2011年6月25日土曜日

全日空・森本副社長に聞く、787で長距離国際線、燃費改善でコストも削減。

 全日本空輸が購入した米ボーイングの次期主力中型旅客機「787」の1号機が7月3日、日本に到着する。機体の35%を三菱重工業など日本企業が担当するものの開発中のトラブルなどで納入が遅れた787を、全日空は世界に先駆けて今秋から国内線に投入する。パリ国際航空ショーで787公開式典に臨んだ森本光雄副社長(オペレーション部門統括)=写真=に導入の狙いなどを聞いた。
 ――787納入は大幅に遅れたが、不安はないか。
 「開発が遅れたことは残念だが、無理して不完全な機体を引き渡されては困る。ボーイングと整備面などで十分な確認作業をしており心配していない。むしろ当社がこの飛行機を効率的に活用するかが課題だ」
 ――導入の利点は。
 「中型機で長距離路線が展開できる。従来の中型機では日本からインドまでの距離が限界だったが、787では米国の東海岸や欧州といった長距離路線が可能になる。国際線の新たな事業戦略を構築できる」
 ――業績貢献度は。
 「燃費は従来の中型機に比べ2割程度抑えられる。国際線の新路線展開とコスト削減を同時にでき経営に与える影響は大きい」
 ――今後、どの路線に活用していくのか。
 「現在、最終の検討段階だ。初めての機体なので、まず国内でオペレーションをできる人材を早期に育てて、次に国際線に出て行く。787を使う長距離の国際路線は羽田空港の活用も検討している」
 ――三菱重工業など日本企業が787の重要部品を担当した。
 「787の開発、製造にに参加しノウハウを蓄積することは日本の航空機産業にプラスになると思う」

アジア観光客呼び込む、ホテルオークラ荻田社長に聞く――海外営業拠点見直し。

北京など新規開設
 東日本大震災の影響で観光客の減少に苦しむホテル業界。北海道は近年アジア客の獲得にシフトしていたため、落ち込みが目立つ。札幌をはじめ、世界に拠点を持つホテルオークラの荻田敏宏社長に今後の対応策を聞いた。(聞き手は阿曽村雄太)
 ――震災の影響はどれくらいあるのか。
 「東京の旗艦施設は3月の震災以降に売上高が半減した。ただ4月は前年同月と比べて4割減、5月は3割減、6月は株主総会が集中したこともあり前年並みまで回復した。今年度の通期では1割減になるだろう。札幌はマーケットの2~3割を台湾、香港、中国人が占め、震災でそれが無くなったのだから影響は大きい。本格的な回復は夏以降と見ているが、前年の6割程度にとどまるのではないか」
 ――外国人観光客に再び来てもらうには。
 「外国人客の減少は一時的だ。現在、海外営業拠点の見直しを進めており、ロンドン、パリ、独フランクフルトに事務所を設けた。今後はモスクワ、北京、シドニー、シンガポールにも開設する計画で、アジアから北海道への送客を強化する。昨年までは拠点が少ないため、東京と京都のホテルしか営業ができていなかった」
 ――昨年傘下に収めたJALホテルズとの相乗効果は。
 「ホテルチェーン全体では営業面で協力体制を構築したい。オークラが27万人、JALホテルズが8万人いる会員を活用して、相互送客を進める。出店時でも不動産オーナーに『オークラ』『オークラフロンティア』『日航』『JALシティ』の4ブランドを提案できる強みがある」
 「北海道では、ホテルオークラ札幌と、JRタワーホテル日航札幌、ホテル日航ノースランド帯広との連携体制を強化したい。3月は、地下通路の開通に合わせて、札幌の2施設のレストランが共同で販売促進に取り組んだ。オークラの営業担当者が日航の客室を販売してもいい。共同仕入れをすればコスト削減につながる。こうした機能統合を進めていきたい」
 ――札幌や福岡などは1都市に2つのホテルがある。不採算施設の見直しはしないのか。
 「ホテルオークラ札幌の撤退はしない。オークラ札幌は年14~15億円の売り上げで採算ベースに乗る計算だ。今年度は震災の影響で13億円程度になる見通しだが、グループ内でカバーできる。ホテルチェーンを維持する上で5大都市にオークラブランドのホテルがあることが重要で、ある程度採算に乗っていれば問題ない」
 「オークラ札幌の建て替えや改装など施設面の見直しはまだ先だ。2003年の買収時に大規模改装を実施した。ホテルの改装時期は15年単位のため、当面は古くなったカーペットの交換など小規模の修繕が中心になるだろう」

エバラ食品藤川社長に聞く、M&A視野、海外拡大へ、新たな看板商品に意欲。

 エバラ食品工業の藤川雍中社長は日本経済新聞のインタビューで、少子高齢化で国内食品市場の高成長が見込めない中、「M&A(合併・買収)も視野に海外事業の拡大と、国内で調味料以外の看板商品を作りたい」と語った。2014年3月期に前期比5%増となる517億円の連結売上高を目指す3カ年中期経営計画の達成を確実にする狙いだ。
 同社は09年夏に中国・上海で焼き肉用調味料工場を新設。中国で業務用調味料の販売拡大を進めてきた。「現地では、いため物料理などに焼き肉用調味料を使う飲食店が増えている」という。
 ただ現在の海外事業は中国にほぼ限られており、前期の海外売上高は3億円弱。前の期の2倍に増えたが連結売上高に占める比率はまだわずかだ。そこで「東南アジアや韓国では牛丼店があるなど日本食への関心が高い」と、中国以外のアジア地域の販路開拓に向け、現地の販売網を持つ企業との連携を模索する。
 国内ではチルド(冷蔵)食品販売の拡大を急ぐ。韓国食品会社と合弁でキムチを中心とした食品販売会社を横浜市内に今月設立した。エバラによると国内キムチ市場は700億円とされる。06年にチルド事業に参入したが韓国企業と組み商品ラインアップを拡充する。
 今後「新商品開発のため、当社にない技術を持つ企業についてM&Aも考えたい」という。
 そのほか「学校の食育授業に協力したり、地元イベントにブースを出店したりすることで横浜に本社があることをアピールしたい」と話した。

