日本の販売目 標震災で1割減に
来日した伊フィアットグループの高級車メーカー、フェラーリのルカ・ディ・モンテゼモロ会長(フィアット前会長)が日本経済新聞のインタビューに応じ、グループの経営戦略や業績、市場動向の見通しなどについて明らかにした。主なやりとりは次の通り。
――日本市場における東日本大震災の影響はどの程度出ているか。
「昨年の日本市場でのフェラーリの販売実績は約400台。今年もほぼ同程度を予定していたが、震災直後にこの目標を10%程度引き下げた。震災が消費者心理に影響したせいか、5月まではたしかに引き合いが鈍ったが、6月以降は明らかに改善傾向にある。もともと需要は販売目標の2倍程度はあるとみているので、先行きはそれほど心配していない」
――世界でのフェラーリの販売動向はどうか。
「フェラーリ最大市場の米国は前期比12%増。急成長する中国市場は前期比で約30%増え、昨年の4位以下から3位に浮上する見通し。今年2位になるドイツを抜くのも時間の問題だろう。フェラーリ初の4人乗り、四輪駆動車『FF』などの戦略製品も順次、市場に投入するし、今春、参入したインド、ウクライナの市場も安定した成長が見込める。昨年の販売実績を上回る勢いだ」
――昨年3月のジュネーブ国際自動車ショーでフェラーリ初の高級スポーツ・ハイブリッド車(HV)を発表した。
「環境保全への取り組みを強化している。これは決して自動車業界内での横並び意識からではなく、消費者が求めている製品を提供するのがメーカーの責務だと考えているから。3年以内には販売にこぎ着けたい」
――フィアットの前会長として2009年の米クライスラーとの資本提携を主導してきた。シナジー効果は出ているか。
「徐々に出ているし、今後も十分に期待できるだろう。クライスラーとの資本提携のメリットは主に部品・車体の共用化と販売網の乗り入れだ。フィアットにとっては念願の米国市場への再参入の足場を得たし、製品のラインアップにクライスラー車が加わることで欧州市場での販売攻勢も強化できる。次世代車開発への巨額投資に備えなければならないし、クライスラーは業界で生き残るための重要なパートナーだと考えている」
――フィアットのマルキオーネ最高経営責任者(CEO)は2、3年でクライスラーと経営統合し、本社を伊トリノから米国内に移転する可能性を示唆している。
「国際競争力を高めるため、現在、イタリア国内にあるフィアットの工場で労組と労務協約を改革する方向で協議している。だがこれが必ずしも円滑に進んでいない。改革が進まないならば、様々な選択肢があるという理論上の可能性に言及したにすぎない。フィアットにとってトリノは発祥の地。イタリアの国内経済への影響も大きいし、本社が簡単にイタリアを離れることはない」
――独フォルクスワーゲンがフィアット傘下のアルファロメオの買収に興味を示している。
「グループにとってアルファロメオは欠かせない会社。ブランドイメージが高いうえ、固定客も多く、傘下に抱えているメリットは大きい。米市場参入の切り札でもある。たとえ買収の提案があっても受け入れるつもりはない。アルファロメオが抜けたら、グループは計り知れない打撃を受けることになる」
1947年伊ボローニャ生まれ。ローマ大卒。F1フェラーリチームのマネジャー、フィアット幹部などを経て、2004年、創業者一族のウンベルト・アニェリ会長の死去に伴いフィアット会長に就任。10年4月、創業家のジョン・エルカン氏に会長職を譲る。現在はフェラーリ会長兼フィアット取締役。次期首相候補にも名前が挙がっている。63歳。
記者の目
伊の工場改革 残り時間少なく
後継のエルカン会長(35)が独り立ちするまで、フィアット創業家の代理人として振る舞うことが許された唯一の人物。実務はマルキオーネCEOに任せているが、現在もグループ内に隠然たる影響力を持つ。
グループの最高実力者として2000年代の経営危機を乗り越え、クライスラーとの資本提携を実現した“知将”は、提携のシナジー効果が浮沈のカギを握るとみる。
「早くても年末以降」と見られていたクライスラーの子会社化を前倒したのはそのため。掲げた目標は年産600万台。業界上位に食い込まなければ生き残りは難しい。
目下、取り組んでいるのが「米市場への再進出」と「イタリア国内工場の改革」。特に後者については「国際基準で考えなければ時代に取り残される」と何度も熱弁を振るった。ただ残された時間はそれほど多くない。
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