2011年7月8日金曜日

奮闘日本ブランド海外戦略を聞く サンジェイ・インターナショナル社長佐藤隆氏

 福島第1原子力発電所の事故処理が長期化し、海外では日本の食品や農水産物の安全性を不安視する「風評」がいまだ絶えない。そうした中、江戸時代創業の老舗しょうゆ・みそ醸造会社のサンジルシ醸造(三重県桑名市)は海外で順調に売り上げを伸ばしている。海外事業を束ねるサンジェイ・インターナショナル(米バージニア州)の佐藤隆社長に話を聞いた。
 原発事故を受けて少なくとも35カ国・地域が日本の農水産物に対する輸入規制を敷き、風評被害も相次いだ。
 「放射能に関する問い合わせは確かに増えている。製品に「米国産」と記載してあるが、原料の産地などを巡る質問が東日本大震災後、月10~15件寄せられる。大豆、水、塩、こうじ菌の4種の原料のうち、日本産はこうじ菌のみで輸入元は愛知県だ。それでも情報開示は大切と考え、自主的に放射線量検査を実施し、希望があれば数値を提供する対策をとってきた」
 「食品会社にとっては、どういう原料を使うかも企業秘密となるが、正しく詳細な情報を開示すれば、お客さんも納得する。客観性に徹するため、第三者機関を積極的に活用することも重要だ。原発事故の影響で納入が止まった例は出ていない。ただ、日本産を輸入している欧州、アジアの業者から、サンプル提供の要望がくるようになった。日本産は不安だからというのが理由で、あまり喜べなかった」
 震災後も海外売上高が伸びている。米国では高級食材店に商品が並び、健康ブームに乗った丸大豆100%の「たまりじょうゆ」は堅調だ。
 「海外売上高は2月が前年同月比で1・6%増だったのに対し、3月は7%増、4、5月は同16%増になった。クッキングソース、ドレッシング、スープなどの関連商品を出しているが、主力の『たまりじょうゆ』の伸びが非常に高く、在庫切れを起こしている状況だ。増産しても製品になるまで半年かかる。需給のミスマッチにどう対応するかが現在の課題だ」
 サンジルシは桑名藩御用商人の回船問屋として1804年に創業。1978年に米国輸出を開始し、現在はバージニア州に生産工場を持つ。
 「最大手のキッコーマンと同じ土俵では戦えないと思い、米国人に対象を絞ったマーケティング戦略でやってきた。広大な米国の土地に散らばる日本人を追いかければロスが大きい。駐在員も数年後には帰任してしまう。ならば一生米国で暮らす米国人に売る方が、時間はかかるが将来性があると考えた」
 「しょうゆで味付けをするいため物やバーベキューなど、家庭料理のメニュー提案を地道に重ねてきた。その結果、米国人の食生活に入り込むことができたのだと思う。原発事故の風評被害に悩まされなかったのも、米国の食卓に浸透していたことが理由かもしれない」
 日本の1人当たりのしょうゆ消費量は年6・8リットル(2010年)。過去30年で3割減った。
 「市場としての日本の将来性は乏しくなってきている。人口構成や食生活の変化の影響で生産量も毎年1~2%ずつ減少してきた。一方、海外市場は米国は5%前後、欧州は2桁で伸び、商品単価も高い。食文化が未発達な土地ほど、抵抗感なく新しい味を取り入れる素地がある。先入観にとらわれることなく、今後も海外マーケットを開拓していきたい」

中国で電力不足深刻――世界平和研究所・主任研究員藤和彦氏

石炭高・送電網整備も遅れ 値上げ困難長期化
 中国で電力不足が深刻化している。現地報道などによると今夏の電力不足が4000万キロワットに達する可能性がある。既に一部の地域で供給制限を開始しており、これまで最悪だった2004年を上回る情勢だ。中国のエネルギー事情に詳しい世界平和研究所の藤和彦・主任研究員に、電力不足の原因や今後の見通しについて話を聞いた。
 ――日本と比べた深刻度合いはどうか。
 「中国の発電電力量は日本の約4倍で、10年に4兆2300億キロワット時となった。石炭火力発電が全体の8割を占めており、水力が16%。原子力発電は全体の2%にも満たない」
 「現在の発電設備容量は9億6200万キロワット。政府は06年以降年9000万キロワットの発電設備の建設を進めているが、経済成長のスピードに追いついていない。日本は今夏に全国で1000万~1500万キロワットが不足すると言われているので、4000万キロワットの不足は日本より深刻という見方もできる」
 ――発電設備の建設スピードをさらに上げる必要があるのでは。
 「実は需要は最大で4億2000万キロワットしかないので、全設備容量に対しピーク時でも約6割の設備が余っている。これが日本とは決定的に違う点だ。原因は大きく分けて2つで、発電用石炭価格の上昇と送電網の整備の遅れだ」
 ――石炭価格が上がっても電力料金を値上げすればいいのでは。
 「電力用の国内炭の価格は06年初頭から今年の3月までに約2倍になったが、産業用の電力価格は2割しか値上げできていない。中国政府がインフレを抑制するために電力料金の大幅な値上げを認めていないからだ」
 「5大国営発電会社は08年以降、5社合計で累計600億元(7500億円)以上の赤字を計上した。そのために設備はあっても稼働率が上がらない状況が続いている」
 ――送電網も脆弱なのか。
 「内陸部で発電した電気を経済成長が著しい沿岸部に運ぶための送電網の投資も遅れている。国営送電会社2社は黒字だが、中国は国土も広く経済成長も想定以上に進んだ。努力しても解決は13年以降となるだろう」
 ――日本企業への影響は。
 「中国国内メディアによれば、今年5月から華中地区を中心に十数省で停電が発生している。供給制限の手法は省ごとに異なるようだが、送電停止の予告が直前になることも多いという。日本など外資系企業の多くは自家発電設備を整備しており、ただちに影響は出ない。だが中国での生産活動のリスク要因の1つになることは間違いない」
 ――今冬以降の状況はどうなるか。
 「冬場にも2800万キロワット程度の電力が不足すると言われている。電気料金の抜本的な値上げが認められれば、石炭火力発電所の稼働率も上がり電力不足は解決に向かうはずだ。だが、政府は何としてもインフレを避けたいと考えている。電力会社に補助金を出すという手段もあるが、そういった議論は聞かない。問題の解決は一筋縄でいかず、電力不足は長期化するだろう」
日本のエネ戦略 LNGなど影響
 福島第1原子力発電所事故を契機に、世界中でエネルギー問題の克服が大きな課題になった。中国では引き続き石炭火力発電が主軸だが、原発や液化天然ガス(LNG)火力など多様な電源の構築が課題だ。日本は原発の新増設が当面難しく、発電電力量の約3割を占めるLNG火力発電の稼働率を高めるのが、考えられる現実的な選択肢と言える。
 中国のガス火力発電は現在1%程度だが、環境意識の高まりもあり全国で建設計画が相次いでいる。隣国がLNG輸入を増やす動きは日本のエネルギー戦略に従来以上に大きな影響を与える。日本は中国の電力事情にも注意を払いながら今後の電力不足に対処する必要がある。