2011年6月24日金曜日

奮闘日本ブランド海外戦略を聞く(上)タカシマヤ・シンガポール社長山口裕氏。

0億人市場へ布石 グループで「華人」開拓
 東日本大震災から100日あまり。福島原子力発電所事故の影響が個人消費回復の重荷となるなか、小売りやメーカーはこれまで以上に海外市場の攻略に意識を向けている。母国市場の苦境に、重みを増す海外事業の責任者らに聞く。1回目はタカシマヤ・シンガポールの山口裕社長
 同国随一の目抜き通りオーチャードロードに立つシンガポール高島屋SCは売り場面積約7万平方メートル。東南アジア最大の百貨店だ。
 「我々のように華やかさを売る百貨店商売は自粛モードや節電の打撃は避けられない。日本の厳しい状況を踏まえると、こういうときこそこっちで支えなきゃならない。そんな思いを強くした」
 「銀座や秋葉原から中国人観光客の姿が消えた、とまず聞いた。ならば『こっちにくるぞ』と。アジアの先進国といえば日本とシンガポール。パナソニックの電子レンジ、タイガーの電気釜、ケンウッドのフードプロセッサー……。行き先を変更した観光客の受け皿にするため、3月から面積を5倍に拡張した家電売り場がヒットした」
 タカシマヤ・シンガポールの2010年度(12月期)決算は営業収益が5億5000万シンガポールドル(357億円)、最終利益が3900万シンガポールドル(25億円)。売り上げ・利益ともに過去最高だった。
 「シンガポール店の平均来客数は1日5万~6万人。集客力は国内最大の横浜店並みだ。うちはごちゃまぜの地元ショッピングモールとは異なり、テナントの配置や顧客動線を意識して日本流の高級感を演出している。通路幅も広めに取っているが、それでも来客数が10万人を超えるクリスマスや旧正月は身動きがとれなくなる」
 「リーマン・ショックの打撃から昨年の売り上げ回復を主導したのは海外からの観光客。原動力となったのはシンガポールに昨年相次いでオープンした大型カジノだ。カジノ導入の是非については論争があったが、結果としてアジア諸国からの観光客が爆発的に増えた。ギャンブルが主目的でも『せっかくだからオーチャードで買い物でもしようか』という人にアプローチを試みた。彼らの購買力は尋常ではない。ブランド品の紙袋を3つ、4つと抱えて、まるで魚を買うような感覚だ」
 タカシマヤ・シンガポールは高島屋本体と共同で、来秋開業する上海店に折半出資した。
 「いまのアジア経済をけん引しているのは華人だ。こちらで売れ筋の商品や食品、ブランドを紹介し、サプライヤーを上海店に送り込む。我々は長年の取引実績でサプライヤーからの信頼を得ている。新店の円滑な滑り出しに貢献できる」
 「日本からだと見えにくいが、昨年1月の中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の自由貿易協定(FTA)締結をきっかけに、経済圏の一体化が急速に進んでいる。日本の1億2000万人はとても大事。だがこちらは20億人の新たな商圏だ。グループ各社が連携して取り組んでいく」
 数年内にベトナム・ホーチミンに出店することも視野に入れている。
 「(他の日系百貨店とは異なり)小さなシンガポール国内で多店舗展開しても仕方がないと当社は考えている。むしろノウハウを集積したこの旗艦店を軸に周辺国で布石を打っていく」
 「ホーチミンの次はジャカルタをやりたい。インドネシアはアジアでいま一番元気がよく、将来性があるからだ。同国の富裕層は日本のタカシマヤは知らない。でも隣国シンガポールの『タカ』ならかなり浸透している」

パルコ社長牧山浩三氏に聞く、イオンと提携、協議応じる、森トラストと関係修復。

 発行株の45%を握る森トラスト―イオン連合と激しく対立したパルコ。大株主の要求を受け入れて退任した平野秀一前社長に代わり5月末に就任した牧山浩三社長は、緊急登板を迫られた複雑な心境を吐露しつつ、大株主との話し合いを進める意向を表明。事態の打開に自信をみせた。主なやり取りは以下の通り。
 --急きょ社長に就いた心境は。
 「率直にいえば、株主総会までは複雑な気持ちだった。自分が社長の器なのかと自問自答した。後押ししてくれたのはビジネスを超えた付き合いをしてきたテナントで、パルコを発展させるにはあなたが社長をやったらという声をいただいた。パルコのDNAを下の世代に引き継ぐのが私の役目だ」
 --新経営陣には森トラスト2人、イオン1人の取締役が入った。
 「結果的にバランスがとれた。事業運営を客観的に見て、今まで気づかなかったことも指摘してもらえると期待している。大株主と取締役会の場で議論し、要求を伝え合うことができるので、これまでよりこまめに意思疎通もできる」
 --激しく対立したイオンとの提携協議は進められるのか。
 「今が本当のスタートラインに立ったところで、イオンから改めて提案があるのではないか。これまでのように頭ごなしの要求はしてこないと思っている」
 「すでに本格的な話し合いに向けたキックオフミーティングを開いた。先方からパルコの現状について指摘があったが、こちらからも意見を言わせていただいた」
 「提携をかたくなに拒んでいるわけではない。いろいろな企業とシナジー効果を模索していかないと先細りになる。イオンからもプラスになる提案があれば検討する」
 --森トラストとの付き合い方は。
 「筆頭株主とは良好な関係を築く必要がある。就任後すぐにあいさつにうかがった。相手の意向をきちんと聞き、取締役会などを通じて関係を修復していきたい」
 --買収防衛策を撤廃したことで、イオンがパルコ株を買い増すリスクが高まるのでは。
 「そもそも(買収への)対抗策としてそれほど強い仕組みを整えてはいなかった。資本対策としては大株主と話し合いを進めるほか、経営スピードを速めて企業価値を高めることで理解を得たい」
 --2000年以降に業績が伸び悩んだ理由をどう見ているか。
 「経済がデフレになり消費者は安い商品を求めるようになったが、その流れに対応できなかった。パルコの良さは新しい文化を発信し、ムーブメントを生み出す力だった。今後は時代の流れを読む人材を育て、パルコらしい斬新なテナントをつくり出すことに力を入れたい」
記者の目
資本政策見直し 経営安定に必要
 牧山社長はインタビューで大株主との関係改善を何度も強調した。経営の安定に向け、いたずらに対立関係を続けるのは得策ではないと判断したようだ。ただ、大株主2社とは「一時休戦」状態になったとはいえ、いつ態度を豹変(ひょうへん)されるか分からない大きなリスクを抱えたまま。経営安定には支援企業探しなど資本政策の練り直しが避けられない。
 森トラストとイオンはパルコ経営陣の刷新を実現するため株主総会に向けてパルコ株の共同保有者になっていたが、前社長退任などを受けて6月上旬に共同保有関係を解消した。とはいえ、今後も協調路線を続けるのか、はたまた単独で動くのか、態度を明確にしてはいない。牧山社長は大株主2社の一挙一動を読みながらという厳しいかじ取りを船出から迫られている。

