2011年7月13日水曜日

森トラスト社長に聞く、大震災、地価の先行きに影――投資に慎重でも低金利魅力。

 東日本大震災が地価の先行きに影を落としている。国土交通省がまとめた4月1日時点の地価動向報告では、全国主要146地区のうち、3カ月前より上昇したのは、わずか2地区にとどまった。都心部でも下落に転じているところもあり、再開発などにも影響を与えそうだ。多数の案件を抱えている森トラストの森章社長に今後の戦略などを聞いた。
 ――足元の事業状況はどうか。
 「先々期、前期、今期は負の資産を整理する時期と位置付け、財務体質の強化に力を入れてきた。その結果、2009年3月末の自己資本比率は20%だったが、12年3月末には27~30%に引き上げられる見込みだ」
 「リーマン・ショックと東日本大震災を受け、不動産の資産価値が下がった。住宅事業子会社のアーバンライフとフォレセーヌ(東京・港)が仕入れた土地などの評価損や、オフィスビルの賃料減収分など今期までの3年間で累計350億円の処理にあたる。これで財務基盤は固められるだろう。経営体力を充実し、次の大型投資に備えてきたところだ」
 ――再開発はどういう姿勢で臨むのか。
 「金融危機から平時に戻りつつあった矢先の東日本大震災発生で、日本経済の先行きは当面、不透明さを拭えなくなった。オフィス需要も弱含みとの見方があるなかで新規投資は慎重な判断が求められているのは事実だ」
 「とはいえ、空前の低金利は好機でもある。8月以降、東京で2つの物件の再開発に着手する。中央区の京橋一丁目には環境配慮型のオフィスビルを建てる。東京駅に近い京橋二丁目には、オフィスとホテルの複合施設を整備する」
 ――お膝元である港区にも大型案件を抱えている。
 「虎ノ門パストラルの跡地については解体工事こそ終えたが、再開発の計画はまだ決まっていない。震災後、防災面でも優れたまちづくりの重要性が高まった。行政が計画を示せば、それに応じるのも一案と思っている。赤坂ツインタワーについては、建て替えるか大規模改修にするかを年内にも判断したい」
 ――将来の経営体制についてはどう考えるか。
 「当社の総合職の平均年齢は33歳を超え、若返りが必要だと考えている。それは経営陣も同じだ。若い人材にある程度の責任を持たせて仕事をやらせたい。その時に不安材料をなるべく小さくして引き継ぐのが私の使命だと思っている」
 12日に75歳の誕生日を迎えた森章社長は在任18年を超え、次世代への引き継ぎを意識した言動が増えている。6月、子会社の森観光トラスト社長に長女で森トラスト専務を務める伊達美和子氏(40)を据えたのもその一環といえる。
 リーマン・ショックと東日本大震災という危機が不動産ビジネスに与える影響は大きい。長期にわたり経営の第一線に立つ森章社長にとって、残る仕事は中長期の成長戦略を示し、事業ポートフォリオを整えてバトンを渡すことだろう。その手腕はこれまで以上に問われそうだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