2013年1月30日水曜日

コマツ、ダントツ男の有終、坂根会長、6月相談役に、キャタピラー越え、後輩に託す。


 コマツは29日、4月に大橋徹二取締役専務執行役員が社長に昇格し、野路国夫社長が会長となる人事を発表した。次期経団連会長候補にも名前が挙がっていた坂根正弘会長は取締役相談役に就き、6月には取締役を退任する予定だ。坂根氏は2001年度に史上初の営業赤字に陥った同社の経営を引き受け、米キャタピラーに対抗する「世界のコマツ」をつくった立役者だ。論客としても定評があるが、とりあえず経営者としての幕を引くことになる。(関連記事29面に)
 「ダントツを目指せ」。坂根氏は社内の誰かれ構わず、今もこう発破をかける。「大事なことを繰り返しシンプルに発信し続けるのが経営者」というのが信条。「ダントツ」は自身が見つけ出した“社是”だ。
 坂根氏が社長に就任したのはコマツが大幅赤字に陥った01年度。関連会社売却や人員リストラに着手する一方、新たな仕掛けとして「ダントツ・プロジェクト」を推進。コマツの製品開発の在り方を抜本的に改め、今の会社の布石をつくった。
 商品開発の際に、従来製品から原価を10%下げる。一方で、浮いたコストで、「重要な性能で他社が数年かかっても追いつけない特徴を持たせる」(坂根氏)。成果の代表例は08年に業界に先駆けたハイブリッド建機だ。エンジンと電気モーターを組み合わせ燃費性能を高めた。「坂根路線」を引き継いだ野路社長が商品化を実現した。
 全地球測位システム(GPS)を使った機械の管理システムも率先して構築した。「ダントツ商品」から「ダントツサービス」へ。野路社長は「今は『ダントツ・ソリューション』の段階に入った」と話す。
 コマツが今、全力で取り組んでいるのは自動化機械「ICT(情報通信技術)建機」の開発だ。GPSやセンサーを利用し、現場の作業を自動化できる機械を開発することで、顧客の仕事の負荷を抜本的に軽くすることを見込む。
 坂根氏のもう1つの持論は「国内製造業はまだまだ戦える」というもの。コストを総原価でとらえず、不要な固定費を削減すれば、国内工場の競争力は海外と比べて決して低くないという考えだ。
 これは01年の事業再構築の際に、全社の固定費を削減するなかで得た実感に基づいている。実際、コマツの国内生産比率は55%に上るが、金融危機や東日本大震災の際、多くの企業が赤字に陥るなかで利益を出し続けた。国内製造業の空洞化が進むなかでも、坂根氏は他のメーカー関係者にエールを送り続けてきた。
 「電気自動車は完全に環境フリーではない。なぜなら電気を生み出す際に化石燃料を使うからだ」。昨年12月。都内で開かれたある環境イベントで、坂根氏は多くのEV関係者を前にしつつもこう喝破した。経営者としての実績に加え、歯に衣(きぬ)着せぬ言動を魅力とし、国内の講演会では引っ張りだこだ。
 坂根氏は10年から経団連副会長を務めている。来年交代を予定する米倉弘昌会長の後任候補として名前が挙がっていたが、経団連会長には現職の会長・社長が就任するのが通例。相談役に退く坂根氏の就任は、遠のいたようにみえる。
 ただ坂根氏は安倍政権肝煎りの産業競争力会議のメンバーにこのほど選出されたばかり。建機世界最大手のキャタピラーはコマツの売り上げ規模の2倍強。目標のキャタピラー越えは後輩に託し、坂根氏は論客として活躍の場が広がりそうだ。

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