日本スターウッド・ホテル、ペール社長に聞く、「安全訴え外国人客呼び戻し」。

早期の回復、原発収束カギ
 東日本大震災を機に訪日する外国人が激減した。ただ、都市部を中心にウェスティンなどのブランドでホテルを展開する日本スターウッド・ホテルのロタ・リチャード・ペール社長は「福島第1原子力発電所事故に収束の見通しがつけば、回復は早い」との見通しを示す。震災後の状況と今後の対策などを聞いた。
 ――足元の状況は。
 「震災直後の数週間は、東京のホテルの売上高は前年比で8~9割減となったが、日本人の利用が戻り直近では同3~5割程度の落ち込みにとどまっている。セントレジスホテル大阪の稼働率は5月には招待客を除いても8割弱に達した。ただ、外国人客はまだ訪日に大きなとまどいがある」
 「9月までは厳しい状況が続くだろう。外国人客の戻りが鈍く、夏は国内旅行客や料飲部門での取り込みがカギになる。ただ、福島第1原子力発電所の事故の収束の見通しがつけば、10月以降は一気に回復するだろう」 ――震災直後、外資系ホテルが撤退するのではという臆測も流れた。
 「撤退はしない。当社は震災直後に米国本社の社長が来日して状況把握に努めた。本社の社長が来日したのは外資系ホテルで最初だったのではないか。今後もグローバルセールスの担当者などが来日する。それだけ日本は重要なマーケットだ」
 「日本は文化も歴史もある魅力的な国。それなのに訪日外国人の数が香港やシンガポールに比べるとずっと少ない。もっと外国人の呼び込みに力を入れるべきだ。そうすればホテルなど各分野にベネフィットが広がる」 ――外国人を日本に呼び戻すための対策は。
 「日本の安全性を訴えていくことだ。4月から当社のホテルの総支配人に北京やシンガポールなどアジアの旅行会社などを回らせ、航空会社と組み、海外の旅行会社などを招いた『ファムトリップ』も積極的に行っている。6月上旬までの6週間で約200社を招いた」
 「日本を含む複数の国の社員が集まる会議はできるだけ日本で開いている。先日も3人ほどシンガポールから来日してもらった。被災地以外では通常の生活に戻っていることを体験してもらい、日本の安全性を広めてもらう。そうすれば海外で『日本には渡航すべきでない』という情報が流れてもすぐに対応できる」
 ――外国人比率の高い外資系ホテルが置かれた状況は日系より厳しいとの見方がある。
 「必ずしもそうとはいえない。我々は世界各地に1000以上のホテルがあり、5月には丸1日、世界中の6000人を超える営業担当者が日本に特化した営業活動を行った。世界規模の企業だからこそできることだ」
 「3年以内に5カ所、少なくとも3カ所には出店したい。まだ沖縄に進出していないし、日本にはないWホテルのほか、東京にもセントレジスを出したいと考えている」
 日本スターウッド・ホテル 100カ国・地域でシェラトンやウェスティンなどのブランドのホテル1000カ所超を展開する米スターウッド・ホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイドの日本法人。ウェスティンホテル東京(東京・目黒)やセントレジスホテル大阪(大阪市)など15ホテルを展開している。
 ペール社長はスターウッドグループの日本・韓国・グアム地区統括社長も兼任。日本では2000年にシェラトンホテル札幌(札幌市)の総支配人に就任し、ウェスティン都ホテル京都(京都市)や、ウェスティンホテル東京の総支配人を経て05年11月から現職。
記者の目
長期的な施策で
外国人呼び込み
 訪日外国人数は5月に35万8000人と前年同月比50・4%減少したものの4月の同62・5%減からは改善した。都内のホテルで大型の団体客が入り始めるなど復調の兆しもある。外資系ホテルの幹部は「外国人客の落ち込みは一時的。長期的には日本は有望なマーケット」と口をそろえる。
 フォーシーズンズ・ホテルズが京都に、ザ・リッツ・カールトン・ホテルが京都と沖縄への進出を決めるなど外資系ホテルの進出も続く。震災後急減した外国人を呼び戻す対策だけでなく、長期的な視野で日本に外国人を呼び込む施策が求められている。

2011年6月23日木曜日

日本市場「なお有望」、ランスタッド日本法人新CEOに聞く、経営統合で本格展開。

特有のノウハウ取り込む
 人材派遣で世界2位のランスタッドが、日本市場の開拓を本格化する。今年1月に傘下に収めたフジスタッフホールディングス(HD)の2社と日本法人が7月1日付で経営統合し、主力事業を「ランスタッド」ブランドに統一する。日本の人材派遣市場には逆風が吹くなか、どのような戦略で臨むのか。新会社の最高経営責任者(CEO)に就くマルセル・ウィガース氏に聞いた。
 ――経営統合の狙いは。
 「ランスタッドは人材派遣では世界2位で、2006年に日本に進出したが、独特の人事制度や商習慣を持つ日本でこれまで大きく動けなかった。日本での知名度が低いため、事業会社のフジスタッフや製造業派遣のアイライン(宇都宮市)と社名を1つにし、資源を集中投下する」
 「人材派遣、人材紹介、アウトソーシング、再就職支援などを一元的に幅広く手掛けるようにして、ある事業の顧客に別の事業も提案できるようにする。例えばアイラインの製造系のサービスは現在は東日本が中心だが、フジスタッフの営業基盤を活用し、西日本も開拓したい。結果的に、スタッフに提供できる仕事の選択肢の幅も広げられるだろう」
 ――事業別の展開は。
 「特定の事業に注力するというよりは、顧客のニーズに応じて対応していく。今後製造請負や、事務センターの受託などのアウトソーシング(外部委託)の需要は高まるとみている。人材紹介も、専門職のニーズは高まるだろう」
 ――日本の人材サービス市場には、規制強化の動きや東日本大震災など逆風が吹く。
 「たしかに東日本大震災という大災害が起き、当社も北関東が本拠地のアイラインの顧客が大きな影響を受けた。とはいえ当社は事業展開を短期的には考えておらず、中長期的にみて日本のマーケットは強いと確信している」
 「まず日本の派遣市場は世界2位と市場そのものが大きい。第2には人材サービスの質やプロ意識の高さがあり、日本特有のノウハウなどは世界のグループ企業に輸出できる。最後に人材サービス業界が細分化されており、最大手の企業群もシェアは小さい。これは当社にとっても開拓のチャンスが大きいことを意味する」
 「日本の労働力人口は今後減少していき、専門職を含めて人材不足になることが見込まれる。またリーマン・ショックや東日本大震災が企業に体制の見直しを迫っており、日本も労働市場に柔軟性をもたせる必要があることが明白になっている。人材サービスの重要性はより高まっていくだろう」
 マルセル・ウィガース氏 82年(昭57年)オランダ・アムステルダム大学卒。ランスタッドのオランダやイタリアの営業担当などを経て、06年ランスタッド日本法人社長。11年7月に新会社のCEO就任予定。アムステルダム出身。50歳。
【表】ランスタッド・ホールディングの概要   
本  社   オランダ
設  立   1960年
従業員数   2万5680人
事業展開   欧州、北米、オーストラリア、インド、中国など世界43カ国に4300拠点で人材派遣をはじめとした総合的な人材サービス事業を展開
日本での展開   2006年日本法人設立。08年フジスタッフホールディングス(HD)に10%出資。10年8月TOB(株式公開買い付け)での完全子会社化を発表。11年1月、フジスタッフHDのフジスタッフやアイラインなどのグループ会社を傘下に