米ディスプレイサーチ田村喜男氏―大型液晶、需要に一服感

 薄型テレビ向けなど大型液晶市場では、需要の一服感が出始めている。中国など新興国を中心とした成長市場の先行きに不透明感が出始めているためだ。価格が低迷するなか世界シェア80%超を握る韓国・台湾勢には設備投資を延伸する動きも出ている。市場の先行きや技術動向を米ディスプレイサーチの田村喜男上級副社長兼シニアアナリストに聞いた。
 ――大型パネルの価格が下落しているが
「ボリュームゾーンの32型の汎用パネルの価格は150ドル以下で推移している。底値の状態で利益を上げることが難しい。2010年は日本でも液晶テレビの出荷が2000数百万台、世界的にも前年比15%増の異例の成長を遂げたが11年はそこまでの成長は見込めない」
 ――韓国、台湾のパネルメーカーは中国での大型パネル工場の稼働を13年に延期する
 「12年は供給過剰となり事業環境が厳しいと判断しているようだ。ただ、中国では地場のパネル、テレビメーカーも育っている。需給は引き締まり13年以降は年率5%程度の成長は継続できる」
 「液晶パネルメーカーにとって11年1~3月期が底だった。首位のサムスン電子でも営業利益率は約10%でようやく黒字を確保できたが、2位のLG電子になると同5%程度ともうけることは非常に難しい状況だった」
 「世界5位のシャープは、円高や国内生産によるコスト高など不利な条件が重なるなかエコポイントの恩恵があった。エコポイントが切れる11年には非常に厳しい戦いが強いられる。こうしたなかで中小型パネルにシフトするのは理にかなった戦略といえる」
 ――パネルサイズの主流はどうなるのか
「現在の主流は30~34インチで全体の約40%を占める。40~44インチは約20%。欧米や日本などの先進国市場では大型化が進むが、同時に中国やインドなど新興国市場で30インチ台のパネル需要が高まるので、今後も主流は30~34インチで変わらないだろう」
 ――パネル技術はさらに進化するか
「3840ドット×2160ドットのいわゆる『4K×2K』の高精細なパネルが普及するだろう。同時に、3D(3次元)など高速表示が必要な周辺機能が増えているため、駆動周波数が現在主流の60ヘルツの倍の120ヘルツや4倍速の240ヘルツのパネルが広がっていく」
 ――中小型パネル市場でで普及が進む有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルは大型では浸透するか
「液晶テレビは2000年ころから登場し、約10年間で既存のCRT(ブラウン管)からの移行が進んだ。分厚いブラウン管から液晶パネルへの移行は消費者にとってもメリットが分かりやすかった。有機ELパネルは自発光物質を使うので動画や3Dなどの高速表示に向く。大型化やコスト面で課題もあるが、消費者に理解されれば浸透するだろう」
「有機ELパネルを使った大型テレビの登場は13年、普及が始まるのは15年くらいだろう。液晶を置き換えるくらいの普及は25年くらいまでかかる」

第3の収益源模索、JSRの新中計、小柴社長に聞く―M&Aにも500億円。

 JSRが2011~13年度の中期経営計画をまとめた。石油化学やファイン(半導体・液晶材料)事業に次ぐ第3の収益源を早期に育成して経営体質を強化する。M&A(合併・買収)にも500億円を用意し、医薬分野などで案件を積極的に発掘する。小柴満信社長との一問一答は次の通り。
 ――中期計画の土台となるテーマは。
 「20年度にありたい姿を想定し、それを達成するための最初の3カ年と位置付けた。13年度までの連結売上高で(10年度比で約3割増の)4500億円、営業利益は(約5割増の)600億円以上を目指す。20年度までに(現在の約2・4倍の)時価総額1兆円を達成したい」
 ――具体策は。
 「第3の収益源の候補として、3つの『戦略事業』がある。過去2年間でも育成してきたが一番先に成果が出そうなのが精密材料・加工だ。スマートフォン(高機能携帯電話)などに使うタッチパネル用の導電膜付きフィルムは、11年度中に韓国での生産量を約3倍に増やす」
 「環境・エネルギーでは蓄電装置などに使うリチウムイオンキャパシタなどが有望だ。メディカル材料は診断薬材料などを伸ばす」
 ――M&Aはどんな分野を目指すのか。
 「設備投資の1300億円とは別枠で500億円程度を用意する。現時点で目ぼしい案件はないが、当社が比較的手薄なメディカル分野などが中心となろう。石化やファイン事業を含めて業界再編には常に関心を持っている。機会があれば積極的に検討したい」
 ――既存の2大事業はどう伸ばすのか。
 「グローバルな競争力を持つ製品は市場の2倍以上のペースで成長を目指す。例えば、石化事業のうち低燃費タイヤ用で世界シェア首位の高機能合成ゴムは13年にタイの合弁工場が稼働する。3カ年の売上高の成長率は年平均で27%を見込む」
 「ファイン事業のうちレジスト(感光性樹脂)など半導体材料は、回路の微細化や素子(チップ)の積層化に対応した高機能品で年平均15%の成長を目指す」
 ――震災で合成ゴムを生産する鹿島工場(茨城県神栖市)が2カ月以上、停止した。
 「原料の供給元である三菱化学の鹿島事業所の被災が大きかった。ただ自動車の窓枠などに使うEPDM(エチレン・プロピレンゴム)は韓国のグループ会社からの代替出荷や在庫の放出でカバーし、必要最低限の量は供給できた。夏場の15%節電も自家発電や作りだめなどで対応し、主要製品の生産にあまり影響はない」
 「今後も成長を続けるためには海外売上高比率は必然的に上がる。10年度は44%だったが13年度は52~53%程度を見込む。20年度には70%くらいになるかもしれない」

