2011年7月6日水曜日

TOHOシネマズ社長中川敬氏

入場者数頭打ち集客策は シネコン、20万人都市にも
 国内の映画興行収入は2010年に過去最高を記録した。だが入場料金が通常より高い3次元(3D)映画の超大作がけん引したためで、入場者数は横ばい傾向。ここ10年で急増したシネマコンプレックス(複合映画館)には飽和感が強まり、戦略の見直しが迫られる。新たな料金体系などを試み始めた最大手、TOHOシネマズ(東京・千代田)の中川敬社長に今後の事業展開などを聞いた。
 ――東日本震災の集客への影響は。
 「関東と東北の計25劇場で、一時的に営業を休止したため、両地域の4~5月の興収で約10億円のマイナス要因となった。直営の全58劇場の1~6月の興収は前年同期に比べて17%ダウン。ただし震災の影響はこのうちの7%程度とみている。10年の同時期は『アバター』や『アリス・イン・ワンダーランド』など、興収が100億円を超すヒット作が多く、残る10%減は作品力の違い。レジャーの安近短志向はあっても、基本は作品次第だ」
 ――夏休みの見通しは。
 「ラインアップに期待している。洋画は『ハリーポッター』や『トランスフォーマー』など人気シリーズの最新作、邦画はファンの信用度が高いスタジオジブリの『コクリコ坂から』などで大きな数字が見える。7~8月は年間の興収の4分の1程度を占める稼ぎ時。昨夏は122億円と好調だったが、今夏も同じ程度までいければと考える」
 ――節電策も必要だ。
 「劇場内では冷房の設定温度を例年通りとして快適な環境を維持する。一方、東北・東京電力管内の劇場では約1億円をかけて空調の無駄な稼働を省く温度管理システムを導入した。発光ダイオード(LED)電球の切り替えも完了。看板の消灯やバックヤードの空調制限なども合わせて15%削減を目指す。中部電力管内より西の劇場でも順次導入を進める」
 ――シネコンは飽和状態との指摘もある。
 「これまでシネコンは人口40万~50万人以上の都市への出店が一般的だった。今年4月、試験的に20万人弱の長野県上田市に8スクリーン体制で進出した。すべてデジタル上映で映写担当者を置かず、自動券売機を導入して販売窓口の従業員も減らした。年間の入場者数は延べ30万人を目標とし、運営コストの抑制により収益は上がる見通しだ。人口20万人規模で映画館がない都市は少なくない。出店戦略の1つになる」
 ――「ODS(アザー・デジタル・スタッフ)」と呼ぶ映画以外のコンサートやスポーツイベントなどの上映を増やしている。
 「映画が基本であることは変わらない。ヒット作だけでなく、多様な作品の上映が必要だ。ただTOHOシネマズは計10万席ある。1日5~6回の上映で年間約2億席を販売しているが、平均稼働率は2割にとどまる。閑散期対策として、コンサートの生中継などのODSは有効だ。入場料金も2000~2500円と映画より高い。10年は約50本を上映して売り上げは8億円程度だったが増やしていきたい」
 ――一部劇場で3月から試験的に当日入場料金を300円引き下げた。
 「わかりやすい料金で映画館にライトユーザーの客足を増やすのが目的だ。逆にこれら劇場ではレディースデーや、深夜の割引料金などを取りやめたため、コアな映画ファンは高くなったと感じるかもしれない。夏休みの状況を踏まえ、それぞれの客層の評価を検証するのに年内いっぱいかかる見通しだ。ただ、市場の拡大には重要な試みと考えている」
記者の目
料金下げなど改革の成否注目
 日本映画製作者連盟によると2010年の国内の映画興行収入は09年比7%増の約2207億円だった。「アバター」など通常より入場料金が数百円高い3次元(3D)映画ブームが支えた。平均入場料金も1266円と過去最高で、3D効果が出た格好だ。
 入場者数も約1億7400万人と同3%増えたが、01年以降は頭打ちなのも確か。一方でスクリーン数は01年から3割増え、1スクリーン当たりの客足は減った。「新たなファン開拓とコスト削減が業界の課題」と話す中川社長。硬直した料金体系の見直しなど改革の成否に注目が集まる。
 なかがわ・たかし1975年阪大卒、東宝入社。映像本部宣伝部長などを経て、97年に取締役。2002年常務、06年専務に就任。10年5月から現職。京都府出身。61歳。

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