データ保護、安く安全 中規模企業を開拓
東南アジア最大の通信会社、シンガポール・テレコム(シングテル)が、ネットワークを通じて多様なソフトを利用できるクラウド・コンピューティングで日本企業への売り込みに照準を合わせている。東日本大震災の後で、シンガポールのデータセンターを災害復旧時のバックアップに活用したいとする日本企業が増えていることが背景にある。法人向け事業を統括するビル・チャン執行副社長に、現状と先行きの狙いを聞いた。
――なぜ日本企業に注目するのか。
「震災後、目先の電力不足や将来の災害に備えたバックアップ態勢をシンガポールに配備したいという日本企業の需要が高まっている。シンガポールには自然災害がほとんどないからだ。会社名は明らかにできないが、世界的に展開する大手製造業や物流、小売業など、10社以上から引き合いがあった」
――企業の負担は。
「シングテルはクラウドでこの需要に応える戦略だ。企業は必要な時に必要な容量を使用でき、料金も使った分だけ支払えばよい。多額の設備投資をしなくて済み、自前でサーバーを設置するより、3年間で最大73%のコストを節約できる利点が売りだ」
「大企業だけでなく、データセンター設備を日本国内にしか持たない中規模の企業に大きな潜在需要があるはずだと思っている。日本での事業を8月までに本格化しようと提携相手との交渉に入っている。提携先は、いずれ発表する」
――シンガポールにはデータセンターが林立しており、競争が激しいが。
「当社が2010年9月に開業した最新のデータセンターは、非常時の稼働状況や耐久性が東南アジアで唯一かつ最高水準の施設だ。海底ケーブルなど自前の通信ネットワークも保有している。米ヴイエムウエア(カリフォルニア州)との提携により、高性能のクラウド環境を提供できる」
――シングテルのクラウド事業の現状は。
「法人向けクラウド事業は、10年の売上高は09年比で70%増と急拡大した。この伸び率が今後3年は続くとみている。クラウドの法人顧客は、アジア太平洋で複数の拠点を展開する多国籍企業を中心に800社。このほかシングテルの『ソフトウエア・アズ・ア・サービス』(SaaS)を利用する顧客は中小企業を中心に2万社に達した」
――海外のクラウド拠点の展開見通しは。
「すでに全額出資子会社のオプタスがオーストラリアのデータセンターでシンガポールと同水準のクラウド・サービスを提供している。香港も数カ月後には可能になる」
記者の目
法人向けが成長の柱に
シンガポールは小国ながら優れた通信インフラ、ビジネス支援に熱心な政府、豊富な技術系人材、天災がほぼないなど恵まれた環境にあり、内外企業のデータセンター(DC)が集積している。米アマゾン・ウェブ・サービシズ、インドのタタ・コミュニケーションズ、KDDIなどが進出。2013年には政府が開発する12ヘクタールの「DCパーク」も完成する。
シングテルは国内に8カ所の高度DCを展開。これまでIP―VPN(インターネットプロトコルを使った仮想私設網)などを提供してきた法人顧客にも、クラウド事業を広げようとしている。
シングテルがインドなど新興国で積極的に出資していた携帯電話事業は競争が激化しているため、法人向けクラウドを次の柱に育てたい考えだ。
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