現代自などの増産体制受け
切削工具大手のOSGは部品や金型にネジ穴を開ける「タップ」という切削工具で世界シェア3割を握る。今年は大手顧客である世界の自動車大手などの増産への対応を急いでいる。2011年11月期の連結設備投資額として前期比7割増(約60億円)とするなど積極投資に動く石川則男社長に、工具需要から見た「機械の産業天気図」などを聞いた。
――足元の受注は。
「アジアでの受注が好調だ。当社のシェアが60%程度ある韓国では現代自動車の増産体制を受けて、現地の部品メーカーからの受注が急増し、切削工具の受注残が6カ月程度になった。中国や台湾でも自動車などの投資が旺盛なために受注を取りすぎて、製品によっては1年近い受注残がある。米国も好調で、米ボーイング関連の注文が増えている。米子会社からは『受注を取っても、供給が追いつかない』とクレームが出るほどだ」
――生産体制をどう整えるか。
「主力の八名工場(愛知県新城市)や中国・上海工場で生産能力を増強する。3月にタップの生産は260万本を超え、過去最高の生産本数となった。八名工場の自動化設備の導入と上海工場の拡張で安定的に約270万本生産したい」
――今後の設備投資に対する考え方は。
「東日本大震災直後に中国出張から戻ってきた時に、我々の投資計画は弱いと思った。来期はアジアの子会社から強気な計画がでており、投資がある程度増えそうだ」
――競合メーカーの動向をどうみる。
「切削工具というのはほとんど日本勢と欧州勢の戦い。中国メーカーは価格が約3割低いが、少し背伸びをしている。うちも最新鋭の設備を入れており、生産コストは同じぐらいだからだ」
――震災が起きた中で、今期の連結純利益は前期比38%増の52億円を見込んでいるが。
「震災が起きたが、業績は堅調だ。今のところ予算よりかなり上にきている。原材料の納期はきわめて長く、在庫も数カ月分あるため震災による生産への直接的な影響はなかった。東海地震のリスクも考え、距離的に近いアジアに生産設備を置いておいて、緊急時には日本から人員を派遣する体制をつくりたい」
記者の目
アジア景気動向
見極めがカギ
OSGは1938年に大沢螺子研削所として創業。工作機械に装着し、金属部品や金型などにねじを切る「タップ」を主力とする。穴を開ける「ドリル」など様々な工具を生産している世界大手の一角だ。リーマン・ショック後を除けば、売上高営業利益率が10%を大きく超えてきた。それは2007年に創業者一族以外で初めて経営トップに就任した石川則男社長の存在を抜きにしては語れない。
石川社長は米国などを中心に約20年間も海外で勤務した経験があり、海外の自動車大手など顧客とのパイプが強く、景気連動で受注の波が激しい切削工具で的確な生産対応を指示してきた。今回もアジア出張で自ら情報を収集し、来期の投資計画の増額に動く構えだ。13年11月期に連結売上高900億円、営業利益150億円とする中期経営計画を確実に達成するためだ。
切削工具ではスウェーデン・サンドビック、米ケナメタルという世界大手が攻勢をかけている。OSGにとって、強みのアジアで競合他社を上回る成長が必要。石川社長は、これまで自らの目安としてきた「減価償却費以内の投資」という殻を破る考えだ。
ただ、中国などアジアの景気の先行きが不透明になる中で、来期からの投資で、どこまで強気になりきれるのか。その見極めが同社の中長期的な成長を左右しそうだ。
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