わずか2地区にとどまった。都心部でも下落に転じているところもあり、再開発などにも影響を与えそうだ。多数の案件を抱えている森トラストの森章社長に今後の戦略などを聞いた。
 ――足元の事業状況はどうか。
 「先々期、前期、今期は負の資産を整理する時期と位置付け、財務体質の強化に力を入れてきた。その結果、2009年3月末の自己資本比率は20%だったが、12年3月末には27~30%に引き上げられる見込みだ」
 「リーマン・ショックと東日本大震災を受け、不動産の資産価値が下がった。住宅事業子会社のアーバンライフとフォレセーヌ(東京・港)が仕入れた土地などの評価損や、オフィスビルの賃料減収分など今期までの3年間で累計350億円の処理にあたる。これで財務基盤は固められるだろう。経営体力を充実し、次の大型投資に備えてきたところだ」
 ――再開発はどういう姿勢で臨むのか。
 「金融危機から平時に戻りつつあった矢先の東日本大震災発生で、日本経済の先行きは当面、不透明さを拭えなくなった。オフィス需要も弱含みとの見方があるなかで新規投資は慎重な判断が求められているのは事実だ」
 「とはいえ、空前の低金利は好機でもある。8月以降、東京で2つの物件の再開発に着手する。中央区の京橋一丁目には環境配慮型のオフィスビルを建てる。東京駅に近い京橋二丁目には、オフィスとホテルの複合施設を整備する」
 ――お膝元である港区にも大型案件を抱えている。
 「虎ノ門パストラルの跡地については解体工事こそ終えたが、再開発の計画はまだ決まっていない。震災後、防災面でも優れたまちづくりの重要性が高まった。行政が計画を示せば、それに応じるのも一案と思っている。赤坂ツインタワーについては、建て替えるか大規模改修にするかを年内にも判断したい」
 ――将来の経営体制についてはどう考えるか。
 「当社の総合職の平均年齢は33歳を超え、若返りが必要だと考えている。それは経営陣も同じだ。若い人材にある程度の責任を持たせて仕事をやらせたい。その時に不安材料をなるべく小さくして引き継ぐのが私の使命だと思っている」
 12日に75歳の誕生日を迎えた森章社長は在任18年を超え、次世代への引き継ぎを意識した言動が増えている。6月、子会社の森観光トラスト社長に長女で森トラスト専務を務める伊達美和子氏(40)を据えたのもその一環といえる。
 リーマン・ショックと東日本大震災という危機が不動産ビジネスに与える影響は大きい。長期にわたり経営の第一線に立つ森章社長にとって、残る仕事は中長期の成長戦略を示し、事業ポートフォリオを整えてバトンを渡すことだろう。その手腕はこれまで以上に問われそうだ。