2011年7月6日水曜日

TOHOシネマズ社長中川敬氏

入場者数頭打ち集客策は シネコン、20万人都市にも
 国内の映画興行収入は2010年に過去最高を記録した。だが入場料金が通常より高い3次元(3D)映画の超大作がけん引したためで、入場者数は横ばい傾向。ここ10年で急増したシネマコンプレックス(複合映画館)には飽和感が強まり、戦略の見直しが迫られる。新たな料金体系などを試み始めた最大手、TOHOシネマズ(東京・千代田)の中川敬社長に今後の事業展開などを聞いた。
 ――東日本震災の集客への影響は。
 「関東と東北の計25劇場で、一時的に営業を休止したため、両地域の4~5月の興収で約10億円のマイナス要因となった。直営の全58劇場の1~6月の興収は前年同期に比べて17%ダウン。ただし震災の影響はこのうちの7%程度とみている。10年の同時期は『アバター』や『アリス・イン・ワンダーランド』など、興収が100億円を超すヒット作が多く、残る10%減は作品力の違い。レジャーの安近短志向はあっても、基本は作品次第だ」
 ――夏休みの見通しは。
 「ラインアップに期待している。洋画は『ハリーポッター』や『トランスフォーマー』など人気シリーズの最新作、邦画はファンの信用度が高いスタジオジブリの『コクリコ坂から』などで大きな数字が見える。7~8月は年間の興収の4分の1程度を占める稼ぎ時。昨夏は122億円と好調だったが、今夏も同じ程度までいければと考える」
 ――節電策も必要だ。
 「劇場内では冷房の設定温度を例年通りとして快適な環境を維持する。一方、東北・東京電力管内の劇場では約1億円をかけて空調の無駄な稼働を省く温度管理システムを導入した。発光ダイオード(LED)電球の切り替えも完了。看板の消灯やバックヤードの空調制限なども合わせて15%削減を目指す。中部電力管内より西の劇場でも順次導入を進める」
 ――シネコンは飽和状態との指摘もある。
 「これまでシネコンは人口40万~50万人以上の都市への出店が一般的だった。今年4月、試験的に20万人弱の長野県上田市に8スクリーン体制で進出した。すべてデジタル上映で映写担当者を置かず、自動券売機を導入して販売窓口の従業員も減らした。年間の入場者数は延べ30万人を目標とし、運営コストの抑制により収益は上がる見通しだ。人口20万人規模で映画館がない都市は少なくない。出店戦略の1つになる」
 ――「ODS(アザー・デジタル・スタッフ)」と呼ぶ映画以外のコンサートやスポーツイベントなどの上映を増やしている。
 「映画が基本であることは変わらない。ヒット作だけでなく、多様な作品の上映が必要だ。ただTOHOシネマズは計10万席ある。1日5~6回の上映で年間約2億席を販売しているが、平均稼働率は2割にとどまる。閑散期対策として、コンサートの生中継などのODSは有効だ。入場料金も2000~2500円と映画より高い。10年は約50本を上映して売り上げは8億円程度だったが増やしていきたい」
 ――一部劇場で3月から試験的に当日入場料金を300円引き下げた。
 「わかりやすい料金で映画館にライトユーザーの客足を増やすのが目的だ。逆にこれら劇場ではレディースデーや、深夜の割引料金などを取りやめたため、コアな映画ファンは高くなったと感じるかもしれない。夏休みの状況を踏まえ、それぞれの客層の評価を検証するのに年内いっぱいかかる見通しだ。ただ、市場の拡大には重要な試みと考えている」
記者の目
料金下げなど改革の成否注目
 日本映画製作者連盟によると2010年の国内の映画興行収入は09年比7%増の約2207億円だった。「アバター」など通常より入場料金が数百円高い3次元(3D)映画ブームが支えた。平均入場料金も1266円と過去最高で、3D効果が出た格好だ。
 入場者数も約1億7400万人と同3%増えたが、01年以降は頭打ちなのも確か。一方でスクリーン数は01年から3割増え、1スクリーン当たりの客足は減った。「新たなファン開拓とコスト削減が業界の課題」と話す中川社長。硬直した料金体系の見直しなど改革の成否に注目が集まる。
 なかがわ・たかし1975年阪大卒、東宝入社。映像本部宣伝部長などを経て、97年に取締役。2002年常務、06年専務に就任。10年5月から現職。京都府出身。61歳。

みすずコーポレーション社長塚田裕一氏

高野豆腐 若い世代にPR  簡単・便利な調理提案
 大豆加工食品のみすずコーポレーション(長野市)が幅広い年齢層に向け需要開拓を進めている。主力商品が高野豆腐やいなりずしに使う味付け油揚げに偏っていることが背景にある。味付けを工夫したり、食べ方の提案や売り方を模索することで、若い女性や子供の需要を掘り起こす。戦略について塚田裕一社長に聞いた。
 ――商品の市場環境をどう見る。
 「高野豆腐は食料品といっても日常的に食卓にのぼる地域は限られている。全国平均をとれば、半年に1度程度の頻度で食べる人が多く、嗜好品のようになっている。普段の食卓に並べ、いかに食べてもらうかを考え、特に若い世代を意識した販売戦略が重要になっている」
 「原材料は高騰するが、競合他社を考えると小売価格に転嫁できない。原材料の大豆や食用油の価格は上昇している。消費財のデフレ傾向はまだまだ続いている。当社商品がスーパーの特売品になり安売りされないように需要を開拓するしかない」
 ――商品開発のポイントは何か。
 「高野豆腐を食べるのは40歳代以上が中心で、煮物の具材の一つとして選ばれている。30歳代以下は調理方法を含めて高野豆腐の料理すら知らない。高野豆腐とだしをセットにして電子レンジで調理して簡単に食べられる商品が必要だ」
 「これからの商品は『簡単で便利で本物』がキーワードだ。さらに低カロリーでたんぱく質が豊富という健康面のメリットも必要だ。高齢者には食感と食べやすさを工夫した鍋物用具材を開発する。子供にはアニメのキャラクターをパッケージに印刷した商品を販売しており、人気だ。高野豆腐という伝統ある食材をどう食卓に残すか、知恵を絞っている」
 ――味付け油揚げを増産している。
 「原材料の高騰で小規模な生産者が撤退し、大手メーカーに注文が集中しているようだ。業務用では素材やだしで競合他社との違いを明確にする必要がある」
 「生産量は1日に280万枚体制で国内最大級となった。いなりずしを食べるきっかけとなるイベントの開催も考えたい。増産すれば、おからなどの副産物も増える。廃棄物にせず飼料や肥料に加工し資源循環型の生産に取り組んでいく」
 ――市場は国内だけか。
 「味付け油揚げは米飯を主食とするアジアでも需要を開拓したい。高野豆腐は中華料理の鍋の具材で親しまれている。人口が減少する日本国内では幅広い世代で潜在需要を掘り起こし、海外での需要も開拓したい」
商品・レシピ訴求 需要拡大のカギ
 サンリオのキャラクター「ハローキティ」の焼き印をつけた高野豆腐が子育て中の芸能人のブログで紹介されるなど人気商品となった。こうした商品を敬遠しがちな顧客層にアピールする企画が奏功した。買ってみたいと思わせる商品力が新たなファンを獲得した。
 今後は新たなファンに味付け油揚げを含めみすずコーポレーションの商品をどう訴求するかが課題になる。キャラクター頼りにならないためにもヘルシーさや新たな食べ方の認知度を高めることが欠かせない。商品とレシピの両輪での訴求が需要拡大のカギとなる。

