2011年7月13日水曜日

富士重の中計、安定志向脱却、吉永社長に聞く――「個性」で存在感高める。

 富士重工業が2015年度に連結営業利益で10年度比43%増の1200億円、世界販売台数で同36%増の90万台にする5カ年の中期経営計画をまとめた。中国市場へ本格参入し、10年以内に100万台超の自動車メーカーとなる礎を築く5年とする。これまでの安定志向から脱却し、規模拡大にカジを切る。吉永泰之社長に背景を聞いた。
 ――どんな問題意識で中計をまとめたのか。
 「自動車産業は世界的には成長産業だ。新興国を中心に伸びる。ただ、市場が成長する中、現状の60万台規模では、下手すると埋没しかねない。当社はこれまでしばらく60万台規模でいた。現状維持を支持する声も社内にあるが、それを許してもらえない競争の環境下にある。危機意識を社員皆がもたなければならない」
 ――中計の発表の席では「規模」という言葉を繰り返し強調した。
 「正面向かって『規模を拡大する』と言ったのは今回が初めてだ。もちろん、いたずらに規模を追うつもりはない。当社がこれまで生き残れてきたのは、信頼を大事にするまじめなものづくり集団としての文化が根づいているからだろう。ただし、まじめゆえに変化に疎い。変化を得意としない社風があった。危機意識をあおるつもりはないが、変化を恐れるなというメッセージだ」
 ――規模とスバルの個性をどう両立させるのか。
 「『量』ではなく『個性』で存在感を高める。スバルの走りの楽しさはよくお客様にも理解してもらっているが、『安心』という柱を明確に打ち出す。衝突回避装置の『アイサイト』など、先進技術を全車種、海外への展開を拡大する」
 「当社の源流は中島飛行機という飛行機メーカーで、安全を重視する気風が今も根っこにある。例えば、ハイブリッド車で先行するトヨタ自動車と同じようなことを追求しても、当社の企業規模では難しい。アイサイトは周囲から浸透させるのは厳しいという指摘もあったが、今や搭載率は75%に達し、他社との差異化に貢献している」
 ――中国の奇瑞汽車と大連市での合弁工場の交渉をしている。進捗は。
 「合弁相手とは交渉を続けているところだ。条件は煮詰まりつつある。今は中国政府の認可が下りるのを待っている。下りれば、すぐにプロジェクトを実行に移せる体制を整えている」
 ――15年度に中国で現状の3倍の18万台に増やす。達成への自信は。
 「市場調査の結果、保守的に見積もっても18万台という目標値が出た。十分にいける。販売店網も2倍の250拠点に広げ、沿海部のほか、内陸部の大都市も開拓する。現地生産を決心した以上、今回の目標値ぐらいは狙わないといけない」
 ――来春に軽自動車の生産を終える。群馬製作所本工場の跡地利用は。
 「トヨタ自動車と共同開発している小型スポーツ車を生産する。ただし、スポーツ車は生産変動が大きいため、稼働率を平準化しづらい。排気量660cc超の登録車も一緒につくる。『ブリッジ生産』という概念で、需要動向に応じて生産車種を柔軟に切り替える。車種は最終決定していないが、どの車種でも対応できる」
記者の目
健全な危機意識 成長への活力に
 新中計はアジアなど新興国市場の開拓が柱。成長志向を強めるうえで、「健全な危機意識が土台として必要だ」と吉永社長は強調し、おっとりとした社風に揺さぶりをかける。危機意識を成長への活力に変えたいという思いがにじむ。
 ただ、富士重はかつて日産自動車や旧日本興業銀行からトップを招き、庇護されてきた歴史が長い。「甘え体質がまだある」(富士重OB)との指摘もある。吉永社長は「変化」と「自立」を求めるが、生き馬の目を抜く自動車業界で勝ち残るため、社長にも社員にも風土改革の覚悟が問われる。

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