割安な物件、関心戻る
東日本大震災の影響で国内の不動産市場の回復が遅れる一方、海外ではアジアを中心に投資が活発になりつつある。国内外のオフィスなど商業不動産市況はどのように推移するのか。米不動産大手ジョーンズラングラサール(JLL)アジア・太平洋地域のアラステア・ヒューズ最高経営責任者(CEO)に今後の見通しを聞いた。
――世界の不動産市況をどうみるか。
「2011年は主要な不動産市場で取引の額・量がともに上向き、特にクロスボーダー案件が大幅に増えるだろう。商業不動産の売買が高い水準に達した07年以来の堅調さで推移すると考える。
世界の商業用不動産への直接投資は前年比20~25%増え、3800億ドル(約30兆5700億円)を上回りそうだ」
「リーマン・ショック前は高いリターンを求めリスクの大きな物件にも手を出す動きもあった。現在の買い手は保守的で安全かつ確実に収益を生む物件を見極め投資している。オフィス市場では世界全体の平均空室率が現在の14・1%から年末には13・5%を下回る水準まで下がるだろう」
――アジアはどうか。
「香港、上海、シンガポールなどでは09年には底打ちし、急速に回復し、投資規模は最近のピークだった07年の水準近くまで戻した。11年はアジア・太平洋地域への投資額は1000億ドルに達し、10年に比べて15~20%増える見込みだ」
「こうした市場でも賃料水準は完全に戻っていないところもあるが、物件価値そのものは高くなっている。一方で東京の投資水準は08年以降、07年の4割程度にとどまる。それは割安な投資機会が大きいともいえる」
――日本では震災の影響が今後、不動産市場にどのように及ぶか。
「震災発生前までは、投資家は高い賃料で稼働する質の良い物件を探しており、東京のオフィスビル賃料も優良物件は緩やかながら上昇傾向にあった。震災直後から6週間は今後の状況をほとんど見通せず、東京を中心に投資を手控える動きが広がった。しかし、落ち着いてくるにつれて再び関心が戻り始めている」
「東京での不動産投資は11年秋以降に上昇基調に転じると予測していた。しかし、震災で年内は押し上げる要因がない。12年夏以降に遅れるだろう。安全性や事業継続の観点でオフィスを選ぶ意識が強まり、物件の優劣の差が開くはずだ。古いスペックのビルは競争力が低下し、ますます厳しくなるだろう」
――東京の不動産市場に投資を呼び込むには何が必要か。
「オフィスビルの質を保つには、常に改良しなければならない。日本では1960~70年代に建設したビルの多くが陳腐化している。日本のデベロッパーは効率よく再開発に動いており、投資機会は充実している。こうした面は香港などにはない強みで、その動きを加速するのが有効だ」
ジョーンズラングラサール(JLL) 米シカゴに本拠を置く総合不動産大手で、ニューヨーク証券取引所に上場している。1999年に米ラサールパートナーズと英ジョーンズラングウートンが合併して誕生した。現在、世界に約180の営業拠点を持つ。2010年の売上高は29億2600万ドル(2340億円)、11年4月末時点の預かり運用資産は430億ドル(3兆4400億円)。
【表】2011年末までの主要都市における優良オフィスの資産価格変化予測
増減率 都 市
20%増 香港
10~20%増 上海、シンガポール、東京、ニューヨーク、モスクワ
5~10%増 ロンドン
0~5%増 フランクフルト、ムンバイ
0~5%減 該当なし
5~10%減 マドリード
10~20%減 ドバイ
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