縮むLPG市場、打開策は、元売り2社トップに聞く――松沢純氏。

ENEOSグローブ社長 松沢純氏
特約店へのコンサル強化
 ――新会社の強み、弱みをどう分析する。
 「統合は人口減時代に対応するとともに他のエネルギーとの競争に勝つためだ。強みは輸入調達から販売までのサプライチェーン。旧三井丸紅液化ガスは商社の情報も生かした柔軟な調達と270社の特約店、旧新日本石油はFOB(本船渡し)の調達や石油販売と兼業する230社の特約店を持つ。エネファームを扱わなかった三井丸紅側の販社にも紹介できる」
 「一方で大きい会社になり、旧2社で特約店との取引条件、担保の取り方も異なる。新会社のコスト構造が適正かの検証は必要だ。今後策定する中期計画で詰めていく」
 ――同じJXエネルギー子会社のジャパンガスエナジー(東京・港)との関係は。
 「株主の意向で決まるため、当社には全くわからない」
 ――東日本大震災で事業環境に影響は。
 「LPGは発電機用の需要が増え、業界全体で約300件の問い合わせがある。分散型、可搬式のエネルギーという強みを業界としてさらに訴える必要がある。一方で東北を1カ所のLPG基地で支えていいのかという点から、リスク分散の重要性が増している。現在は新会社の基地統廃合の結論は出ていない。まず運営の効率化を急ぐ」
 ――需要全体では減少傾向が続いている。
 「当社の10年度の国内販売量は単純合算で350万トン。家庭用や石油化学用は有望とみており年2%は増やしたい。需要減と言われるが全国5000万世帯のうち、約半数の2450万世帯はLPGを使い、潜在性はある。家庭と信頼関係を築いた販社はコメ、水、住宅リフォームなども扱う。元売りが特約店へのコンサルティング機能を強める必要がある」

縮むLPG市場、打開策は、元売り2社トップに聞く――山崎達彦氏。

アストモスエネルギー社長 山崎達彦氏
給湯や空調、発電用を拡大
 石油会社と商社の間で続いてきた液化石油ガス(LPG)元売りの再編が新しい段階に入った。JX日鉱日石エネルギーと三井物産、丸紅の事業統合で3月、ENEOSグローブが誕生。出光興産・三菱商事系のアストモスエネルギーを抜き業界首位になった。国内市場が縮むなか、トップ2社はどう打開策を描くのか。ENEOSグローブの松沢純社長とアストモスの山崎達彦社長に聞いた。(聞き手は加藤貴行)
 ――計画停電などで事業環境に変化は。
 「オール電化一辺倒だった住宅メーカーが創エネや省エネに興味を持っている。LPGを使う(家庭用燃料電池)『エネファーム』と、太陽光のダブル発電の問い合わせは増えている。産業用の燃料転換に加え、家庭・業務分野の給湯、空調、発電の用途拡大にも力を入れる」
 「消費電力が電気エアコンの10分の1のガスヒートポンプなど新機器も登場している。従来、業界自らで需要創造できていなかったが、流れが変わってきた。あとは特約店と協力し、実際に需要を作れるかが問われる」
 ――ENEOSグローブ誕生の影響は。
 「実力、存在感のある会社が業界をリードするのは心強い。創エネ分野でも当社の先を行く企業であり、当社も工事、施工の研修拠点を通じ需要を掘り起こす。競争しながら市場を切り開く」
 ――業界再編の先べんを付けたアストモスの5年間をどう評価する。
 「ガス産出国の提示価格に基づき小売価格を決める、透明性の高い価格体系をつくれた。業界全体にとっても成果だ。当社の海外での自社船によるトレーディングも伸び、販売量で国内350万トン、海外500万トンの体制ができた。2014年には計1000万トンをめざす」
 「常に新しいものに挑戦するのが統合の目的。4月には社員に第1ステップは終わり“第2の創業”と呼びかけた。エネルギー政策の動きを見ながら中期計画を策定し、来年からスタートする」
 ――この先の業界再編はどう進むと思うか。
 「燃料調達、精製部門を伴う従来型の再編以外に、機器メーカーやリフォーム事業者など異業種との統合、元売りと小売事業者の垂直統合もあるだろう。全体で需要を創出するしかけが大事だ」

米クラウデラCEOマイク・オルソン氏、分散処理ソフト利用拡大

ビッグデータ解析に威力
 膨大で雑多なデータの塊である「ビッグデータ」を収集・分析し、事業戦略に役立てる動きが出てきた。IT(情報技術)の進歩で、データ分析手段が登場したからだ。そうした新技術の一つである分散処理ソフト「Hadoop(ハドゥープ)」を開発している米クラウデラの最高経営責任者(CEO)、マイク・オルソン氏に最新動向を聞いた。
――ハドゥープは米国でどのような用途で使われ始めているのか。
 「ハドゥープは複雑で量が多いデータの処理に向く。ビッグデータを対象にした分析や解析、その前段階であるデータの整理などの用途が多い。米国ではウェブ・サービスや通信事業者だけでなく、金融機関、政府機関、小売業にも利用が広がっている」
 「典型的なものはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に流れるコメントのような大量で雑多な情報から、自社に関係するものだけを抽出、内容を整理する用途だ。情報を基に顧客は、製品改良に役立てたり、宣伝や販売の計画を立てたりする」
 「ハドゥープは設計図を公開して誰でも無料で使えるオープンソース・ソフトウエア(OSS)の一種だ。米グーグルの技術を基に米ヤフーや米フェイスブックの技術者が育ててきた。その登場の背景にはデータの性質や利用法の変化がある」
 「2008年を境にハドゥープを含むデータ処理の新技術が続々と登場した。企業が扱うデータ量が増え、1980年代に開発された従来のデータベース(DB)技術では対応が難しい課題が出てきたからだ。通信記録やSNSのような大量データを分析する用途は、00年以降、データセンターやネット事業者で生まれた」
――ビッグデータ解析の今後の行方をどうみるか。
 「ハドゥープなどの新技術と、従来のDBを基にした集計・解析技術を組み合わせる『ハイブリッド』とみている。ビッグデータ解析の企業利用に向けて大手IT各社が参入しているが、OSSのハドゥープはその中で一定の地位を占めると確信している」
 「米IBMはハドゥープを基にした大規模データの解析ソフトを提供している。利用者がすぐに使えるソフトの登場は、ハドゥープやビッグデータ解析の利用を後押しする。本格的な普及に向け、すぐに使えるソフトが登場することを期待している」
――クラウデラの事業の今後をどうみるか。
 「OSSのハドゥープを企業が使いやすいようにパッケージ化して販売し、技術支援や技術者教育を提供している。IBMなどとは直接競合せず共存共栄の良好な関係にある」
 「ハドゥープ市場は将来的に現在のDB市場と同じ100億ドル(約8000億円)規模になると思う。我々の事業は商用ソフトの販売とは事業モデルが異なるため急速な成長は難しいが、OSS事業の先達である米レッドハットは今年の年間売上高が10億ドル(約800億円)を超える見込み。彼らの事業モデルなどを参考に成長していきたい」
 Mike・Olson カリフォルニア大でコンピューター科学の修士号取得。複数ソフト会社を経てDBソフト企業を設立。06年に米オラクルが買収後、08年まで同社副社長。08年から現職

