福島第1原子力発電所の事故処理が長期化し、海外では日本の食品や農水産物の安全性を不安視する「風評」がいまだ絶えない。そうした中、江戸時代創業の老舗しょうゆ・みそ醸造会社のサンジルシ醸造(三重県桑名市)は海外で順調に売り上げを伸ばしている。海外事業を束ねるサンジェイ・インターナショナル(米バージニア州)の佐藤隆社長に話を聞いた。
原発事故を受けて少なくとも35カ国・地域が日本の農水産物に対する輸入規制を敷き、風評被害も相次いだ。
「放射能に関する問い合わせは確かに増えている。製品に「米国産」と記載してあるが、原料の産地などを巡る質問が東日本大震災後、月10~15件寄せられる。大豆、水、塩、こうじ菌の4種の原料のうち、日本産はこうじ菌のみで輸入元は愛知県だ。それでも情報開示は大切と考え、自主的に放射線量検査を実施し、希望があれば数値を提供する対策をとってきた」
「食品会社にとっては、どういう原料を使うかも企業秘密となるが、正しく詳細な情報を開示すれば、お客さんも納得する。客観性に徹するため、第三者機関を積極的に活用することも重要だ。原発事故の影響で納入が止まった例は出ていない。ただ、日本産を輸入している欧州、アジアの業者から、サンプル提供の要望がくるようになった。日本産は不安だからというのが理由で、あまり喜べなかった」
震災後も海外売上高が伸びている。米国では高級食材店に商品が並び、健康ブームに乗った丸大豆100%の「たまりじょうゆ」は堅調だ。
「海外売上高は2月が前年同月比で1・6%増だったのに対し、3月は7%増、4、5月は同16%増になった。クッキングソース、ドレッシング、スープなどの関連商品を出しているが、主力の『たまりじょうゆ』の伸びが非常に高く、在庫切れを起こしている状況だ。増産しても製品になるまで半年かかる。需給のミスマッチにどう対応するかが現在の課題だ」
サンジルシは桑名藩御用商人の回船問屋として1804年に創業。1978年に米国輸出を開始し、現在はバージニア州に生産工場を持つ。
「最大手のキッコーマンと同じ土俵では戦えないと思い、米国人に対象を絞ったマーケティング戦略でやってきた。広大な米国の土地に散らばる日本人を追いかければロスが大きい。駐在員も数年後には帰任してしまう。ならば一生米国で暮らす米国人に売る方が、時間はかかるが将来性があると考えた」
「しょうゆで味付けをするいため物やバーベキューなど、家庭料理のメニュー提案を地道に重ねてきた。その結果、米国人の食生活に入り込むことができたのだと思う。原発事故の風評被害に悩まされなかったのも、米国の食卓に浸透していたことが理由かもしれない」
日本の1人当たりのしょうゆ消費量は年6・8リットル(2010年)。過去30年で3割減った。
「市場としての日本の将来性は乏しくなってきている。人口構成や食生活の変化の影響で生産量も毎年1~2%ずつ減少してきた。一方、海外市場は米国は5%前後、欧州は2桁で伸び、商品単価も高い。食文化が未発達な土地ほど、抵抗感なく新しい味を取り入れる素地がある。先入観にとらわれることなく、今後も海外マーケットを開拓していきたい」
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