富士重の中計、安定志向脱却、吉永社長に聞く――「個性」で存在感高める。

 富士重工業が2015年度に連結営業利益で10年度比43%増の1200億円、世界販売台数で同36%増の90万台にする5カ年の中期経営計画をまとめた。中国市場へ本格参入し、10年以内に100万台超の自動車メーカーとなる礎を築く5年とする。これまでの安定志向から脱却し、規模拡大にカジを切る。吉永泰之社長に背景を聞いた。
 ――どんな問題意識で中計をまとめたのか。
 「自動車産業は世界的には成長産業だ。新興国を中心に伸びる。ただ、市場が成長する中、現状の60万台規模では、下手すると埋没しかねない。当社はこれまでしばらく60万台規模でいた。現状維持を支持する声も社内にあるが、それを許してもらえない競争の環境下にある。危機意識を社員皆がもたなければならない」
 ――中計の発表の席では「規模」という言葉を繰り返し強調した。
 「正面向かって『規模を拡大する』と言ったのは今回が初めてだ。もちろん、いたずらに規模を追うつもりはない。当社がこれまで生き残れてきたのは、信頼を大事にするまじめなものづくり集団としての文化が根づいているからだろう。ただし、まじめゆえに変化に疎い。変化を得意としない社風があった。危機意識をあおるつもりはないが、変化を恐れるなというメッセージだ」
 ――規模とスバルの個性をどう両立させるのか。
 「『量』ではなく『個性』で存在感を高める。スバルの走りの楽しさはよくお客様にも理解してもらっているが、『安心』という柱を明確に打ち出す。衝突回避装置の『アイサイト』など、先進技術を全車種、海外への展開を拡大する」
 「当社の源流は中島飛行機という飛行機メーカーで、安全を重視する気風が今も根っこにある。例えば、ハイブリッド車で先行するトヨタ自動車と同じようなことを追求しても、当社の企業規模では難しい。アイサイトは周囲から浸透させるのは厳しいという指摘もあったが、今や搭載率は75%に達し、他社との差異化に貢献している」
 ――中国の奇瑞汽車と大連市での合弁工場の交渉をしている。進捗は。
 「合弁相手とは交渉を続けているところだ。条件は煮詰まりつつある。今は中国政府の認可が下りるのを待っている。下りれば、すぐにプロジェクトを実行に移せる体制を整えている」
 ――15年度に中国で現状の3倍の18万台に増やす。達成への自信は。
 「市場調査の結果、保守的に見積もっても18万台という目標値が出た。十分にいける。販売店網も2倍の250拠点に広げ、沿海部のほか、内陸部の大都市も開拓する。現地生産を決心した以上、今回の目標値ぐらいは狙わないといけない」
 ――来春に軽自動車の生産を終える。群馬製作所本工場の跡地利用は。
 「トヨタ自動車と共同開発している小型スポーツ車を生産する。ただし、スポーツ車は生産変動が大きいため、稼働率を平準化しづらい。排気量660cc超の登録車も一緒につくる。『ブリッジ生産』という概念で、需要動向に応じて生産車種を柔軟に切り替える。車種は最終決定していないが、どの車種でも対応できる」
記者の目
健全な危機意識 成長への活力に
 新中計はアジアなど新興国市場の開拓が柱。成長志向を強めるうえで、「健全な危機意識が土台として必要だ」と吉永社長は強調し、おっとりとした社風に揺さぶりをかける。危機意識を成長への活力に変えたいという思いがにじむ。
 ただ、富士重はかつて日産自動車や旧日本興業銀行からトップを招き、庇護されてきた歴史が長い。「甘え体質がまだある」(富士重OB)との指摘もある。吉永社長は「変化」と「自立」を求めるが、生き馬の目を抜く自動車業界で勝ち残るため、社長にも社員にも風土改革の覚悟が問われる。