2011年7月5日火曜日

三菱自・益子社長に聞く、「EV、給電機能向上」、電力不足補う手段にも。

三菱自動車の益子修社長は電気自動車(EV)事業を拡大する方針を示した。益子社長との主なやりとりは次の通り。(1面参照)
 ――東日本大震災が起き、EVの用途に注目が集まっている。
 「当社のEV『i―MiEV(アイ・ミーブ)』約90台を無償貸与した岩手、宮城、福島県の人々から役に立っているという声を頂いた。車両に新たなニーズを求める声も聞いた。災害など緊急時に家電に給電する機能だ。できるだけ開発を急いで、電力消費が1500ワット級の電子レンジ、炊飯器、ポットなどに給電できる電力供給装置を2011年度内に車両オプションとして発売することにした」
 ――一方で、震災後の電力不足懸念は電気を使うEVにとって逆風という見方もある。
 「違う見方をしている。原子力発電の安全性を巡る動きを受け、太陽光、風力発電など再生可能エネルギーへの依存が高まるはずだ。気候などに発電状況が左右される再生可能エネルギーは供給電力量が安定しない問題があり、EVの蓄電機能はこの解消に役立つ。EVにためた電気で発電量の減少を補えば良い。電力消費の少ない夜間に充電すれば、電力不足を呼び込むこともない」
 ――販売状況は。
 「欧州だけでなく、アジアなど新興市場でも車両に対する引き合いは強い。シンガポールやインドネシア、アラブ首長国連邦(UAE)に続き、タイでも走行試験を始める計画。ニーズを予期していなかったロシアからも発注があり、年内には輸出を始める計画だ」
 「国内では『働くEV』として軽商用EV『MINICAB―MiEV(ミニキャブ・ミーブ)』を年内に発売する。先行予約の数は当初想定を上回っている。車両の品ぞろえを増やし量産効果でコストも削減する」
 ――競合他社が相次ぎ市場参入を果たしてくる。三菱自の強みは何か。
 「先行者利益があると考えている。すでに1万台以上の車両を国内外で販売した。EVの利用状況などのデータの検証により、ノウハウ蓄積が進んでいる。EVの商品開発のなかで大事なのは制御技術だ。この制御ノウハウの蓄積は次の開発強化にもつながる」
 「多くのメーカーが競争に参加すれば、その分だけ普及は進む。競争と協調の間の微妙なバランスのなかで事業を進めるつもりだ」
 ――メーカー間だけでなく、各国政府の普及支援策も相次いでいる。日本政府に望むことは。
 「新しい技術に挑戦する必要があり、そのための環境づくりをやってほしい。電池の容量拡大や急速充電器などさらなる研究開発を要する分野は多い」
記者の目
普及期に入り
性能向上急務
 東日本大震災後の電力供給不安を受け、国内でも整備が検討されるスマートグリッド(次世代送電網)のシステムにEVなど電動車両は組み込みやすい。今後のエネルギー政策を考えたとき、自動車メーカーは協調して普及を進める必要がありそうだ。
 ただ、一方で競争も激しい。三菱自は13年度にEVとプラグイン・ハイブリッド車(PHV)で7万5千台の販売を目指すが、ライバルの日産自動車は今後6年間で仏ルノーと合わせて世界で150万台のEVを売る目標を公表。トヨタやホンダなども相次ぎEV、PHVを投入する。電動車両も普及期に入り、車載電池のコストダウンや性能向上、調達量の確保など普及のボトルネックの解消がますます個々のメーカーには求められる。

2011年7月4日月曜日

蘇寧電器の子会社に、中国で「日本式」を提案――ラオックス社長羅怡文氏。

ヤマダと市場作りたい
 ラオックスは8月、中国の家電量販最大手の蘇寧電器集団の子会社になる。上場企業が中国の事業会社の子会社になるのは初めて。同社の羅怡文社長に経緯や今後の事業戦略などを聞いた。
 ――蘇寧から追加出資を受けた経緯は。東日本大震災の影響はあったのか。
 「蘇寧電器とは震災前からいろいろ話をしてきた。ラオックスが今後成長していくには中国本土への本格的な店舗展開、国内のテコ入れが必要。その資金を得るには蘇寧の協力が欠かせない。子会社化はあくまで結果論だ。蘇寧から初めて出資を受けた2009年以来、両者の間でうまく信頼関係が築けている」
 ――中国で展開する家電量販店は1万平方メートルを超える大型店。運営ノウハウがない中ではリスクは大きくないか。
 「確かに日本で大型の家電量販店を運営した経験はない。だが、日本の大型店をそのまま中国に持って行って商売するわけではない。日本の商品を扱いながら、現地の事情に合わせた売り場を作る」
 ――中国の家電量販店はメーカーがそれぞれ売り場を作り、メーカーの販売員が売る。日本式は浸透していない。
 「今度の店は家電だけを売るわけではない。家電の比率は7~8割程度だ。雑貨や楽器、秋葉原のサブカルチャーなど日本のライフスタイルを提案していく。日本式の売り方は、昨年12月にヤマダ電機が中国に進出して実践している。両社で競争していくというより、市場を作っていきたい」
 ――先行するヤマダは3年で5店。3年で30店という計画は大丈夫か。
 「日本から持って行く商品以外の調達、物流、アフターサービスなどは蘇寧のインフラを使える。出店候補地としてまず人口1000万人級の巨大都市を想定している。1号店は上海か北京あたりを考えている」
 ――日本国内の事業展開はどうか。
 「中国出店は日本の免税店にとっても大きなこと。これから増える中国人の個人観光客を取り込むうえでは現地での知名度向上は重要だ。今後、日本で買った土産の家電製品のアフターサービスをできるようにしたい。訪日中国人観光客はまだ厳しいが、観光地としての日本の潜在力は高く、来年には回復するだろう」

