2011年7月19日火曜日

パレスチナ開発投資会社会長に聞く、イスラエルとの中東和平交渉。

「合意なら大きく経済発展」 サービス・製造業の育成が課題
 パレスチナ開発投資会社(PADICO)のムニブ・マスリ会長は日本経済新聞の取材に応じ、イスラエルとパレスチナ自治政府の中東和平交渉について「合意に達すればパレスチナ自治区は大きな経済発展を遂げられる」との見通しを示した。一方で堅調な経済成長が続く自治区経済については「依然としてイスラエルの経済活動への妨害が多い」と話し、満足のいく企業活動ができないとの認識も示した。
 PADICOは通信や金融サービス、観光、不動産など自治区内の産業振興につながる幅広い分野に投資している。パレスチナ証券取引所はPADICOの子会社。ヨルダン川西岸のベツレヘムやガザ地区に高級ホテルも建設した。
 ヨルダン川西岸はここ数年、衝突が沈静化していることもあり昨年の経済成長率は7・6%と高い。ただマスリ会長は「資本は臆病で、この地域はリスクだらけだ」と述べ、投資マネーが本格的に流入していないとの見方を示した。2000年代初めの第2次インティファーダ(民衆蜂起)時には10%前後のマイナス成長が続き、経済の現状は「元の水準に戻っただけ」と言明。ビジネス環境は依然として厳しいという。
 ヨルダン川西岸では現在、ペルシャ湾岸諸国などに出稼ぎするパレスチナ人の海外送金で、住宅建設が増えている。こうした現象についてマスリ会長は「住宅建設は産業の振興にほとんどつながらず、生産的ではない」との見方を示した。
 仮に将来、パレスチナ国家が樹立されたとしても「パレスチナの経済を立て直すには時間がかかる。ガザの20~30%はイスラエルの侵攻で破壊された」と非難。「アラブ諸国には支援する責任がある」とも話した。今後のパレスチナ経済の課題として、雇用の創出につながるサービス産業や製造業などの育成を掲げた。
 今年9月に自治政府が目指すとしている国連総会のパレスチナ国家承認については将来の正式な国家樹立につながらなければ「再びインティファーダが起きるかもしれない」と警告。「イスラエルとパレスチナは隣人だ。協力すれば双方に利益がある」と訴えた。

 ムニブ・マスリ・パレスチナ開発投資会社(PADICO)会長 パレスチナの代表的実業家。米石油大手のフィリップス(現コノコフィリップス)を経て1970年、ヨルダン政府の公共事業相。93年にPADICO設立。ヨルダンを拠点とする金融機関アラブ・バンク、パレスチナ自治区の中央銀行にあたるパレスチナ金融機構の幹部も歴任。故アラファト議長の元側近で、自治政府首相を打診されたこともあるという。パレスチナ有数の富豪としても知られる。米テキサス州立スル・ロス大学で地質学の修士号を取得。

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