供給量確保、商戦熱く――キリン、松沢社長(ビール復興の夏トップに聞く)

のどごし・淡麗好調 主力品集中へ
 ――ビール系飲料の販売状況をどうみる。
 「震災で一時出荷が滞るなど業界全体に影響があったが、落ち着いてきた。店頭をみると悲観するような動きではない。家庭用は堅調で、あとは業務用の立ち直りが課題だ。節電に伴うサマータイム制など、人の生活・行動が大きく変化する。暑いときを快適に過ごせるような提案をしたい」
 「主力ブランドの『のどごし〈生〉』『淡麗グリーンラベル』が非常に好調で、消費者に定番回帰の傾向もありそうだ。新商品では発売直後に震災が起きて販売を休止した『濃い味・糖質ゼロ』などを6月下旬から売り出す。ただ、マーケティング費用も定番品への集中度を上げる方針でやっている。震災が起き。この方向にさらに進んだ。もちろん新たなカテゴリーを創出できるような新商品には力を入れる」
 ――夏の生産体制は。
 「仙台工場以外の増産で対応する。東京電力管内以外の工場も、15%程度の節電をしながら安定供給できるようにする。日曜日の製造のほか、商品製造以外の作業はすべて深夜から早朝にまわすとか、当然、空調・照明の削減は徹底する」
 「震災で休売していた『ストロングセブン』と『円熟』を販売終了とすることにした。これは仙台工場が稼働していない中で商品の種類を絞ることで、主力品を安定供給することがメーカーの責務と考えたからだ」
 ――横浜工場に大型の自家発電設備がある。さらに設備増強の計画は。
 「ほとんどの工場はバイオガスを使った発電装置をもつ。中長期にわたるかもしれない節電要請にどう対応するか。自家発電の増強や省エネ設備の導入をさらに考えていく必要がある」
 ――「一番搾り」などキリンブランドを海外で展開する業務が今年、持ち株会社からキリンビール社に移った。
 「現地工場で委託生産している欧州と米国は非常に好調だ。ロシアは一番搾りの委託先を(大消費地に近い)モスクワ郊外に移した。材料も麦100%に切り替え、販売を強化する。アジア各国への輸出も加速したい。世界での事業展開は国内の人口減への対応だけでなく、外国で働ける人材のトレーニングの場を増やす意味でも重要だ」

供給量確保、商戦熱く――アサヒ、小路次期社長(ビール復興の夏トップに聞く)

 ビール業界で激しくシェアを争うアサヒビールとキリンビール。アサヒは福島県本宮市、キリンは仙台市内の工場が被災して、ともに秋までは稼働できない。だが両社のトップは電力業界の節電要請に応じながら、他工場の増産によって夏商戦には十分な商品量を確保できると強調した。
ドライにこだわり 鮮度・温度次は感度
 ――震災は今年のビール市場にどう影響する。
 「年間では昨年とあまり変わらず、市場規模は前年比2~2・5%マイナスで落ち着くのではないか。当社調査でも原発事故などで消費者の安心・安全への意識は従来以上に高く、定番回帰につながるだろう。(5月に割安な第三のビールの出荷が急伸したが)ロングセラーの通常のビールの支持はむしろ高まり、第三のビールが急増する年にはならないとみる」
 ――西宮工場の閉鎖を来夏に延ばし、福島の再稼働は秋に延期した。今夏の生産計画に変化は。
 「消費動向は読み切れないが、最盛期に前年比1割増の供給体制を組むのは変わらない。関西でも電力不足の問題が出てきたが、夜間や休日に生産や作業をシフトするなどで対応する。外壁が壊れている福島工場は焦らず安全を担保して復旧に取り組む。放射能検査機も入れ、水など材料も調べているが問題はない」
 ――新アサヒビールの経営方針は。
 「トリプルSに重点を置く。Sの意味はまずは『創造』そして『新価値提案』。国内のものづくりと販売を担う当社は、消費者の潜在ニーズを具体化する商品を生み出す創造が最大の使命。時代とともに変わる消費者の価値基準にあった提案が大切だ。さらに商品を通じて『信頼・親近感をもてる経営』を目指す」
 ――業界はビール類以外の強化を急いでいる。
 「もちろんウイスキーや焼酎などにも力を注ぐが、まずはビール類にこだわりたい。当社のシェアが37%といっても、かつてキリンビールは60%を超えていた。過度なシェア競争をするつもりはない。新市場をつくり出し、開拓できる」
 ――スーパードライの伸びをどう持続する。
 「発売25年目だが顧客満足をさらに追求する。『鮮度』に加え昨年は氷点下に冷やして飲む『温度』の提案で販売を伸ばした。今月銀座に開いた『エクストラコールドBAR』は2年目も好調だ。次は『感度』がキーワード。価値観が変化する消費者の五感に的確に訴えてブランドを高めたい」

ビール復興の夏トップに聞く(上)アサヒ小路次期社長、キリン松沢社長。

アサヒ 小路次期社長 「定番回帰で好機」
キリン 松沢社長 「商品、より厳選」
 工場停止や缶の資材不足など東日本大震災で多方面に影響を受けたビール業界。3カ月が過ぎ、年間最大の夏商戦に突入した。少子高齢化によるビール系飲料の市場縮小に加え、消費の冷え込み懸念や工場への節電要請など、新たな課題をどう乗り越えるのか。持ち株会社傘下でビール・酒類を担う事業会社4社のトップに戦略を聞いた。
 ビール系飲料で昨年国内シェアトップのアサヒビール。今年7月の持ち株会社移行に伴い事業会社、新アサヒビールの社長に小路明善常務が昇格する。「消費者の好みはロングセラー商品や定番品に回帰している。スーパードライをさらに伸ばすチャンスだ」。小路氏は業界トップブランドで同社のビール系飲料販売の7割を占める「スーパードライ」の拡販に注力する考えを示した。
 アサヒに比べ酒類の品ぞろえが多様なキリンビールは、震災で販売を休止・延期していた第三のビール「濃い味〈糖質ゼロ〉」やチューハイ「氷結」の新商品を6月下旬に投入、攻勢に出る。ただ松沢幸一社長は「販売数量稼ぎの新商品を次々と出すのはやめる」と述べ、一段と厳選して需要を創出できる分野に絞り込む考えを強調した。