グッチ社長ディ・マルコさん――「イタリア製」にこだわる

歴史との思いが創る世界観
 東日本大震災で消費者の目はさらに厳しくなった。ラグジュアリーブランド、伊グッチのパトリツィオ・ディ・マルコ社長兼最高経営責任者(CEO)は「生命線である品質の高さをしっかりと伝える必要がある」と危機感を示す。そのため、インターネット通販の参入と並行して店舗を大幅改装する考えだ。創業90年を迎えた高級ブランドが日本でどう変わるのか。今後の戦略を聞いた。(聞き手は日経MJ編集長 三宅耕二)
ネット通販
年内に参入
 --大震災は売り上げにどう影響しましたか。
 「地震から2週間ほど直営店を閉めましたので、当然、売り上げに響きました。ただ、想像したほど落ち込みませんでした。夏以降については分かりません。高級ブランドですから、節電で店内が暗かったり暑かったりすると、ゆっくりと商品を選ぶ気持ちにはなりにくいですからね」
 --大震災で日本事業を見直す考えはありますか。
 「日本はグッチにとって重要な市場なので引き続き計画通りに進めていきます。とはいえ、日本を取り巻く環境は厳しいですね。市場は縮小する一方ですし、今後は伸びないだろうと思っています。1964年に東京・銀座に初の直営店を出してから50年近くになり、日本では認知度が非常に高くなりました。ただ、この15年ほどで高級ブランドにとって良い状況とは言えなくなりました」
 「80年から90年代初めはロゴがもてはやされる時代でした。一目見てグッチやルイ・ヴィトンと分かる商品が人気を集めましたが、今やすっかり変わってしまいました。もちろん日本のお客様はブランドを好きでいてくれますが、上から下まで同じブランドというのは過去の話です」
 「自分の個性を出せる商品しか選びません。主要販路である百貨店離れも非常に影響が大きいですね」
 --では、日本でどう伸ばしていこうと考えていますか。
 「今の時代だからこそよりグッチの生命線である品質の良さを訴える必要があります。グッチは時計だけはスイス製ですが、ほかの商品はすべてイタリアで職人の手によって作っています。日本にはすでに55店舗の直営店がありますが、増やす計画はありません。逆にこの価値をしっかり伝えられるように、店舗の改装や移転による規模の拡大を目指していきます」
 「日本人は消費者の目が肥えていますが、大震災でますます厳しくなってきました。いかに我々が本物の高級ブランドであるかを伝えるかが、さらに重要になってきたと言えます。店舗改装で逆にお客様の数は減るかもしれません。本当の価値を見いだすお客様に最高のおもてなしを提供し、客単価を高めてシェアを伸ばすことで生き残っていきたいと思います」
 --成長するネット通販市場にはどう対応しますか。
 「年末までにネット通販のサイトを立ち上げます。我々は、高級ブランドが通販を手掛けることに懐疑的だった2001年ごろに、米国で挑戦してきました。米国で学んだのはネット通販は1つの流通販路と機能し、実際の店舗とのお客様の取り合いにはならないことです。全商品を店頭と同じ価格でネットで販売していきますので、店舗で扱っていない商品でも自宅で手軽に買えます。ネットでの買い物体験でグッチをより身近に感じていただくことが目的ですね」
京都での展示
職人の技伝える
 --スマートフォン(高機能携帯電話)の普及が急速に進んでいます。
 「スマートフォンは全世界で重要性が高まっています。立ち上げ当初はパソコンサイトのみですが、消費者と接するうえで重要な手段ですので、その対応も当然視野に入っています」
 --6月25日から金閣寺(京都市)でグッチの貴重な商品の数々を展示しています。意外な組み合わせですが、その狙いはどこにありますか。
 「グッチの職人による伝統的な皮工芸品の素晴らしさを伝えるためです。京都とグッチの創業の地であるフィレンツェは姉妹都市という深い関係にあることから、今回の企画が実現しました」
 「90年代はブランドのロゴブームがありましたので、ファッションで伝統とかうたっても関係がなかったでしょう。ただ、人気に火が付いた半面、多くの日本人が手を伸ばしたため、高級ブランドが庶民的になったとも感じていました。もう一度、今の感性に微調整をしながらフィレンツェの伝統的な職人技を伝えていこうと考えました」
 --中国市場開拓には「ロゴ戦略」が有効では。
 「中国は20年前の日本と同じ段階にあると言えばそうですが、北京や上海のような中心都市では、すでに洗練されて値段が高い商品も求めるようになっています。(内陸部の)第2、第3グループの都市はまだ最初のブランドはロゴが入った商品にあこがれる人が多いです」
 「ロゴといってもロゴがすべて悪い訳ではありませんが、ロゴを作ればそれでいいというやり方だけでは難しいですね。ブランドに歴史や思いを詰めることが重要です」
業績データから
シェア争奪の時代に
 グッチの2010年度の売上高は27億ユーロ(約3156億円)で、前の期に比べて17%も伸びた。リーマン・ショックで消費が落ち込んでいた米国や欧州が復調してきたほか、中国などアジア事業の伸びが好業績につながったようだ。
 一方の日本。世界でも重要な位置を占めてきたが、ディ・マルコ氏は「市場は伸びない」と厳しい見立てだ。「日本で生き残るためにはシェアを高めることが必要」と語る。これは市場拡大の時代からシェアを奪い合う時代に入ったことを示す。
 ディ・マルコ氏はインタビューで何回も「伝統」を強調した。何も逆風ばかりではない。「ファストファッションの人気は過去となり、職人が作る高級品の価値が見直されてきている」と前を見据える。高級ブランド請負人の手腕に注目が集まりそうだ。
 Patrizio di Marco プラダ・ジャパンの最高財務責任者などの役割で5年間日本で過ごした経験を持つ。1993年から98年までプラダ・アメリカの社長兼最高経営責任者。2001年にボッテガ・ヴェネタの社長兼CEOとしてグッチ・グループに入社、苦境のブランドを世界有数の高級ブランドに押し上げた。09年から現職。