京浜急行電鉄取締役施設部長道平隆氏

 京浜急行電鉄が発光ダイオード(LED)照明の導入を加速する。駅構内だけでなく、トンネルや車両での利用も視野に入れる積極ぶりだ。節電と二酸化炭素(CO2)削減を同時に進める。コスト面の効果などLED化を狙う鉄道会社の事情を道平隆取締役施設部長に話を聞いた。
 ――今夏の節電策は。
 「羽田空港国内線ターミナル駅と天空橋駅の照明を全部、LEDに切り替えた。地下駅で一日中、電気をつけておく必要があり節電効果が大きいと判断した。合計1750個ほどで、夜間に約1カ月作業して羽田空港の方は6月末に切り替えを完了した」
 「試算ではLED化で使用電力量は約半分になる。CO2排出量も同じ程度減らせるとみている。駅構内や車内照明の一部消灯、平日昼間の運転本数削減なども実施している」
 ――LEDの光は直進性が強く、通常の電灯とは異なる。導入に抵抗はなかったのか。
 「電灯が切れた時でも昼間には交換しにくい女性用トイレを対象に、数年前からLED照明を導入して(明るさの感じ方などに)問題がないかどうか確認してきた。私自身もデスクの回りの照明を蛍光灯型のLEDにして体感してきた」
 「駅やトンネルなどの照明は約1年に1度、交換する必要がある。蛍光灯そのもののコストより、終電が終わった深夜に取り換える人件費の負担の方が大きい。LED照明ならこの交換までの期間を長くできる。価格は高いが、こうした保守管理費用を考えて10~20年の期間でみると総コストは安くなる」
 ――実際にLEDに切り替えてみた効果は。
 「今はまだ、全部で72駅あるうちの2駅について取り換えただけだ。会社全体への影響力というより、『CO2排出量がトラック輸送の約7分の1』という環境負荷の低さを標榜している鉄道会社としての使命感の方が先行している」
 「今後、他の駅もLED化を進めたいと考えている。一部車両などにもLED照明を導入したい。列車は振動が多いためLEDには過酷な環境になるが、現在4両編成の普通列車の一部の照明をLED化して、蛍光灯と比較しながら導入可能性の確認をしている」
 ――事業面だけでなくグループ社員約1万人にもLED電球を配布した。
 「消費電力量が従来の電球の約5分の1となるLED電球を、社員一人ひとりに1000円程度の寄付を募って配った。寄付は被災地に送る。有料にしたのは自分で料金を負担しないと、LED電球を積極的に使おうとは考えないと判断したためだ」
 「社員が家庭でLED電球を使っても、当社の節電に貢献するわけではない。ただ1つ使ってみてよいと思えば2個、3個と家庭の節電につながっていく。その動機付けの効果がある」

2011年7月12日火曜日

「スポーツHV、3年内に」、フェラーリ会長インタビュー

日本の販売目 標震災で1割減に
 来日した伊フィアットグループの高級車メーカー、フェラーリのルカ・ディ・モンテゼモロ会長(フィアット前会長)が日本経済新聞のインタビューに応じ、グループの経営戦略や業績、市場動向の見通しなどについて明らかにした。主なやりとりは次の通り。
 ――日本市場における東日本大震災の影響はどの程度出ているか。
 「昨年の日本市場でのフェラーリの販売実績は約400台。今年もほぼ同程度を予定していたが、震災直後にこの目標を10%程度引き下げた。震災が消費者心理に影響したせいか、5月まではたしかに引き合いが鈍ったが、6月以降は明らかに改善傾向にある。もともと需要は販売目標の2倍程度はあるとみているので、先行きはそれほど心配していない」
 ――世界でのフェラーリの販売動向はどうか。
 「フェラーリ最大市場の米国は前期比12%増。急成長する中国市場は前期比で約30%増え、昨年の4位以下から3位に浮上する見通し。今年2位になるドイツを抜くのも時間の問題だろう。フェラーリ初の4人乗り、四輪駆動車『FF』などの戦略製品も順次、市場に投入するし、今春、参入したインド、ウクライナの市場も安定した成長が見込める。昨年の販売実績を上回る勢いだ」
 ――昨年3月のジュネーブ国際自動車ショーでフェラーリ初の高級スポーツ・ハイブリッド車(HV)を発表した。
 「環境保全への取り組みを強化している。これは決して自動車業界内での横並び意識からではなく、消費者が求めている製品を提供するのがメーカーの責務だと考えているから。3年以内には販売にこぎ着けたい」
 ――フィアットの前会長として2009年の米クライスラーとの資本提携を主導してきた。シナジー効果は出ているか。
 「徐々に出ているし、今後も十分に期待できるだろう。クライスラーとの資本提携のメリットは主に部品・車体の共用化と販売網の乗り入れだ。フィアットにとっては念願の米国市場への再参入の足場を得たし、製品のラインアップにクライスラー車が加わることで欧州市場での販売攻勢も強化できる。次世代車開発への巨額投資に備えなければならないし、クライスラーは業界で生き残るための重要なパートナーだと考えている」
 ――フィアットのマルキオーネ最高経営責任者(CEO)は2、3年でクライスラーと経営統合し、本社を伊トリノから米国内に移転する可能性を示唆している。
 「国際競争力を高めるため、現在、イタリア国内にあるフィアットの工場で労組と労務協約を改革する方向で協議している。だがこれが必ずしも円滑に進んでいない。改革が進まないならば、様々な選択肢があるという理論上の可能性に言及したにすぎない。フィアットにとってトリノは発祥の地。イタリアの国内経済への影響も大きいし、本社が簡単にイタリアを離れることはない」
 ――独フォルクスワーゲンがフィアット傘下のアルファロメオの買収に興味を示している。
 「グループにとってアルファロメオは欠かせない会社。ブランドイメージが高いうえ、固定客も多く、傘下に抱えているメリットは大きい。米市場参入の切り札でもある。たとえ買収の提案があっても受け入れるつもりはない。アルファロメオが抜けたら、グループは計り知れない打撃を受けることになる」
 1947年伊ボローニャ生まれ。ローマ大卒。F1フェラーリチームのマネジャー、フィアット幹部などを経て、2004年、創業者一族のウンベルト・アニェリ会長の死去に伴いフィアット会長に就任。10年4月、創業家のジョン・エルカン氏に会長職を譲る。現在はフェラーリ会長兼フィアット取締役。次期首相候補にも名前が挙がっている。63歳。
記者の目
伊の工場改革 残り時間少なく
 後継のエルカン会長(35)が独り立ちするまで、フィアット創業家の代理人として振る舞うことが許された唯一の人物。実務はマルキオーネCEOに任せているが、現在もグループ内に隠然たる影響力を持つ。
 グループの最高実力者として2000年代の経営危機を乗り越え、クライスラーとの資本提携を実現した“知将”は、提携のシナジー効果が浮沈のカギを握るとみる。
 「早くても年末以降」と見られていたクライスラーの子会社化を前倒したのはそのため。掲げた目標は年産600万台。業界上位に食い込まなければ生き残りは難しい。
 目下、取り組んでいるのが「米市場への再進出」と「イタリア国内工場の改革」。特に後者については「国際基準で考えなければ時代に取り残される」と何度も熱弁を振るった。ただ残された時間はそれほど多くない。

