2011年7月19日火曜日

日本企業の収益は―野村ホールディングス会長古賀信行氏

 東日本大震災から4カ月余り。政治の迷走は止まらず、株式市場も不安定な展開だ。日本企業は円高に加え電力不足という制約条件も課せられ、産業の空洞化が加速する懸念も強まっている。野村ホールディングスの古賀信行会長に経済や市場の先行きを聞いた。
40%近く増益に
 ――景気の持ち直しを指摘する声が増えてきましたね。
 「リーマン・ショックの後もそうだったが、どすんと落ちた生産活動や株式相場が、その反動でV字型に回復してくるのは当然。特に今回は、部品や素材の供給網の回復が予想以上に早い。このペースが年内いっぱい続き、ふり返れば回復の力強さが実感できる年になるのではないか」
 「われわれの予想では、今年度上期の主要400社の経常利益は、前年同期に比べて約30%減る。ところが下期は40%近く増え、さらに来年度上期は40%強の増益が続く見通しだ。自動車が供給網をいち早く立て直し、生産を正常化させることが、企業収益の回復を引っ張る」
 ――日本企業の業績は海外市場の動向に大きく左右されます。
 「最も気になるのは中国だ。金融の引き締めにより、一部の不動産価格が下がり始めた。とはいえ、景気の調整があったとしても一時的なものと考える。1990年前後に不動産バブルの隆盛と崩壊を経験した日本人には、当時の状況と今の中国を重ねようとする心情もある。しかし、それは違うだろう」
 「日本の不動産バブルは、こんな土地の値段がどうしてこれほど急騰するのかと思うような例が多かった。実需の裏づけを欠いた金融ゲームだ。中国の不動産市場も過熱しているのだろうが、沿海部を中心に実需も強い。かつての日本のような空前のバブルが発生しているとは思わない」
 ――円高や電力不足への懸念は。
 「為替やエネルギーに関する政策が迷走しすぎている。過去にも『事業会社が本社や生産拠点を海外に移す』といった議論が繰り返された。今では聞きあきたオオカミ少年の警告のように受けとめる向きもある。けれども、今回ばかりは企業の我慢が臨界点を超えるかもしれない」
 「国内に置いてきた開発拠点をあえて外に出す、といった動きが出るような気がする。需要は新興国を中心とする海外で膨らんでいくのだから、そこで一貫して開発から生産まで手がける方が効率的と考える企業も、少なくないだろう」
政策不透明嫌う
 ――投資家は今の日本をどのように見ているのでしょうか。
 「大事なことは、先が見通せるという前提条件だ。合理的に判断した結果ならば、仮に損が出ても投資家は納得する。今の日本はエネルギー政策を中心に不確実性が強まっており、合理的な判断をしにくい」
 「国を開く雰囲気が弱まっていることも、日本への投資が盛り上がらない一因だろう。日本企業が海外企業を買う『内―外』のM&A(合併・買収)は活発だが、海外から日本への『外―内』のM&Aは少ない。技術やノウハウを守るという意識が強すぎるために、外資を遠ざける結果になっているのではないか」
 ――経済の復旧・復興に金融が果たす役割は。
 「インフラファンドなどの形で、官民一体となってお金を生かす仕組みづくりなどが考えられる。しかし、それも復興の政策がはっきりしていることが大前提。官の意思がしっかり示されないと、国内はもちろん、海外からお金を呼び込むことも難しい」

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