米大手JLL・アジアCEOに聞く――東京の不動産投資、回復、来夏以降に。

割安な物件、関心戻る
 東日本大震災の影響で国内の不動産市場の回復が遅れる一方、海外ではアジアを中心に投資が活発になりつつある。国内外のオフィスなど商業不動産市況はどのように推移するのか。米不動産大手ジョーンズラングラサール(JLL)アジア・太平洋地域のアラステア・ヒューズ最高経営責任者(CEO)に今後の見通しを聞いた。
 ――世界の不動産市況をどうみるか。
 「2011年は主要な不動産市場で取引の額・量がともに上向き、特にクロスボーダー案件が大幅に増えるだろう。商業不動産の売買が高い水準に達した07年以来の堅調さで推移すると考える。
世界の商業用不動産への直接投資は前年比20~25%増え、3800億ドル(約30兆5700億円)を上回りそうだ」
 「リーマン・ショック前は高いリターンを求めリスクの大きな物件にも手を出す動きもあった。現在の買い手は保守的で安全かつ確実に収益を生む物件を見極め投資している。オフィス市場では世界全体の平均空室率が現在の14・1%から年末には13・5%を下回る水準まで下がるだろう」
 ――アジアはどうか。
 「香港、上海、シンガポールなどでは09年には底打ちし、急速に回復し、投資規模は最近のピークだった07年の水準近くまで戻した。11年はアジア・太平洋地域への投資額は1000億ドルに達し、10年に比べて15~20%増える見込みだ」
 「こうした市場でも賃料水準は完全に戻っていないところもあるが、物件価値そのものは高くなっている。一方で東京の投資水準は08年以降、07年の4割程度にとどまる。それは割安な投資機会が大きいともいえる」
 ――日本では震災の影響が今後、不動産市場にどのように及ぶか。
 「震災発生前までは、投資家は高い賃料で稼働する質の良い物件を探しており、東京のオフィスビル賃料も優良物件は緩やかながら上昇傾向にあった。震災直後から6週間は今後の状況をほとんど見通せず、東京を中心に投資を手控える動きが広がった。しかし、落ち着いてくるにつれて再び関心が戻り始めている」
 「東京での不動産投資は11年秋以降に上昇基調に転じると予測していた。しかし、震災で年内は押し上げる要因がない。12年夏以降に遅れるだろう。安全性や事業継続の観点でオフィスを選ぶ意識が強まり、物件の優劣の差が開くはずだ。古いスペックのビルは競争力が低下し、ますます厳しくなるだろう」
 ――東京の不動産市場に投資を呼び込むには何が必要か。
 「オフィスビルの質を保つには、常に改良しなければならない。日本では1960~70年代に建設したビルの多くが陳腐化している。日本のデベロッパーは効率よく再開発に動いており、投資機会は充実している。こうした面は香港などにはない強みで、その動きを加速するのが有効だ」

 ジョーンズラングラサール(JLL) 米シカゴに本拠を置く総合不動産大手で、ニューヨーク証券取引所に上場している。1999年に米ラサールパートナーズと英ジョーンズラングウートンが合併して誕生した。現在、世界に約180の営業拠点を持つ。2010年の売上高は29億2600万ドル(2340億円)、11年4月末時点の預かり運用資産は430億ドル(3兆4400億円)。
【表】2011年末までの主要都市における優良オフィスの資産価格変化予測   
増減率   都 市
20%増   香港
10~20%増   上海、シンガポール、東京、ニューヨーク、モスクワ
5~10%増   ロンドン
0~5%増   フランクフルト、ムンバイ
0~5%減   該当なし
5~10%減   マドリード
10~20%減   ドバイ

シングテル、クラウド、日本に攻勢、執行副社長ビル・チャン氏、震災後の需要増狙う。

データ保護、安く安全 中規模企業を開拓
 東南アジア最大の通信会社、シンガポール・テレコム(シングテル)が、ネットワークを通じて多様なソフトを利用できるクラウド・コンピューティングで日本企業への売り込みに照準を合わせている。東日本大震災の後で、シンガポールのデータセンターを災害復旧時のバックアップに活用したいとする日本企業が増えていることが背景にある。法人向け事業を統括するビル・チャン執行副社長に、現状と先行きの狙いを聞いた。
 ――なぜ日本企業に注目するのか。
 「震災後、目先の電力不足や将来の災害に備えたバックアップ態勢をシンガポールに配備したいという日本企業の需要が高まっている。シンガポールには自然災害がほとんどないからだ。会社名は明らかにできないが、世界的に展開する大手製造業や物流、小売業など、10社以上から引き合いがあった」
 ――企業の負担は。
 「シングテルはクラウドでこの需要に応える戦略だ。企業は必要な時に必要な容量を使用でき、料金も使った分だけ支払えばよい。多額の設備投資をしなくて済み、自前でサーバーを設置するより、3年間で最大73%のコストを節約できる利点が売りだ」
 「大企業だけでなく、データセンター設備を日本国内にしか持たない中規模の企業に大きな潜在需要があるはずだと思っている。日本での事業を8月までに本格化しようと提携相手との交渉に入っている。提携先は、いずれ発表する」
 ――シンガポールにはデータセンターが林立しており、競争が激しいが。
 「当社が2010年9月に開業した最新のデータセンターは、非常時の稼働状況や耐久性が東南アジアで唯一かつ最高水準の施設だ。海底ケーブルなど自前の通信ネットワークも保有している。米ヴイエムウエア(カリフォルニア州)との提携により、高性能のクラウド環境を提供できる」
 ――シングテルのクラウド事業の現状は。
 「法人向けクラウド事業は、10年の売上高は09年比で70%増と急拡大した。この伸び率が今後3年は続くとみている。クラウドの法人顧客は、アジア太平洋で複数の拠点を展開する多国籍企業を中心に800社。このほかシングテルの『ソフトウエア・アズ・ア・サービス』(SaaS)を利用する顧客は中小企業を中心に2万社に達した」
 ――海外のクラウド拠点の展開見通しは。
 「すでに全額出資子会社のオプタスがオーストラリアのデータセンターでシンガポールと同水準のクラウド・サービスを提供している。香港も数カ月後には可能になる」
記者の目
法人向けが成長の柱に
 シンガポールは小国ながら優れた通信インフラ、ビジネス支援に熱心な政府、豊富な技術系人材、天災がほぼないなど恵まれた環境にあり、内外企業のデータセンター(DC)が集積している。米アマゾン・ウェブ・サービシズ、インドのタタ・コミュニケーションズ、KDDIなどが進出。2013年には政府が開発する12ヘクタールの「DCパーク」も完成する。
 シングテルは国内に8カ所の高度DCを展開。これまでIP―VPN(インターネットプロトコルを使った仮想私設網)などを提供してきた法人顧客にも、クラウド事業を広げようとしている。
 シングテルがインドなど新興国で積極的に出資していた携帯電話事業は競争が激化しているため、法人向けクラウドを次の柱に育てたい考えだ。