韓国通信最大手・KT会長に聞く、クラウドで海外展開急ぐ、新興国の同業買収も視野。

 韓国通信最大手KTが事業構造の転換を急いでいる。携帯電話子会社との合併から2年。次の戦略分野として、インターネット経由でソフトや情報システムを提供するクラウドコンピューティングや海外事業を本格展開する意向だ。将来の人口減が懸念される韓国は先進国と同様に通信市場が伸び悩む。生き残りに向けた次の手を李錫采(イ・ソクチェ)会長に聞いた。
 ――2015年のグループ売上高を10年比6割増の40兆ウォン(約3兆円)に引き上げる中期計画の具体策は。
 「固定電話を中心に通信市場が衰退する速度と新たに伸ばす事業の成長速度が競い合うことになる。国内通信事業以外の売上高比率を10年の27%から15年には45%まで引き上げる。既にクレジットカードやレンタカーなど相乗効果が望める企業の買収を決めた」
 「海外通信会社の買収は価格が高くなっており、難しい面もあるが、新興国市場ではチャンスがある。日本企業を含め他社と連携しての進出もあり得る。クラウドコンピューティング事業を本格化する準備を急いでおり、海外展開にも乗り出す」
 ――日本企業向けデータセンター事業の合弁会社をソフトバンクと設立する。
 「東日本大震災を受けどんな役に立てるかをソフトバンクに相談したところ、日本の電力不足が深刻化するのでデータセンターでの協力が望ましいとの話があった。韓国南部で企業のデータをバックアップするサービスを提供することで孫正義社長と合意した」
 「韓日間には海底ケーブルがあり日本国内とサービス環境は変わらない。営業活動はソフトバンク側が担当するが、200社程度が関心を持っていると聞く
 ――出資を受けるNTTドコモとの関係にヒビが入らないか。
 「NTTドコモは外国人の最大株主で関係は非常に密接だ。だが(提携先と競合するから)ある企業と一切取引をしないのは時代錯誤。分野ごとに協力し、互いの役に立たなければならない」
 ――米アップルの「iPhone(アイフォーン)」をKTが韓国で販売することでサムスン電子と確執があったと指摘されている。
 「(サムスンとは)関係が難しかったことがあるが、一方で協力する部分もあった。今はサムスンのスマートフォンも販売している」
 KT 国有だった旧韓国通信が2002年に完全民営化。09年に携帯電話子会社KTFと合併。グループ各社を含む10年の売上高は約25兆ウォン(約1兆9000億円)で、うち海外事業は1兆ウォン程度。筆頭株主は国民年金公団(昨年末時点の出資比率は8・26%)。NTTドコモは5・46%を出資する第2位株主。李錫采会長は情報通信相や青瓦台経済首席秘書官を歴任、09年から現職。今月7日には米電気電子学会(IEEE)の「産業リーダー賞」を受賞した。

カシオ、樫尾和雄社長に聞く、デジカメ・ネット融合で再成長へ。

画像動画化有料で展開 世界会員200万人目標
 カシオ計算機がデジタルカメラ事業の立て直しに向けてインターネットサービスとの連携を模索する。近く、デジカメ画像を動画に変換する新ネットサービスを開始。月額課金に乗り出して新たな収益源に育てる考えだ。樫尾和雄社長に成長への回帰策を聞いた。
 ――デジカメ事業は2011年3月期まで3期連続で営業赤字が続いている。
 「カシオが展開するコンパクトデジカメは特に価格下落が激しい。製品数の絞り込みと経費削減を進めて黒字化を目指す。具体的には、デジカメ事業は500億円程度の売り上げ規模で採算がとれる体制を整える」
 ――成長戦略は。
 「ハード事業以外のビジネスを拡大する。デジカメ事業で培った画像処理ソフト技術などを使って、利用者が撮影した写真をネット経由で加工するサービスを強化する。これまでのデジカメ事業は『売り切りモデル』だった」
 「今後は、デジカメと連動する月額のネットサービスを始めて、デジカメ利用者らから継続的に収益を得られる事業モデルを構築する」
 ――具体策は。
 「カシオが展開するネット経由のデジカメ画像の加工サービス『イメージング スクエア』を使って、デジカメ画像を簡単に動画にできる新サービスを近く始める。デジカメ画像から被写体をくりぬき、音楽などに合わせて動く画像を簡単に作成できる。月額サービス料金は、数百円程度になる見通しだ。来年3月までに世界200万人の有料会員獲得を目指す」
 ――ネット領域はベンチャーなどの参入がある。勝算はあるのか。
 「新たな動画サービスは、電子楽器やデジカメ事業などカシオの技術を基に開発する。新サービス開始で文章を使ったコミュニケーションに動画や音楽などが加わると思っている。電子メールを変える可能性もあるだろう。ネット事業に賭けている」
 ――デジカメとの相乗効果はどのように見込むのか。
 「デジカメ製品でも巻き返したい。従来の発想にとらわれない、無線通信でネットにつながるデジカメを開発中だ。今後は、あらゆる機器がネットにつながる。カシオはデジカメで先行する。カシオが得意とする腕時計とネットをつなぐ構想もある」
 ――業績への寄与は。
 「業績が低迷していた携帯電話端末事業と中小型液晶事業は、他社との資本提携などで連結対象から外した。残りの課題がデジカメだ。同事業ではまず売り上げ規模500億円で営業赤字を消す体質を早期に構築する。同時に、ネット事業で売り上げの拡大を狙う。『ハード』と『ネット』が連動する事業を1つの形として残したい。そこまでは、どうしても自分でやるつもりだ」
記者の目
82歳の創業者
新モデルに挑む
 電卓、電子時計、デジカメなど1957年の設立から「ゼロからイチを生み出してきた」(樫尾和雄社長)カシオ計算機。しかし、今回本腰を入れるネット事業は、ものづくりにたける同社が初めて手掛ける“触れない”商品となる。
 電機業界ではソニーなどもハードとネットを組み合わせた新モデルの構築を目指すが、解が見いだせないまま。同分野で成功したのは米アップルなど一握りの有力企業に限られており、「ハードとネットの連携」は容易でない。
 だが、カシオがハードからネットへという「時代の流れを背景とした新事業を立ち上げる必要がある」(同)のは間違いない。
 新事業の母体となるネットサービス「イメージング スクエア」の会員数は現在30万人程度にとどまる。82歳の創業者が掲げる目標は高い。

