2011年7月4日月曜日

グッチ社長ディ・マルコさん――「イタリア製」にこだわる

歴史との思いが創る世界観
 東日本大震災で消費者の目はさらに厳しくなった。ラグジュアリーブランド、伊グッチのパトリツィオ・ディ・マルコ社長兼最高経営責任者(CEO)は「生命線である品質の高さをしっかりと伝える必要がある」と危機感を示す。そのため、インターネット通販の参入と並行して店舗を大幅改装する考えだ。創業90年を迎えた高級ブランドが日本でどう変わるのか。今後の戦略を聞いた。(聞き手は日経MJ編集長 三宅耕二)
ネット通販
年内に参入
 --大震災は売り上げにどう影響しましたか。
 「地震から2週間ほど直営店を閉めましたので、当然、売り上げに響きました。ただ、想像したほど落ち込みませんでした。夏以降については分かりません。高級ブランドですから、節電で店内が暗かったり暑かったりすると、ゆっくりと商品を選ぶ気持ちにはなりにくいですからね」
 --大震災で日本事業を見直す考えはありますか。
 「日本はグッチにとって重要な市場なので引き続き計画通りに進めていきます。とはいえ、日本を取り巻く環境は厳しいですね。市場は縮小する一方ですし、今後は伸びないだろうと思っています。1964年に東京・銀座に初の直営店を出してから50年近くになり、日本では認知度が非常に高くなりました。ただ、この15年ほどで高級ブランドにとって良い状況とは言えなくなりました」
 「80年から90年代初めはロゴがもてはやされる時代でした。一目見てグッチやルイ・ヴィトンと分かる商品が人気を集めましたが、今やすっかり変わってしまいました。もちろん日本のお客様はブランドを好きでいてくれますが、上から下まで同じブランドというのは過去の話です」
 「自分の個性を出せる商品しか選びません。主要販路である百貨店離れも非常に影響が大きいですね」
 --では、日本でどう伸ばしていこうと考えていますか。
 「今の時代だからこそよりグッチの生命線である品質の良さを訴える必要があります。グッチは時計だけはスイス製ですが、ほかの商品はすべてイタリアで職人の手によって作っています。日本にはすでに55店舗の直営店がありますが、増やす計画はありません。逆にこの価値をしっかり伝えられるように、店舗の改装や移転による規模の拡大を目指していきます」
 「日本人は消費者の目が肥えていますが、大震災でますます厳しくなってきました。いかに我々が本物の高級ブランドであるかを伝えるかが、さらに重要になってきたと言えます。店舗改装で逆にお客様の数は減るかもしれません。本当の価値を見いだすお客様に最高のおもてなしを提供し、客単価を高めてシェアを伸ばすことで生き残っていきたいと思います」
 --成長するネット通販市場にはどう対応しますか。
 「年末までにネット通販のサイトを立ち上げます。我々は、高級ブランドが通販を手掛けることに懐疑的だった2001年ごろに、米国で挑戦してきました。米国で学んだのはネット通販は1つの流通販路と機能し、実際の店舗とのお客様の取り合いにはならないことです。全商品を店頭と同じ価格でネットで販売していきますので、店舗で扱っていない商品でも自宅で手軽に買えます。ネットでの買い物体験でグッチをより身近に感じていただくことが目的ですね」
京都での展示
職人の技伝える
 --スマートフォン(高機能携帯電話)の普及が急速に進んでいます。
 「スマートフォンは全世界で重要性が高まっています。立ち上げ当初はパソコンサイトのみですが、消費者と接するうえで重要な手段ですので、その対応も当然視野に入っています」
 --6月25日から金閣寺(京都市)でグッチの貴重な商品の数々を展示しています。意外な組み合わせですが、その狙いはどこにありますか。
 「グッチの職人による伝統的な皮工芸品の素晴らしさを伝えるためです。京都とグッチの創業の地であるフィレンツェは姉妹都市という深い関係にあることから、今回の企画が実現しました」
 「90年代はブランドのロゴブームがありましたので、ファッションで伝統とかうたっても関係がなかったでしょう。ただ、人気に火が付いた半面、多くの日本人が手を伸ばしたため、高級ブランドが庶民的になったとも感じていました。もう一度、今の感性に微調整をしながらフィレンツェの伝統的な職人技を伝えていこうと考えました」
 --中国市場開拓には「ロゴ戦略」が有効では。
 「中国は20年前の日本と同じ段階にあると言えばそうですが、北京や上海のような中心都市では、すでに洗練されて値段が高い商品も求めるようになっています。(内陸部の)第2、第3グループの都市はまだ最初のブランドはロゴが入った商品にあこがれる人が多いです」
 「ロゴといってもロゴがすべて悪い訳ではありませんが、ロゴを作ればそれでいいというやり方だけでは難しいですね。ブランドに歴史や思いを詰めることが重要です」
業績データから
シェア争奪の時代に
 グッチの2010年度の売上高は27億ユーロ(約3156億円)で、前の期に比べて17%も伸びた。リーマン・ショックで消費が落ち込んでいた米国や欧州が復調してきたほか、中国などアジア事業の伸びが好業績につながったようだ。
 一方の日本。世界でも重要な位置を占めてきたが、ディ・マルコ氏は「市場は伸びない」と厳しい見立てだ。「日本で生き残るためにはシェアを高めることが必要」と語る。これは市場拡大の時代からシェアを奪い合う時代に入ったことを示す。
 ディ・マルコ氏はインタビューで何回も「伝統」を強調した。何も逆風ばかりではない。「ファストファッションの人気は過去となり、職人が作る高級品の価値が見直されてきている」と前を見据える。高級ブランド請負人の手腕に注目が集まりそうだ。
 Patrizio di Marco プラダ・ジャパンの最高財務責任者などの役割で5年間日本で過ごした経験を持つ。1993年から98年までプラダ・アメリカの社長兼最高経営責任者。2001年にボッテガ・ヴェネタの社長兼CEOとしてグッチ・グループに入社、苦境のブランドを世界有数の高級ブランドに押し上げた。09年から現職。

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