イビデン社長竹中裕紀氏―携帯IC基板、海外生産も

 イビデンの竹中裕紀社長は、スマートフォン(高機能携帯電話)などに使う高付加価値な基板の需要動向について強気の見通しを示す。サプライチェーン(供給網)の寸断リスクを避けるため、生産地域の分散も視野に入れている。
海外の需要旺盛
 ――生産や販売などで東日本大震災の影響は。
 「原材料調達で震災直後は影響が多少あった。当社に大きな支障は出なかったが、国内景気のマイナス材料にはなる。2012年3月期の上期は平時に比べ電子部品の需要が伸び悩みそうだ。連結売上高で150億円ほど下振れするとみて業績予想に織り込んだ。震災の影響は秋口には一服すると思う。通期で純利益は前期比19%増、売上高は10%増を見込んでいる」
 「設備投資計画も変更はない。前期比16%増の700億円を計画しており、リーマン・ショック前の水準に回復した。電子部品では主にスマートフォン向けやタブレット端末向け部品の生産・販売強化に充てる」
 ――携帯電話向け製品などの世界需要の見通しは。
 「今期も新興国が成長をけん引するが、パソコン向けは伸び悩みそうだ。しかし世界はIT(情報技術)機器で結ばれ、新興国の成長は止められない。多少の踊り場があっても来期以降の成長は続くだろう」
 ――スマートフォン向け製品が大きく伸びそうだ。
 「電子部品部門のうちスマートフォンやタブレット端末に使うプリント基板やICパッケージ基板が、今後2~3年の当社の成長を支えることは間違いない」
 「プリント基板は青柳事業場(岐阜県大垣市)や中国・北京工場に加え、マレーシアの第1工場で今春に生産を始めた。来年夏に第2工場も立ち上がり、需要増に対応する体制が整う」 「ICパッケージ基板については当面、河間事業場(岐阜県大垣市)の設備増強でしのぐつもりだ。ただ、顧客企業が震災後、1カ所で集中生産している製品の調達リスクに懸念を強めており、海外での生産拠点を探しているところだ」
節電対策を推進
 ――電力不足の対策は。
 「中部地方が計画停電に陥らないように最大限協力したい。当社の使用電力は自家発電の水力、火力が各3分の1で、残りを中部電力から買っている。自家発電設備は夏場に最大出力を発揮できるよう念入りに保守・点検している」
 「前期に5%の省エネを実現したが、今期もさらに5%の削減を目指す。照明をLED(発光ダイオード)に交換し、クリーンルームの空調効率も改善する。以前から取り組む夜間や土日の集中操業も今年は徹底させたい」=随時掲載
 民間調査会社によると、2011年度の携帯電話出荷は、2台に1台がスマートフォン(高機能携帯電話)になる見通しだ。イビデンは付加価値が高いスマートフォン向けのICパッケージ基板やプリント基板を成長のけん引役と位置付け、力を入れている。
 ただ、技術の最先端分野でもあり、世界需要の急変動リスクも抱えている。シェアや収益力の向上を追求するうえで最適な生産地や仕様の選定、投資のタイミングなど高度な経営判断を迫られている。