変われるか出光 エネ・食糧・環境に重点投資――中野社長に聞く(終)

新興国や異業種、M&Aも視野
 「石油の世紀」に興隆した出光興産は次の100年で何を守り、どう変わろうとしているのか。中野和久社長はグローバル競争に「環境、技術で挑戦する」と強調。海外展開のなかでは「提携、合併もある」と語る。
 ――創業から100年をどう振り返る。
 「戦前、大陸に渡った出光は戦争ですべてを失った。帰還後、石油に着目し今日がある。石油業はあくまで1つの手段だ。大事なのは事業を通じての人間の育成であり、この本質はこれからも全く変わらない。時代背景で色々な組織論が出てくるが、私は入社して40年間一貫して人を大事にしろと言われてきたし、私もそう言っている」
 「日本も10年ごとに変わってきた。今は産業構造が変わり石油を大量に使う経済発展が問われている。護送船団のような石油産業、国内に縛られた成長はあり得ない。昨年策定の中期計画はエネルギーの確保と、環境対応の技術で素材産業として生き残ることに焦点を置いた」
 ――重点投資分野は。
 「エネルギー、食糧、環境の3分野に投資する。エネルギーと石油化学の延長で省エネなどが有望。有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)はその1つだ。100年間に蓄積した技術、経験、ノウハウを生かせる分野から少しずつ変える。(畜産やバイオ、農薬など食糧関連を拡大中だが)かつては“飛び地”のレストラン、植物工場で失敗した」
 ――国内石油事業は縮小傾向。国内の雇用や海外事業をどうする。
 「海外という言葉を使っているうちはダメだ。出光が社会に貢献するのは日本でも中国でもシンガポールでもいい。ただ、雇用維持は考える。ベトナムの製油所では200人の技術者が必要だ。国内では一つの製油所で約300人が働く。できるだけ60歳を過ぎても働き、技術承継をしてもらい、その間に若い人を育てる。一部は海外で働いてもらう」
 ――グローバル化で「店主」の理念はどうなる。
 「理念の基本は変わらないが、常に表現法は変わる。社員に責任と裁量を与える『独立自治』も50年前とは求めることが違う。昔は店主の言葉をそのまま口にすれば良かった時代があった。今は、かみ砕かなければ若い社員に伝わらない。天坊昭彦社長(現会長)になり別の表現をしたり、今の世の中ではこういう意味だと説明したりしてきた。それを出光らしくないという人もいるが」
 ――上場から5年経過した効果は。
 「上場は第一に資金調達手段の多様化をめざした。だが経営の透明性、効率性の面でも利点はあり、社員も『外向き』になった。心配した企業理念の維持もできている。ただマニュアル化の影響で、規定ばかり気にして自ら考えない社員が増えている。これは上から言い続けるしかない」
 ――石油業界で唯一再編を経験していない。これも出光流か。
 「当社の“辞書”に無かった。これからの辞書にはある。国際化を進め事業を大きくし社会に貢献するため、提携、M&A(合併・買収)はありうる。需要が縮む国内で同業が一緒になっても意味がない。対象は石油事業が伸びる新興国や、異業種だ。事業を切り離しての合併、アグリバイオ事業の上場もありうる」
(おわり)
 この企画は加藤貴行が担当しました。
【表】   出光興産の歴史      
   1911年   門司で出光商会(現出光興産)創業   
   45年   終戦に伴い海外店閉鎖、社員約800人引き揚げ   
   49年   石油元売りに指名   
   53年   イラン原油を輸入(日章丸事件)   
   57年   出光初の徳山製油所完成(75年までに千葉、兵庫、沖縄、北海道、愛知の各製油所も完成)   
   63年   資本金10億円に。石油連盟脱退(66年に復帰)   
   64年   出光石油化学設立   
   88年   豪州で炭鉱権益取得、自社権益石炭の輸入開始   
   92年   ノルウェー領北海で油田生産開始   
   2000年   上場準備本格化。資本金356億円に増資   
   03年   兵庫、沖縄の両製油所閉鎖   
   04年   三井化学とポリオレフィン事業統合。出光石化を合併   
   06年   三菱商事と液化石油ガス事業統合。東証1部上場   
   10年   三井化学と千葉地区エチレン事業統合   
   14年〓(予)   ベトナムで製油所が操業開始   

