2011年7月8日金曜日

中国で電力不足深刻――世界平和研究所・主任研究員藤和彦氏

石炭高・送電網整備も遅れ 値上げ困難長期化
 中国で電力不足が深刻化している。現地報道などによると今夏の電力不足が4000万キロワットに達する可能性がある。既に一部の地域で供給制限を開始しており、これまで最悪だった2004年を上回る情勢だ。中国のエネルギー事情に詳しい世界平和研究所の藤和彦・主任研究員に、電力不足の原因や今後の見通しについて話を聞いた。
 ――日本と比べた深刻度合いはどうか。
 「中国の発電電力量は日本の約4倍で、10年に4兆2300億キロワット時となった。石炭火力発電が全体の8割を占めており、水力が16%。原子力発電は全体の2%にも満たない」
 「現在の発電設備容量は9億6200万キロワット。政府は06年以降年9000万キロワットの発電設備の建設を進めているが、経済成長のスピードに追いついていない。日本は今夏に全国で1000万~1500万キロワットが不足すると言われているので、4000万キロワットの不足は日本より深刻という見方もできる」
 ――発電設備の建設スピードをさらに上げる必要があるのでは。
 「実は需要は最大で4億2000万キロワットしかないので、全設備容量に対しピーク時でも約6割の設備が余っている。これが日本とは決定的に違う点だ。原因は大きく分けて2つで、発電用石炭価格の上昇と送電網の整備の遅れだ」
 ――石炭価格が上がっても電力料金を値上げすればいいのでは。
 「電力用の国内炭の価格は06年初頭から今年の3月までに約2倍になったが、産業用の電力価格は2割しか値上げできていない。中国政府がインフレを抑制するために電力料金の大幅な値上げを認めていないからだ」
 「5大国営発電会社は08年以降、5社合計で累計600億元(7500億円)以上の赤字を計上した。そのために設備はあっても稼働率が上がらない状況が続いている」
 ――送電網も脆弱なのか。
 「内陸部で発電した電気を経済成長が著しい沿岸部に運ぶための送電網の投資も遅れている。国営送電会社2社は黒字だが、中国は国土も広く経済成長も想定以上に進んだ。努力しても解決は13年以降となるだろう」
 ――日本企業への影響は。
 「中国国内メディアによれば、今年5月から華中地区を中心に十数省で停電が発生している。供給制限の手法は省ごとに異なるようだが、送電停止の予告が直前になることも多いという。日本など外資系企業の多くは自家発電設備を整備しており、ただちに影響は出ない。だが中国での生産活動のリスク要因の1つになることは間違いない」
 ――今冬以降の状況はどうなるか。
 「冬場にも2800万キロワット程度の電力が不足すると言われている。電気料金の抜本的な値上げが認められれば、石炭火力発電所の稼働率も上がり電力不足は解決に向かうはずだ。だが、政府は何としてもインフレを避けたいと考えている。電力会社に補助金を出すという手段もあるが、そういった議論は聞かない。問題の解決は一筋縄でいかず、電力不足は長期化するだろう」
日本のエネ戦略 LNGなど影響
 福島第1原子力発電所事故を契機に、世界中でエネルギー問題の克服が大きな課題になった。中国では引き続き石炭火力発電が主軸だが、原発や液化天然ガス(LNG)火力など多様な電源の構築が課題だ。日本は原発の新増設が当面難しく、発電電力量の約3割を占めるLNG火力発電の稼働率を高めるのが、考えられる現実的な選択肢と言える。
 中国のガス火力発電は現在1%程度だが、環境意識の高まりもあり全国で建設計画が相次いでいる。隣国がLNG輸入を増やす動きは日本のエネルギー戦略に従来以上に大きな影響を与える。日本は中国の電力事情にも注意を払いながら今後の電力不足に対処する必要がある。

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