2013年1月29日火曜日

日本交通社長川鍋一朗さん――移動+αで顧客つくる



総合サービス業に進化
 スマートフォン(スマホ)の配車アプリ、子供の送迎タクシー――。タクシー大手の日本交通(東京・北)が次々と新サービスを打ち出している。法人需要が減少するなか、川鍋一朗社長は「タクシーは拾う時代から選ぶ時代」と見定め、マーケティングとIT(情報技術)の活用による顧客創造にまい進する。目指すのはタクシーの、運送業から総合サービス業への進化だ。(聞き手は日経MJ編集長 三宅耕二)
ITをテコに
マーケティング
 ――2年前、スマホのアプリを使う配車を始めました。
 「全国の約70社と提携し、1万6000台での利用が可能です。スマホでの配車は累計10万台を超え、全体の10%に達しました。利用者は雨の日に電話が混んでいる時も注文しやすく、会社側はオペレーターを介さずに受注できるので配車業務が効率化できます」
 「1万6000台の全国ネットワークは大きな力です。やる気のある会社がいざという時団結すれば、業界全体を動かしやすくなります。将来、M&A(合併・買収)の相手探しにもネットワークが役立つでしょう」
 ――コンサルティング会社から老舗タクシー会社トップへの転身です。
 「父から3代目社長を継いで8年になります。当時から『タクシーを拾う時代から選ぶ時代にしたい』と言い続けてきましたが、今は一歩進めて『ITとマーケティングでタクシー業界をリードする』と社員に説いています。従来、この業界にはマーケティングが欠けていました。ITはこうした思考を導入するテコになります」
 ――タクシー会社の経営にマーケティングをどう生かすのでしょう。
 「タクシー業界は客を『つくる』努力を怠ってきました。A地点からB地点に移動する客を乗せるだけ。バブル崩壊でそうした客が減ると行政が悪い、規制が悪いとなる。輸送人員を増やすには、タクシーを使っていない人に使ってもらうよう考えねばなりません」
 「若者を中心に車を持つ人は減っています。公共交通機関は容易に増えません。これに少子高齢化も考え合わせた結果、子供だけ運ぶ『キッズタクシー』や介助付き『ケアタクシー』のアイデアが生まれました。他人に任せず自ら子供を送迎する親や、高齢の親を介助する子供がいます。これを代替すれば新たなタクシー需要が生まれます」
観光タクシー
需要増を期待
 ――それぞれ成果は出ていますか。
 「開始から2年たち手応えを感じます。まずヒットしたのがキッズで利用者は月300件。2年前に27人だった専門運転手は63人に増えました。やる気がある人を面接して、スマホが使えるようにしています。救命救急の資格を取る研修も施します」
 ――資格や研修で運転手の負担が増えます。やる気をどう高めますか。
 「キッズタクシーは1時間当たり4550円。距離ではなく時間制の料金で、認可も受けています。朝の時間帯は『流し』でも売り上げが5500円になりますが、午後は2000円台に下がります。そこで4550円は『おいしい』。平均単価も流しより高くなります。これなら運転手もやる気が出ます」
 ――昨年には観光タクシーを始めました。
 「例えば高齢になると観光バスの団体ツアーについていくのが難しくなる。トイレが近くなったり歩くのが大変になったりするからです。そこで見えてきたのが『車から降りずに観光したい』というニーズ。これをつかめばタクシーに客を呼べると考えています」
 「東京スカイツリーの開業なども追い風で、東京駅や羽田空港からの利用があります。観光タクシーは多くの利用者が価値を認め、3時間で約1万4000円かかるのにチップをくれる人もいます。つたないガイドでも一生懸命やれば感謝されます。いずれ利用者が一気に増えるでしょう」
 ――タクシーは総合サービス業になりますか。
 「お客を運ぶ運送業の側面は残りますが、サービス的な要素がないとお客は鉄道やバスよりも高い料金を支払ってくれないでしょう。インフラをシェアする公共交通機関には価格で勝てません」
 「運転手がサービスをすることでタクシーは付加価値をつけられます。これがバスや鉄道と違う『移動+α』です。そこに活路を見いだせば、輸送人員が右肩下がりの時代にあっても客を増やせると信じています」
 ――高付加価値はデフレに逆行しませんか。
 「料金にはメリハリをつけられます。たとえばタクシーはメーターの構造上、距離によって料金が上がりますが、利用頻度などに応じた割引もできるのでは。日曜日の午後を安くしたり、逆に利用が多い雨の日に高くしたりと、需給に応じた料金設定も考えています」
 ――5年後の会社をどうイメージしますか。
 「横浜の会社などを買収しましたが、買収対象を東京から通勤圏内まで広げて検討しています。タクシー会社は全国で6000社以上。もっと集約する必要があります。売り上げは常に前年比プラスが目標。顧客をつくることができれば、必ず成長できるはずです」
業績データから
需要回復で増収基調
 日本交通の2012年5月期の連結売上高は前期比1・5%増の416億円と4期ぶりの増収となった。13年5月期も数%増を見込む。リーマン・ショック以降、落ち込んでいた需要の回復が下支えした。ただ、川鍋社長は利益率にこだわりをみせる。タクシー業界の売上高経常利益率は平均3%とされるが、「最低でも5%を維持したい」と話す。
 スマホの配車アプリ導入などで業務の効率化を進める一方、「キッズタクシー」など新規事業を軌道に乗せて収益性を高める考えだ。タクシーの供給過剰を解消するため減車や休車を促す特別措置法の施行から3年余り。1台当たり売上高の下落には歯止めがかかっているが、市場全体として厳しい状況は変わらない。新たな需要を掘り起こす「総合サービス業」への進化の歩みを緩めるわけにはいかない。

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