2011年7月15日金曜日

コメット社長鈴木摂氏―素材開発の独自装置外販

 卓越した技術を持っていても稼げないベンチャー企業――。素材開発を請け負うコメット(茨城県つくば市)も例外ではなかった。独立行政法人の“お墨付き技術”を抱えながら赤字続き。2年前に社長に招かれた鈴木摂(60)は先端技術の流出を恐れず、社内だけで使っていた装置の外販に踏み切る。「レーサーにしか運転できないF1カーじゃ駄目なんだ」
 コメットは2007年に産声を上げた。物質・材料研究機構と東京工業大学が培った「コンビナトリアル」という物質融合技術の独自手法を、大きなビジネスに育てるつもりだった。
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 コメットは通常、3カ月かかる素材開発を3日前後で終わらせる。いくつもの材料を重ねて、最も薄い場合で0・2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの膜に仕上げ、配合が異なるポイントを約300カ所つくり、その性質を一つ一つ調べあげる。つまり1枚の膜をつくるだけで、新しい素材に適した“材料のレシピ”を探すことができるのだ。
 画期的な技術だが、設立から2年間は「開店休業」の状態が続いた。そこに08年9月のリーマン・ショックが追い打ちをかけた。
 大学の同窓でコメット取締役の知京豊裕(52)から誘われ、09年2月に社長に就いた鈴木は、すぐに決断する。「素材開発の仕事を請け負うだけではなく、その技術を装置として売るべきだ」
 鈴木自身も技術にこだわってきたエンジニアで、装置を外販すれば技術流出のリスクがあることは百も承知。ただ、10年以上、激しい受注競争を繰り返す半導体の量産装置に携わってきた。「完成された技術を持たない企業は存在意義がない。一方、技術はあっても、ビジネスができない企業は継続できない」
 鈴木の方針で、使いやすさと安全性に気を配った装置の開発が始まった。1年後の10年夏に売り出した第1号モデルは4000万円近くと高価だったが、予想以上に売れた。もともと、コンビナトリアルへの関心は高く、大手メーカーや大学から引き合いがあった。「商談が次々と舞い込み、休む暇がなくなった」
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 10年度のコメットの売上高は、09年度の7倍にあたる約7000万円となり、最終黒字も達成した。収益がしっかりすれば、取引先の不安も減る。茨城県などが出資する官民連携ファンドも出資したため、素材開発の依頼も増えた。11年度の売上高は1億円の大台を突破する見通しだ。
 わずか2年で成果を出した鈴木だが「マネジメントは勉強中」と控えめ。ただ、「まじめに取り組んで顧客の信頼を得る――。それを続けていれば会社は自然に大きくなっていく」と確信する。「本来、技術屋は楽天的だ。みんな、できると思って技術開発に打ち込む。そんな人々が安心して働ける環境を整えたい」
 コメットの使命については「日本の素材開発を支えること」とズバリ。鈴木は半導体の量産装置開発に携わり、日本の栄光と衰退を目の当たりにした。「同じ失敗は繰り返したくない」

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