六甲バター社長塚本哲夫氏―給食が伝える食文化

 ▽…「学校給食で日本の食文化を子供たちに伝えていきたい」と話すのは六甲バターの塚本哲夫社長。5月から学校給食用食品メーカー協会の会長も務める。今後、地元の老人などにも手伝ってもらい、和洋の食事の調理法や食の歴史を伝えていきたいとしている。
 ▽…同社は昭和20年代から、マーガリンやスライスチーズ、ベビーチーズなどの商品を全国の小中学校に卸す。「当社は学校給食によって成長させてもらった」と給食に対する思いは強い。食育に貢献することで恩返しをしたいという。

アシックス執行役員渡辺博司さん――極細繊維で選手を支援

 ▽…「体に吸い付くような極細繊維を採用した」。こう語るのは世界陸上選手権の公式ウエアを11日に発表したアシックスの渡辺博司執行役員。同大会に向けて素材メーカーと開発した繊維をランニングシャツに使い、前後への揺れを従来に比べて「平均約7%低減した」という。選手からは「フィット感があって服のズレが気にならない」との声もあった。
 ▽…今回の世界陸上は韓国・大邱で8月末から始まる。日本代表のメダル獲得に期待が高まるなか、選手がウエアの揺れや重さなどを気にせず、「競技だけに集中できるようにすることが我が社の果たす役割」と力強く話していた。

2011年7月11日月曜日

サトウ食品、包装米飯、夏に期待、社長に聞く――被災地支援、今後も

 東日本大震災で非常食として注目を集めた包装米飯。被災地に送るなどして支援したサトウ食品工業は業界トップメーカーだ。震災直後は増産対応に追われたが、夏場の需要はどう読むか。佐藤元社長に聞いた。
 ――足元の需要は。
 「震災直後は増産体制をとったが、足元は落ち着いている。6月は前年同期並みだ」
 「3~4月には保存が利く包装米飯を消費者が非常食として買い込んだ。小売業者からも発注が増えた。需要は根強いが、大型連休以降に反動が出た」
 ――今後の需要をどう見る。
 「基本的には明るい。1995年の阪神大震災の時も直後から1度需要が落ち、それから徐々に回復した。普段、包装米飯を食べない人たちも味の良さや便利さといったことに気がついた結果だと考えている」
 「当社の商品は競合と比べて安くはないが、味へのこだわりは強い。もともと包装米飯は子どもが夏休みに入り、共働きの家庭で消費量が増える夏場が需要期だ。おいしさを前面に出して売り上げにつなげたい」
 ――被災地支援をどう続けるか。
 「現在、『サトウのごはん 銀シャリ3食パック』に被災地のコメを原料に使ったことがわかるよう、シールを張って販売している。今後もそういった商品を増やして応援していきたい」