2011年6月22日水曜日

市進HD社長下屋俊裕氏

学研HDとの提携どう生かす 映像教材など相互補完
 少子化の逆風が強まるなか、学習塾では生徒獲得競争が激しさを増している。市進ホールディングス(HD)は昨年9月に学研HDとの提携交渉を開始。両社のノウハウを活用し、縮小市場での成長戦略を模索し始めている。今年5月に就任した市進HDの下屋俊裕社長に今後の経営方針などを聞いた。
 ――東日本大震災の影響は。
 「震災前までは新規入校の申し込み状況が昨年より好調だった。3~4月に獲得できるはずだった生徒を取り込みきれてはいないが、少しずつ回復基調に向かってきている。5月の生徒募集は前年に近いくらいの水準に追いついてきた」
 ――夏季講習の申し込み状況は。
 「小学校低学年は動きが鈍いようだ。今でも原子力発電所などの問題が続いていて不安はぬぐいきれない。急な停電があれば電車が止まる可能性もある。そういったリスクを考えると、子供をなるべく外に出したくないと思う保護者もいるだろう。保護者の実家に帰省した先で、夏季講習に通うという子供も出てくるのではないか」
 ――学研HDとの提携の進捗状況は。
 「学研HD傘下の学習塾『学研CAIスクール』の一部校舎で市進の映像教材を導入し始めた。これまでCAIスクールには高校生向けの教材がなかった。逆に市進では学研の科学教室の展開を進めている。学研は高校生、市進は小学校低学年の取り込み強化につなげたい」
 「学研には(休刊した学習雑誌の)『科学』をはじめ良い教材がたくさんある。教材の掘り起こしを進めて映像解説を付けるなどの取り組みも考えたい。実際の科学教室の様子も映像教材にして、個別指導などでの利用も検討したい」
 ――映像教材の開発に力を入れている。
 「個別指導でも先生に分からない所を聞くのをためらう生徒は意外と多い。映像教材であれば繰り返し見ることができ、自分のペースで学習しやすい利点がある。最近の生徒はゲーム世代なので映像教材への抵抗感も小さい。様々なレベルに応じた映像教材を用意することで、取り込める生徒の幅も広がる。上手に活用して個別指導を徹底したい」
 ――夏季講習の節電対策については。
 「例年よりも授業の運営が難しくなるだろう。しかし生徒にとって夏休み中の勉強は秋以降の生活が大きく変わるきっかけにもなる。例えば高校生は予備校や学習塾での夏季講習と自宅学習なども含めると、夏に400時間勉強するといわれている。生徒の自信につなげるためにも安定して授業を受けられるような体制を整えたい」
 ――「サマータイム」を導入する企業が相次いでいるが、教育面で影響はあるか。
 「2学期に向けた説明会を週末ではなく平日に開くことも可能になる。保護者が平日の夜に塾に来てくれる機会が増えれば個別の進路相談を持ちかけやすくなるかもしれない。家庭で親子が話し合う機会が増えると、子供の語彙力が増えるので教育にもプラスになると思う」
記者の目
未就学児からの一貫体制急ぐ
 学習塾や予備校では縮小市場での生き残りをかけて、業界再編が活発だ。予備校大手が中学受験専門塾を買収するなど、各社は生徒の年齢層を広げ一貫した指導体制の構築を急ぐ。市進HDは主力の学習塾「市進学院」で小学校3年から対応しているが、学研HDと組むことで未就学児の取り込み強化を目指す。
 最近は学童保育や保育所の運営に参入する学習塾も目立つ。下屋社長は「長く市進グループに通ってもらうきっかけになる」と興味は示すが、子供を長時間預かる必要があるだけに「リスクも大きい」と慎重だ。中学受験競争も落ち着きつつあるなか、低年齢から塾に通う利点をどうアピールできるかが今後の成長のカギを握る。
 しもや・としひろ1977年順天堂大院卒、市川進学教室(現市進ホールディングス)入社。2010年市進ウイングネット社長に就任。11年5月から現職。鹿児島県出身。58歳。

日本製紙グループ本社社長芳賀義雄氏

海外市場の開拓目標は?
世界で売上高5位以内に
 日本製紙グループ本社は東日本大震災で主力の石巻工場(宮城県石巻市)が被災した。2011年3月期は災害関連の特別損失が627億円に膨らみ、241億円の最終赤字を計上した。生産体制の再構築や海外戦略について、芳賀義雄社長に聞いた。
 ――震災で影響を受けた国内生産の立て直しが課題です。
 「印刷用紙の需要が金融危機前の8割程度にとどまっていたところに、震災が起きた。震災前から需要環境に見合った生産体制づくりに取り組んできたが、石巻工場の被災状況も考慮したうえで、国内生産能力の縮小を前倒しで進める」
 「石巻工場も需要が安定している品目で、収益が見込める生産機械から順次運転していく」
 ――生産能力の縮小にあたり、工場・設備を選別する条件は何ですか。
 「各拠点のコスト競争力が基準になる。生産能力の低い設備や工場を止め、能力の高い設備に稼働を集中させることで、収益率を高めていく」
 ――輸出回復はどの程度、見込んでいますか。
 「石巻工場では輸出向けに月2万トンを生産していたが、現在は稼働が止まっている。海外市場で競争力のある製品については輸出を続けるが、設備余力があるからというだけで輸出することは考えていない」
 ――12年3月期を最終年度とする中期経営計画は達成が難しそうです。
 「今期で550億円の経常利益目標を掲げていたが、震災が起こってしまった。8月3日に予定している11年4~6月期の決算発表時に、中期復興計画と今期の業績予想を開示する方向だ」
 ――海外市場をどう開拓しますか。
 「16年3月期までに海外売上高比率を30%に高め、世界で売上高5位以内に入ることが目標だ。国内需要が厳しい分、アジア・オセアニアでの成長をめざしたい」
 「豪州では、紙全般で十分な成長が望める。中国は印刷用紙メーカーが大規模な投資をしている。このため、印刷用紙より段ボール原紙などの板紙が将来的に伸びるとみている」
 ――前期末時点で1000億円強の手元資金を抱えています。資金需要は高まるのでしょうか。
 「手元資金を積み上げたのは、震災後の金融市場の状況を想定できなかったからだ。震災対応以外の投資を予定しているわけではない。前期に計上した特別損失の範囲で国内の生産立て直しは可能だと考えている。今期は災害関連の特別損失が大幅に減る」
 「借り入れが増えたため、純有利子負債が自己資本の何倍かを示すデット・エクイティ・レシオは1・8倍となり、前の期の1・6倍から上昇した。海外投資はタイミングの問題もあるが、財務改善と成長投資を同時に進める。中期計画の目標である1・5倍を意識していきたい」
先読み・裏読み
手元資金活用を
 株価は6月9日に上場来安値を更新した後、反発に転じ、21日も5%上昇した。大和証券キャピタル・マーケッツの安藤祐介シニアアナリストは「市況回復や生産体制の再編期待が背景にある」と分析する。
 日本紙は国内の印刷・情報用紙でシェア首位だが、石巻工場の稼働停止で1割強の生産能力がそがれた。現在は競合他社がシェアを伸ばしている。震災をバネに生産効率をどう高めるか。潤沢な手元資金をどう生かすか。業績と株価はこの2点に左右される。

関西ペイント社長に聞く、南ア塗料買収、現地首位、建築用、安定収益源に。

 関西ペイントは4月、南アフリカ共和国の塗料大手フリーワールド・コーティングスを買収した。発行済み株式の90・3%に投じた資金は250億円以上。買収の背景を河盛裕三社長に聞いた。
 ――買収の目的は。
 「自動車用塗料は需要変動が激しい。安定収益が見込める建築用塗料を収益源にする目的でフリーワールド社を買った。南アで同社の建築用塗料『プラスコン』のシェアは約3割とトップだ」
 ――業績への影響は。
 「2011年度は売上高で約270億円、営業利益で約18億円の押し上げになる。通期で寄与する来年度以降はそれぞれ約370億円、約23億円に膨らむ計算だ」
 ――アフリカの塗料市場の見通しと、今後の海外展開の方針は。
 「サハラ以南のナミビアやボツワナなどはどこも建築用塗料が年率10%以上のペースで伸びている。7月からはグループ全体のグローバル戦略を立案する委員会を開く。社長を含む常務以上の役員が出席する。将来は中近東やアフリカなど各地域の事業展開を担う責任者に参加してもらう」

