2013年1月30日水曜日

GMに見るトップの資質――伝える力、明暗分ける

有限実行・ウィッテーカー氏 意識改革を最優先 任務終え潔く去る
美辞麗句・ワゴナー氏 雄弁だが実行力不足 抜本改革先送り
 米アップルの故スティーブ・ジョブズなど、米企業には優れた「伝える力」を持つ経営者が多い。一方、美辞麗句ばかりで実行を伴わない人物も少なくない。かつて世界で経営のお手本とされながら、2009年に経営破綻した米ゼネラル・モーターズ(GM)も経営者の資質に翻弄された1社だろう。2年弱で次々に交代した4人の経営者の言葉から、リーダーに必要な条件を探った。(1面参照)
  「(GMの経営危機の原因は)経営ミスではなく世界金融危機だ」リチャード・ワゴナー(59、CEO在任期間=00年6月~09年3月)
 08年のリーマン・ショック後に経営危機に陥ったGM。当時のCEOのワゴナーは、政府に救済を請う際、首都ワシントンに自家用ジェットで乗りつけ、平然と「経営ミス」を否定した。
 高額報酬などCEOの特権に比較的に寛容な米国でもさすがに怒りが噴出。次の公聴会からデトロイト―ワシントン間の800キロメートルを車で往復するはめになっただけでなく、GM救済に批判的な世論に火を付け、法的整理の流れを決定づけた。
 ワゴナーはハーバード大ビジネススクール出身。雄弁で理路整然とした語り口は説得力を持ち、株式アナリストや地元記者の人気は高かった。00年のCEO就任時に発表した「10年後のGMの姿」では「小型車を減らし大型車を増やす」と宣言。その言葉通り、GMの米国販売に占める大型車比率は、00年の49%から07年に61%に高まった。この時点では抜群の「伝える力」を示した。
 だが、ガソリン高を背景に消費者が低燃費な小型車を求め始めると事態は一変する。表面上は小型車シフトや人員削減を進めたが、「仲良しクラブ」と称された取締役会に危機感は薄く、抜本的な改革を先送りした。
 05~08年のGMの累計赤字は約8兆円。09年3月、ワゴナーは発足間もないオバマ政権にCEOの座を追われ、GMはその3カ月後に連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を申請する。
  「同じことを繰り返しながら『変化』を期待する。アインシュタインはこれを狂気と呼んだ」フレデリック・ヘンダーソン(54、09年3月~09年12月)
 ワゴナーの解任を受け登板したのはナンバー2だったヘンダーソン。雄弁で華のある前任者に対し、有能な実務家タイプだった。法的整理を経て「新生GM」が発足した09年7月の会見で、アインシュタインの言葉を引用し、変革への決意を打ち出した。
 過剰設備の削減やブランドの再編、販売網のスリム化など再建に必要なリストラを進めたが、就任からわずか半年で突然、取締役会から退任を迫られる。当時、言われたのは「企業体質の変革」という最も重要なタスクへの切り込み不足だ。
 社内力学が優先し失敗のリスクより問題先送りを選んでしまう。ヘンダーソンは言葉では「官僚体質の打破」など変化を訴えたが、実行力が足りなければ思いは組織に伝わらない。これは前任者と共通する点だろう。
  「普通の企業に2度目のチャンスはない。再度チャンスをもらった以上、GMは必ず再建を成し遂げなければならない」エドワード・ウィッテーカー(71、09年12月~10年9月)
 続いて就任したウィッテーカーについても、当初手腕を不安視する声があった。元AT&T会長で、総額25兆円の相次ぐ買収により地域の弱小通信会社を世界最大にした実績を持つが、自動車業界は門外漢だったためだ。だが、GM社員はすぐに、彼が有言実行の人であることを痛感する。
 「最優先するのはヒトの意識改革だ」。就任と同時に、ヘンダーソンができなかった企業体質の改革に着手すると宣言。幹部には「12週間で結果を出せなければ(会社を)去ってもらう」と通告した。最高財務責任者を含め、経営幹部の大半が入れ替わった。
 当時、あるGM幹部は「明らかに会社の空気が変わった」と語った。巨大組織にトップの強烈な意志が浸透。これがGM再生の原動力のひとつになった。だが、ウィッテーカーはGMの株式市場への再上場にメドを付けた10年9月にあっさりと退任する。引き際でも有言実行ぶりを示した。
  「(ビジネスは)現代の戦争だ。勝たねばならない」ダニエル・アカーソン(64、10年9月~現任)
 わずかな期間で4人目のCEOとなったのは、海軍士官学校卒という異色の経歴を持つアカーソン。通信会社やIT企業の経営トップを歴任、03年以降は米投資会社カーライル・グループで企業買収を統括した。言葉数は少ないが、周囲は「目標を立ててそれを完遂することに関しては妥協がない。そこは海軍式だ」と話す。能弁な経営者が多い米国では珍しい不言実行タイプといえる。
 GMは6月で経営破綻から丸4年。08年に309億ドルの赤字だった北米事業は、11年に76億ドルの黒字に転換した。ただ不振の欧州のてこ入れなど課題も多い。再建の総仕上げへ真価が問われる。

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