日本マイクロソフト社長に聞く――医療や防災、情報技術で支援、奈良県と協定

 米マイクロソフトの日本法人、日本マイクロソフト(東京・港)が地方自治体との連携を強化している。今年度は岡山、山梨両県に続き奈良県と情報通信技術(ICT)を通じて地域活性化に取り組む協定を結んだ。関西の府県は初めてだ。少子高齢社会の様々な課題や、大規模災害時の対応などにICTはどんな可能性を持つのか。樋口泰行社長に聞いた。
 ――自治体との連携を拡充しているのは。
 「ビジネスと切り離した企業市民活動の一環。既に佐賀、高知、千葉など6県と実施した。年3自治体をメドに我々の技術を提供する。自治体の現場、教育の現場ではICTの活用が遅れている。改善したい」
 ――奈良ではどんな分野に力を入れるのか。
 「非営利組織(NPO)の人材育成など5分野を考えている。奈良県はICTの活用水準が全国でも低く底上げをしたい」
 「他県にない取り組みとして、地域の医療連携への(インターネットを経由してソフトなどを提供する)クラウドコンピューティングの活用を考えている。例えば、1人の患者をどうみるか。奈良県とは勉強会を立ち上げて病院間や病院・診療所間の診療情報乗り入れや、急患の割り振りの仕組みを研究したい」
 ――東日本大震災を機に、有事にどう情報発信を継続するか、自治体の関心が高まっている。
 「震災直後、固定電話、携帯電話の脆弱性が露呈したのに対し、インターネットは堅牢(けんろう)だった。今後に備え、自治体は有事にも情報発信を継続できる堅牢な基盤をつくっていくことが重要だ」
 「今回の震災では様々なデータの消失やホストコンピューターが機能しなくなる問題も相次いだ。クラウドの活用と、データの二重化によって災害の影響をどう防ぐか課題になる」
 ――震災を受け、データセンターの機能分散など自社としての対応は。
 「企業向け大型データセンターはアジアはシンガポール、香港にある。能力が満杯になった場合、日本にということも考えられる」

戸田建設社長井上舜三氏―ブラジル現法、地元から受注重視

 ▽…「目標の達成にメドが立ちつつある」。戸田建設の井上舜三社長は中期経営計画で掲げた海外受注高200億円の実現に自信を見せる。このほど6社目となる現地法人をフィリピンに設立することを決定。海外では過去に赤字を出した経験もあるが「慎重になりすぎてはいけない」と再びアクセルを踏み込む。
 ▽…成長のカギを握るのがブラジル。現法設立から40年近く経過、今では日本から進出する製造業の多くが顧客となっている。ただ日系企業への過度の依存は「業績が乱高下する可能性がある」と危惧する。M&A(合併・買収)などで現地企業との関係を深め「地元企業の受注を取りたい」と意気込んでいた。

