ライバルの低価格攻勢で苦境に立たされた米トイザラスが再生を果たし、再び成長路線へと踏み出している。赤ちゃんから子どもまで継ぎ目のない関係を築き、ネットでも新たな仕掛けを組み込みつつある。キーワードは融合だ。このほど来日したジェラルド・L・ストーチ会長兼最高経営責任者(CEO)に日本戦略、店舗とネットの新しい関係について聞いた。(聞き手は編集委員 田中陽)
――米トイザラスは経営不振から立ち直りました。再生のポイントは何だったのでしょうか。
「ルーツに戻ったことです。我々の存在意義はおもちゃと赤ちゃんのためにあるということを改めて認識しました。スペシャリティー(専門性の高い)なお店をもう一度取り戻そうと基本にもどりました。かつてのトイザラスは大量に商品を仕入れて、大量に売ることで品ぞろえの幅がなくなり客離れが起きました」
「トイザラスという社名は全米で知らない人はいません。両親からおもちゃを買ってくれた楽しい思い出を誰でも持っています。ホットな商品、すばらしい(接客)サービスを提供し、安全性も担保します」
――具体的には。
「安全性の確保には積極的に投資してきました。品質安全の部署では取引先とも協力して徹底的に調べます。問題が表面化する前にちゃんと迅速に対応できる組織になっています。私自身も個人的に規制当局とも話し合いを持ち、社外の専門の第三者とも関わりをもってきました」
「こうした取り組みはトイザラスのサイトでもきちんと紹介されています。お客さんからの信頼を勝ち得ることで業績も好転してきたのです。子供を持つ親にとって安全は何よりも大事なことです」
――日本に1号店を開いて20年ですね。
「米国に次ぎ世界第2の規模になりました。少子高齢社会ではありますが、まだまだたくさんの赤ちゃんや子どもがいます。非常に重要な国です。日本市場で特徴的なのはお子さんの成長、発達、教育に関連するおもちゃに関心が高いことですね。英語を学ぶためのコーナーを作ったところ、その場所には必ずお客さんが立ち止まり、商品を手にとっています」
――日本には出店余地はまだあると。
「米国で約850店があり、日本は170近くですからまだあります。進出当初は郊外のロードサイドでの出店ですが、今では商業施設内の出店もあります。店舗面積の規模も様々なものに対応していきます」
「日本の玩具は独創的なので、それを世界中のトイザラスに紹介するのも仕事です。タカラトミーのミニカー『トミカ』やエポック社の『シルバニアファミリー』などがその例です」
子供市場に
こだわり続ける
――赤ちゃん用品を扱うベビーザらスと玩具のトイザらスの融合が進んでますね。
「2つの業態を合わせた業態をサイド・バイ・サイドストアと呼んでいます。赤ちゃんから子どもまで続く関係を築くための大切な取り組みだと考えています。これは世界戦略です。初めて赤ちゃんを産むお母さんには相談にのり、不安を解消する接客も心がけています」
「サイド・バイ・サイドストアのパフォーマンスが一番いいのが日本です。日本トイザらスのモニカ・メルツ社長兼CEOがカナダ時代に作ったもので、それを米国、日本でも進めてきました」
「現在、日本には45店のサイド・バイ・サイドストアがありますが、既存店の改装などで年末までに57店までしていきます。新店もいい条件の話があればやりますが、今はすべての店舗のサービスレベルを引き上げて標準化していくことに注力し、既存店舗の改装を重点的にしています」
「サイド・バイ・サイドストアの特徴は、玩具だけだと需要のピークがクリスマスシーズンに偏ってしまうところを、赤ちゃん関連商品を扱うことで通年型の店舗運営が可能になります」
――ネット通販の取り組みはどうですか。
「日本での構成比はまだわずかですが、米国では10%に迫り成長著しい分野です」
「強調したいのは店舗とネット通販の違いはなくなり融合していくものと見ています。例えば、ネットで注文した商品を店舗で受け取ったり、店舗で見つからなかった商品をその場でネットで注文したり。いろいろなオプションが考えられます」
「フェイスブックやツイッターなどの交流サイト(SNS)とも連携し、商品のレーティング(格付け)を能動的にやっていきたいです。お客さんにとってベストなソリューション(解決策)を提供します。楽しみにしていてください」
――顧客の年齢層を上に上げていくことはありますか。
「ないです。米トイザラスにはこんな諺(ことわざ)があります。『トイザラスは永遠に子どもなのです』。WE LOVE KIDS(私たちは子どもたちが大好きです)。これがトイザラスのモットーです」
米トイザラスの業績が堅調だ。2011年2~4月期の連結売上高は1%増。知育玩具や定番玩具が伸びた。ストーチ会長兼CEOは「玩具は安定市場」と強調する。リーマン・ショックの08年も百貨店などほかの小売企業のように売り上げが落ちなかったという。「親にとって子供にかける費用を削るのは最後の手段」(ストーチ会長)と分析する。
同社は05年、大手買収ファンドであるコールバーグ・クラビス・ロバーツなどの3社連合によって買収された。
その後、改装や不採算店閉鎖など経営の立て直しを進め、09年には同業のFAOシュワルツを買収するなど事業拡大への投資を本格的に再開している。昨年には新規株式公開(IPO)を米証券取引委員会(SEC)に申請したもようだ。
日本トイザらスは春に池袋店をサイド・バイ・サイドストアに改装した
Gerald L.Storch マッキンゼー&カンパニーでパートナーとして小売・金融業界を担当した後、1993年米ターゲット・コーポレーション入社。食料品ビジネスを成長させ、同社副会長に。2006年米トイザラスの会長兼最高経営責任者(CEO)就任。09年にネット通販会社を買収するなど成長戦略を指揮。
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