2013年1月29日火曜日

ブランド死守したネスレ――原則貫くグローバル経営を



 サントリーホールディングス(HD)は中核会社のサントリー食品インターナショナルを、年内にも上場させる。狙いは世界市場で成長するための資金調達。そんなサントリーHDが、グローバル企業へ脱皮するための指標としているのがネスレだ。
 ネスレは世界140カ国以上で事業を展開し、年間売上高は7兆円を超える。歴史を感じさせるエピソードも多い。スイス本社の経営会議には、紀元1000年から2012年までの国別の国内総生産(GDP)の表が出てくる。
 ネスレの日本進出は今年でちょうど100年。インドや中国もほぼ1世紀だ。日本法人のネスレ日本(神戸市)には労働組合もあり、平均勤続年数は長い。雇用のあり方は日本企業的だが、ビジネスのやり方は日本離れしている。
 数年前、ネスレ日本はイオンと大げんかした。イオンがプライベートブランド(PB=自主企画)でネスレのチョコレート菓子「キットカット」に似た商品を発売し、大量に陳列した。しかもその横に本物のキットカットをわずかな量だけ並べていたのだ。
 ネスレ側はこの「仕打ち」に激怒。イオンは売上高の約10%を占める最大の販売先だったが、一切の販促費を止めた。イオンにおけるキットカットの販売は減少。ネスレ日本の売り上げも落ち込んだが、平然とこう言い放った。「キットカットは中身をPBと入れ替えたとしても必ず売れる」。その価値がわかっていないことへの抗議だった。
 「本物のブランドは味と品質に優れるだけでなく、消費者の感情に入り込んでいる」とネスレ日本の高岡浩三社長は話す。グローバル成長には世界共通のメガブランド商品が不可欠。それを育てるには時に販売減のリスクを冒してでも、ブランド価値を守るこだわりが必要というわけだ。
 日本企業の商品が味や品質で劣っているわけではない。だが毎年大量に商品を出し、短期間で店頭から消えていく。生産と販売はあってもいまだに商品を消費者に根付かせるマーケティング力が弱い。世界どころか、国内でもブランドは育ちにくいのが実情だ。
 ちなみにイオンとはその後、関係を修復した。イオンもこうした経験をへて「メーカーブランドの類似品だけではPBは成長しない」ことを理解した。PBの開発力が向上するきっかけになったという。
 ネスレ日本がブランドとともにこだわるのは利益率だ。同社では営業利益率が10%に達しない事業は撤退の対象となる。
 洋風だしの「マギーブイヨン」は黒字だが、利益率の目標は未達。洋風だしとしてはブランド力のあるマギーをやめるのは消費者への不利益になる。そこでネスレ日本では今春から販売活動をすべて食品卸に移管することを検討している。営業費用を抑えて事業コストの圧縮につなげる考えで、やはり原則を貫く。
 ネスレの場合、自国市場の狭さが海外進出を促した。成長力は失っても日本は大きな市場。居心地の良いホームグラウンドを離れ、いかにアウェーでブランドを根付かせ、利益を上げるか。グローバル経営に挑む日本企業の課題だ。

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