成城石井の原社長に聞く、中部・関西も出店拡大、三菱商事系傘下入り。

 高級スーパーの成城石井(横浜市)は5月31日付で、三菱商事系の投資ファンドである丸の内キャピタル(東京・千代田)の100%出資会社へ全事業を譲渡し、新たなスタートを切った。三菱商事のノウハウをどう活用し、事業を拡大していくのか。原昭彦社長に、今後の事業戦略について聞いた。
 ――新会社として新たなスタートを切った。
 「年10店舗前後という出店戦略に変更はない。関東を中心に中部や関西へも出店を進めて、日本中に成城石井のファンを増やしていきたい」
 「関西では弁当やサンドイッチなどを現地調達している。出来たての商品を提供するため、また店舗数を増やすことも考慮して、将来的に関西でも総菜工場などの建設を検討しないといけない」
 ――丸の内キャピタルに出資する三菱商事のネットワークをどう生かすのか。
 「具体的にはこれから策定する中期経営計画に盛り込むが、出店ではこれまでも三菱商事系の新丸の内ビルディング(東京・千代田)や横浜ランドマークタワー(横浜市)などへ出店してきた。そういった新規出店の物件開発や、卸事業における物流網の効率化などの効果が期待できる。商品の配送でも現在の物流網を整理して、三菱商事のネットワークを利用するなどしてコスト削減効果が期待できる」
 ――東日本大震災が業績に与える影響は。
 「東北からは野菜や畜産物を仕入れており、これからの季節は桃やメロンの出荷も始まる。原発の風評被害も含めて生鮮3品が非常に不安定に推移しており、先が見えない状況が続いている」
 ――震災を受けて商品の調達方法に変化は。
 「関西から牛乳、名古屋から納豆を仕入れるなど、これまでも仕入れ先を分散してリスクヘッジをしてきた。震災を受けて、牛乳や卵などの仕入れ先も分散する必要があると考えている」
 ――事業拡大に向けて、今期重点的に取り組みたいことは。
 「食品スーパーと卸両事業とも扱う商品のカテゴリーを広げて商品力を高める必要がある。今年からアメリカとオーストラリアの食品見本市に参加して商品の輸入を始める。ナッツやドライフルーツなどを原料で大量に仕入れて、日本で仕分けて販売する。卸事業を食品スーパーに次ぐ事業に育てたい」
 ――社員教育も強化している。
 「入社1~3年目ぐらいの若手を中心に少人数の研修を月2~4回ほど実施している。商品の知識があっても陳列がきちんとできるわけではない。複数店舗の売り場づくりを支援するスーパーバイザーが7~8人の若手社員に、季節に合わせた売り場作りを教えている。若手が疑問に思ったことを聞きやすい環境をつくっていきたい」
 新会社でも引き続き社長を務める原昭彦氏は、大久保恒夫前社長時代から、現場のトップとして経営改革を進めてきた。
 「『こだわり豊かな社会を創造する』という企業理念の下、新会社でも大きく経営方針を変えることはない」と原社長が強調するのは、一般的な食品スーパーの2倍前後と言われる売上高経常利益率5%(2009年度)など同社が順調に業績を伸ばしてきた自信が背景にある。
 しかし同社がこれまで中心的に出店してきた駅ナカは、東日本旅客鉄道傘下の紀ノ国屋(東京・港)も出店戦略を進めており、今後は出店余地が少なくなる可能性もある。
 今後も成長を続けていくためには、丸の内キャピタルと同じく三菱商事系の小売りや卸などとも連携し合って、出店戦略や商品調達など物流面で協力できるかどうかが鍵となりそうだ。

ロレアルCEOジャン―ポール・アゴンさん―美の革新日本が司令塔

 世界最大の化粧品メーカー、ロレアルのジャン―ポール・アゴン最高経営責任者(CEO)がこのほど来日。東日本大震災で消費の風景が変わったといわれる中で化粧品や美を求める姿勢は変わっていないことを改めて強調した。日本をアジアの司令塔と位置付けるその意義について聞いた。