デジカメ、「売上高1000億円超狙う」、近藤リコー社長、消費者向け拡大。

 リコーは10月1日付でHOYAのデジタルカメラ事業を買収すると発表した。記者会見したリコーの近藤史朗社長とHOYAの鈴木洋最高経営責任者(CEO)の一問一答は以下の通り。
 ――買収はどちらから持ちかけたのか。
 近藤氏「初めは2年くらい前、鈴木さんにお会いしたいと申し上げ、カメラの話をした。当時は収益性がどうかという話もあったが、HOYAのデジカメ事業はリストラが進み利益を出せるところまできた。いい状態で迎えられるようになった」
 鈴木氏「ペンタックスを買収した当時から、単独ではない何らかの形が必要だと考えていた。初めからリコーとの話を考えていたわけではないが、再編を模索するという考え方は変わらなかった」
――両社のカメラは競合するのではないか。
 近藤氏「両社の主要製品ではあまりバッティングはないとみている。3年で(売上高)1000億円を超える事業に育てていきたい。ただ、利益や製品別の売上高はまだ言える段階にない」
 ――両社の事業を合わせてもシェアは小さい。
 近藤氏「カメラ市場が厳しいのは百も承知だ。だが1000万台を出荷しないと利益が出ないというわけではない。価値の高い製品をリコーやペンタックスのブランドの愛好者に提供していく」
 「ただ、規模を追わないわけでもなく、未来につながる案件があるなら投資をしていく。今は(一眼レフに強いキヤノン、ニコンの)先行2社にかなわないが、いつまでも2社だけではないだろう」
 「M&A(合併・買収)は常に考えている」
 ――どのように相乗効果を出すか。
 近藤氏「長年の課題であるコンシューマー(消費者向け)事業の確立を目指す。ストレージやプロジェクター、ネットワークなどを組み合わせて提案する新しい事業も育てていきたい」
 鈴木氏「カメラには写真を撮影する機能と、映像を取り込む入力装置としての機能がある。当社は医療関連で映像を扱っている。デジカメ事業は売却するが、映像の伝達処理や加工などの分野でリコーの資産を活用させてもらいたい」

IEAの石油備蓄放出、異例策、早くも息切れ感――英原油アナリストタキン氏に聞く。

景気減速で供給過剰も 来年、減産の可能性
 英世界エネルギー研究所(CGES)の原油アナリスト、マヌーシェル・タキン氏に石油市場の先行きを聞いた。
 ――IEAの決断をどうみる。
 「石油市場に介入する備蓄放出は、すべてを自由市場に任せる機関であるIEAの目的に反している。放出は1カ月以上は続かない」
 「世界の景気は減速し始めており、石油は供給過剰の恐れもある。価格が下がり、OPECが2012年に減産することもあり得る。IEAの決定はガソリン価格を下げたい米国などの政治意図を多分に含んでいる」
 ――OPEC加盟国は6月の総会で増産に合意できなかった。
 「加盟国が抱える石油戦略の違いが顕在化した。埋蔵量の多いサウジアラビアなどは石油から他のエネルギーへの移行が進まないよう、価格を抑えたい。一方、埋蔵量の少ない国はここ5~10年で稼ごうと、高い価格の維持を望んでいる」
 「生産余力の差も利害を分けた。余力があるサウジは価格が落ちても量で稼げるが、他国はそうはいかない。今回の総会は若くて新しい代表が多く、自らの立場を主張しすぎたことも合意に至らなかった要因だ」
 ――OPECの存在感は低下するのでは。
 「そうは思わない。世界で増産余力があるのはOPECだけだ。もしOPECがフル生産したら、数カ月で原油価格は1バレル40~50ドルまで下がってしまうだろう。それだけの影響力がある」
 「1970~80年代には石油の価格が高すぎ、工場や家庭での暖房がガスや電気に代わった。現在の用途は自動車や航空機など輸送用が主力で、他のエネルギーへの移行には時間がかかる」

ライセンス海外展開、サンリオ社長に聞く、辻信太郎氏、「イメージ守る」を最重視。

 サンリオが海外でのライセンス事業を強化している。同事業が海外で急速に伸びた背景や、今後の戦略を辻信太郎社長に聞いた。主なやり取りは以下の通り。(1面参照)
米での経験、転機
 ――「ハローキティ」のライセンス事業が欧米など世界中で好調だ。
 「キティはよく『かわいい』と言われるが、ほかのキャラクターとは少し性質が違う。耳にあるリボンは『結ぶ』ことから『仲良く』、口がないので『みんなで助け合おう』といったメッセージが込められている。日本人らしい文化的なメッセージが、世界中の人にかわいがられる要因ではないか」
 「念願だった文化の輸出がようやく実現できた。うちは文化を広められる企業として生き残りたい。約50年前、米IBMのように他社がマネできない強いビジネスができて、つぶれない会社にするにはどうしたらいいかと考えたとき、『著作権』という言葉を知った。当時は『あやしい』などと批判されたが、日本企業が得意としてきたものづくりに陰りが見えてきた最近になって、ビジネスとして注目されるようになった」
 ――長らく物販中心だった事業構造をライセンス中心に変えたきっかけは。
 「米国での経験が大きい。直営店を90店以上持っていたが、結局はすべて、玩具メーカーなどに譲渡したり閉鎖したりすることになった。海外で多くの人を雇用すると、管理や教育が大変。特にキャラクタービジネスはイメージが大事。社員や販売員もイメージを構成する一員だ。イメージを守ることに創業から52年間、奔走してきた」
 ――ライセンス事業にかじを切ることに当初は反対した。
 「今も、ライセンスだけでは商売はできないという思いは変わらない。キャラクターを育成する場所としてピューロランドなどテーマパークは必須だからだ。テーマパークは顧客がキャラクターに会うことができるコミュニケーションパークと位置付けている。テーマパークには今後も積極的に投資していきたい」
 ――今後アジアで事業を強化していくなかで、中国は著作権を侵害されるリスクもある。
 「中国はキティの人気が以前から高く、成長市場として魅力はあった。取引したいという企業もたくさんあるが、これまでかなり慎重に判断してきた。今年のうちに弁護士など法務チームで偽物への対策をとってから、来年には本格的に市場を開拓する。また、中国人社員や現地の協力企業に管理監督してもらう体制に移行する」
 ――M&A(合併・買収)を重要な戦略と位置付けている。
 「最近は業績も良く、キャッシュが増えてきているが、ライセンス事業中心になり、設備投資や人手もかからないので正直、使い道があまりない。キャラクターを買収することも一つの選択肢。ただ、すでに今まで自社で開発したキャラクターが200以上ある。この中から十分育成できると思っている」
部下育ってきた
 ――50年以上社長を続けている。任期についてはどう考えているか。
 「この50年間で多くのライバル企業を引き離し、キャラクター業界で強い地位を確立することができた。今年の12月で84歳になり、部下も育ってきたので、引退もそろそろかと考えている」