海外調達・生産を拡充、三菱鉛筆・数原社長に聞く――物流確保、リスク分散も。

 東日本大震災では日用品や食品だけでなく、文具業界も大きな影響を受けた。震災後は生産面で原材料不足などが懸念されたほか、販売面では進学・進級を控えたかき入れ時に前年割れを強いられた。2010年12月期に最高益を上げたが、今後の業績をどうみるか、三菱鉛筆の数原英一郎社長に震災後の状況や今後の戦略を聞いた。
 ――販売動向は。
 「震災直後の3月は計画停電による文具店の営業時間の短縮などで、首都圏を中心に大幅に落ち込んだ。(我慢すれば使い続けられる)筆記具を買うという状況ではなかった。新学期シーズンの3月は最も国内需要の大きい月だけに、痛手も大きかった」
 「4~5月はほぼ前年並みの水準まで持ち直した。1~2月は当初予想を上回っていた。東北は国内需要の5%程度で、1年という期間で見ればそれほど大きな落ち込みにはならないだろう。しかし、消費の自粛といった『二次的』な部分での影響は避けられない。マクロ面での消費意識の変化を懸念している」
 ――生産面の影響は。
 「当社の工場などに直接の被害はなかった。ただ、各地の石油化学コンビナートが被害を受けたことで、原材料のプラスチックや溶剤などを予定通り仕入れられるかどうかが懸念された。だが、海外を含めて調達先を増やし、原材料を変更する際の品質確認のテストを短縮するなどして、意外に早く原材料の在庫を確保できた。6~7月に原材料が欠けると心配していたが、供給はつながりそうだ。業界全体でもなんとかなると思う」
 「今回の震災で原材料調達の重要性を再認識した。リスク分散の観点からも現在約20%の海外調達率を増やしたい。だが当然、日本と同じレベルの品質基準をパスする必要がある。品質や為替といった多様な要素を勘案しながら進めたい」
 ――海外生産比率も引き上げる方向か。
 「現在20%程度だが、今後2~3年で3割を目指したい。ただ増やすことが目的でなく、そういうことができる体質を整えていくことが重要だ。単に生産能力の増強にとどまらず、品質、物流、広い意味でのサービスなどをきちんと担保し、ブランド価値を高めたい」
 ――前期は最高益だったが、今後の見通しは。
 「(リーマン・ショックによる落ち込みの反動で)前期まで出荷が多かったことから、今期の経常利益は前期比10%減と比較的コンサバティブな見通しを立てている。数値的な目標も重要だが、あくまでプロセスの結果なので一喜一憂せずにやっていきたい」
 「商品面では(滑らかさで好業績をけん引してきた)高機能ボールペン『ジェットストリーム』に続く大型商品も考えている。期待してほしい」
記者の目
「日本ブランド」
商品・人で維持
 「日本が抱えている問題は『日本ブランド』崩壊の危機だ」――。震災後に顕在化した課題に数原英一郎社長は危機感をにじませた。福島第1原子力発電所の事故や、アジア製品の品質向上などで、日本製への評価が揺らいでいるという。
 それだけに、現在約45%の海外売上高比率の引き上げを目指す同社にとっては高付加価値品の積極展開が不可欠。成長著しいアジアで活躍できる日本人社員の育成、優秀な外国人社員の幹部への登用も重要だ。さらに国内でも「ジェットストリーム」に続くヒット商品が求められる。

2011年6月21日火曜日

ソフトバンクホークス笠井社長に聞く、球団、09年から実質黒字、安定した収益確保。

強いチーム作りが鍵
 全日程を終了したプロ野球の「日本生命セ・パ交流戦」でセ・リーグの全6球団に勝ち越し、2年ぶり3度目の優勝を決めた福岡ソフトバンクホークス。球界参入から7年目を迎え、観客動員は順調に推移し、経営は軌道に乗りつつある。今後も安定した球団運営は続くか、そのために何が必要か。笠井和彦・オーナー代行兼社長に聞いた。
 ――東日本大震災の影響で開幕日が4月12日に遅れた。客離れはないか。
 「本拠地が福岡ということもあって観客動員に影響はない。むしろチームが好調なので客足は伸び、経営は順調だ。今季1試合当たりの平均観客動員数は昨季と比較して10%程度増加している」
 「4月に福岡県に避難する被災者を300~400人、本拠地ヤフードームに招いた。8月にも佐賀県や長崎県にいる被災者を招待するため九州旅客鉄道(JR九州)や西日本鉄道と相談している。ベテランの小久保(裕紀)らが中心の募金活動など球団で、できることを常に考えている」
 ――ソフトバンクは2005年シーズンから球団運営に参画した。収益はどう推移している。
 「収入は入場料のほか物品販売などがあるが、大きいものの1つにソフトバンクグループの主力事業である携帯電話事業などへの貢献による収入がある。携帯電話の契約数のシェアは着実に伸びており、グループに与えるホークスの効果を金額換算、これをホークスの業績に反映させている」
 「この計算によると、球団の営業損益は09年に黒字転換した。昨年は約28億円と過去最高の営業黒字を達成した。クライマックスシリーズ進出で利益が大きく伸びた形だ。強くて人気のあるチームづくりが結局は安定した球団運営となる」
 「約3万7000人収容するヤフードームの全試合を満員にするにはどうすればいいか。安定した球団運営の鍵はこの1点に尽きる。全試合でイベントを打つなど今も手抜かりはないが、球団社員による横断的なチームを立ち上げ、来季に向けた施策もまとめつつある」
 「すでにヤフードームの収容客数を4万1000~4万2000人にまで増やすことも検討している。地元テレビ局を中心とした放映権料収入、ドーム内の看板広告なども好調なため、売上高は当面、300億円(10年実績は247億円)まで引き上げるのが目標だ」
 ――モバイルを活用したチームづくりも浸透する。
 「選手全員に『iPhone(アイフォーン)』と『iPad(アイパッド)』を支給。選手やスタッフ向けの球団専用アプリを設け、相手球団、個々の選手の投球・打撃フォームといった様々なデータを提供している。球団関連の施設にはすべて無線LAN(構内情報通信網)環境を整えている。今季、横浜ベイスターズから移籍した内川(聖一)はIT(情報技術)化の進んだホークスに驚いていた」
 ――過去、プロ野球は球団合併など冬の時代を経て、経営の「自立」が求められている。
 「親会社から経済的に自立できるかのポイントは結局、プロ野球がファンに支えられていることを強く認識することだ。このため、チームを強くするための不断の努力が欠かせない。同時に球団関係者の総力を結集してファンが球場に足を運びたい、と思うような施策を打っていく」