 ――来日の目的は。
 「震災が起きる約2週間前に日本を訪れていました。あのような悲劇に日本が見舞われたことに心を痛めていました。これは世界のロレアル従業員の気持ちです。震災後は1日に3度も日本に連絡を入れて状況の把握に努めるのとともに、一日も早く立ち直ってほしいと励ましてきました。それにしても日本の皆さんの力強い意志には敬服します」
 「世界のロレアルの従業員の気持ちを日本に伝え、責任ある企業市民として、私たちが連帯して支援を必要とする人たちのためにアクションを起こすための来日です。例えば被災された皆さんへの無料のヘアカットサービスなどを通して東北のために価値ある貢献を続けていきたいです」
 ――消費の風景は変わったと思いますか。
 「それよりも良質で、合理的で、理にかなった価格に対する意識が強まったと考えています。高級ブランドのランコム、ロレアル、ヘレナ・ルビンスタイン、イヴ・サンローランなどへの購買意欲は強いです」
 ――日本の百貨店の位置付けは。
 「百貨店の市場規模は縮小していますが、大切な販路で、独特の雰囲気を醸し出す場所に変わりありません。わくわくさせ、魅力的で、そこに行きたい気持ちにさせる力が百貨店にはあります」
 「最近、日本では博多や大阪の大都市のターミナル駅に隣接する大きな百貨店が相次ぎ、開業や増床をしています。そうした百貨店は次世代の若い消費者をとらえようとする姿が感じられます。成長するために新しい世代へ新しいファッションや新しいブランドを提供していますね。我々のアメリカの自然派化粧品ブランドのキールズは日本のお客さんにも受け入れられています」
 「日本は世界の中で先を行く存在です。生活水準、技術革新などロレアルにとって戦略的な位置づけであることに変わりはありません。世界で最も目が肥え、いろいろなニーズを持っており、それに対応することが求められています。ロレアルグループにとって日本はベンチマークなのです。新しいトレンドやアイデアを新しい組織で新製品を作り上げています。イノベーション(革新)の場所です」
 「日本で生まれて世界で大成功を収めた商品は多いです。メイベリンのウオーターシャイニー、リップスティック。ランコムもあります。シュウウエムラもそうですね」
 ――化粧品の世界の革新とは。
 「消費者にとって『ビューティー(美)』は永遠の課題です。いつもいい商品、満足を求めます。全売り上げに占める新製品の比率は15%にもなっています。安全性、効率性、パフォーマンスの面からも新しく、そしてこれまでと違うモノをつくり出していくことです」
戦略はシンプル
新興国でも1位
 ――昨年、日本でアジアの研究開発を統括するようになりました。
 「今、日本の研究開発の拠点には6カ国の人たちが働いています。ロレアルの強みはチームで仕事をすることです。人をベースに考えて、個々の才能を引き出していくのを得意とした独特な組織です。これはロレアルの哲学でもあります。多様性の中からオリジナルなモノをつくり上げていきます。こうした柔軟性のある組織を世界に広げてきました。生物学的にいえば、常に変化に合わせて対応していく柔軟で有機的な組織です。研究開発費は毎年2ケタ増で推移しています」
 ――新興国への取り組みは。
 「戦略はシンプルで、ナンバーワンになることです。たくさんの消費者がいるので大きなチャンスととらえています。中国では年率15%、インドでは30%も伸びています。ただ消費環境はとても複雑です。グローバリゼーションは世界で同一商品を売ることを意味しますが、化粧品の世界はそうではありません。インドではマス市場向けのガルニエが成功していますが、高級ブランドは時間がかかります。ニーズ、ウオンツ、生活様式、そして見る夢も違います」
 ――買収したいブランドはありますか。
 「頭の中にはありますよ。グローバルブランドにしなければなりませんので厳密に選択しています。日本企業があるかどうかは言えません」
 ――ネット通販は。
 「日本は今年、ネットの売上高構成比が4%で推移しており、昨年よりも伸びています。危機に強く、パイロットカントリーだとみています。中国でも始めていますが、インドは物流体制等の課題がありまだ手掛けていません」
 ――日本は暑い夏になっています。
 「暑い夏に対応できるような提案をすばらしい日本の女性にしていくつもりです」
 Jean-Paul AGON 1978年に仏ロレアル本社に入社。ギリシャ、ドイツなど海外子会社の社長を歴任し、海外での豊富な経験を持つ「国際派」。最大市場の米国での成功を経て、2006年ロレアルグループ5代目社長兼最高経営責任者に就任。07年、仏政府よりレジオン・ド=ヌール勲章のシュバリエ章を受章。